新たな戦場となったエリア132の戦況であるが、これも鎧袖一触であった。
エリア132では原油が採掘出来ないので電力確保に苦労しそうに思えたが、そうはならなかった。
前提としてまずコアに流体を貯蔵することは出来ない。インベントリシステムの中に入らないからだ。そのため最初からコアに原油を確保した状態で侵攻を開始することが出来ない。Factorio工業やFICSIT社、或いは
油脈が無いエリアで原油を確保する方法も実はある。ただ、効率が悪いのであまり積極的に使われないだけだ。これには二通りのライン構成があり、1つは水→胞子→原油のライン、もう一つは水+砂→原油のラインだ。砂はやや場所を選ぶが、水はウォーターポンプを使えば場所を問わず地下から汲み上げることが出来るため、前者の方が汎用性が高い。
変換効率はウォーターポンプ1基で水を6.6m3/秒確保したとして、培養機で水5.15m3/秒→胞子0.43単位/秒に変換され、最終的に胞子圧縮機で胞子0.43単位/秒→原油7.73m3/秒になる。燃料式発電機1基あたりの原油消費量は0.3m3/秒なので、つまりこの最低限の水→胞子→原油ラインで7.73/0.3=25.8基の燃料式発電機が稼働出来てしまう。総発電量2.58GWであり、インパクトリアクター41基分の電力だ。エリア一つ支配するのに十分すぎる。FICSIT自慢の発電効率とこちらの世界の技術による圧倒的省電力のシナジーが猛威を振るう結果となっていた。
その最低限のラインの稼働に必要な電力はウォーターポンプ600kW+培養機540kW+胞子圧縮機420kW=1.56MW。火力発電機600kWを3基設置してもいいし、トリウムさえあれば手軽に設置出来るRTG発電機の発電量が2.7MWなので、これを1つ設置するのも良い。特に後者のRTG発電機はトリウムが採掘出来るエリアでは大量に並べてメイン電力にも出来る優秀な発電機だ。しかしRTG発電機の建設に必要な材料の内プラスタニウムとフェーズファイバーの生産体制がまだ整っていないので、今回のスタート電力には火力発電機×3を選んだ。
ターニャは自陣のコアの後方に手早くそれらの発電施設を並べて電力を確保すると、前回同様にまずはポリ用の2段階空軍工場、次に3段階陸軍工場を作ってフォートレス部隊を3機編成で建造し、進撃を開始した。
相手の陣地に並んでいるタレットは相変わらずデュオだったが、その他にダガー系統Tier1のダガーやクローラー系統Tier1の歩行爆弾クローラーによる時間稼ぎを試みられた。しかしどちらもTier1なので根本的に耐久値が低く、まとまった数でもない逐次投入に過ぎなかったため、大きな被害を受ける前に殲滅出来ていた。
コアは相変わらずのコア:シャードなので破壊に掛かった時間は4秒弱だ。そしてターニャはその様子も片手間にしか見ていなかった。相手の騎士団員がまた何か喚いていたようだが、そもそもターニャはそのエリア132にいないので全く聞いていない。
ターニャはフォートレス部隊を出撃させたあと、その結果を見届けずに一旦資源が豊富なエリア096に帰って生産設備を整え、エリア131の攻略準備に取りかかっていたのだ。
ターニャ「む、エリア132の制圧が終わったか。手応えがなさすぎるな……? ただの無能ならばそれまでだが、ここまで策を隠蔽してその意図すら悟らせないのであれば侮れんな?」
あまりの手応えの無さにターニャは首を傾げた。
さて、空軍モノ系統Tier2のポリは従来指揮官がそのエリアにいないと働いてくれない欠点があったのだが、それも今回改善されている。つまりまとめて建設指示さえ出しておけばあとはポリが建設を進めてくれるのだ。
一方の騎士団員は誰もポリの製造を開始しておらず、戦闘用ユニットの生産に取りかかっている。もうこれだけで素人としか言いようのない段取りの悪さだ。ポリは全体の作業工程を加速する基本中の基本だというのに。
ただしターニャからはその全員は見えていない。これまでの全ての状況証拠が連中はただの無能だという判定を下しているし、一人一人が強敵ではないことも知っているのだが、
グリマルド「フフフ、我等の策を読めずに戸惑っているようだな」
マイン「ありもしない策を読めとは随分高度なことを要求するものだな? まあ相手が想定を下回るほどの無能を晒していては、裏を勘ぐるのも仕方あるまい」
団長のグリマルドはターニャの発言に便乗して何か隠された策があるかのように振る舞っていたが、全体が見えるマインの視点で見ると明らかに相手が無能なだけで、何の策も無いから読むべき意図が存在しないのは当たり前のことだった。
トピア「なんか相手があまりに無策すぎて、デグさんが深読みする悪魔みたいになってますね?」
タリサ「あんなの相手に随分慎重だな?」
勇猛果敢なタリサからすると、今回のターニャの慎重さには少々のもどかしさを感じているようだった。だがそれは視点の違いによるものが大きい。
トピア「それはあれですよ、デグさんからは目の前の相手しか見えないからですね。見えない所で何が起きても対処出来るように気を配った結果、その気配りが無駄になって空回り気味になってるんでしょう」
ユウヤ「むしろ立て続けであんな調子なのによく油断せずにいられると感心するぜ」
アイリスディーナ「流石は我等のデグレチャフ中将閣下だな」
グレーテル「あの油断の無さは、ついていく者からすると頼もしく感じるものだ」
ウルスラ「それに助けられたことも一度や二度ではないですからね」
タリサ「……なるほどなあ」
一兵卒や前線指揮官にはまず命令遵守と敢闘精神が求められるが、高級指揮官ともなると全体を考慮する必要があるので、不測の事態に備える慎重さが求められるようだとタリサは理解した。
準備を終えたターニャは続けてエリア096からコア:シャードを飛ばし、エリア131の侵攻を開始した。エリア096はエリア131からやや離れているが、移動無制限エリアの存在からも分かる通りこれは飛距離ではなくルールの問題であり、自陣のエリア114がエリア131に隣接しているためセーフ判定だ。
エリア131では騎士05、07、08の3人が待ち構えており、これまでの2エリアよりは若干ましな陣地が構築されていた。そしてターニャが着陣するなり、騎士達はクローラー10機による自爆突撃を敢行した。
ターニャ「ふむ、多少はマシな対応をするようになったが」
このエリアは谷になっているため、道が狭くなっている。つまり強襲する場合の陸上の侵攻ルートが限られる。ターニャはクローラーの侵攻ルートとなる谷間にリップルを並べてこれらをあっさり殲滅した。
リップルとは射程362.5mという全タレットの中でも2番目に長い射程を誇る対地用タレットだ。しかもグレードとしては中級と上級の間くらいにもかかわらず、銅と黒鉛とチタンだけで建設出来るのでコストも安い方だ。弱点は対空攻撃が出来ないことくらいだ。
ターニャは続けて念のため対空用のスキャッターを並べ、最低限の防備を整えると、これまで同様に生産設備と軍備の増強を開始した。そして敵陣の充実度を見極めて、念のためTier4のセプターを5機編成にして敵陣へと進撃開始した。
今度の敵陣は巨大なチタンの壁に修復機がついており、更にフォートレスより長射程のリップルが並んでいたため、フォートレスだと修復で時間を稼がれている間にリップルに撃破される可能性があったからだ。これまでに比べると大分まともな防御陣地になっていると言えるだろう。そこで、フォートレスに比べ攻撃力が2.834倍、耐久力が10倍のセプターでもって正面から叩き潰すプランとなったわけだ。
ただしセプターを5機建造するには等速稼働だとそれなりに時間が掛かるため、持ち込んだ資材を使って加速ドームを設置し、2.5倍速で建造させた。ターニャはこのためにエリア132後半の建設と進軍をAI任せにしてエリア096でフェーズファイバー、プラスタニウム、サージ合金の製造ラインを作っていたのだ。
この加速ドームには1点だけ改良されたポイントがある。範囲表示をONにしている限り効果範囲を表示し続けるというものだ。加速は工場設備全部にくまなく効果が及んでいないとボトルネックが発生して無意味になってしまうのだが、従来品は複数の加速ドームを設置した場合に効果範囲漏れの確認が面倒極まりなかったのだ。
なおFICSIT製燃料式発電機も当然この加速ドームに対応しているので最終的な発電量は更に2.5倍になる。
満を持して投入したセプター5機編成部隊は敵陣地を蹂躙し、コア:シャードを叩き潰した。これで当面の脅威が去ったことになる。
しかしターニャには依然腑に落ちないことがある。相手は何故個別に拠点開発をして各個撃破を許しているのだろうかということだ。最初から多人数で集中開発していたらもっと強固な防御陣地を構築出来ていただろうに。言うまでもなく拠点攻防戦では攻める方が不利なのだから、多少の力量差があってもそれでもっとターニャの手を煩わせることが出来たはずだ。戦力集中は戦術の基礎中の基礎だ。ランチェスターの法則もそう言っている。
初期配置が決まった時点でもう勝った気でいたとか、任された領地を守れぬのは騎士の名折れと思っていたとか、連中がそんな低レベルなことを考えているとは、ターニャは夢にも思わなかったのだ。
疑問は尽きないが、当面の安全が確保出来たことでターニャはまずエリア096を本格的に整備することにした。次の敵陣までだいぶ距離があるので、侵攻速度重視の動きはここまでにして、まずは生産力を整えることにしたのだ。
ドリルを最上位のエアブラストドリルに更新し、ポンプを最上位のサーマルポンプに更新し、或いは井戸水を汲み上げるウォーターポンプを増設し、必要な二次資源・三次資源の生産設備を建設し、加速ドームで全体の動作を2.5倍に加速し、コアを最上位のニュークリアスに更新してボールトを8つ隣接させて貯蔵容量を最大の21,000まで増やし、発射台を整備してエリア間の兵站物流を流動化させるのだ。そういったフルスペックの後方工業地帯を3つか4つほど用意すれば、どこに飛び込んでも持ち込み資源と仕送り資源だけで即座に工場を整えて陸軍最強のTier5レインを出撃させられるようになる筈だ。
なお面積的には単一エリアに巨大な工場を作っても必要量をまかなえる筈なのだが、設備がコアから離れすぎると輸送効率が悪化するため、基本的には複数のエリアのコア近くに工場を設営する方が効率が良いとされている。
そうしてターニャが資源が豊富なエリアを選びながら4つの2.5倍速工場を形にした所で、隣のエリア099が赤くなった。エリア100から進出してきたようだ。
他の騎士が開発しているエリアは、4人まとまっているエリアを除いて元の隣のエリアに進出している。つまりこちらはターニャが本格的な工場整備に入って進出速度が鈍ったのを好機と見てコアの数を増やした形だ。実際現状で17対7となっており、数だけ見れば騎士団側が優勢ではある。
実際の所はターニャが4つフルスペック工場を整備する間に騎士団員1人あたり1つのコア:シャードを飛ばすのが精一杯といった手際の悪さなのだが、騎士団員は単純にターニャがもたつき始めたと見ていて既に総力戦準備が整っているとは全く思っておらず、逆にターニャはこれで敵がフルスペック工場を最悪8箇所整備し終わって総力戦に対応戦出来るようになっていてもおかしくないと警戒していた。
エリア211に4人まとまっているのはターニャからは見えないが、マップ上で見る限りはここだけ隣のエリアに進出する様子が無い。このエリアを捨てて他に回ったのか、それとも生産力を確保するために集中開発しているのか、判断に悩む所だ。
ともあれ、ある程度整備を進めたはずのエリア100から目の前のエリア099へとわざわざ前に出てきた以上は、相手が万全の準備を整えていると仮定して、ターニャはコア:ニュークリアス+ボールト8つセットに資源を可能な限り満載してエリア096からエリア099へと進出した。
しかし万全の準備で待ち構えている筈の相手は最下位のコア:シャードで、人員は1人で、開発もまださっぱり進んでいないようだった。
ターニャ「まさか本当に全くの無策ではあるまいな……?」
ターニャは相変わらず相手の真意を測りかねて空回りしていた。