【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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256. 30万もの脅威を粉砕して住民を完全防衛出来たのは素晴らしい事ですね

 珪素生命体(シリコニアン)本拠地攻略開始まではそれなりの月日がかかった。その間に議題に上がった懸案事項があらかた片付いた。

 

 

 

 会議から約1ヶ月後、マインの世界では神聖銀河騎士団のペナルティ履行期限となったのだが、結局最後まで宙賊をけしかけるばかりで資産の支払いは果たされなかった。

 単にすっぽかしたという話ではない。名も無き中隊(ネームレス・カンパニー)が宙賊を例外なく殲滅し続けたことで、あまりにリスクが高く得るものが無い仕事を押しつけられそうになった宙賊が徒党を組んで神聖銀河騎士団の本拠地を襲撃し、これを壊滅させてしまったのだ。もはや支払い主体が存在しないということだ。

 神聖銀河騎士団の弱さはあの二度目のハンディキャップマッチを大々的に放送されてから有名になった。つまり神聖銀河騎士団はすこぶる金を持ってる割にものすごく弱い狙い目のターゲットであるということにみんな気付いてしまったのだ。

 まあ実際には騎士団以外の多少まともな護衛戦力も雇っていたのだが、とにかく常識外れに弱いというイメージは浸透してしまったので、宙賊のカモにされるのは至極当然の話であった。少なくとも、襲撃して帰ってきた宙賊はいないと言われる悪魔のような名も無き中隊(ネームレス・カンパニー)に挑むよりも遥かに分の良い賭けであることは間違いない。結果は既に述べた通りであり、彼らの判断は正しかったことになる。

 

 ただし彼らの命運はそこまでだった。()()に駆けつけた機動本社ネームレスに宙賊も全滅させられてしまったからだ。

 勿論救援の対象は神聖銀河騎士団ではない。むしろ連中を壊滅させたことに関しては宙賊に心の底から称賛の言葉を贈りたいくらいなのだが、それはそれとして、宙賊に資金を与えて野放しにしても碌な事にならんだろうということで、市民の皆さんのために一網打尽にしたのだ。

 

 そんなこんなで、その一帯の宙賊と一緒に神聖銀河騎士団はあっけなく壊滅したわけだ。神聖銀河騎士団が抱えていた資産のうち形あるものは宙賊と一緒に宇宙の塵となったが、マインは別に金に困っていたわけではない。どうしようもない連中が一斉に消えたことでマインの世界は少しだけ風通しが良くなったので、結果はプラスだろう。

 

 

 

 次に会議から半年後、トリオ工場長の世界ではルイテン星系を地球軍が侵攻する形で戦争が始まった。しかし最初に軍艦100隻、次に200隻、三度目に1,000隻をかき集めての襲撃を敢行したにもかかわらず、地球軍は悉く敗北を喫した。死者数は最終的に30万対0となり、誰がどう見てもルイテンb軍の完勝であった。

 地球政府としては驚天動地の結果であったが、ルイテンb側に匠衆(マイスターズ)(マイスター)オブ(マイスター)であるトリオ工場長が加担していたことを考えれば、これは当然の結果であった。

 

 匠衆(マイスターズ)は工場長の申し出通りにルイテンbの防衛に必要になる膨大な資源を戦時特例として無料で提供していた。異例の措置ではあるが、また交易の交渉を改めてやるのも面倒だし、そもそもここは工場長の故郷なのだ。

 資源がそれだけ潤沢であれば、開発速度と生産速度はFactorioシステムで十分補うことが出来、人数の少なさも無人兵器で補うことが可能だった。

 すぐに襲撃されたら匠衆(マイスターズ)が直接介入せざるを得なかっただろうが、開戦に半年掛かった時点でもう地球軍の敗北は決定していた。交渉を引き延ばして準備に必要な時間を稼いだルイテンb政府、そして地球艦隊の駐留を認めなかったお隣のスペースヒロシマもお手柄であった。

 

 地球側は敗北を誤魔化すために自らの損害以上にルイテンb軍の艦艇を沈めたと盛んに喧伝した。実際のところそれは嘘ではない。艦艇の性能はルイテンb側が若干上だが、戦術判断能力は地球側が上だったので、沈められた数はルイテンb側の方が多かった。

 しかしルイテンb側で沈められた艦艇は全て無人艦なので幾らでも再生産が可能なものでしかなかったし、人員共々戦力の大半を失った地球側に対し、ルイテン側はむしろ時間が経過するほどに生産ペースが上がって開戦時より数を増していたくらいだ。そして何より防衛という最大の目的を十全に果たしていた。

 

 地球側も開戦後には流石に物量がおかしいのではないかと気づき、その頃にはルイテンb近くを頻繁に航行する大型船の観測にも成功していたため、ルイテンbは交易により大量の資源を入手しているという情報もある程度信憑性があると判断していた。だがそれが嘘ではないと分かったあとも、ルイテンbを攻めるという方針自体は撤回されなかった。気付いたときにはもう銀河の方々から軍を集めてしまっており、既に1回目の侵攻に失敗していたのだ。これで相手の主張を嘘だと決めつけて無駄に喧嘩を売っただけでしたでは立つ瀬が無い。

 つまりは典型的なコンコルド効果であった。

 そのため、地球軍は相手の兵站を断つための軍事作戦としてその()()()()()()の襲撃・拿捕を試みた。交易船の航行ルートとスケジュールを分析し、ルイテンb軍の防衛戦力配置を検討すれば、ギリギリ襲撃が可能であることが分かったからだ。

 しかしいざやってみると襲撃した艦隊の方が蒸発した。何しろこの交易船とは言うまでもなくインファクトリ級のことである。あくまでこの世界の技術だけで成立しているルイテンb防衛軍などより遥かにタチが悪い相手だった。

 

 実を言うとこのインファクトリ級は、地球の艦隊が襲撃出来るようにわざわざルイテンbの防衛網からやや離れた所を航行していた。ルイテンbだけでも撃退出来るが、その背後にはもっとやべえ奴がついているということを見せつけるためだ。わざわざ宣戦布告せずにそれを見せつける良い機会を狙っていたのだ。

 

 結果として、地球政府が余計なちょっかいをかけたことで、ルイテンb防衛軍は地球軍が手を出せないほどの強力無比な無人稼働防衛軍を抱えることになり、更にその背後にはルイテンb防衛軍すら霞む謎の軍事勢力があるという事実を突きつけられる羽目になった。

 謎も何も、実際は最初に正直に答えた通りなのだが。

 

 三度の艦隊決戦にボロ負けしていよいよあとがなくなった地球政府側は、これまでの仕返しを恐れるあまりにルイテンb以外に居住していた民間のドワーフを人質に取って少しでも有利な秘密交渉をしようと試みた。しかしこれはドワーフだけでなくトゥーブ神の逆鱗にも触れた。

 トゥーブ神はこの外道行為を試みた連中一同を神の鉄槌で頭上から叩き潰し、人質を取り戻して宣言した。

 

トゥーブ「恥知らずの外道共め、全く話にならぬわ。まだ言いたいことがあるのならば次の代表を出すがいい」

 

 しかしこの人質を使った交渉プランは地球政府側の住民には全く公開されていなかったことと、トゥーブ神の御業を何らかの新兵器と見なしてしまったことで、残された関係者は保身のために情報操作でこの事実をもみ消し、更に交渉中の卑怯な不意討ちと言い立てた。

 まあこの科学全盛の世界で神の御業と言われるよりは理解しやすいのだろうが、これは勿論悪手であり、これをやった連中も漏れなくトゥーブ神の力で物言わぬ肉塊になった。

 そもそも新兵器だったとして次に自分が狙われる可能性は当然あるので、彼らとしても最大限の警戒をしていたつもりだったのだが、神の力の前には全く無意味だったのだ。

 更に残された関係者の中から、恐怖のあまり倒れた者を除いたごく一部が、事実をやむなく公表した。この戦争の発端から、人質を使った交渉をしようとして報復を受けたことまでだ。

 彼らは当然厳しい批判に晒されたが、防ぎようもない神の鉄槌に肉塊にされるよりはまだまだましであった。

 

 終戦交渉がまとまり、この戦争の結果ルイテンb政府が得たものは、客観的には独立の再確認と不平等条約の改正、それから少しばかりの金銭的賠償程度でしかない。

 元凶である地球政府の中枢を襲撃して冷や水をぶっかけるくらいはしてもよかったが、それはトゥーブ神がやってしまった。そして他の惑星を奪ったとしてもドワーフたちにとっては意味が無いのだ。

 そもそもルイテンbは惑星単体ですら嫌々統治していたというのを忘れてはいけない。精々幾らかの資源惑星で資源採掘・開発権があれば良く、それは別に地球から無理矢理奪わなくてはいけないものではない。

 他に得たものと言えば、あの文明の先を走っていた筈の地球政府軍に完勝したというこれまでにない自尊心だ。まあその地球政府軍より遥かに先を行く匠衆(マイスターズ)に戦時特例で無尽蔵の資源を支援してもらった結果であることはみんな知っている上に、匠衆(マイスターズ)に喧嘩を売った場合どうなるかは地球軍の通商破壊艦隊が身を以て見せてくれたので、分不相応に驕りすぎることもなかったが。

 

 あまりにもささやかな条件しかない終戦交渉のために派手に自爆をしたものだと残された地球側の担当者はため息を吐きながら手続きを進め、戦争は意外とあっさり終わった。かかった期間はわずか3ヶ月ほどだ。

 そして一通りの後処理を終えると、地球政府側の関係者は総辞職をキメた。表向きは引責辞任であるが、その内情はこんな貧乏くじやってられるかという確固たる意志だ。彼らは地球政府関係者ではまだまともな方だから生き残っていたのに、その彼らが自分がやったわけでもない悪行の批難に晒されるのは全く以て割に合わないのだ。

 

 二度の神罰で注目を浴びたトゥーブ神は、ドワーフからは窮地に頼るべき神として崇められ、地球側からは畏るべき神として崇められることになり、大いに力を増した。結局一番得をしたのはトゥーブ神という話だが、別にマッチポンプではないので構わないだろう。

 

 ところでこの一件を公表した際に考えの足りない記者が「30万人を死に至らしめて何ともないのですか」とトピアに質問したことがあるのだが、それに対しトピアは笑顔で大真面目に返答した。

 

トピア「ええ、30万もの()()を粉砕して1人の犠牲も無く住民を完全防衛出来たのは素晴らしい事ですね。……何、違う? まさかとは思いますけど、『総勢30万人でぶっ殺しに押しかけただけなのによくも殺しやがったな』なんて仰いませんよね? 市民よりも多い大量のBETAが押しかけてきたらBETAの生存を優先して市民を犠牲にした方が宜しいですか?」

 

 匠衆(マイスターズ)は1037個体存在すると言われる圧倒的多数のBETAを討ち滅ぼして人々を救うための組織である。一時機能停止しただけの敵の大戦艦250万隻(目的は地球人を含む知的生命体の殲滅)を「あんなに多くの人間を殺したくない」などという意味の分からない理由で放置していくどっかのアホとは違うのだ。

 それにしても2199では若さがありながらもかなり立派な人だったのに2202はどうしてああなってしまったんだろうというのはトピアも首を傾げるばかりだ。いや制作スタッフがほぼ入れ替わっているという事情は知っているが。

 

 ともあれ、匠衆(マイスターズ)とは、根本的にそういうものなのだ。守るべき相手の数の増加に伴って上昇するのは防衛優先度だが、襲撃者の数の増加に伴って上昇するのは()()()である。そこをはき違えてはいけない。襲撃者30万人を死なせないために防衛対象や防衛軍を1人でも死なせることがあってはならないのだ。

 特に代表のトピアは、故郷世界を滅ぼして自分を救ってくれたクラエル神の行動をも是とする女である。なので尚更今回のように善悪・正誤がはっきりしている場合は数の多寡など問題にしていない。

 そんなわけで、トピアとしてはまた一つ善を為して徳を積んだと思っているくらいであった。

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