【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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253. つまり師匠さんは先生の先生、なの?

 地球代表匠衆(マイスターズ)大使ジョエル・ジョンストンは、起立したままのターニャに合わせて自らも席を立ち発言した。

 

ジョンストン卿「まずは発言の機会を戴き感謝する。作戦案そのものに対しては問題無いと思う。しかし現在の匠衆(マイスターズ)の組織構成の一部に不足が見られるため、作戦遂行能力が十全であるかどうかに懸念を感じる。具体的には諜報部、情報分析部、法務部だ。情報系の2つの重要性は言うまでもないが、法務部が整っていないと今後未知の知性体文明と遭遇した際の折衝でトラブルが起きる可能性が高まるだろう」

 

 他にも工業の伝道者(ファクトリオ)戦闘工兵隊隊長、宇宙の探鉱者(プロスペクター)連隊隊長、総務本部長、事務処理課長、庶務課長が決まっていないが、ジョンストンが挙げたこの3つの部署は特に重要だ。

 概ね事実でしかないが、対処が難しい部分でもあるため、一同は眉根を寄せた。

 

ロゼッタ王女「ええ、その重要性は理解しております。だからこそ簡単に外部の人を入れるわけにもいかないわけですわ」

 

 そこにジョンストン卿が推薦する地球人を入れろというのならNOだ、という人事部からのお断り表明である。英国はマブラヴ地球の中では評価が高い国であるとはいえ、部外者にその重要部署を握られるわけにはいかない。かといってロゼッタ王女の地元であるラリーの世界のテラリア王国にも適切な人材がいるわけでもない。

 だがジョンストン卿の提案はそれとは少し角度が違った。

 

ジョンストン卿「ああ、勿論こちらの手の者をその役職に就けろなどとは言わないよ。しかしそちらでやるにもノウハウを持った教官がいると部署立ち上げもスムーズにいくのではないか、ということだよ。悪い話ではないと思うが、どうかな?」

 

 なるほど、直接役職に就けるのは無理だが、部署立ち上げの指導教官として頼むのならば一考の余地がある。地球側にとってはその部署の初期メンバー全員にとっての師匠筋になって太い人脈が得られるわけだが、匠衆(マイスターズ)にとっては情報管理さえ徹底していれば別に困ることではない。

 

トピア「なるほど……一考の余地がありますね。師匠は情報本部長としてどう考えますか?」

 

九十九「うん、なかなか良い落とし所ではないかな? 名高い英国諜報部のノウハウを学べる機会は貴重だろうし、互いに得られる物があるだろう。相手はプロだから妙な()()()()()を仕掛けられないようにすることだけ注意だネ」

 

 ここで言うバックドアとは、プログラム的な物に限らない。指導によって匠衆(マイスターズ)内部にスパイを仕立て上げるとか、そうでなくても意図的に情報を抜き取りやすい組織的脆弱性を作るなどの手段も含まれる。

 これを注意するだけで防げる根拠は、念話術式の存在だ。相手が何を目的としているかが読めてしまうのだから事前に対策が可能なのだ。

 

 ただしジョンストン卿としてはそんなことをするつもりは全く無い。というか、する必要が無い。むしろ英国の総力を挙げてでも匠衆(マイスターズ)の諜報能力や法的対処能力を本格的に鍛え上げる気である。

 どういうことかと言えば、ジョンストン卿はモモ王女のようなポジションを狙っていた。これは外務本部長を狙っているという意味ではない。ジョンストン卿と同じような、祖国テラリア王国と匠衆(マイスターズ)を繋ぐ立場でありながら、信用を勝ち取って匠衆(マイスターズ)の要職を任されているというその位置取りだ。

 ジョンストン卿が見るに、匠衆(マイスターズ)は足を引っ張る人間に対しては非常に厳しいが、その分功績を無碍に扱うことはまずない。つまり大使として匠衆(マイスターズ)から地球や祖国に対する利益を引き出すだけでなく、積極的に有用な意見を出すことで匠衆(マイスターズ)における功績を上げて真っ当に信用を勝ち取ることを狙っているわけだ。

 そうすると匠衆(マイスターズ)としてはあれこれねだるばかりではない有益な働き手が増えてヨシ。英国や地球は自らの有用性を示せてヨシ。ジョンストン卿は大使の任期が終わってもほぼ匠衆(マイスターズ)の身内扱いという大きな影響を残せてヨシ。誰も損をしないプランである。今回の提案はその第一歩というわけだ。

 そもそもESP発現体が複数所属していて幹部会議にすら出席しているし、そうでなくても万が一悪事が露見した場合のリスクが高すぎるので、はなから口先で騙すプランなど捨てている。英国紳士はリスク計算が出来るので、リスクが割に合わないようなしょっぱい悪事はやらないのだ。

 

モモ王女「すみません、少し話題がずれるのですが、発言宜しいでしょうか」

 

トピア「どうぞ、モモ王女殿下」

 

 トピアは即座に発言を許可した。まあ無関係な話でもない限りは毎回発言の許可が必要なわけでもないのだが、話題がずれると言っているのでそのためだろう。

 

モモ王女「テラリア王国の教育水準を上げる計画についてなのですが、こちらも現状手が足りていません。何人か招聘出来ないでしょうか。まずは教師を増やしたいので、即戦力の教師自体に加えて、出来れば教育学部の講師もいてくれると有難いのですが」

 

 なるほど、教師そのものも必要だが、根本的に教育水準を上げるにはテラリア王国人の教師を育成する必要があるだろう。

 バーナード星系はじまりの星全土を領土とするテラリア王国は匠衆(マイスターズ)の本拠地だ。今後人材を求めるにあたって教育制度が整っているに越したことはない。

 

トピア「そうですねえ、師匠が元教育学部の教授ではありますが、一人かつ兼任では流石に手が足りませんからね。理想郷の建設者(クラフトピアン)にそういう人って他にいましたっけ?」

 

九十九「今のところ聞いたことがないネ。タバサ君も教育学部じゃないしネ」

 

タバサ「僕は理工学部だよ」

 

 理想郷の建設者(クラフトピアン)は比較的人材が豊富で、元教授職も何人かいるのだが、流石に地球人と比べると人数が少ないので、教育学部の講師を探そうとしてもそう簡単に数は揃わない。

 

純夏「ん? つまり師匠さんは先生の先生、なの?」

 

トピア「そうなのです! 純夏さんお目が高い!」

 

ステーク「すごいぞ純夏」

 

純夏「えへへぇ、それほどでもぉ」

 

 九十九は元々先生の先生といった立場だが、それを聞かされずに実際の教え方から九十九の指導能力を見抜いた純夏には見る目がある、ということだ。

 トピア達に褒められた純夏は、謙遜しながらにへらと表情を崩した。その自然な謙遜ぶりにマインの眉が動いた。

 

九十九「まあ人手が足りないのは確かだし、教育には時間が掛かるものだから、早めに他から招くのがいいだろうネ。勿論こちらもバックドアに注意する必要はあるけどネ」

 

トピア「折角なら超科学文明世界から招いてもいいかもしれませんね。こちらの地球と比べても大分文明が進んでますし」

 

サティ「FICSIT経由なら手広くやってるから何人か喚べると思うわよ」

 

トリオ「うちの方は……今はちっと難しいかもしれんが、学校自体は早めに整備してほしいところじゃの」

 

 何しろ娘のリーファが来年度から学校に通う予定なので、工場長にとっては優先度の高い話題である。

 なおドワーフの教師は職人流の見て覚えろ的な教え方になりがちなのでドワーフ以外の教育にはあまり向いていない。

 

マジェリス「うちも落ち着くまで暫く掛かりそうだ」

 

テクス「それがしの方は……まあ掛け合ってはみるでござるよ」

 

ジョンストン卿「科学技術方面では及ばないだろうが、それ以外の分野も勿論地球から人材を紹介出来るよ」

 

 逆に高度な科学技術を学びたい理系教育者が殺到するかもしれないが、という言葉をジョンストン卿は呑み込んだ。そのあたりは地球側で調整すれば良いことだ。

 言語の問題はFICSITの技術で直接インストール出来るので全く障害にならない。

 

モモ王女「教育方針の偏りを監査する人員はこちらで出せますわ」

 

ロゼッタ王女「同じくですわ」

 

トピア「ではその方針で行きましょう。ジョンストン卿もそれで宜しいですか?」

 

ジョンストン卿「勿論さレディ。提案を受け入れていただき感謝する」

 

トピア「では他に作戦に関する意見や質問は……特に無さそうですね。では次に、マインさんの世界の近況説明を、マジェリスさんからお願いします」

 

 マインの世界の近況説明をマインに頼まなかったのは説明に主観が入りすぎて分かりづらいからという他に、実際にカンパニー周辺の情報をとりまとめているのがマジェリスであるという理由がある。

 

マジェリス「了解」

 

 ターニャやジョンストン卿が着席し、次は名も無き中隊(ネームレス・カンパニー)中隊長(カンパニーコマンダー)であるマジェリスの番となった。とはいえ、特に起立したりはしない。元々着席したままの発言が普通であり、起立している相手もいないからだ。

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