【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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258. 第3基幹艦隊、第2惑星イグラクニを包囲せよ

 匠衆(マイスターズ)が2番目に遭遇した先進文明は太陽系から36,000光年、白鳥座・鷲座間方向ペルセウス腕にあるルグニル星系第2惑星イグラクニを母星とするマハトラ帝国とミエデ帝国だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 この方面はBETAの魔の手が及んでいない平和なエリアだったはずなのだが、困ったことにこの2つの勢力は人類同士で宇宙戦争をしていた。

 見た目は両方とも地球人に近かったが、マハトラ帝国人は斜め下に伸びた長い耳と獣のような鼻、ミエデ帝国人は角と蹄が特徴的だった。どことなく前者が兎に、後者が鹿に似ている。

 両者は同じ惑星イグラクニ出身種族なのだが、彼らは宇宙に出る前から伝統的にとてつもなく仲が悪いらしかった。何でもかれこれ千年争っていてその原因が何であったかすら分からなくなっているとか。

 一部の地球人の性格の悪さには多少慣れてきた心の友(イバーク・ルイエ)のマキューズもこれには大いに呆れた。

 

 あまりに不毛なので匠衆(マイスターズ)が仲裁に入ってどうにか争いをやめさせようとしたのだが、どちらも相手が折れる以外に終わる方法は無いと言い張った。

 それでも両者にどことなく自身と似たものを感じていたクラエル神がなるべく穏便に説得するよう命じていたのだが、クラエル神の姿を見た両帝国の代表が下賤な混血ごときが口を挟むななどと罵り始めたので事態は決定的になった。つまり両帝国のどちらからもクラエル神に似た混血児は忌み嫌われているということだ。

 途端にクラエル神の顔から表情が消え、それまでと正反対の方針を打ち出した。

 

クラエル神「我が(マイスター)トピアよ、軍事力の行使を全面的に許可します」

 

 あれは守るべきものではなく壊すべきものであると判断したのだ。クラエル神が最近見せていない破壊神の顔を覗かせていた。

 

トピア「偉大なるクラエル神(クラエル・ザ・グレート)の仰せのままに。マインさん」

 

マイン「うむ。()3()()()()()、第2惑星イグラクニを包囲せよ」

 

 こうなれば話は早い。手心を加える理由がなくなったため、マインは近くに駐留していた1個基幹艦隊を呼び出した。

 ルグニル星系の第2惑星イグラクニ近く、両帝国艦隊どころか惑星ごと包囲する形で次々とワープアウトする全長1.2kmのインファクトリ級、その数は500万隻。どう見ても絶望的な軍事力の差に、両勢力の兵士も指揮官も指導者も、ついでにマキューズも凍りついた。何しろ両軍を合わせても宇宙用の艦艇は精々数百隻でしかなかったのだ。勿論ワープ技術もまだ開発出来ていないので、逃げることすら出来ない。

 

トピア「もう一度伺いますが、まだやりますか? 不足であれば()()()()もありますが」

 

 トピアはこういう事態のためにまとまって動かせる戦力を用意していたのだ。ゼントラーディ軍を参考にして500万隻編成を基本とする基幹艦隊構想である。

 

 両帝国にもその通告の意味は正しく伝わった。呼んだのが第3基幹艦隊ということは、呼べば少なくともあと1000万隻はおかわりが出てくるはずだ。笑顔でこんな露骨な砲艦外交をされては、もう結構です以外の答えが出るはずもないのだった。

 

 ただしこれは匠衆(マイスターズ)からすれば温情である。絶望的な戦力差を見せつけて戦わずに降伏させれば犠牲者は出ないのだから。

 驚愕ですっかり固まっていたマキューズにジョンストン卿がこの示威行為の意味を語って聞かせた。匠衆(マイスターズ)が最初に地球を訪れた際にもインファクトリ1隻でハイヴを全滅させるデモンストレーションで度肝を抜いてから交渉を始めたという。そしてBETAという共通の脅威を前にしてもいがみ合うことをやめなかった地球人類にはそれが効果的に働いたそうだ。もし武力を見せつけずに交渉していたら、無駄に時間を費やすことでBETAの犠牲者が出続けていた可能性が非常に高い。

 なるほど、犠牲を出さずに争いを止めるには敢えて武力を見せつけるという方法もあるのかとマキューズは大いに学んだ。実際それをやられた方の見解なのだから実に説得力がある。

 

 その後、部分的には匠衆(マイスターズ)に寄与出来るほどの科学力があることが証明され、更に阿頼耶識改による人機一体にも適合したため、マハトラ帝国とミエデ帝国にも投票権が与えられることになった。ただし合わせて1票である。

 両帝国はこの待遇に不満を漏らしたが、200近い国がある地球文明ですら合わせて1票だと言われれば黙るしかなかった。そもそもの話をするならば、1票すら与えられていない文明圏の方がはるかに多いのだ。

 この1票を巡ってまた水面下で両帝国有力者が争いを始めようとしたが、もし武力衝突になったらこの1票も没収と言われているので両皇帝が慌てて阻止した。

 

 一旦沈静化はしたものの、千年のいがみ合いをどうやって解決したものかと悩む両帝国皇帝の下に、英国紳士ジョンストン卿が忍び寄って囁いた。両帝国の皇族同士を結婚させてしまえば解決ではないかと。つまりは皇帝の血筋を1つにまとめて国も1つにすれば代表権は1つで足りるではないかということだ。

 

 しかしこのプランは文明価値観的な問題がある。両帝国皇族同士の子供は必ず混血になるということだ。混血の社会的地位は歴史的に低く、これは民間でもそうなのだ。

 

 そう反論する両帝国に対し、ジョンストン卿はむしろ混血の蔑視をそのままにすること自体が問題だと指摘した。

 そもそも彼らの文明圏において混血の社会的地位が低いのは、どちらから見ても敵国民の血が入っているためにいつ裏切ってもおかしくない存在に見えるからだ。しかし2つの国を1つに統合するのであれば、そこに裏切りの発生する余地は無い。むしろ友好と統合の象徴ですらある。つまりもはや根本的に疑う意味が無くなる段階であるのに、歴史的にそうだったからと言って意味も無く地位を低いままにしようとしているのだ。

 そしてその混血に対する無意味な蔑視は七圏守護神(ハーロ・イーン)の盟主であるクラエル神に喧嘩を売るも同然の行為であることは既に分かっているはずではないのか。合わせて1票ならば許すというのは、つまり今までの対立と蔑視を根本的に悔い改めろと言われているのだとジョンストン卿は説いた。

 

 なるほど言われてみればその通りだ。あの恐ろしい匠衆(マイスターズ)の更に上に立つクラエル神は、両帝国が混血を蔑視していることが露見するまではむしろ好意的だったのだ。両帝国が今までの態度を改めないならば、たとえそのつもりが無くてもクラエル神に喧嘩を売っていると取られても仕方ない。争わず1票を共有しろとはそれを遠回しに言ったものだったのかと両帝国首脳は理解した。

 

 ジョンストン卿は更に言葉を重ねた。匠衆(マイスターズ)加盟の際に七圏守護神(ハーロ・イーン)の信仰を妨げない約束をしたはずだ。ならばこれからの統一皇帝家の血筋はむしろ神の形に近づくということだ。混血自体もそれに近い存在になるし、そうでなくても両帝国の友好の証であることは間違いない。これまでの古いイメージを一気に払拭出来るまたとない好機だ。

 勿論今までの価値判断をいきなり逆転させるのは簡単なことではないが、やるならこの500万隻ショックが効いている間にやるしかないのだ。何しろ匠衆(マイスターズ)が3つ目の投票権持ち文明であるイバーク・ルク統合体と接触してから両帝国との接触まで1ヶ月も経っていない。モタモタしていると4つ目の席を他の文明に取られることになる。

 

 席順が早くても遅くても1票に変わりはないのだが、加入が早いほどに影響力が大きいというのは自然にそうなってしまうものだ。実際両帝国首脳陣の目の前にいるジョンストン卿は、既にある程度の信用と地位を得ているように見えた。

 どうやら意地を張って引き延ばす程に状況が不利になりそうだと理解した両帝国は、ジョンストン卿の助言を得ながら慣れない折衝を重ねて利害を調整し、遂には2つの国家を統合して新たにマハトラ=ミエデ 二重帝国(※名称としてミエデ=マハトラ 二重帝国も正しい)を建国すると発表した。

 地球の歴史上では二重帝国と言えばオーストリア=ハンガリー二重帝国のことで、こちらは2つの国が同一の君主を仰ぐ国家連合であったが、マハトラ=ミエデ 二重帝国は現時点では存在しないが将来的に生まれる統一皇帝家を仰ぐ形になり、段階的に1つの国家となることが取り決められている。

 そして混血の皇族が生まれて育つまではまだまだ長い年月が必要なので、一人だけ選ぶならこうするしかないと、両種族の混血から選んでマハトラ=ミエデ 二重帝国代表匠衆(マイスターズ)大使を出すことにした。

 

 千年もしょうもない争いをしていた割にはかなりの短期間でこの決断を下したマハトラ=ミエデ 二重帝国と、両帝国を説得してその結論を導いたジョンストン卿は、拍手を以て迎えられ、評価を大いに高めた。

 

 そういういきさつで、現在のマハトラ=ミエデ帝国代表匠衆(マイスターズ)大使は両帝国民混血のフガル・バンディッヒとなっている。彼の青年は元々優秀だったが血筋のせいで全く出世出来なかったのに突然大抜擢されたことで当初困惑していたが、今は普通に仕事をしている。

 フガルは直接会議場に来ており、勿論クラエル神のような特徴を全部備えているので、クラエル神にはまるで弟のように大層可愛がられている。

 

 その微笑ましい光景に今後の国の繁栄の形を見た両帝国皇帝は安堵の息を漏らした。まあ急激な価値観の変化についていけない国民も多いので仕事は山積みであったが、目指すべき方向が見えたのならば無理をする甲斐もあるというものだ。

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