そして現在、2002年10月22日火曜日。トピアが使命を受けてから366日目。
銀河の清掃は順調に進み、概ね完了していた。天の川銀河から大マゼラン雲近傍の現状は以下のような状態だ。
分布を見てみると、BETAは天の川銀河の帆座方向と鷲座方向の二方向から天の川銀河を侵食していたようだ。特に帆座方向は、進出開始から太陽系に到達するまでに数千万~数億年程度経過しているとすると、進出開始点自体が銀河の公転で時計回りに流された筈だ。
また、帆座方向の端にある恒星系の岩石惑星はフェイズが幾つだかも分からない巨大なハイヴだらけになっていてマントル層近くまで地下茎が張り巡らされていた。
むしろBETAに数千万年採掘されてよく惑星の形が残っていたものだと思うが、その星のBETA自体は掘る物を掘り尽くして活動を停止していたので実際に数千万年採掘していたわけではないのだろう。
全体としてはインファクトリ艦隊は出発点から半径52万光年ほどまで進出しており、大マゼラン雲の反対側の掃除も完了して大マゼラン雲を全体的に包囲、その内側へ半径を狭めている。
天の川銀河は銀河の中でも結構大きい方なので、これに比べると矮小銀河の類いはほぼ点になってしまっているが、勿論付近に散在するこれらの銀河の掃除も終わっている。
この過程において
しかし遭遇した発展途上文明の中には加盟しなかったものも82ほどある。
BETAに襲撃されていない文明の中には加盟してほしければなんか
その後は案の定事実を曲げて国威を以て攘夷に成功したなどと発表している所も多いが、まあ精々狭い世界でお山の大将をしていていただきたい。自力で宇宙に出るまで何百年、何千年かかるか知らないし、加盟した文明からはあいつらアホな選択をしたものだと嗤われているけれども。
そこまで酷くなくても実際に侵攻を受けていないためにBETAの脅威が今ひとつ理解出来ず、不信感から加盟を辞退した文明もある。こちらは慎重すぎるパターンだ。勿論そういうのも放置だが、こちらの場合は一応連絡用の装置は置いてきているのでまだ加盟の機会はある。
インファクトリ級2番艦デイリーライトには新たに通信大会議場が設営されていた。そこにはディスプレイ越しに様々な種族が集っていた。何故直接集まらないかというと、地球人に準ずる種族やそのサイズ違いくらいなら直接来てもらっても構わないのだが、水棲種族や適した大気組成が全く異なる種族となると一緒の空間にいることすら難しいからだ。そういうわけで、この通信大会議場と繋がる量子通信機器をそれぞれの文明の母星側にも
ただし新たに投票権を得た文明は多くない。数にしてわずか5つだ。投票権付与の判定は、その文明が
これは気軽に票を与えすぎると初期メンバーの発言力が弱くなり意志決定の迅速さを失うということで、
銀河に内包する恒星系の数の差から必然的に新規投票権持ち文明の分布は天の川銀河に偏っているが、それでもいて座矮小楕円銀河や小マゼラン雲からも1文明ずつ投票権持ちが現れている。
なお発展途上文明はただ
ところでこの通信大会議場では改めて禁煙が定められている。元々喫煙する面子の方が少数派で、会議室における喫煙は個別に自粛していたのだが、許容範囲内とはいえ大気組成が異なる星の住民の一部がわざわざ地球環境に近いデイリーライトの会議場に来ているのだから、煙によって殊更に不快な思いをさせるのは厳禁であるということだ。
最初に投票権を得たのが先進文明の一つ、イバーク・ルク統合体で、現在の代表
マキューズ569-32-51931284は一見して地球人にもよく似た姿で、赤いセミロングヘアが特徴的な美女だ。しかしその実態は既に滅んでしまった現地人類の姿を模したアンドロイドもしくはガイノイドである。ただし現地の言葉ではアンドロイドではなく
人類が滅んだ後に残ったアンドロイドと聞いて、まさか暴走して人類を滅ぼした機械知性体かとトピア達も最初だけは警戒したのだが、話を聞いても歴史の痕跡を調べても実態はその正反対であった。
イバーク・ルク統合体は太陽系から27,200光年、天の川銀河中央方面の近3キロパーセク渦状腕グ・リグ・リストン星系第1惑星メシエクラ・ライグの全土を支配していた統一国家だ。ここには元々地球人に酷似した知的生命体が住んでおり、比較的諍いも少なく暮らしていた。しかしここを地球時間で302年前にBETAが侵攻した。
イバーク・ルク人はBETAの脅威になすすべが無かった。極力対話を以て諍いを解決し、大いなる妥協を以て惑星一つの統合政府を作り上げたイバーク・ルク人の傾向は平時においては尊いものであったが、全く対話の通じないBETA相手には相性が悪すぎた。誰もが戦わずに済ませる道を模索しようとしてしまうため、戦線を支えるために必要な闘争心があまりにも足りなかったのだ。
そこで代わりに戦う事になったのが彼らの生活をサポートしていた
しかし、
しかしイバーク・ルク人もただ守られていたわけではない。BETAとの対話を可能とする手段を開発していたのだ。地球で言うオルタネイティヴ3計画のようなものだ。しかし地球と違って人道には配慮していたので、それなりに長い期間が掛かってしまい、それが完成したのは今から212年前、開戦から90年が経過する頃の話であった。
イバーク・ルク人達は希望を持って対話に望んだ。しかし勿論これは福音とはならなかった。意思疎通が可能になったBETAは対話や交渉を当然のように拒否したのだ。
基本的に善良で譲り合い精神を持ち合わせているイバーク・ルク人はそういった可能性を全く考慮していなかったが、心の底から分かり合えれば必ずしも和平が成立するというものではないことは、宇宙世紀の新人類の皆様も身を以て実証していただいている通りである。結局相容れないことが分かっただけなのだ。
むしろBETAはイバーク・ルク人という存在を学習してその精神的弱さを理解してしまった。BETAは対話ではなく広範囲念話方式の精神攻撃を開始した。
ただでさえ精神的に追い詰められていたイバーク・ルク人は最後の希望を失った上に精神攻撃でたたみかけられてもはやまともに生きていくことも出来なくなり、結果としてイバーク・ルク人は開戦から99年、今から203年前には絶滅してしまった。
その後も戦い続けた
そして21年前、
そして今年になって
トピア達はその発見の報に大至急で幹部達を集め、あらゆる通信手段を以て交渉に挑んだ。幸いこの文明には電波通信が通じたので、すぐに通信が確立された。
ただし流石にアンドロイド相手にはリーディングも念話術式も通用しなかったので、言語学者を呼んで基本的な意志疎通を試みる所から始まり、それから
イバーク・ルク統合体のこれまでの経緯を知るに至り、300年近くかけてBETAを自力で排除したという
トピア「あなた方の星の人類は、精神的な弱さはともかくとして、とても心の清らかな素晴らしい人達だったと思います。出会えなかったことが残念でなりません。しかし我々が知っている人類はそれに比べるとずる賢い人が結構多いので、安易に信用して騙されないように気をつけてください」
イバーク・ルク代表「そう……なのですか?」
九十九「残念ながらそうなのだヨ。本当に気をつけてくれたまえヨ。君達がまた不幸になるのは見たくない」
トピア「でもその代わりに勇猛な人が多いです。だから今度は肩を並べて一緒に戦えますよ」
イバーク・ルク代表「なんと……なんと素晴らしい!! それは願ってもないことです! 仲間達もきっと喜びます!」
彼らは思った以上の勢いでこの提案に食いついた。
なおトピアからピンポイントでこの勧誘の言葉が出てきたのは、交渉本番前に事前調査を行っていた
ともあれ、イバーク・ルク統合体は自力で惑星上からBETAを駆逐した実績があり、しかもインフレ競争で正面から戦って打ち負かしたことから当然科学力も相応に高いので、問題無く
実質人類が滅亡しているイバーク・ルク統合体への投票権付与という扱いは、
元々人間が苦手なトピアとしても