結論から言うと、トリオ工場長の故郷世界では工場長の故郷である惑星ルイテンbと地球政府が一触即発の状態に陥っていた。
発端は
惑星ルイテンb政府は正直に他の世界との交易を始めたと返答したが、前例が無いので簡単に信じられるわけがない。そもそも星の外からでは交易船も観測出来ていない。
これはインファクトリ級が毎回惑星ルイテンbのすぐ近くを世界間跳躍の始点・終点にしていたので、超空間観測も含めて他と交易する船として観測出来なかったということだ。海で例えるなら潜水艦が直接港に乗り付けているようなものだ。
そしてルイテン星系の周囲には地球政府勢力しかない。その交易船は一体どこから来ているのかという話だ。まあ一体どこも何も、言葉通り他の世界からなのだが、地球政府側からすればそれこそ自らの星の戦略的価値を低く見せるための嘘にしか聞こえていなかった。
そのためそんな交易船は存在しないはずだと断定した地球政府側がどうしてそんな嘘を吐くのか、これは地球に対する裏切りではないのかとまで言い出したことで、ルイテンb側も黙ってはいられず、交渉はこじれにこじれた。
地球勢力圏に囲まれているとはいえ、惑星ルイテンb政府は独立した国家であり属国ではないので、独自の資源を隠し持っていたとしても、地球以外のどこと交易したとしても、地球に咎められる謂れは無い。嘘や裏切りというのは、単に地球政府がルイテンbを見下しているから出てきた言葉なのだ。
完全に舐め腐った地球側の言い分に対し、ルイテンb側の対応担当者からは聞くに堪えないような言葉が飛び出し、交渉は決裂したが、彼がその後上司に咎められるようなことは無かった。そもそも生来職人気質のドワーフは元々政治交渉などやりたくてやっているわけではない。物理的な暴力を行使しなかっただけでもその忍耐強さが称賛されたくらいであった。
問題はこれにより惑星ルイテンbに支配するだけの価値が生じたと地球側が判断したことで、地球政府は圧力を掛けるために宇宙艦隊戦力の集中を開始し、それに対抗してルイテンb政府も防衛軍の増強を開始した。
武力で威嚇しても交易先の機嫌を損ねるだけだぞとルイテンb政府は忠告したのだが、前述したようにその交易に必要な輸送船の存在が確認されていなかったため、地球側の上層部は結局ルイテンbが地球以外のどこかと交易しているという認識すら無かった。ルイテンb単独でも、潜水艦染みた方法で地球勢力の監視網をかいくぐって密貿易している程度の交易相手が仮にいたとしても、天の川銀河最強の地球軍に敵うはずがないと判断してしまったのだ。
トピア「別にこっちは何も制限してないんですから、普通にルイテンbから買えばいいだけなのに何やってるんでしょうね?」
ボルクロ「あいつら長年こっちを見下しとるからの。ドワーフに中間マージンを取られるのが我慢出来んかったんじゃろ」
ボルクロ生産次長は憤懣やるかたない様子であり、故郷を同じくするトリオ工場長もほぼ同様であった。鼻息が荒い。
テクス「厄介な自尊心でござるなあ」
妙な自尊心の発露から戦争に至るような前例は歴史上にいくらでもある。今回もその一例に過ぎないのだろう。
トリオ「ともかく、やるっちゅうんならこっちも対抗するだけじゃ。目に物見せてやるわい」
なお工場長達はわざわざ2つの世界を往復して状況を把握しているわけではないし、インファクトリ級を使って伝令を往復させているわけでもない。惑星争奪戦の放送中継が世界をまたいで出来ていた事からも分かる通り、殆どの用件は通信で事足りている。量子通信機に因果律量子論の原理を組み込んだ、異なる世界間でも通信可能な新型の通信機が既に実用化されているのだ。これにより
トピア「支援はどうしますか? どこまで出します?」
マインの世界と比べて技術レベルはともかく戦闘規模はこちらの方が大きくなるだろう。正式に
トリオ「そうじゃのう、技術自体は現状のFactorioシステムの技術データベースをコピーして他の世界の情報を抜いてもルイテンb政府の軍事技術を入れれば十分な水準に達するじゃろうし、生産能力も十分じゃ。足りんのは資源だけじゃけえ、それだけ送ってもええかの」
ボルクロ「つまり資源さえ何とかなればあとはほぼ儂らドワーフの力で撃退可能っちゅうことじゃ」
工場長達からは、地球勢力からの独立戦争のようなものなのだからある程度は自力で何とかすべきという意識が窺える。どうもルイテンb政府としてもそんな感じらしい。安易にすがらないのは好感が持てるが、問題はそれで味方の犠牲がどの程度変わるかだ。
九十九「独立意識旺盛なのはいいけど、犠牲を極力出さないように行けるかネ?」
トリオ「無論じゃ。Factorioシステムは
工場長が自信ありげに歯を剥いてみせた。
Factorioシステムが生み出した兵器は勿論自分で操縦することも出来るが、基本的には自動で行動させられる。無人兵器の一つ一つは反応速度はともかく状況判断能力の鈍さから有人兵器より動きが悪くなるかもしれないが、根本的に人口が少ないドワーフ、そして無尽蔵の資源供給と合わせれば、現状の条件に対し非常に適合性が高いと言える。勿論乗っ取りには気をつける必要があるが。
そして無人兵器主体で戦うということは、人的損失が非常に出にくいということだ。一石二鳥である。
ついでに戦闘用AIの判断アルゴリズムを実戦で試して改良出来るという利益もある。現状でも敵味方識別とロックオン、偏差射撃まではほぼ完璧なので、現状で改善が必要なのは戦術や戦略に関する部分だ。ただし
トピア「工場長が大丈夫と言うのならそれで行きましょう。まだTechインベントリシステムのアップデートが終わってないので、当面資源の輸送はインファクトリ級でひたすら往復することになりますが」
トリオ「構わん、十分じゃ」
なおこの融通する資源は販売ではなく名目上はFactorio工業がルイテンb政府に寄付する形になる。しかしその資源は実際に工場長達が手間暇をかけて用意するわけではなく、大マゼラン雲攻略作戦の備蓄余剰から提供することになる。
何故ならルイテン星系防衛に必要な物資は銀河規模の作戦の備蓄からすると端数未満のものでしかなく、それを工場長達が別途用意することで失われる人的リソースの方が遥かに貴重だからだ。
そして物資そのものよりもどちらかというとFactorioシステムの使い方を指導する労力の方が問題だろうが、Factorio工業の従業員一同への指導は既に完了しているため、工場長や副社長、専務、常務が自ら指導する必要は無い。
戦争の気運が高まるにつれ、ルイテンbにはやや悲壮な雰囲気が漂っていたが、同時に独立意識も高まっていた。とはいえ、実際にはこれから独立を目指すのではなく、元々地球政府の属国ではないという事実の主張にすぎない。むしろそんな当たり前の事実を今更踏みにじろうとするのだから怒りも湧こうというものだ。
地球政府はこのドワーフたちの気勢を削ぐべく、ルイテンb最寄りの大規模スペースコロニー群に戦力を集めようとしたのだが、この大規模スペースコロニー群の自治政府は地球軍の滞在にNOを突きつけた。
曰く、
邪賢王「じゃかァしい、損得なんぞ関係あるかい。近頃の地球の言うことにゃあちっとも筋が通っとらん」
つまりルイテンb最寄りの大規模スペースコロニー群とは、工場長がこのマブラヴ世界に来る直前にお世話になっていたスペースヒロシマのことであった。その自治政府代表が邪賢王さんこと
ラリー「ルイテンbが軍備を整える前からこの宣言をすんのは大した胆力だな。どんな人なんだ?」
リテリア「おう、なかなか言える事じゃねえよな。組長を名乗るだけのことはあるぜ」
傍目に見ると地球政府の方が勝って当然のように見えるだろう。つまり邪賢王は敢えて負けそうな方に乗っているのだ。特に武闘派揃いのテラリアンからの評価は高い。
ボルクロ「地球政府は全く信用ならんが、邪賢王さんは一本筋の通った大した人じゃ。昔から近所づきあいもしとるし、言葉のまんま地球政府に仁義無しと言っておるんじゃろ」
トリオ「じゃろうな。有難いことじゃ」
ドワーフにここまで信用されるとは、なかなか筋の通ったスジモンのようであった。どちらかと言うと精神性がドワーフに近いのかもしれない。いや一見ヤクザのようだが、自治政府代表ともなれば体制側なのだ。少々認識が混乱する。
ボルクロ「ちゅうても住民全部信用出来るわけじゃないけえ、協力するとしても色々考える必要はあるがの」
トリオ「さしあたって、もし地球政府軍がスペースヒロシマを攻めるような事があればルイテン軍が防衛に全面協力する約束はするべきじゃの」
テクス「そのくらいなら問題無いでござろうな、いや、むしろ信義的にはそのくらいはしておかぬと、といったところでござろうか」
恩には恩を、信義には信義を返すというのはテクスも頷けるところである。
トピア「あれ、そう言えば工場長、スペースヒロシマにそれなりに長い間お世話になったと言ってましたけど、近所ならどうしてすぐに帰らなかったんですか?」
サティ「それもそうよね?」
最初に聞いた話によると、工場長はスペースヒロシマ弁が咄嗟に出るようになる程度の期間スペースヒロシマに滞在していたはずである。
トリオ「ああ、あれはの。スペースヒロシマの近くでまた遭難しかかっとったのを拾われたんじゃ。その恩くらい返さんと、帰るに帰れんわ」
ボルクロ「そんときに生存確認の連絡くらいは受けたからの。そんでいざ帰るぞとなってまた行方不明になったが、それまでも何度も遭難しとったけえ、そのうちまた帰って来るじゃろうという結論になったわけじゃ」
トピア「ふむ……トゥーブ様?」
トゥーブ≪うむ、残り時間で
遭難と聞いて問い質してみれば、案の定であった。仮にも工場長が作った宇宙船がそう簡単に故障するはずがないのだ。
トリオ「……まあええわ。ともかくいざ戦争になった場合の準備は進めるぞい」
トゥーブ≪すまぬな。だがドワーフ達の守護には我も力を貸すぞ≫
トピア「うちとしてはあの世界の地球からも色々仕入れたかったんですけど、ここまで話が通じないとなると、いっぺん鼻っ柱をへし折るしかないですよね」
工場長の世界がちょっとした危機と述べたが、この流れでは実際に危機に陥るのは地球政府側になるだろう。
トピアが随分簡単に戦争を受け入れているように見えるが、これは他人事であるという以上に、少なくとも味方側にはほぼ犠牲を出さない見通しが立っているからだ。流石に工場長の故郷の住民が犠牲になるのは簡単に許容出来ないというものだ。
一方地球代表大使のジョンストン卿は、理不尽に売られた喧嘩なら
工場長の世界は交渉のやり方によっては多少の譲歩を見せることで戦争にならずに済む道筋もありそうなものだが、そんなものは「こちらを甘く見て理不尽な喧嘩をふっかけた馬鹿の介護をするために道理を曲げる必要は無い。文句があるなら無意味な戦争を始めた馬鹿に言え」の一言で終わるのだ。勿論道義的には間違っていないのだが、味方の損害が0で終わりそうな見込みがあるからこそ言えることだ。
カンパニーを襲撃する宙賊を片っ端から消滅させる方針からも分かる通り、
どういうつもりの方針なのかは理解出来る。降りかかる理不尽を徹底的に潰すことでつけいる隙の無さを示して一罰百戒とし、以後のトラブルを減らそうとしているのだ。また、それ以前に敵の命より味方の命が大切なのは当たり前の大前提なので、そのためには容赦などというものは正当性が維持出来る限りにおいて極力捨てるべきである。
戦力が拮抗している所でどうにか戦争を終わらせたいなどの事情があればその限りではないが、相手が泣きを入れるまでぶん殴るつもりであれば関係ない。やはり圧倒的武力は大概のことを解決する。
こんな連中に冗談でも喧嘩を売らなくて本当に良かったと今更ながらにジョンストン卿は以前の自分の判断を自画自賛した。手痛い授業料を支払う羽目になるのは向こうの世界の地球だけで十分だ。