【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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 [2024/03/21]第062話でのマインが外部に知られていないという話と齟齬があったので、そのあたりについての説明を追加しました。


240. 両者に戦神アヴェニューの加護があらんことを

 トピアが使命を受けてから48日目、マブラヴ世界では2001年12月8日の土曜日。神聖銀河騎士団とマインとの惑星争奪戦形式での決闘が開催された。しかも全銀河向け生放送の興業戦だ。

 その観覧席に、決闘当事者同士が隣り合って座っている。名も無き中隊(ネームレス・カンパニー)の筆頭株主であるマイン・ストリアニューダと、次点株主である神聖銀河騎士団の団長、グリマルド・ヴィルカッツだ。

 観覧席は興行主である惑星争奪戦管理委員会が所有する宇宙船の中にある。これから惑星全体が戦場になるのに、惑星上に居座っていては危険だし邪魔だからだ。

 なおマインは興業戦自体は何度もやったことがあるが、この世界の公共放送で名前と顔を出すのはこれが初めてだ。社名にもその方針が現れている通り、マジェリスが名も無き中隊(ネームレス・カンパニー)の構成員のプライベートを守るようにしていたからだ。まあそのせいでマインは承認欲求をよりこじらせるようになってしまったのだが。

 

グリマルド「まずは怖じ気づかずに来たことを褒めてやろう。だが残念ながら貴様に勝ち目は無いぞ」

 

 金髪碧眼の男であるグリマルドも顔は悪くない。しかしその自信過剰ぶりがマイン以上に残念だった。勿論実力では全く比較にもならない。唯一政治工作においてはグリマルドの方が勝っているが、騎士の特技が買収というのはいかがなものか。

 

マイン「ふむ、前回も似たような台詞を聞いた気がするが、そういう芸風か?」

 

 マインはグリマルドの挑発を余裕の表情で切り返した。

 

グリマルド「そんなわけがあるか! 折角順調に名も無き中隊(ネームレス・カンパニー)を傘下に出来たところを、金の力で邪魔しおって、汚い奴め!」

 

マイン「つまり先に金の力で買収しようとしていたのはそちらだろう。自分で言っていておかしいとは思わないのか?」

 

 下手な印象操作をしようとしたグリマルドが返り討ちに遭ったことで観覧席から失笑が沸き起こり、グリマルドは羞恥で顔を赤くした。

 勿論マインが相手ならばこれでも通じると思ってやったことなのだが、今日のマインは妙に言葉にキレがある。誰かの入れ知恵に違いない。

 

グリマルド「とにかく! 今度こそ万が一の勝利も無いと知れ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()のだからな! ()()の無さを悔いるがいい!」

 

 グリマルドが言っている通り、今回の惑星争奪戦にマインは参加しない。「人望の勝負」と理由をつけて決闘当事者本人の参加が禁止とされたためだ。

 

■惑星争奪戦条件

使用惑星:惑星XC3-M332(セルプロ型)

制限時間:48時間

エリア分割形式:2M8

勝利条件:相手のコアを全て破壊すること、もしくは期間終了時点で稼働状態のコアをより多く保有していること、或いは片側の全員が降伏・捕縛・死亡のいずれかの状態になること

敗北時ペナルティ:

・神聖銀河騎士団:騎士団が所持する名も無き中隊(ネームレス・カンパニー)の株式全てに加えて参加者全員の騎士称号、企業総資産の9割をマインに譲渡する

・マイン:マインが所持する名も無き中隊(ネームレス・カンパニー)の株式全てと12の騎士称号を神聖銀河騎士団に譲渡する。また、マイン自身とマイン側の参加者は神聖銀河騎士団に入ることとし、その後も()()退()()()1()()()()()()()

参加人数:

・神聖銀河騎士団:上限12人(騎士団長グリマルドは参加不可)

・マイン:上限1人(マインは参加不可)

 

 人望の勝負とは言うが、そもそもマイン側の人数は最初から1人に制限されている。これによって前回同様の12対1に持ち込んだ上に、更にごねてマイン本人を参加禁止にしたことで団長は勝った気でいる。1人で常人の12倍を上回る戦力などそうはいるものではない。

 更に、初期状態は1人1コアでランダム配置となるため所有コアの数に最初から11の差が付く上に、()()()()()()()コアの建造ペースは12人いる側の方が早い筈だ。人数が多い側は時間切れまで優勢状態を保持するだけでも勝つことが出来るということだ。

 というか、欲する人員の退職の自由を当然のように無視する要求には感動すら覚える。そして神聖銀河騎士団は強制的に社員寮に住まわされるので、何を目的としているかは自明である。参加者にまでこれを強いるのはマイン側に加担したくなくなる条件を付けたつもりかもしれないが、それはそれとして、この条件も含めて銀河中に放送しているはずなのだが……?

 

マイン「ふむ、むしろよく恥ずかしげもなくこんな露骨なハンディキャップに加えて退職の自由を無視する邪悪な要求を出せたものだと感心するばかりだが何もおかしくはないな? まさか恥の概念が無いのか?」

 

グリマルド「なに、これはあくまで()()だよ。戦神に誓った決闘の結果を反故にするつもりならばそうするがいい。法律が守ってくれるだろう」

 

 グリマルドは決闘の要求条項はあくまで約束なので法には反していないという主張で通すつもりのようだ。だとしてもかなりすれすれの所だ。

 グリマルドは更に勝利を確実にするために名も無き中隊(ネームレス・カンパニー)所属の指揮官が全員参加出来ないように、もしくは八百長でわざと負けるように、手段を問わず圧力を掛けていた。これは名も無き中隊(ネームレス・カンパニー)は最強戦力であるマイン以外もそれなりに精強だからで、あわよくば不戦勝すら狙っていた。まあこれも勝利のための努力と言えばそうなのであろう。

 しかし、今回の場合名も無き中隊(ネームレス・カンパニー)の関係者は家族まで含めて事前に姿を消しており、圧力の掛けようがなかった。ならばマインの次に手強いマジェリス・コランダム中隊長(カンパニーコマンダー)あたりが出てくるかとグリマルドは思っていたのだが、実際に出てきたのはこれまでグリマルドが全く聞いたこともない新人であった。

 団長はこの選択に首を傾げた。階級が()()となっているが、外見の若さがそれに全く見合っていない。耳の特徴からしてエルフでもないので実際に若い筈だ。つまり顔は美しいが、見たまんまのお嬢さんだということだ。だから階級は箔を付けるためのはったりに違いないと思っていたし、むしろ()()()が増えると思ってすらいた。

 グリマルドにとってはマインも勿論好みの範疇であったが、マインの代わりに出てきたお嬢さんはもっと好みであった。名前は確か――

 

マイン「そうか。それもこれもそちらがもし勝てたらの話だがな。……()()()()()()()()。好きにやっていいぞ」

 

ターニャ≪は、万事お任せください≫

 

グリマルド「フフフお嬢さん、結果を楽しみにしているよ」

 

ターニャ≪……?≫

 

 そう、デグレチャフ。ターニャ・デグレチャフだ。輝く銀色の髪、透き通るような肌、凜々しく可憐なかんばせ、そして主張が控えめな肢体。まるで妖精のようではないか。訝しげに首を傾げた姿すら美しい。グリマルドは同志ロリヤほどのロリコンでもなければ禿げたおっさんでもないが、どちらかと言えばスレンダーな方が好みであり、ターニャにとっては不倶戴天の存在であった。

 グリマルドはもうこの決闘には勝った気になって、ターニャをどうやって()()()やろうかという妄想にふけり始めていた。

 

 

 

トピア「いやあ、なんか喜んでるみたいですけど、知らないって怖いですねえ」

 

九十九「全くだネ」

 

テオドール「なんかもう申し訳なさすらあるぜ……」

 

グレーテル「ぬるいぞテオドール! あのような破廉恥な男に、かけるべき情けなどあるものか!」

 

リィズ「そうだよお兄ちゃん!」

 

テオドール「いやまあ、そうなんだけどよ」

 

 一方、マインの代わりにターニャが参加している時点で、ターニャを知る全員が勝利を確信していた。匠衆(マイスターズ)の幹部だけでなく地球連合(ユナイテッドアース)戦闘団の多くも観戦しに来ており、一部は知らずにターニャの相手をすることになる敵側を哀れんでいるくらいだ。女性陣は身柄の要求や色欲まみれの視線に憤慨していたが。

 この興業は匠衆(マイスターズ)経由でマブラヴ世界の地球にも恒例の土曜イベントとして生放送されており、地球で見ていた者達もまずターニャが勝つだろうと信じて疑わなかった。フランスデザインの軍装がよく似合っており、今日も凜々しい限りだ。

 他の惑星争奪戦参加資格持ち民間軍事組織は、また妙な圧力を掛けられては面倒なので黙って見守っていたが、内心ではマインの方を応援していた。神聖銀河騎士団はそれだけ方々に嫌われているのだ。

 

 今回の惑星争奪戦の条件交渉はモモ王女が担当している。つまり神聖銀河騎士団が八百長以外で勝つには参加者からマインを除外するという条件が絶対に必要であることは最初から分かっていたので、それを渋ってみせ、更に身柄を1年拘束する条件まで許容することで、資産9割の譲渡を敗北ペナルティに入れさせたのだ。連中の一番の強みは資金力なので、9割削れば権勢も維持出来まい。

 だが神聖銀河騎士団の皆様方にとっては誠に残念なことに、マインの代わりに出場するのは()()ターニャ・デグレチャフ、御年59歳だ。見た目は妖精のようかもしれないが、もしその武勲や米国国防総省を恐れさせたプランの数々を知っていれば、そいつも参加不可だと言われたに違いない。

 

 

 

 232のエリアに分割された惑星XC3-M332上で、抽選によって初期配置が決定された。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 惑星XC3-M332は地球やはじまりの星とほぼ同サイズながら陸地の割合がかなり高く、星全体を覆う大陸に極地を中心として湖のような水源がちらほらあるだけだ。つまりまとまった水源が少ないので人間が住むには適さない土地が多く、採掘用途や今回のような興行に適した惑星だということだ。

 争奪戦に関わる要素としては、水場の面積が小さいため水場にダイレクト設置されるコアはごく少数になる。エリア008、222、229の3箇所だけだ。また、地上の水源から直接水を得られないエリアが多いので地下から水を掘る必要が出てくるだろう。つまり地上の水源から取得するよりは大きな電力と設備設置面積が必要になる。

 ターニャの初期配置は赤道上のエリア114で、そこに隣接して北東、南東、南西に神聖銀河騎士団団員が合計3人。他9人は大分離れた所に配置された。更にターニャの初期拠点の周囲には資源が銅、鉛、スクラップ、水しかない。

 限られた資源で戦力を編成しながら三方への攻防を同時に両立しなければならないため、ターニャにとって大分不利な配置であり、これだけでも抽選の不正が疑われるくらいだが、明確な証拠は無いので誰も声を上げない。勝利を確信したグリマルドがほくそ笑んだ。

 しかしマインは全く動じていなかった。マインから見て既に余裕の勝ち筋が見えていたからだ。そして地球のBETA大戦で多大な功績を挙げ匠衆(マイスターズ)でも中将に実力で昇進しているターニャがこの程度のことが出来ぬはずが無い。実際にターニャは余裕の笑みを湛えており、頼もしい限りだ。

 なおこの図における騎士01~12は北西から順に番号を振ったもので、実力や序列とは関係ない。

 

惑星争奪戦管理委員会判定員≪これより惑星争奪戦を開始します。両者に戦神アヴェニューの加護があらんことを≫

 

 この試合をジャッジする判定員の開始通告とともに観戦ディスプレイと現地のコアに備えられた情報ディスプレイで同時にカウントダウンが始まり、カウント0で開始となった。これに伴い参加者とそれ以外の通信が一斉に遮断された。参加者以外の俯瞰視点での助言が参加者に伝わっては不味いからだ。もしかすると騎士団側はこっそり通信しているかもしれないが、まあその程度の不正があったところで勝敗に全く影響は無いとマインもターニャも判断していた。

 

 ところでこの「戦神アヴェニューの加護があらんことを」という文言は、人類が宇宙進出を始めるより以前から決闘の開始宣言として存在していた常套句らしい。宇宙進出が進んでからは戦神信仰が薄まって、惑星争奪戦においては文言だけが残っているが、以前は一方的な通達ではなく、参加者それぞれが戦神アヴェニューに誓う手続きがあったようだ。

 そういうわけで戦神アヴェニューの名前自体は今も残っているため、名も無き中隊(ネームレス・カンパニー)の長であるマジェリスもその名前は当然知っている。しかし実在するとは全く考えていなかったので、マインの保護者として出てきたアヴェニュー神に関しても当初は戦神にあやかって同じ名前を名乗っているだけの人だろうと思っていた。マインの一族が信仰する戦神の名前をそのまま名乗るのは罰当たりではないだろうかと思わなくもないが、古い時代には軍神毘沙門天の化身を自称していた武将もいたそうだから、マインの一族の価値観の不可解さを併せると、神の実在を認めるよりは余程あり得る話なのだ。

 そんなマジェリスも、今回の準備でマブラヴ世界に連れて行かれるなど色々あったため、信仰はともかく実在については嫌でも信じる羽目になった。そしてマインの一族がおかしいのは信仰対象に倣っているだけだという理解を得るに至った。ついでにそのどっかおかしい戦神がこの世界の主神であるという知りたくもない事実を知ってしまった。

 

 そのアヴェニュー神は今マジェリスの隣に座っており、宣誓の簡略化について、神前試合を何だと思っているのだと不満たらたらの様子であった。実際あれがあるだけで少しは信仰力を稼げていたのだ。今となっては殆ど誤差程度の違いだが。

 なおこのアヴェニュー神の信仰が元々地球に根付いていたことと、マインの一族が伝統的にアヴェニュー神を信仰していることを併せると、マインの一族である深淵森人(アビスエルフ)も地球出身の知的生命体であることが分かる。これは当然アヴェニュー神の仕業である。

 なので、深淵森人(アビスエルフ)達はアヴェニュー神に望んで生み出された種族という誇りを持って信仰を続けているのだ。端から見ると言動と価値観が独特すぎて理解しがたいのが難点であるが。

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