【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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260. ではイスカンダル作戦(オペレーション・イスカンダル)最終段階の発動に向けて

 最後の5つ目の投票権を得たのは、太陽系から20万光年、小マゼラン雲のニキシス星系第4惑星にあるシイレント部族連合だ。シイレント部族連合代表匠衆(マイスターズ)大使はグイリ・アミアグル。女性だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 シイレント部族連合は先進文明でもなく有益な技術を持っているわけでもなく自力でBETAを撃退したわけでもないが、他の理由で特筆すべき点があった。何しろ、シイレント文明の発展度合いは概ね中世くらいに位置するにも拘らず、BETA進出領域のまっただ中にありながらBETAに滅ぼされていないのだ。

 こんな所に滅ぼされていない文明があるとは匠衆(マイスターズ)も想定していなかったが、その理由はアウシアント人のように強いというものではない。彼らシイレント人は()()()()()であるから、そもそもBETAに侵略を受けていなかったのだ。

 

 彼らが珪素生命体であることが判明してから、パーキンソン教授率いる匠衆(マイスターズ)文化研究課は彼らの生態、歴史について入念な調査を行った。と言うのも、これまで様々な星で遭遇した炭素生命体もそれぞれ独自の環境で生まれているので、珪素生命体だからと言ってBETAを送り出した珪素生命体(シリコニアン)と同一種族とは限らない。まずはその確認が必要だということだ。

 

 調査結果は「まず間違いなく白」というものだった。少なくとも資料にある限りでは彼らとBETAの関わりは認められないし、BETAに指示を出すことも出来ない。もしかすると大マゼラン雲から移住してきた後に文明が後退したのではないかという可能性が無くはないが、そこまで疑うと悪魔の証明を要求することになってしまう。

 シイレント人は炭素系知的生命体を彼ら自身とは別の生命と認識出来ており、まともに意志疎通と交渉が出来た。割と友好的な方なのだ。そして何より、大マゼランに送られた物資の恩恵を全く受けていない。これは彼らがBETAと無関係という大きな傍証だろう。

 つまり彼らは大マゼラン雲同様に金属量が少ない小マゼラン雲で自然に生まれた珪素系知的生命体であり、BETAの基本命令である(珪素)生命体への手出し禁止が実行された結果、侵略されずにぽつんと取り残されただけと見てまず間違いなかった。

 

 ではこれを踏まえて彼らをどう扱うかだが、

 

トピア「まあ別にどうもしませんが」

 

カミール「だろうね」

 

 というのがシンプルな結論だ。

 そもそも生命体とは言いがたいが善良な心の友(イバーク・ルイエ)を仲間として迎え入れる一方で同じ炭素系知的生命体でも悪逆非道で更生の見込みも無ければ消し炭にするのだから、問題はどういう形態の知性体であるということではないのだ。だから珪素系知的生命体であってもBETAの創造と運用に一切関わっていないのならば近所に数ある文明の一つでしかないということだ。それに攻撃するならばもはや八つ当たりであり、自ら正当性をかなぐり捨てる行為に他ならない。

 

 どちらかと言うとシイレント人の生態調査協力を匠衆(マイスターズ)への寄与と認めて投票権を付与するかどうかの方が議論になった。彼ら自身の武力とも文明の力とも言いがたいが、珪素生命体(シリコニアン)と戦う上では間違いなく有用な情報である。何しろこの時点で他の星において珪素生命体が全く見つかっていなかったのに対し、この星ではシイレント人以外の野生生物も皆珪素生命体であり、生態調査すべき対象は山ほどあった。

 それに加えて、一つの意見が決定打となった。それは仕様想定外の有益な動作を探すのがライフワークになっている札束魔導士タバサらしい意見であった。

 

タバサ「これ、BETAやGAMMAが創造主以外の珪素生命体にどういう反応を示すかによっては鬼札になり得るんじゃないかい?」

 

マイン「……有り得るな」

 

ターニャ「戦略の幅を広げるためにも確保しておくべきですな」

 

 確かにBETAには珪素生命体に対する手出し禁止という基本命令がある。軍事用と想定されているGAMMAの基本命令がどうなっているかは定かではないが、試さずに切り捨てるのはあまりにも勿体ない。

 ともあれ幹部会表決の結果は可決となり、シイレント部族連合はめでたく投票権を得た。

 

 珪素生命体(シリコニアン)とBETAに銀河の半分を侵略されて多くの炭素生命体が滅ぼされたという話を先に聞いていたシイレント部族連合は匠衆(マイスターズ)に加盟出来るかどうかすら怪しいと思っており、迫害されないだけ幸運だと考えていたので、この結果に目を丸くした。

 

シイレント部族連合代表「本当に宜しいのですか? 我々はBETAの創造主と同じ珪素生命体ですよ?」

 

トピア「ご冗談を。あなた方は『珪素生命体以外は生命ではない』などと宣う連中とは違います。ならば我々も『炭素生命体以外は生命ではない』などと言うつもりはありません。まあそれとは別に投票権の条件をクリアしているかどうかは意見が分かれましたけれども」

 

シイレント部族連合代表「……なるほど、匠衆(マイスターズ)の決断に敬意を表します」

 

 実のところシイレント部族連合は科学がそれほど発展していないために匠衆(マイスターズ)に知らされるまで炭素とか珪素とかいう区別の概念が無かっただけなのだが、それが却ってプラスに働いた形だ。むしろ彼らの姿形は地球人に似ているので、構成する元素が違うと言われてもあまり実感がなかったのだ。

 この投票権付与は結果的にはイバーク・ルク統合体に続いて匠衆(マイスターズ)にとっての敵味方判定は種族によるものではないことを示す好例となり、様々な種族が入り交じる匠衆(マイスターズ)加盟国の結束を固くすることになった。

 

 なおシイレント人の見た目は地球人と似ているが、黒目が大きく髪の毛が半透明となっている。グイリ・アミアグルの場合は青く透き通るサファイアのような髪の毛が幻想的な雰囲気を出している。

 ただし他の星で全く見つかっていないだけあり、珪素生命体の誕生にはかなり特殊な環境条件が必要なようだった。つまりシイレント人は地球人と見た目が似ているにもかかわらず大気組成が合わないので、通信での出席となっている。

 当然シイレント文明母星の文化と生態系の調査に臨んだ匠衆(マイスターズ)文化研究課も気密服が必須になっていた。まあ熟練の魔導師なら環境適応術式などを行使すれば生身でもどうにでも出来てしまうのだが、それはそれで現地の大気を汚染してしまうので良くないのだ。

 

 

 

 ここまでの匠衆(マイスターズ)の進出半径と主な出来事は、トピアが使命を受けた日を1日目として

 

・35日目:2001年11月25日(日):6光年:観艦式、銀河進出開始(10光年/日)

・41日目:2001年12月01日(土):60光年:万能転移機関(ユニバーサルワープエンジン)完成、限定生産開始

・42日目:2001年12月02日(日):70光年:ワープエンジンMk.2(400光年/日)完成、量産開始

・48日目:2001年12月08日(土):2,080光年:惑星争奪戦

・50日目:2001年12月10日(月):2,880光年:戦略会議

・85日目:2002年01月04日(金):神聖銀河騎士団壊滅

・111日目:2002年02月09日(土):27,200光年:天の川銀河中央方面の近3キロパーセク渦状腕グ・リグ・リストン星系第1惑星メシエクラ・ライグ到達

・133日目:2002年03月03日(日):36,000光年:白鳥座・鷲座間方向ペルセウス腕ルグニル星系第2惑星イグラクニ到達

・176日目:2002年04月15日(月):53,200光年:鷲座方面の白鳥腕エル・バシウス星系第2惑星アウシアント到達

・206日目:2002年05月15日(水):65,000光年:いて座矮小楕円銀河トワラジウゼン星系第4惑星ヴァンドルフ到達

・231日目:2002年06月09日(日):地球・ルイテンb戦争開戦

・279日目:2002年07月27日(土):約95,000光年:ワープエンジンMk.3(5,000光年/日)完成、量産開始

・295日目:2002年08月12日(月):16万3千光年:大マゼラン雲到達、包囲開始

・302日目:2002年08月19日(月):20万光年:小マゼラン雲ニキシス星系第4惑星到達

・322日目:2002年09月08日(日):地球・ルイテンb戦争終戦

・366日目:2002年10月22日(火):52万光年:大マゼラン攻略会議

 

 となっている。こう見ると土日業務がそれなりにある。これは無人のインファクトリ級が休まず進み続けているのと、技術本部が趣味を兼ねて好き勝手やっているのが原因だ。

 また、丁度1周年で天の川銀河ハローの端に到達したのは全くの偶然だ。銀河ハローというのは銀河の周りの希薄な星間物質や球状星団がまばらに存在する球状領域のことで、天の川銀河の場合丁度半径52万光年ほどになっているのだ。

 既にBETA進出領域は完全に包囲出来ているが、この銀河ハローの端に到達している艦隊は宇宙の調査とポータル移動経路確保のために今も自動航行で進出と工業化を続けている。

 

 他にも色々と文明はあったが、ここまでに現存が確認出来ている先進文明は匠衆(マイスターズ)(本拠地:テラリア王国)、地球、イバーク・ルク統合体、マハトラ=ミエデ 二重帝国、ヴァンドルフ連邦の5つしかなく、ワープ技術を持っているのも匠衆(マイスターズ)だけであるため、領地を接するということが無く国境問題など発生しようがないというのはある意味幸運であった。まあ惑星内規模では普通に争いは生じているが、別に匠衆(マイスターズ)に統治責任があるわけでもないので基本的に個別対応などしない。

 

 そのような面子を揃えた通信大会議場で、トピアが進行を促した。

 

トピア「ではイスカンダル作戦(オペレーション・イスカンダル)最終段階の発動に向けて、デグさん説明をお願いします」

 

ターニャ「は」

 

 ターニャ・フォン・デグレチャフ参謀部長が以前の会議と同様に起立した。その階級章は更に2つ進んで元帥に変わっていた。

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