【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

246 / 387
246. 今のが戦争(リアル)でなくて良かったな、戦争(リアル)だったらお前らはもう死んでるぞ?

 一方こちらは観覧席。トピア達と一緒に観戦していたアヴェニュー神が立ち上がって怒りを露わにしていた。

 

アヴェニュー神「おのれ存在X! 我が世界、しかも神前試合で何と無粋な真似を!」

 

トピア「あ、やっぱりアレそうなんですね」

 

九十九「とすると、クレムリン宮殿のと同じタイプだネ」

 

アヴェニュー神「かくなる上は――」

 

モモ王女「アヴェニュー様、介入は一旦お待ち下さい」

 

 トピア達と一緒に観覧席で観戦していたアヴェニュー神が今にも乱入しそうな勢いだったので、モモ王女がそれを制止した。

 

アヴェニュー神「む、何故だ? 我が前で好き勝手されているのだぞ?」

 

モモ王女「神の加護を受けてはいけないというルールはありませんし、それを批難するとなればアヌビス様とクラエル様に加護を受けているターニャ様が先に抵触します。それ以前に戦闘中に乱入すると、言葉を届けただけでも反則負けになりかねませんわ」

 

アヴェニュー神「ぬ………………その通りだ。いや、よく諫めてくれた。流石は我がマインの盟友だな」

 

 アヴェニュー神は深呼吸して心を落ち着けながら暫く考え込み、最終的にモモ王女の提言を肯定した。自分が怒り任せに乱入することで負けてしまったらそれこそ台無しだ。アヴェニュー神としては自分に捧げられる試合という認識でいたが、それはそれとして公式な判定員がいるのだ。

 

モモ王女「いえ。それにターニャ様は問題無く勝ちますわ」

 

アヴェニュー神「であろうな。そこは疑っておらぬ」

 

 アヴェニュー神としても結局の所ターニャの勝利が危ういから乱入しようとしたのではなく、自分の世界で存在Xに好き勝手されているのが許せなかっただけなのだ。

 

 

 

 連中の中に存在Xの使徒がいるのならば、憂いを断つためにも今ここで始末しておくべきだ。連中は元々素行が悪いしわざわざ救ってやる義理も無い。幸いルール上、敵コアを攻撃して死傷者が出た場合のペナルティは一切無い。ターニャはそのように結論づけて()()()()することにした。

 勿論迅雷やTOM(トム)などは持ち込んでいない。そんなものを持ってきたら反則負けになりかねない。だが問題は無い。ターニャの胸元には、試作型での問題を解決して量産ラインに乗った『Meisters 魔導演算宝珠Mk.3』がある。

 匠衆(マイスターズ)製の魔導演算宝珠はこの2週間で大幅に技術革新が進んだ。先週シングルコアのMk.1が完成したと思ったらその翌日にはデュアルコアのMk.2試作型が出てきて、それが完成した翌日にはもうクアッドコアのMk.3試作型が出てきたのだ。相変わらず匠衆(マイスターズ)は時間感覚がおかしい。

 そして運用評価試験を経てMk.3も完成することになったわけだが、Mk.3の時点で既に魔導演算宝珠としての性能は必要十分で、更にその先に目指す汎用魔導演算装置に至るには基本的な構造から変更する必要がある上に参考とするべきサンプルも無いということで、Mk.1~Mk.3を用途別に量産開始することになった。

 ターニャが見るにこのMeisters 魔導演算宝珠Mk.3はエレニウム95式にも匹敵する性能であるが、95式ほど極端にピーキーではないので、ターニャ以外でも()()()()()()()()()()()()()であれば扱えるようになっている。その証拠に既に地球連合(ユナイテッドアース)戦闘団の過半数がMk.3を使えるようになっているのだ。残りもMk.2には適応出来ており、シングルコアのMk.1は訓練用扱いだ。

 要するにMk.3の操作難易度は前世で言う97式くらいで、ターニャが考える所のきちんと訓練を積んだ魔導師というのは、前世で全員先行量産型97式を装備していた第203航空魔導大隊くらいの水準だということだ。

 Mk.3では95式にあった魔力ストック機能を真似てマナ上限が+1,024されるようになっているが、そもそも標準装備にインベントリのマナポーションからマナを自動補給出来るマナフラワーがあり、マントラを随時並列起動することでマナを補充することも出来るので、実はそれほど重要ではない。

 

 ターニャによる猛特訓の開始から33日が経過しており、地球連合(ユナイテッドアース)戦闘団のうち過半数、魔導演算宝珠Mk.3を十全に扱えるようになった者達は既に訓練修了となっている。術式を扱う技量の目安として分かりやすいので、これを合格の条件の一つとしたのだ。

 残りは訓練未了扱いだが、一定期間ごとに何度でも再試験を受けられるのでそのまま訓練を継続している。

 というか修了となった者達ですら業務に差し支えない範囲で訓練を続けている。何故なら修了判定となった者達よりも上、更なる高みにターニャ・デグレチャフという目標がいるからだ。訓練をやるほど能力が伸びるのであればそこで満足するわけがない。

 

 各国から選りすぐっただけあってなかなか向上心のある連中だとターニャも評価している。魔導師の素養が無い状態からスタートした事を考えれば1ヶ月で過半数が要求水準に達したことは上出来と言える。この調子で練度を上げていけば、軍事目的で結成された匠衆(マイスターズ)において今後地球の存在感(プレゼンス)が失われる可能性は低いだろう。匠衆(マイスターズ)に対しても地球に対してもそれを主導したターニャの評価は上がる筈だと考えていた。

 

 その一方でトピア達は向上心がありすぎる連中に追い抜かれないために必死になっていた。

 つまり若干やりすぎであり、ありがた迷惑と言えなくもない状態なのだが、これは匠衆(マイスターズ)幹部達がターニャの練兵能力を評価して存分にやってもらった結果だ。能力向上のおっかけっこがエンドレスになってしまったのは誤算であったが、ターニャ自身は修了判定で終わりとしており、あとは自発的に訓練しているだけなのだから全く文句を言う筋合いが無い。

 そもそも匠衆(マイスターズ)の理念としては戦力増強は歓迎すべきであり、仲間の足を引っ張るのは厳禁である。これを幹部自らが破っては示しが付かない。修了後も自主訓練を続ける連中に対し言えることがあるとすれば、適切に休息を取れというくらいのものだ。ならば追い抜かれないように自分を伸ばすしかないという結論になるのは必然だ。

 

 ターニャは今や訓練()()()()修了の指標ともなっている魔導演算宝珠Mk.3と、ラストプリズムから改造した新型魔導銃を携えてフルエンチャント装備一式で自軍コアから飛び立った。そして射程制限に合わせるため自軍のオムラと同じ敵コアから500m以内まで前進し、これまた念のため降伏勧告をすることにした。虐殺が目的ではなく、戦った結果死なせてしまっただけですよとアピールするためだ。

 

ターニャ「貴軍に降伏を勧告する。これが受諾されない場合、そのご自慢の防壁をぶち抜く攻撃を行う。だがこの攻撃は威力が過大で脱出の猶予を保証出来ない。死にたくなければ素直に従うことだ」

 

騎士11≪悪魔め、わざわざ空から見下ろしながら降伏勧告だと? ふざけた真似を! 我等を見くびるな、誰が降伏などするものか!≫

 

騎士01≪その通りだ! 騎士の誇りの前には貴様の攻撃など無力だと知るがいい!≫

 

ターニャ「いや、別にこのまま待つだけでもこちらの勝利は変わらんのだが……まあいい」

 

 交戦状態では新たなコアを射出することも出来ない以上、制限時間一杯まで粘ったとしても37対1のままで連中の勝利の可能性は0なのだが、どうやら連中はそれでも騎士の誇りとやらのためにただ無為に時間を過ごすつもりらしい。まあターニャにとっては()()()だ。

 

ターニャ「宜しい、諸君らの()()は受け取った。諸君をヴァルハラへ……いや、戦神アヴェニューの御許へ送ってやろう」

 

 ターニャはいつもの癖でヴァルハラへ送ってやると言いそうになったが、ヴァルハラとは、ヴァルキリーによって選別された勇士の魂が集まる所だ。その観点から言うと、自己を全く磨いていないこいつらは全員その選別から漏れるであろうことは間違いない。なのでこの世界の管理をしているアヴェニュー神の御許へと送ることにした。アヴェニュー神の加護を受けることで魂の輪廻が存在Xの管理下から外れるということは、この世界の人間の輪廻に関してはアヴェニュー神が担当しているのはまず間違いない筈だ。

 

 ターニャが上に掲げた魔導銃の銃口に光が灯り、それがどんどん増大していく。加護の防壁を貫ける威力になるまでチャージしているのだ。とりあえず100倍くらいでいいだろう。実戦でそこまでチャージ出来る機会はまず無いのだが、連中からは反撃が無いのでそのような事が出来る。……ついでにマナサイフォンもかけておこう。貫通力は上がらないが殺傷力が上がる。

 なお存在Xの加護による防壁は通常の術式をほぼ無力化する問題があるが、加護ならターニャも2つ受けている。アヌビス神とクラエル神のものだ。存在X一派の奇跡の産物であるエレニウム95式を使い続けたターニャの経験と技量ならば、十分な魔力さえ確保出来れば加護の力の転用で相手の加護をある程度中和することが可能だ。そして魔力はインベントリのマナポーションから殆ど無尽蔵に補充出来る。

 ターニャは敵があまりに弱すぎることを不審に思っており、別に自分でなくても問題無くこなせる仕事ではないかと訝しく思っていたが、あの騎士団連中の中に存在Xの使徒がいる可能性を見越していたのならば、加護への対抗力という点において確かにターニャが適任だ。ターニャはマインやモモ王女の慧眼を改めて評価した。

 

 まあ実際アヴェニュー神が憤慨しているようにマインもモモ王女もそんなことは別に考えておらず、相手の成長込みでも問題無く勝てるようにターニャを選んだだけなのだが。

 

 一方騎士団側は、他の騎士達はターニャが生身で何をしているのか全く理解していない様子だったが、騎士11だけはターニャがチャージしている力の大きさや質を感知出来ているようで、みるみる顔が青ざめていった。やはり奴が使徒で間違いないだろう。

 

ターニャ「では諸君、来世で――」

 

騎士11≪参ったァー!!!!≫

 

ターニャ「……は?」

 

騎士11≪降参する! アレは無理だ!!≫

 

騎士05≪お前急に何を≫

 

騎士11≪すまないが私はここまでだ、諸君あとは任せた!≫

 

騎士01≪ちょ≫

 

 加護の対象であっただろう騎士11が離脱していなくなると、困惑する残りの騎士を残したままの敵コアにオムラのレーザー攻撃が通るようになってすぐさま爆散した。

 幸いというか何というか、安全装置が働いて残りの騎士も観戦会場に退避出来たようだ。

 

判定員≪戦闘終了! 37対0でマイン軍の勝利です!≫

 

ターニャ「……了解」

 

 ターニャは拍子抜けして振り上げた拳の持って行き場に困ることになった。どうやら今回の存在Xの使徒は、これまでと違って自分の命を信仰に捧げるほど信心深くはないらしい。考えてみれば、元々金と権力でしょっぱい悪行を繰り返していた連中なのだから、そんな覚悟があるはずもなかった。

 斯くしてこの戦いは37対0、マイン側の勝利で幕を閉じた。掛かった時間は2時間57分であった。

 

 

 

 戦いを終えたターニャは、観覧席と放送設備が設置された惑星争奪戦管理委員会所有宇宙船へと戻っていた。なんか勝手に盛り上がっていた自称騎士12人も自動的にここに転送されていた。いや最低1人は前回参加していないから称号を剥奪されていないのだったか? まあどうでもいいが。どうやら先に降参した騎士とそれ以外で揉めているようだが、それもターニャの知ったことではない。

 そんなことよりも存在Xの使徒を始末し損ねたのはどうしたものか、と考えているターニャの所に、アヴェニュー神が寄ってきた。

 

アヴェニュー神≪業腹だが、ルール上戦闘中は手出しが出来なかったのでな。案ずるな、アレはこの後()()しておく≫

 

ターニャ「……配慮に感謝します」

 

 なるほど、加護を没収出来るのであれば後腐れも無いだろう。

 何はともあれ、この世界の神として存在Xにやりたい放題させないことを行動で示してくれるのは良いことだ。

 それはそれとして、折角任された仕事で威圧しすぎて標的を逃がした事に関しては評価に響きそうだとも考えていた。

 

 一方マインは元気に敗者を煽っていた。

 

マイン「今のが戦争(リアル)でなくて良かったな、戦争(リアル)だったらお前らはもう死んでるぞ?」

 

グリマルド「うぬう、馬鹿な、こんな筈では……!」

 

 騎士団長のグリマルドは悔しそうにしていたが、命があるだけマシだろう。資産も9割の譲渡であって、元々悪事に使うほど余っていたのだから、1割も残っていれば貧窮するほどではあるまい。騎士団は維持出来ないだろうが、それは匠衆(マイスターズ)の意図した通りだ。

 そもそも買収に頼ってばかりで腕が素人以下だったのが最たる敗因なのだ。

 

マイン「さてデグレチャフ中将、よく任務を果たした。何か望むものはあるか?」

 

ターニャ「はい、いいえ総軍大元帥閣下。このような素人いじめ(ターキーシュート)で褒められては逆に不名誉ではないかと愚考いたします」

 

 会場から笑いが沸き起こったが、ターニャのこれは謙遜や煽りではなく、割と本気で言っている。幾ら何でもあんなにレベルが低いとは思わなかったのだ。

 惑星争奪戦のルールには魔法禁止とは書かれていないので、生身での敵コア襲撃以外にも術式で分身しての多正面対応プランなども用意していたのだ。しかし、相手の地力が想定外に低すぎて、最後の加護防壁への対応以外ではそのような切り札を切る必要が全く無かった。

 しかも言及すると積極的殺意が明らかになるので言葉に出来ないが、存在Xの使徒と見られる騎士11をみすみす取り逃がしてアヴェニュー神に後始末を任せてしまったのだ。何たる失態。これで高評価を受ける謂れは無い。

 

 実際のところ、マインとしては相手に想定外の使徒がいても問題無く短時間で勝利したことを普通に高評価しているのだが。

 マインが元々使徒の存在を想定していたかどうかという前提の違いにより、両者の評価が大きく食い違っていた。

 

マイン「フハハハハ、貴様ならばそう言うと思っていたぞ! だがまあ、連中は恥知らずにも金を積んで騎士称号を再取得していたらしくてな。実際に打ち破った貴様が貰っておけ、十二騎士(トゥエルヴナイト)ターニャ・()()()・デグレチャフ」

 

ターニャ「……は、頂戴いたします」

 

 何の因果か12の騎士称号全てがドイツ由来品だったらしく、ターニャは前世に続いてまた十二騎士ターニャ・フォン・デグレチャフを名乗ることになった。前世では俊英が鎬を削る軍大学で頑張って100人中上位12人の枠に入り軍大学十二騎士として授与されたものだっただけに、ターニャは複雑な思いを抱くことになった。

 いや実力で勝ち取ったことに違いはないのだが、相手が弱すぎるし、環境条件もマインの時よりイージーモードだったので、誇れるかどうかは微妙なところだ。もしや嫌がらせの類いではという疑念が頭をよぎるが、マインも同じような経緯で同じ称号を持っているのでそれはないだろう。

 

 一方トピアは十二騎士(トゥエルヴナイト)が二人に増えたと単純に喜んでいた。

 ちなみにトピアが言い出したこのトゥエルヴナイトというのも『我が栄光』と同じ有名エロゲシリーズの用語だったりする。




 第11章終了です。次回から第12章に入ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。