【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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 評価上方修正を戴きました。ありがとうございます!


233. 我、まだ神らしいことを何もしておらんのだが?

 トピア達が次に訪れたのは工場長の故郷、トゥーブ神の管理下にある世界だ。

 ここで取引窓口にしようと想定していたのはFactorio工業だ。所在地は赤色矮星ルイテン星系の第2惑星であるルイテンb。地球の2.89倍の質量があり、その分重力が強い惑星だ。ここには元々地球人類とは別の、高重力に適応して高密度で低い背丈が標準となった知的生命体が生息していた。彼らは地球人が最初に接触した時点で実質的な共通言語というものが無く、種族に対する統一名称も無かったので、その特徴からドワーフと称されることになった。

 低い背丈、太い手足、髭まみれの顔面というその見た目は地球の伝承にあるドワーフそのものであり、まさか御伽噺の種族と特徴がほぼ一致する異星人が存在するとは地球人も驚きであった。ただ、彼らが巡り会ったドワーフは特に魔法が使えるなどということはなく、普通に科学を発展させていた。

 ドワーフ達も地球文明と接触した時点で宇宙進出まではしていたのだが、恒星系外までの進出能力が無く、ルイテン星系まで辿り着いた地球文明に対しては大分立ち後れていた。これは職人の神トゥーブを信仰するドワーフの気性が大規模組織運営に向いておらず、家内制手工業という形態にならざるを得ないために産業の発達が滞っていたという事情がある。むしろ地球から見れば職人の手でロケットや人工衛星まで作っていたことが異常であった。

 つまり現在サイエンスドワーフとも呼ばれているのは科学に長じたドワーフという意味ではなく、ものすごく器用だがファンタジー要素の無いドワーフという、やや後ろ向きの意味である。

 しかし惑星ルイテンbはまず重力が強すぎる上に、その重力のお陰で大気層が分厚く熱を逃がしにくいため平均気温も地球より20度以上高く、地球人が住むには大分無理があった。その上で資源もごく一般的なものしか見つからなかったので、惑星ルイテンbは侵略も植民地化もされなかった。要するに無理をしてまで手に入れる価値が無かったのだ。

 

 なお裏事情的にはこの時惑星ルイテンbを地球文明が侵略するか否かという選択は()()()()()()()()()()()であった。もし侵略を選んだならば、職人技を愛するトゥーブ神が激怒することは間違いなく、トゥーブ神がドワーフに肩入れして地球に対する聖戦を始めたに違いないからだ。ここが元々トゥーブ神が作った世界である以上は、追い詰められたドワーフたちの強い信仰をトゥーブ神が得たならもうその時点で地球文明に勝ち目は無い。

 そしてトゥーブ神にそれをマッチポンプでやらない程度の善性があることも両者にとって幸いであった。

 

 ともあれ、地球と惑星ルイテンbはその後概ね平和な交流が続き、ドワーフの工芸品は地球でも高い評価を得ていた。これは事実としてドワーフの工作技術が高いためでもあったが、ドワーフは職人としての技能が高いというイメージが元々地球にあったためのブランドイメージもこれを後押しした。

 先に述べた通り、惑星ルイテンbには元々星全体でのこれといった共通語という物が無かったので、地球文明との交流を通じて公用語が英語となっている。これはドワーフ文明より先行していた地球の学問を学ぶ必要性から英語教育が進んだ結果とも言える。また、惑星の呼び名も各地でバラバラだったので結局英語での呼び名であるルイテンbが定着してしまった。ただしもっと分かりやすくドワーフ星とも呼ばれることも少なくない。

 なお惑星ルイテンbには現在統一政府が存在する。ドワーフの殆どが家族や師弟、それから職人の寄り合い程度の単位でしか集団を作っておらず、国家元首をやりたがる人材すら少なかったため、「地球文明圏に対抗するためにこちらも意見をまとめる大きな集団を作る必要がある」と言い出した張本人が言い出しっぺの法則であらゆる統治を押しつけられて唯一の統一国家元首に祭り上げられてしまったのだ。

 それ以来、惑星ルイテンb統一政府は常に人材の確保に苦労している有様だ。何しろこの星にはドワーフしか住めず、そのドワーフの殆どは行政などやりたがらないのだから。

 

 さて、その惑星ルイテンbに本社を構えるFactorio工業は元々トリオ工場長が社長をやっている会社なので話は早いだろう、とトピア達は楽観視していたのだが、実際の状況はそれとは少々違っていた。

 

ドワーフ1「工場長ォ! 生きとったんかワレェ!?」

 

ドワーフ2「1年以上会社をほったらかして何しとったんじゃあ!?」

 

トリオ「おう、ちょっくら()()退()()をな」

 

ドワーフ3「貴様一発殴らせろ!」

 

 Factorio工業に帰り着いたトリオ工場長が帰社の挨拶を告げた瞬間から一触即発、というよりは既に殴りかかっており、レベルとステータスとエンチャントの恩恵で元よりも遙かに頑丈になった工場長がそれを涼しい顔で受け止めていた。

 どうも以前工場長が言っていたようにドワーフが物作り以外の仕事をやりたがらないというのは本当のようで、名目上でもFactorio工業の社長を務めていたトリオ工場長が出張に出かけたきり行方知れずになったことで社長代理の押し付け合いが発生して大変なことになっていたらしい。なお経営が傾いているわけではない。単にやりたくない仕事をやらされて怒っているだけなのだ。

 逆に良い方向に予想を裏切った事もある。社員の全てがドワーフでみんな髭面と聞いていたので、トピア達は個体識別が難しそうだと思っていたのだが、いざ見てみれば普通の人間で言う髪型のようにそれぞれ髭の形を整えているので、むしろ分かりやすかったということだ。

 上の発言で言うと白い髭を長く伸ばしたドワーフ1がボルクロ副社長、赤い髭を短く整えてカイゼル髭にしているドワーフ2がゼメキア専務、茶色の髭を三つ編みにしたドワーフ3がデモスト常務とのこと。

 

 トリオ工場長がトゥーブ神により異世界送りにされた宙域はここからさほど遠くなかったが、Factorio工業はFICSITと違って惑星上に本社が存在する中小企業なので、FICSIT本社よりはアクセスが面倒であった。そこで工場長の身分証を使って惑星上の宇宙港に普通に入港し、一般交通機関を使ってFactorio工業を訪問した。まあ巨大な航宙艦10隻での訪問は当然警戒されていたが、友好的かつお行儀良くしているので()()()問題は無いだろう。友好の証のプレゼントも既に納品したことであるし。

 民間船に許されている武装のレベルを遙かに超えていることを入管で指摘されたが、インファクトリ級はそもそも民間船ではない。それならそれで他の国の軍艦が勝手に入ってきたということになるわけで軍の出番だが、友好使節ですと最初から言い張っているので一方的に攻撃されることも無かった。入港の順番もちゃんと待ったのだ。まあ宇宙港直前までステルスモードだったので、宇宙港もまさか巨大な軍艦が入ってくるとは思っていなかっただろうが。

 宇宙港に堂々と停泊したインファクトリ11に臨検が入らなかったのは、こんなものを平然と持ち込む連中と戦争したくないからに過ぎない。この惑星の宇宙軍は地球文明圏に比べればそれほど充実しておらず、そこに突然未確認の巨大宇宙戦艦がステルス入港した上に軌道上には同じものが9隻待機しているのだから、遂に地球軍が攻めてきたかと政府も軍も大慌てであった。

 そのいきさつにより軍関係者と政府関係者も一緒にFactorio工業を訪問しているのだが、のっけから社員が工場長に殴りかかったので、下手に敵対しないように気を遣っていた彼らが肝を冷やしたのは言うまでもない。まあ結果としては殴り合いの喧嘩をしても武力を持ち出さない程度には気安い仲であることが証明されることになったわけだが。

 なおトピア達にとってこの惑星の高重力はステータスで耐えられるが暑さはそうもいかないので、ヘルレジストポーションや温度調節術式が大活躍であった。逆にドワーフたちからすると、ドワーフでもないのにこの星の環境に平然と順応している地球人ということで奇異の目を向けられていた。

 

少女(?)「もうアンタ、みんなに心配かけちゃ駄目よ?」

 

トリオ「おう、すまんな。今帰ったわい」

 

トピア「工場長、こちらの方は?」

 

トリオ「妻じゃ」

 

少女(?)「トリオの妻のソフィです。うちの亭主をここまで送ってもらってありがとうございます」

 

トピア「いえいえ、こちらも工場長には大変お世話になっております」

 

 トピアは普通に応対しているが、目の前の女性の体格は地球人で言う所のせいぜい中学生程度でしかなく、トピアより小さい。とはいえ勿論トリオがロリコンというわけではない。これまでの町中で見かけたドワーフ女性はソフィより大きな体格の者がほぼいなかったのだ。つまりドワーフの成人女性は合法ロリであった。目の前のソフィは可愛らしい感じであるが、勿論全員美少女というわけではないので期待しすぎてはいけない。

 そのソフィの後ろから、もっと小さな少女、いや幼女が不思議そうな表情で顔を出した。

 

幼女「かーちゃん、この人だれー?」

 

少女(?)→ソフィ「リーファ、アンタの父ちゃんよ。ほらアンタ、長いこと帰ってこないからリーファにも忘れられてるじゃないのさ」

 

トリオ「うぐっ!!!!」

 

トピア「これはひどい」

 

サティ「……トゥーブ様?」

 

 物作り以外興味が無さそうなトリオも、自分の娘に顔を忘れられるのは応えたようだ。とはいえこれはトリオが悪いわけではない。それだけの長期間家族を引き離していたトゥーブ神に匠衆(マイスターズ)各員から冷たい視線が突き刺さった。元はと言えば宇宙遭難6回分全部この神のせいなのだから、説明する責任があるだろう。

 

トゥーブ神「ああ、うむ、すまないな。工場長は我が用事に付き合わせていたのだ。このトゥーブの名に免じて矛を収めてはもらえんか」

 

ボルクロ副社長「何じゃと? 確かに良く出来た衣装じゃが、流石に自らそう名乗るのは教会に怒られるのではないか?」

 

ゼメキア専務「いや、しかしそれにしても良く出来ておるの?」

 

 トゥーブ神は一応どのような神なのかは認知されていたが、実際に姿を現すことはほぼ無いのでごく一部以外には実在するとは全く思われておらず、神自らそう名乗り出たとしても信じてもらえないという哀しい現実がそこにはあった。

 

トピア「というわけでトゥーブ様、何か納得するような奇跡を見せていただけませんか?」

 

トゥーブ「ふむ、ではFactorio工業の諸君、我はトゥーブとしてどんな奇跡を見せればいい?」

 

 フィステイン神同様に手っ取り早く恒星の色を変える事も勿論出来るが、全く同じ事をするのは芸が無いので何か良い案は無いだろうかと意見を募ってみた所、未知の鉱物、例えばミスリル、オリハルコン、アダマンタイトを出してみせてくれというのが一番に望まれたことであった。

 

トゥーブ「そんなものはわざわざ奇跡を起こさずとも既に用意しているぞ?」

 

トピア「こちらに」

 

 インベントリに入れて持ってきたサンプルインゴットのセットをトピアが出してみせると、ドワーフ達が一斉に群がってあらゆる物性検査にかけ始めた。これは入港の際に惑星統一政府に友好の証としてプレゼントしたのと同一のものだ。

 そして結論としては。

 

デモスト常務「これは神じゃろ」

 

ゼメキア専務「儂も信じるぞ」

 

ボルクロ副社長「じゃからもっとくれんかの?」

 

トゥーブ神「……我、まだ神らしいことを何もしておらんのだが?」

 

 サイエンスドワーフは即物的だった。その神認定は「ネットで見た神」とか「お客様は神様」程度の軽さでしかない。だからトゥーブ神は星一つで信仰されているのにこれまでそれほど信仰が集まっていなかったのだ。

 これなら何も聞かずにあの赤色矮星の色を変えた方が良かったかとトゥーブ神は後悔した。




 言うまでもありませんが、設定は全てでっち上げです。
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