【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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252. BETA(ベータ)の次だから、さしずめGAMMA(ガンマ)といったところかしら?

 九十九がテーブルから降りて元の席に座り直し、今度は参謀部長のターニャが起立した。必ずしも起立する必要は無いのだが、これは彼女の生真面目さによるものと、座ったままではマインの後ろに隠れてしまう体の小ささに起因している。つまりは九十九がテーブルに飛び乗ったのと同じというわけだ。

 

ターニャ「敵の勢力範囲が単一惑星ではないという予測からしても、また珪素生命体(シリコニアン)がBETAに停止命令を下して停まるか怪しいという問題からも、母星を強襲すればそれで済む可能性は低いと言わざるを得ません。また、推定本拠地と侵攻最前線との距離からしてBETAの侵攻範囲は半径16万光年程度ではないかということになります。よって、まずはBETAの進出範囲全体を球状に囲んでしまい、そこから内側に半径を狭めるように侵攻するのが妥当な方針であると愚考いたします」

 

 マブラヴオルタネイティヴ原作の重頭脳(ブレイン)級がBETAの総数は()()()1037と言っていたことからも分かる通り、BETAはリアルタイムに情報を共有するような通信手段を持ち合わせていない。つまり本部からの指示も届かない、もしくはすぐには届かない公算が高いのだ。

 仮に光速程度で伝播する通信手段を持ち合わせていたとして、停止命令から停止まで16万3千年待つよりもインファクトリ級を巡回させて直接息の根を止めていった方が遥かに早い。

 

 さて、包囲するとなれば、その球状範囲の反対側、つまりは大マゼラン銀河を中心とした反対側まで到達するのに直線で32万6千光年なので、直線で進んだとしても現行のワープエンジンMk.2でおよそ800日になる。実際には迂回する必要があるのでそれ以上かかるだろう。しかし800日もあれば次の世代のワープエンジンが完成しそうなので、もう少し短くなるかもしれない。

 

サティ「そうね、未だに資源の調達を採掘に頼っているということは、こちらと違って無限に資源を生み出すことは出来なさそうだから、補給を断つ意味もあるわね」

 

テクス「アレは魔法と組み合わせた言わば裏技でござるからなあ」

 

夕呼「こちらはエネルギー保存の法則を完全に無視してるんだものね。初めて見たときは何でもありすぎて流石に呆れたわ」

 

 魔法のシンク(Sink)で水を生み出す場合、失われるエクセリオンの質量よりも生み出される水の質量の方が遥かに大きい。底なしの水バケツ(Bottomless Water Bucket)だと更にその倍率が上がるので、現在の工場小惑星では後者のバケツ方式を改造した質量供給用魔道具が採用されている。

 これだけで宇宙全体の総エネルギー量を増やしてしまうという、従来の科学から見れば開いた口が塞がらない所業なのだが、出来てしまうものは仕方ない。何より、合理的に論証可能で再現性があるのならばそれは一見不思議でももはや科学の一部と言っても過言ではない。使わない手は無いだろう。

 

トリオ「とはいえ、輸送速度が遅いせいで却って物資不足の影響が出るのに何千から何万年も掛かってしまいそうじゃがの」

 

カミール「本拠地の直近まで詰めないと物資の影響は出ないということか」

 

シュミット≪何とも奇妙な話だわね≫

 

聖騎士「これまでの常識とは大分時間感覚が違うであるな」

 

 珪素生命体(シリコニアン)本拠地の100光年手前まで半径を詰めて包囲したとしても、その境界線から物資が第四宇宙速度の2倍で本拠地に向かう場合、27,900年も掛かってしまう。まさに「ただちに影響は無い」と言える。

 

ターニャ「大マゼラン雲は最初に天の川銀河に近い部分に橋頭堡を確保することになりますが、大マゼラン雲外側の包囲が一通り完了するまで珪素生命体(シリコニアン)の正規軍が徘徊するような中核領域への侵攻は一旦待ちます。というのも、敵の中核戦力はBETA以上の戦闘能力と学習能力があると想定されるため、包囲殲滅をする際は全方面から一斉に攻撃して極力短時間で片付ける必要があるためです」

 

夕呼「BETAが()()()()なら、軍事用でなおかつ更に時代が進んだ文明の()()()()がそれ未満の性能ということは無いでしょうからね。BETA(ベータ)の次だから、さしずめGAMMA(ガンマ)といったところかしら?」

 

サティ「意味は?」

 

 BETAとはBeings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race、人類に敵対的な地球外起源種の略だ。なのでGAMMAとは何の略なのかという問いになる。

 

夕呼「Greater Army consist of Massive Monsters which is Adversary of non-silicon-based life forms、非珪素生命体に敵対的な大量の化け物で構成される上位軍隊といったところかしら? 勿論意味の方が後づけ(アプロニム)だけれど」

 

 敵対する相手が人類ではなく非珪素生命体と範囲が広がっていることにサティ達は深く頷いた。元々humanが頭文字に採用されていないから出来る荒技だ。

 

ラリー「ちょっと気になったんだが、モンスターってことは軍隊の方も炭素生体構造主体になってる前提なのか? 金属機械ってことはねえのか?」

 

夕呼「ええ、足りない資源を集めている以上金属は使っているでしょうけど、技術系統としては恐らく軍隊の方も生物兵器よ。BETAが大マゼラン雲から来たと言われて納得したもの」

 

 大マゼラン雲出身だから、と言われて半数以上が首を傾げたが、これをハマーが補足した。

 

ハマー「ああ、あの銀河は天の川銀河よりかなり大分金属量が少ないと言いますからな」

 

テクス「……なるほど、環境的事情で炭素主体の技術が発展したわけでござるな」

 

 天文学的な意味の金属量とは全物質に対する水素・ヘリウム以外の割合のことである。その金属量が天の川銀河に比べて大マゼラン雲では1/4、小マゼラン雲では1/10程度しかないと見積もられている。

 勿論炭素やシリコンもこれに含まれるので天の川銀河に比べて少ないことになるが、恒星の核融合反応は一般的に水素、ヘリウム、と順に重い元素になっていくので、水素とヘリウム以外が少ないのならばあまり核融合が進んでいないということになり、重金属元素はその少ない炭素より更に少ないと言える。

 そのような環境で量産を考えるとすれば、元素周期表で6番目にあり常温で固体かつそこそこ頑丈な炭素は利用しやすい元素なのだろう。勿論炭素は自然のそのままでは重金属ほど頑丈ではないのだが、分子結晶構造の組み方によっては戦術機の刀のスーパーカーボンに代表されるようにかなりの強度を出すことが出来る。

 珪素生命体(シリコニアン)の技術ではやや違ったアプローチで、G元素グレイ1を使うことで分子間力の中でも電気的に中性な粒子の間に作用するファン・デル・ワールス力を強化し、突撃(デストロイヤー)級の甲殻のようにそこらの金属も寄せ付けないような強度を実現している。匠衆(マイスターズ)がこれを再現した構造強化も原理は同じで、素材に元々強靱なルミナイト(Luminite)を使っているため同じ厚みで比較するとBETAの甲殻を超える強度を出せている。

 

スコア「それなら軍隊の方も生物兵器という可能性が高いな。BETAが最初に資源調達に進出した範囲は大マゼラン雲内部で、そこも金属が少なかったろうし」

 

トピア「ではBETAの上位種の呼称はひとまずGAMMAということにしましょう。……デグさん、続きをお願いします」

 

 トピアの進行にターニャは頷き、更に言葉を続けた。

 

ターニャ「そしてその仮称GAMMAと接敵する直前まで包囲の輪を狭める際には、生産能力の拡充を優先します。つまりは戦力を内側に移動するのではなく、生産力を以て大マゼラン雲全体にこちらの戦力を敷き詰め、逃げ場の無い重厚な包囲網を形成します」

 

スコア「その意図は?」

 

ターニャ「は。現状BETAはワープしないようですが、そこから4500万年経過しているとなれば珪素生命体(シリコニアン)文明自体はワープ技術を保有していると考えるのが妥当です。つまり薄い包囲ではそれを以てこちらの包囲の外側から反撃、或いは包囲網から逃げることが考えられるからです」

 

ラリー「なるほど、仮にこちらの戦力の方が優勢で相手が逃げ出したとしても、そこから再起して反撃体制を整えられると泥沼になりかねねえからな」

 

ターニャ「その通りです。4500万年先の技術と考えると一度のワープで移動可能な距離がこちらより長くても不思議はありませんので、可能ならば大マゼラン雲内部ほどの密度でなくともBETA進出半径16万光年全体を監視出来る程の二次包囲網を形成出来れば言うことはありません。更に天の川銀河側もこれまで通りに進出を続け、BETA殲滅後も珪素生命体(シリコニアン)本隊のカウンター攻撃に備えて各地に十分な生産拠点と防衛戦力を配備します」

 

トピア「なかなか念入りでいいですね」

 

マジェリス「勿論俺も確認してますよ。堅実で良いプランだと思います」

 

マイン「面白みのないプランではあるがな。生産力で圧倒出来る以上は奇策を用いても自分で穴を作るだけだ。この方向がベストだろう」

 

 ターニャ案の念入りな包囲殲滅構想からは、ダンケルクは二度と許さないという強い意志を感じる。匠衆(マイスターズ)としても勝利の取りこぼしは避けたいので、是非ともその意志を貫徹していただきたいところだ。

 

サティ「既に生産部にスケジュールの確認は来てるけど、手順が堅実だから必要な期間さえかければ実現可能よ。システム課も大丈夫?」

 

スチームパンカーのホープ「勿論さ!」

 

 実現性に関しても、生産部長のサティとシステム課長のホープが太鼓判を押すのだから問題は無いだろう。

 

トピア「では工場長、()()()()の開発についての進捗はどうですか?」

 

トリオ「縮退炉搭載型じゃな? 元々大型の機動兵器を開発しとったカンパニー開発部の人員が合流したけえ、今までよりは大分進んでおるぞ。次世代型ワープエンジンよりは少し遅れそうじゃが、決戦には十分間に合うじゃろ。1年はかからん見込みじゃ」

 

ターニャ「であれば、こちらもそれに合わせて作戦の進捗を調整しましょう。多少納期をオーバーしても良いので万全の出来を願います」

 

トリオ「無論じゃ」

 

 開発次長ゼータとシステム課長ホープのコンビ、更にその上司の夕呼には有能な反面マッドサイエンティストの片鱗が見えるのでターニャは念を押した。しかしまあ、統括するトリオ工場長とゼメキア品質保証課長にはしっかり品質保証の概念があるので、彼らが実情を把握している限りは大丈夫だろう。

 

ターニャ「以上が珪素生命体(シリコニアン)文明本拠地の銀河規模の包囲からの殲滅もしくは制圧占領を目的とするイスカンダル作戦(オペレーション・イスカンダル)の概要です」

 

 などと建前上言っているが、珪素生命体(シリコニアン)の連中が降伏に応じないようならば後腐れ無く殲滅する方針である。連中は炭素生命体を命と見なさず、あまりにも無造作に沢山のものを奪いすぎたのだ。対等の和睦などはあり得ない。

 

トピア「ありがとうございます。では、この作戦案について質問や意見があれば挙手をお願いします」

 

 トピアが一同を見渡すと、その中から一人だけ手を挙げるのが見えた。

 

トピア「はい、ジョンストン卿どうぞ」

 

 それは地球代表匠衆(マイスターズ)大使、ジョエル・ジョンストンであった。

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