九十九「そしてこちらがその範囲を広げて天の川銀河全域を描いた星図になるヨ」
九十九「天の川銀河に含まれる恒星は2000億から4000億個と言われていて、直径が10万光年前後になるから、半径15光年程度に収まる太陽系近傍の恒星系はオリオン腕のこの一点になる。この青丸だけでも半径800光年になるからネ」
星図の範囲が一気に4千倍ほどに拡大したことになる。現状の地球人類の活動範囲からは遠く離れている。
純夏「これが銀河……!」
純夏も銀河が渦巻状になっていると聞いたことくらいはあるが、実際にどのような形になっているかを目にしたことはないので、初めてそれを見せられて目を輝かせていた。
九十九「欲を言えば銀河中心を座標の中心に据えた方がよりすっきりするんだけど、そうすると地球から観測した星の座標が使えなくなるので、これを現状で最終の座標系とするヨ。さて諸君、この図から何が分かる?」
九十九は怒濤の説明を一旦終了して、一同を見渡して図から何が読み取れるかを問いかけた。
純夏「はい! 銀河全体に比べるとまだまだ進んでいる範囲が狭いということです!」
九十九「うん、それも正解だネ。現在3,000光年ほど進出しているが、天の川銀河全体からするとまだまだ小さな範囲だヨ。他には?」
純夏「うーん、あとは地球の近くと同じで左上の方が安全……とか?」
太陽系近傍の星図範囲には存在しなかったが、こちらには紫色のBETA交戦中領域が存在する。交戦中とはBETAとの戦闘を開始してまだ殲滅し切れていない状態を指すため、ハイヴは全部潰して各個体の活動停止待ち、星系内の残敵を捜索中という「安全が完全に確保されていないだけ」という状態もここに含まれる。そしてハイヴ攻略は短時間で終わるが捜索に時間が掛かるので太陽系近傍以外はまだ紫色になっているのだ。
九十九「それも正解だネ。純夏君、よく頑張った。ではグレーテル君、そのあたりをもう少し詳しく説明出来るかな?」
純夏が頑張りすぎて知恵熱を出しそうになっているので、九十九は完全に理解していそうなグレーテルを指名した。
頑張った純夏はステークに頭を撫でられて嬉しそうにしているが、実はステークも赤経・赤緯からよく分かっていなかった口だ。とはいえステークも外聞を気にして知ったかぶりをするようなたちではない。自分も純夏を見習ってもっと学んでいかなければと反省している所だ。
グレーテル「ええ、はい。これまでのBETAの分布からすると、BETAは
観艦式後にグレーテル達がワープ航法で地球に帰った頃の複合ワープエンジンだと、ワープを使っても地球まで半日かかったので、つまり1日に10光年前後しか進めなかった。しかし観艦式から2週間強で3,000光年進んだとなると、その20倍ほどの進出速度になる。
九十九「正解だヨ。進出速度の向上は技術本部が色々と頑張ってくれた成果だネ。
トリオ「ワープエンジンの改良はまだ続けておるぞ。今の性能でも銀河の反対側の端まで半年くらいはかかるからの」
九十九「頼もしい限りだネ! ゆくゆくは波動エンジンの性能も超えそうだ」
トピア「楽しみですね。1年で大マゼランと往復出来たりしそうです」
夕呼「大マゼラン雲なら片道16万3千光年だから、今の性能で丁度往復800日くらいね」
トピア「つまり波動エンジンに大分近づいてきてますね! 素晴らしいです!」
とはいえ波動エンジンを搭載した宇宙戦艦ヤマトは様々なトラブルに遭遇しながら往復しているので、航行性能だけ見るならば天の川銀河の地球と大マゼランのイスカンダルを1年ではなく218日で往復出来るくらいの性能がある。
インファクトリ級が搭載しているワープエンジンMk.2は400光年/日程度の速度が出ているが、宇宙戦艦ヤマト(2199)のワープ性能は1回500光年、1日あたり3回を限界とする仕様なので1,500光年/日だ。つまりインファクトリ級のワープエンジンの性能を現状の3.75倍まで伸ばせば宇宙戦艦ヤマトの初期性能に追いつくことになる。この短期間に40倍の飛躍が出来たのだから、あと4倍くらいは頑張れば何とかなりそうだ。
ちなみにインファクトリ級のワープエンジンはそれ自体がTechブロック仕様なので簡単に載せ替えることが出来る。先に出発したインファクトリ級にも後で生産した新型ワープエンジンを載せ替えるだけでそれ以降40倍の機動力で動き回るようになっているのだ。その載せ替えもビルドモードにしてわずか数秒の作業なので、Techシステムは当初の致命的な安定性の悪ささえ解決してしまえば抜群の利便性をもたらしていた。
さて、天の川銀河だけで決着が付くなら今のワープエンジンMk.2の性能でも半年程度で仕事が片付きそうだが、もし別の銀河に
そして宇宙の恒星の数よりも多い1037というBETAの数からすると、この天の川銀河だけで終わらない可能性がそれなりに高いのだ。なので他の銀河への進出も考慮して、インファクトリ級艦隊は実際には円形ではなく球形の全方向に進出している。
モニカ「ねえサティ、さっきから専門用語が分からないんだけど、波動エンジンって何?」
サティ「まず間違いなくSF用語よ」
トピア「流石はサティ姐さん、正解です。波動エンジンは宇宙戦艦ヤマトというめちゃめちゃ有名なSF作品に出てくる、ワープエンジンを兼ねたメイン機関で、ゲシュ=タム
サティ「ほらね?」
モニカ「ここ、そういう感じなんだ……」
テクス「まあSFにも発展の方向性として参考に出来るものは色々とあるでござるからな。その内慣れるでござるよ」
SFはそれ自体はただのエンターテインメントだが、現状の既にSF染みたテクノロジーを以てすれば発想の元として十分有益だという話だ。実際
モニカ(……可愛い)
それはそれとして可愛いは正義である。どちらかといえばテクスの発言よりも姿と挙動に和んだモニカはすぐに困惑から立ち直った。
グレーテル「あとは銀河全体からすると太陽系に極めて近いバーナード星系に、地球とは違って故障していないBETAが来ていたのが気になりますね」
グレーテルの言うように、確かにBETAの侵攻方向から考えると、バーナード星系は太陽系方面に侵攻した故障BETAグループの担当になりそうな気配がある。なのに何故太陽系とは別方面のBETAがわざわざ来たのかということだ。
火星、月、地球と辿ってきた太陽系内のBETAが同じ故障を抱えているので、そこから急に治ったということはあるまい。
九十九「その理由は推測するしかないんだけどネ、まず本来の歴史ではバーナード星系にBETAはまだ来ていないはずだったんだヨ。しかしうちのクラエル神が大分前の歴史から介入して、この星を希少資源の宝庫にしてしまったためにそれをBETAが嗅ぎつけたらしい。それで、地球に進出していたBETAは資源探査機能が故障しているので、故障していない方のBETAが来たのではないかな」
グレーテル「ふむ……そういう……」
グレーテルはその推測の妥当性を色々と考えてみたが、未だにBETA同士の通信方法すら分かっていないので、遙か彼方の星の資源をどうやって探査しているかは全くの不明であり、推測に推測を重ねる無意味さを悟って一旦思考を打ち切るのだった。