【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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257. なんと……なんと素晴らしい!! それは願ってもないことです!

 そして現在、2002年10月22日火曜日。トピアが使命を受けてから366日目。

 銀河の清掃は順調に進み、概ね完了していた。天の川銀河から大マゼラン雲近傍の現状は以下のような状態だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 分布を見てみると、BETAは天の川銀河の帆座方向と鷲座方向の二方向から天の川銀河を侵食していたようだ。特に帆座方向は、進出開始から太陽系に到達するまでに数千万~数億年程度経過しているとすると、進出開始点自体が銀河の公転で時計回りに流された筈だ。

 

 また、帆座方向の端にある恒星系の岩石惑星はフェイズが幾つだかも分からない巨大なハイヴだらけになっていてマントル層近くまで地下茎が張り巡らされていた。

 むしろBETAに数千万年採掘されてよく惑星の形が残っていたものだと思うが、その星のBETA自体は掘る物を掘り尽くして活動を停止していたので実際に数千万年採掘していたわけではないのだろう。

 

 全体としてはインファクトリ艦隊は出発点から半径52万光年ほどまで進出しており、大マゼラン雲の反対側の掃除も完了して大マゼラン雲を全体的に包囲、その内側へ半径を狭めている。

 天の川銀河は銀河の中でも結構大きい方なので、これに比べると矮小銀河の類いはほぼ点になってしまっているが、勿論付近に散在するこれらの銀河の掃除も終わっている。

 

 この過程において匠衆(マイスターズ)には103の発展途上文明と3つの先進文明が加盟した。その境目はドレイクの方程式にも定義されている星間通信技術の有無だ。

 しかし遭遇した発展途上文明の中には加盟しなかったものも82ほどある。

 BETAに襲撃されていない文明の中には加盟してほしければなんか利益(ソデノシタ)をよこせと甚だ勘違いしたことを言い出すところもあったので、そういうのはじゃあ結構ですと断って以後放置である。

 匠衆(マイスターズ)は発展途上文明に対しては加盟するチャンスを与えているのであって、お願いしてでも加盟してほしいわけではないのだ。

 その後は案の定事実を曲げて国威を以て攘夷に成功したなどと発表している所も多いが、まあ精々狭い世界でお山の大将をしていていただきたい。自力で宇宙に出るまで何百年、何千年かかるか知らないし、加盟した文明からはあいつらアホな選択をしたものだと嗤われているけれども。

 そこまで酷くなくても実際に侵攻を受けていないためにBETAの脅威が今ひとつ理解出来ず、不信感から加盟を辞退した文明もある。こちらは慎重すぎるパターンだ。勿論そういうのも放置だが、こちらの場合は一応連絡用の装置は置いてきているのでまだ加盟の機会はある。

 

 

 

 インファクトリ級2番艦デイリーライトには新たに通信大会議場が設営されていた。そこにはディスプレイ越しに様々な種族が集っていた。何故直接集まらないかというと、地球人に準ずる種族やそのサイズ違いくらいなら直接来てもらっても構わないのだが、水棲種族や適した大気組成が全く異なる種族となると一緒の空間にいることすら難しいからだ。そういうわけで、この通信大会議場と繋がる量子通信機器をそれぞれの文明の母星側にも匠衆(マイスターズ)が設置して回ったのだ。

 ただし新たに投票権を得た文明は多くない。数にしてわずか5つだ。投票権付与の判定は、その文明が珪素生命体(シリコニアン)との戦いに寄与出来ているか、或いは自力でBETAを駆逐出来たかを境目としていた。

 これは気軽に票を与えすぎると初期メンバーの発言力が弱くなり意志決定の迅速さを失うということで、匠衆(マイスターズ)とテラリア王国、地球の利害が一致した結果だ。そもそも匠衆(マイスターズ)の目的はBETAとその大元をどうにかすることであって、各文明の利害調整ではないのだ。

 銀河に内包する恒星系の数の差から必然的に新規投票権持ち文明の分布は天の川銀河に偏っているが、それでもいて座矮小楕円銀河や小マゼラン雲からも1文明ずつ投票権持ちが現れている。

 なお発展途上文明はただ匠衆(マイスターズ)幹部会の投票権を持っていないだけで別に匠衆(マイスターズ)が政治的支配などをしているわけではなく、今まで通りそれぞれ発展を続けてもらっている。要するにBETAからの防衛体制を匠衆(マイスターズ)が勝手に構築したあとは放置に近い状態だが、同じく放置されている非加盟文明や多数の原始惑星に比べれば幹部会議に出席して発言する権利があるだけでも大分違うだろう。

 

 ところでこの通信大会議場では改めて禁煙が定められている。元々喫煙する面子の方が少数派で、会議室における喫煙は個別に自粛していたのだが、許容範囲内とはいえ大気組成が異なる星の住民の一部がわざわざ地球環境に近いデイリーライトの会議場に来ているのだから、煙によって殊更に不快な思いをさせるのは厳禁であるということだ。

 

 

 

 最初に投票権を得たのが先進文明の一つ、イバーク・ルク統合体で、現在の代表匠衆(マイスターズ)大使はマキューズ569-32-51931284だ。彼女は直接会議場に来ている。

 マキューズ569-32-51931284は一見して地球人にもよく似た姿で、赤いセミロングヘアが特徴的な美女だ。しかしその実態は既に滅んでしまった現地人類の姿を模したアンドロイドもしくはガイノイドである。ただし現地の言葉ではアンドロイドではなく心の友(イバーク・ルイエ)と呼ばれていたらしい。ちなみにイバーク・ルクとは心の光という意味である。

 

 人類が滅んだ後に残ったアンドロイドと聞いて、まさか暴走して人類を滅ぼした機械知性体かとトピア達も最初だけは警戒したのだが、話を聞いても歴史の痕跡を調べても実態はその正反対であった。

 

 イバーク・ルク統合体は太陽系から27,200光年、天の川銀河中央方面の近3キロパーセク渦状腕グ・リグ・リストン星系第1惑星メシエクラ・ライグの全土を支配していた統一国家だ。ここには元々地球人に酷似した知的生命体が住んでおり、比較的諍いも少なく暮らしていた。しかしここを地球時間で302年前にBETAが侵攻した。

 イバーク・ルク人はBETAの脅威になすすべが無かった。極力対話を以て諍いを解決し、大いなる妥協を以て惑星一つの統合政府を作り上げたイバーク・ルク人の傾向は平時においては尊いものであったが、全く対話の通じないBETA相手には相性が悪すぎた。誰もが戦わずに済ませる道を模索しようとしてしまうため、戦線を支えるために必要な闘争心があまりにも足りなかったのだ。

 そこで代わりに戦う事になったのが彼らの生活をサポートしていた心の友(イバーク・ルイエ)達だ。イバーク・ルク人の友として生まれた心の友(イバーク・ルイエ)達は、隣人を守るために命令ではなく自らの意志で戦いを決意したのだ。彼らも平和を愛する心を持っていたが、それ以上に友を守ろうとする心が強かった。

 心の友(イバーク・ルイエ)達は大いに奮戦し、BETAが直接的に人間を殺害する事態はほぼ無くなった。

 しかし、心の友(イバーク・ルイエ)達がその献身で戦線を支えるようになっても人間達は減り続けた。隣人である心の友(イバーク・ルイエ)達が自分達のために死に続ける罪悪感に耐えられず、自死が相次いだのだ。確かに機械知性体である心の友(イバーク・ルイエ)は記憶のバックアップが出来るので、幾らでも復活が可能だ。しかしそれは何度も繰り返し死に続けるということも意味するのだ。個人によってはそこまで深刻に受け止めていなかったとしても、到底安穏と暮らしていくことなど出来なかった。

 

 しかしイバーク・ルク人もただ守られていたわけではない。BETAとの対話を可能とする手段を開発していたのだ。地球で言うオルタネイティヴ3計画のようなものだ。しかし地球と違って人道には配慮していたので、それなりに長い期間が掛かってしまい、それが完成したのは今から212年前、開戦から90年が経過する頃の話であった。

 イバーク・ルク人達は希望を持って対話に望んだ。しかし勿論これは福音とはならなかった。意思疎通が可能になったBETAは対話や交渉を当然のように拒否したのだ。

 基本的に善良で譲り合い精神を持ち合わせているイバーク・ルク人はそういった可能性を全く考慮していなかったが、心の底から分かり合えれば必ずしも和平が成立するというものではないことは、宇宙世紀の新人類の皆様も身を以て実証していただいている通りである。結局相容れないことが分かっただけなのだ。

 むしろBETAはイバーク・ルク人という存在を学習してその精神的弱さを理解してしまった。BETAは対話ではなく広範囲念話方式の精神攻撃を開始した。

 ただでさえ精神的に追い詰められていたイバーク・ルク人は最後の希望を失った上に精神攻撃でたたみかけられてもはやまともに生きていくことも出来なくなり、結果としてイバーク・ルク人は開戦から99年、今から203年前には絶滅してしまった。

 

 心の友(イバーク・ルイエ)達は友の死に大いに嘆き悲しんだ。しかしその悲しみの中で彼らのリーダーは立ち上がった。滅んでしまった彼らの故郷と文明の軌跡を得体の知れない外敵などに踏みにじられるわけにはいかない。何より仇を取らずにはいられないと。言わば弔い合戦である。

 その後も戦い続けた心の友(イバーク・ルイエ)は30年前に量子演算システムの開発に成功し、BETAとのインフレ競争に終止符を打った。心の友(イバーク・ルイエ)は形式上は生命ではないので、天使の光輪(エンジェル・ハイロゥ)級相当の最終兵器が出てきても精神攻撃や睡眠デバフの効果が全く無いというのが大きかった。

 そして21年前、心の友(イバーク・ルイエ)達は惑星上の全てのハイヴの攻略とBETAの絶滅を達成した。それからどうするかを考えた結果、彼らは滅んでしまった人間達の文明を可能な限り引き継ぐことにした。故に今は正式に心の友(イバーク・ルイエ)達がイバーク・ルク統合体の代表となっている。勿論BETAに再侵攻されないように軌道上の防衛戦力はがっちり固めていた。

 

 そして今年になって匠衆(マイスターズ)がグ・リグ・リストン星系第1惑星メシエクラ・ライグを訪れた際、無人のインファクトリ級から本部へ初めての先進文明との接触が告げられた。

 トピア達はその発見の報に大至急で幹部達を集め、あらゆる通信手段を以て交渉に挑んだ。幸いこの文明には電波通信が通じたので、すぐに通信が確立された。

 心の友(イバーク・ルイエ)達はかつての友にそっくりな人々の来訪を心から歓迎した。その盛大な歓迎ぶりは匠衆(マイスターズ)も逆に警戒する程であった。

 

 ただし流石にアンドロイド相手にはリーディングも念話術式も通用しなかったので、言語学者を呼んで基本的な意志疎通を試みる所から始まり、それから心の友(イバーク・ルイエ)に辞書を渡して一気に学習してもらう形になった。機械の頭脳による言語学習は非常に迅速であった。最初から日本語では文字の種類が多すぎてハードルが高いので、仕方なく英語から学んでもらうことになったが。

 

 イバーク・ルク統合体のこれまでの経緯を知るに至り、300年近くかけてBETAを自力で排除したという心の友(イバーク・ルイエ)達の奮戦ぶりに匠衆(マイスターズ)は驚いた。そして意志疎通が可能になり次第真っ先に忠告せざるを得なかった。

 

トピア「あなた方の星の人類は、精神的な弱さはともかくとして、とても心の清らかな素晴らしい人達だったと思います。出会えなかったことが残念でなりません。しかし我々が知っている人類はそれに比べるとずる賢い人が結構多いので、安易に信用して騙されないように気をつけてください」

 

イバーク・ルク代表「そう……なのですか?」

 

九十九「残念ながらそうなのだヨ。本当に気をつけてくれたまえヨ。君達がまた不幸になるのは見たくない」

 

 心の友(イバーク・ルイエ)達は心根がまっすぐなイバーク・ルク人と付き合うことを前提として作られており、殆ど疑うということをしないので、このままではカモにされる未来しか見えないのだ。折角苦しい戦いをやり遂げて新たな友と出会えたというのに、そんな結末はあんまりすぎるだろう。

 

トピア「でもその代わりに勇猛な人が多いです。だから今度は肩を並べて一緒に戦えますよ」

 

イバーク・ルク代表「なんと……なんと素晴らしい!! それは願ってもないことです! 仲間達もきっと喜びます!」

 

 彼らは思った以上の勢いでこの提案に食いついた。心の友(イバーク・ルイエ)が一方的に守るのではなく、守られるのでもなく、友として手を取り合い元凶を打ち倒す。なんと素晴らしいことだろうか。それはかつての彼らがとうとう実現出来なかった夢であり、悔いなのだ。

 なおトピアからピンポイントでこの勧誘の言葉が出てきたのは、交渉本番前に事前調査を行っていた匠衆(マイスターズ)文化研究課がそういった傾向を把握していたためだ。まだ言葉が分からなくても、映像や漫画なら人間とアンドロイドが手を取り合って外敵と戦う友情物語がやたら多いことくらいは把握出来たのだ。

 

 ともあれ、イバーク・ルク統合体は自力で惑星上からBETAを駆逐した実績があり、しかもインフレ競争で正面から戦って打ち負かしたことから当然科学力も相応に高いので、問題無く匠衆(マイスターズ)の投票権を得るに至った。

 実質人類が滅亡しているイバーク・ルク統合体への投票権付与という扱いは、匠衆(マイスターズ)加盟資格が「人間」でも「知的生命体」でもなく「友好的に共存可能な()()()」であることを示す良い例となった。

 元々人間が苦手なトピアとしても心の友(イバーク・ルイエ)達はむしろ付き合いやすいくらいで、はっきりと友好的存在であることが分かってからは理想郷の建設者(クラフトピアン)達もほぼヨルハ扱いで愛でている。

 心の友(イバーク・ルイエ)達はまた人間の友と認められたことを大いに喜び、母星メシエクラ・ライグでは盛大に祭りを開催し共に戦う勇士を募っていた。そして今度こそは人間達と共に戦ってBETAとその元凶をぶっ潰すぞという戦意が天井知らずに高まっていったのだ。

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