トピア達三人の朝の方針会議はまだ続く。
トピア「ともあれ、私はBETAの巣であるハイヴを初期段階なら攻略することは出来ますが、惑星一周分の戦線を押しとどめる手段は現在のところありません。これについてはまず自動で動くタイプの戦力を大量に用意しないとどうしようもないですね。そこの所お二方どうでしょう?」
トピアに返答を要求された二人の内、サティがジェスチャで譲ったためトリオがこれに答える。
トリオ「まずスパイダートロン自体も量産は可能じゃ。ただ自動で動かすとなるとあまり賢い動きが出来んのでこれは有人機にした方がええ。それよりもレーザータレットや長距離砲を大量生産する方を勧めるぞい」
トリオのこれまでの経験からして、バイター相手の防衛なら近隣に増えた巣を長距離砲で潰し、寄ってきたバイターを防壁で押しとどめながら大量のレーザータレットで撃滅し、損傷を負った部分を建設ロボットで補修し、必要な資材を工場から列車で輸送するというのが自動防衛体制の完成形であったというのを模式図で説明する。
今回はこれをアレンジしたものを大量生産して星一周敷き詰める形だ。
トリオ「ただ問題は射程じゃな。まずレーザータレットは今の仕様では射程は24mで固定になっておる。携帯用レーザー防御システムに至っては15mしかない。この二つでさえ、24mのタレットは15mに比べ消費電力が16倍で威力は2/3になる。燃費の悪化は24倍じゃ。というのも儂が使っとるレーザーは15mを境にやたら距離減衰が激しくなる問題があっての。バイター相手にはそれでも困らんかったが、
サティ「それでやたら射程が短いのね。何とかなりそう?」
トリオ「まあ原因に予想はついとる。軍用レーザーの資料でもあったなら最初からもっと何とかなっとったと思うんじゃが、儂が参考にしたのは工業用レーザートーチじゃからの。あとそもそもレーザーを使っておること自体が学習による
実弾タレットの性能が随分と残念に聞こえるが、そもそもトリオは工業の専門家であって軍事の専門家ではない。
まず最初の遭難時に念のため程度に持っていた拳銃が民間用のデチューンモデルであり軍用より性能が控え目であったこと、不時着した星の重力が強かったこと、そしてトリオの射撃の腕が誉められたものではなかったことの相乗効果で、通常30m程度と言われる拳銃の有効射程がその半分の15m前後しかなく、これをサンプルにして聞きかじりの軍事知識とあり合わせの材料でサブマシンガンやガンタレットを作ったために色々と無理が生じていた。
そしてレーザーの方も軍事用ではなく工業用の物が元になっていた。工業用レーザートーチもレーザーの発生原理自体は同じだが、あくまでごく近距離で溶接を行う道具であって遠距離を撃つような用途の物ではない。
このように実弾・光学のどちらも軍事用途の技術が甚だ不足していたのだ。
更にバイターの特性からしてサイズや速度はそれほどでもないがとにかく数が多いので、トリオは射程よりも識別精度と威力を高めて殲滅力を上げる方向に舵を切っていた。
トピア「まあ押しとどめられないとどうしようもないので、そこのリスクは仕方ないです。現状で威力がある上に技術的に伸びる可能性が高いレーザーで行きましょう」
トリオ「ふむ。レーザーとなると電力の問題もあるんじゃが、姉ちゃんの方でどうにかなるかの?」
サティ「まあそこは……何とかするわ」
燃費24倍悪化というファクターを加えて必要な電力を計算したサティはその計算結果に若干の困惑を見せたが、出来ないことではないと頷いた。
トリオ「電力が何とかなって半永久的に資源を採掘出来るんじゃったらまだまだやりようはあるわい。……それから嬢ちゃん、星を食い尽くすっちゅうことは連中には海を渡る能力があるんじゃな?」
トピア「はい、海底を歩いて渡ってきます」
トリオ「ちゅうこたぁレーザーを主力にする以上は極力地上をほっつき歩いとるところを迎撃した方が楽じゃの。防衛ラインは準備までの期間を加味して……こがぁな感じか」
トリオは地図に青い線をぐるっと引いて「想定防衛ライン」と書き込んだ。南極と北極に東西向きの線があるためかなり長いように見えるが、極近くの東西方向はかなり拡大されているため実際の長さはそれほどでもなく、縦に星を一周したのとほぼ変わらない。
まあまっすぐ星一周でもおよそ36,000km程度あるのだが。
トリオ「想定防衛ライン総延長、約4万km! 量産に量産を重ねてタレットを敷き詰めてやるわ!」
トピア「工場長頼もしい! 男前!」
あまりにも頼もしい工場長の宣言に、トピアは拍手喝采した。ついでにサティもそのノリに合わせて拍手した。
レーザータレットは1台当たりの幅が約2m。これを4万kmに敷き詰めるとなると2千万台もの生産数になる。
消費電力も膨大で、1台当たりの待機電力と全力斉射電力を合わせて3.864MW、これが2千万台だと77.28TWにも達するので、全力斉射を支える前提ならばフルスペックの267並列40GW希釈燃料発電所でも1,932箇所必要な計算になる。これをどうにかするサティの方も大変である。
想定される様々な苦労に思いを馳せたところで、サティはもう一つ対処しなければならないことを思い出した。
サティ「あ、待って。その量産のための工場設備なんだけど」
トリオ「何じゃ?」
サティ「省電力なのは素晴らしいんだけど、汚染物質が垂れ流しになってるのはどうにかならない?」
既に石炭発電所に汚染警報が出ており、しかし発電機自体には全く異常が無かったのでどういうことかとサティが原因を探ってみたところ、工場長が作った隣の人工衛星打ち上げラインが汚染物質を満額で垂れ流していたというオチだったのだ。
トリオ「あー、これまで儂が星から脱出するまでの稼働が前提じゃったから、優先順位が大分低かったの。儂は何ともなかったが、そういえば付近の木が枯れたり怒り狂った蟲が集団で襲い掛かってきたりしておったの」
今までの宇宙遭難サバイバルでは惑星環境にとってトリオ工場長の方が余程排除すべき異物だったことが分かる発言であった。
トピアとサティは視線を交差して見解を述べた。
トピア「これ多分アレですよね、ドワーフの環境耐性が高すぎる弊害では?」
サティ「きっとそうよね。放射線すら効かないせいで環境保全意識が低いんだわ」
トリオ「がはは、たまに言われるわ。いや、一応周辺に生物が多い場合は太陽光発電や省電力モジュールで汚染を抑える努力くらいはしとったんじゃぞ? 襲撃が鬱陶しいけえの」
汚染を抑える理由が環境保全ではないあたり、やはりトピア達の予想は当たっていたようである。
サティ「その発電による汚染が無くても今くらいの汚染物質が出てるのが問題なんだけれど……ともかく、星一周分の砦を作って保持するための生産力を確保するなら流石に環境負荷が馬鹿にならないわ。増えた分の電力はこっちで全面的に負担するから、FICSIT基準とは行かなくてもせめて今の1/10くらいに出来ないかしら?」
トリオ「ほうじゃのう、そっちの設備をサンプルとして分解してええなら多分出来るぞ」
サティ「じゃあそれでお願い。あ、ビルドガンの複製研究の方は?」
トリオ「構造は分かったぞい。ただ部品の製造がな。高性能なだけあってか、これFICSIT規格でもスーパーコンピューターかその上クラスの精密電子部品を使っておるぞ。流石に見えん程微細な電子部品は見ただけでコピー出来んからの」
見れば大体同じ物を製造出来るトリオでも、目に見えない程微細化した集積回路はその範疇から外れるようであった。
サティ「ああ、スパコン以上となると、多分組立指揮システムかしら? Tier7だから更に納品を進める必要があるわね……まあいいわ。次は私から
サティはビルドガンをプロジェクターにリンクさせ、分析結果を投影させた。
サティ「着陸ユニットのサンプルが大量にあったけど、それぞれマナよりは短い時間で解析出来るから半分まで進んだわ。現時点で未知の元素が6種類見つかっているけれど、これでいいのよね?」
視線を送られたトピアが答える。
トピア「ええ、私が知る限りでもグレイ11まではあるはずなので。とはいえ6、9、11しか知りませんが」
サティ「今見つかっている中で明らかに有用そうなのはこのサンプル67の常温超伝導物質だけど」
トピア「あ、それ元の分類で言うグレイ9ですね。あと6が負の質量を持っていて、11が重力制御に関わるらしいです」
サティ「こっちで見つかった順番と違うのは紛らわしいわね?」
トピア「どうせ私も全種類は知らないので、名前の一部に元のナンバーでも入れれば十分でしょう」
サティ「そうね、じゃあこれは以後カフェ
話が一段落したことで、トピアに話が振られる。トピアは残念な報告をしなければならないので少々困った顔をしていた。
トピア「はい、先ほどの衛星観測で確認出来た限り先の時代に進むための条件が達成出来そうにないので、それに伴いLv7で製造可能になるジェット燃料の補給が出来なくなってしまいました」
ジェットパックはグライダーに比べエンチャント自由度が高い上に上昇性能や滞空性能が高いが、便利な代わりに燃料が無くなってしまえば石の狸も同然という難点があった。
そしてトピアが使っている戦闘用装備セットの背面装備はエンチャントの都合上全てこのジェットパックである。
サティ「あら、その燃料の成分って厳密に決まってる?」
トピア「分かりませんが、現物はこれです」
トピアがインベントリからジェット燃料の現物を取り出しサティに手渡すと、サティはそれを屋外に設置していた
サティ「結果が出たわ。普通の航空燃料ね。多分FICSIT規格のジェットパックに使ってる燃料でいけると思うわよ?」
トピア「おお、それは素晴らしい!」
サティ「ただ容器がこれだから、どうしようかしら? そっちの容器をリサイクルする?」
サティが取り出したそれは、クラフトピア製の筒型ジェット燃料容器とは似ても似つかぬ箱形にキャップが2つの容器であった。
トピア「いえ、使った際に容器は……うん? とすると、もしかするとこのまま使える可能性がありますね。2、3個使ってみていいですか?」
トピアは何かに気付いたらしく、実用実験を要求した。
サティ「そう? 一応爆発物だから気をつけてよ?」
トピア「じゃあ念のためマジックシールドを張っておきます」
背中で起きる爆発をその外側を覆うマジックシールドで防げるのだろうかとサティは疑問に思ったが、そもそも魔法であるしトピア自体がすこぶる頑丈なので流すことにした。
自前のジェット燃料をインベントリからチェストに仕舞って代わりにFICSIT製の燃料をインベントリに入れたトピアは、マジックシールドを張って外に飛び出すと難なく上昇していった。その後アヌビス神殿ほどの高さに至ると燃料が切れたのか降りてきて、地上寸前で空中ジャンプして一回転で綺麗に着地した。
トピア「いいですねこれ、普段より水平移動速度が出るくらいですよ」
サティ「本当に容器の形は関係ないのね」
トピア「そもそも燃料容器をジェットパックに入れるんじゃなくてインベントリから自動的に消費して容器ごと消滅しますからね」
サティ「……ああ、それであんなに長く飛べるのね。謎が解けたわ」
FICSITのジェットパックはセットした燃料容器1つが空になるとそこでガス欠である。飛行可能距離が短いのはそのためだ。それに対し、クラフトピアのジェットパックはそもそも燃料をジェットパックにセットせずにインベントリから直接容器ごと消費し、1つ目を使い終わったら即座に2つ目の消費を開始するのだ。そのため、本来ジェットパックに内蔵するべき燃料容器の形状は完全に無視されるようであった。
トピア「というわけでこれを少しだけ戴ければジェットパックの燃料問題は解決ですよ! 宜しくお願いしますサティ姐さん!」
サティ「まあ元々生産してるものを個人で使う程度の量融通するのに問題は無いわ」
トピア「ありがとうございます!」
トピアは満面の笑顔で頭を下げた。
トリオ「下手したらロケット燃料や核燃料でも動かんかの? 必要なら用意出来るが」
サティ「核燃料を常用されるのは私が困るわ」
やはりドワーフは環境や健康被害に対する意識が低い。サティは確信した。