【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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262. 天文学的規模の包囲作戦を実施するために天文学的な戦力を用意しましたって

グレーテル「元帥閣下、こうなると逆に攻略のための戦力が足りるかが皆様気になる所でしょう」

 

 防衛体制の万全さを大使達が理解出来た所でグレーテル准将が次の説明を促すと、ターニャはグレーテルに対して無言で頷いてから言葉を続けた。

 

ターニャ「攻略艦隊に関しても無論抜かりはありません。大マゼラン雲方面の攻略は、インファクトリ級1()0()0()()()()()()()5()()()からなる『大マゼラン銀河封鎖艦隊』で全天を包囲し、同じく1()0()0()()()()()()()5()()()からなる『大マゼラン銀河中心殴り込み艦隊』を突入させます。両者と戦略予備を合わせた2()1()6()()()()()()()1()0()()8()()()()()()()を『大マゼラン銀河攻略艦隊』と称します」

 

 10(けい)隻。もはや天使の光輪(エンジェル・ハイロゥ)級100億体が完全に霞んでしまう物量の暴力だ。殴り込み艦隊だけでも天使の光輪(エンジェル・ハイロゥ)級1体あたりに1個基幹艦隊500万隻をぶつける計算になる。この戦力は既に大マゼラン雲に配置済みである。

 毎日5,000光年進むことが出来るワープエンジンMk.3が279日目に完成してから現在まで87日経っている。このMk.3を使って天の川銀河から大マゼランに進軍するのに必要な33日を引いてもまだ54日ある。つまり天の川銀河で生産したインファクトリ級のうち2/3にあたる余剰2000兆隻を54日間大マゼランに送り続けて10(けい)8千兆隻を揃えたのだ。余った8千兆隻は対応のための戦略予備で、大マゼラン雲における工場設備も整いつつあるので実際の数はそれよりも更に多い。

 各艦でワープして輸送する以外にも、現在ではポータルを拡張したような直径10km程の大型ワープゲートが匠衆(マイスターズ)の手によって天の川銀河と大マゼラン雲の間に設置されている。しかしこちらの銀河間ワープゲートは単位時間あたりに通過出来る数が少なく、かといってより大型のゲートや多数のゲートを設置するとセキュリティリスクが高まるので、結局現在のワープエンジンMk.3の性能ならば各艦で自ら移動させた方が大量に運べるという結論に至ったのだ。

 そういうわけで、銀河間ワープゲートの用途は今のところ無人艦と仕様が異なるタイプの有人艦や有人機の輸送くらいであるが、勿論他の用途が無いわけではない。

 

 余談だが、艦隊の名前が大マゼラン雲ではなく大マゼラン銀河となっているのは勿論ヱルトリウムを旗艦とする『銀河中心殴り込み艦隊』に合わせた結果だ。

 

ターニャ「まず侵攻に関しては、殴り込み艦隊が包囲ラインから中心部へ向けて進行し、GAMMAを殲滅しながら恒星系一つ一つを簡易的に調査します。そして知性体が見つかった場合には専門の調査部隊に引き継ぎます。こちらの殴り込み艦隊に所属する各基幹艦隊の戦力が損耗した場合は、基本的には近隣の無人艦隊からの移籍、もしくは艦隊ごと統合して補充するものとします。ただしそれで賄いきれない場合は、一旦前進を停止して安全確保後に戦略予備駐留拠点直通のワープゲートを設置します」

 

 100億の基幹艦隊の大半は旗艦を含めて無人だが、星系から知性体を発見するアルゴリズムは宇宙進出艦隊でも運用され改良が重ねられている信頼性の高いものだ。また、このアルゴリズムには知性体がいない星のBETAハイヴを根こそぎ壊滅させる武力行使もセットになっている。BETA殺すべし、慈悲は無い。

 基本的には戦略予備からの補充を待たずに前進するのは、以前にも述べた通りGAMMAにもBETAと同等以上の学習能力があると想定されるためだ。そう考えるとあまり悠長に時間を与えるのは宜しくない。だから戦略予備から補充する場合でもそのまま到着を待つのではなく、一時的にワープゲートを設置してでも前進を急ぐのだ。

 なお作戦の遂行には24時間以上かかる見込みなので、戦力補充にかける時間は休息を兼ねている。

 

ターニャ「脱出阻止に関しては、1段階目として殴り込み艦隊が発見すればその阻止に動きます。この時点で完全な阻止が不可能であれば、外側の封鎖艦隊に引き継ぎます。そして2段階目として、脱出しようとするものが封鎖ラインに到達するまでの時間で必要な戦力を集め、封鎖ラインで撃滅します。大抵はここまでで阻止可能の見込みですが、殴り込み艦隊が発見出来なかったものなどは戦力の集中配置が間に合わず封鎖艦隊でも阻止出来ない可能性があります」

 

 GAMMAが観測出来る宙域を仮に半径8千光年の球体とするとその表面積は8億400万光年2 = 107兆光日2で、100億個基幹艦隊を敷き詰めると1個基幹艦隊あたりの担当面積は10,700光日2になる。平方根を取って隣の基幹艦隊までの距離は104光日だ。恒星間の距離よりは大分短い。

 封鎖艦隊はこの担当範囲10,700光日2を二重空間超越レーダーで警戒する。二重空間超越レーダーは実空間だけでなくワープに用いる超空間も同時に探査出来るので一石二鳥だ。

 なお104光日は二重空間超越レーダーでもそれなりにタイムラグが出かねない距離なので、封鎖艦隊の間には同じく二重空間超越レーダーと量子通信機を搭載した無人探査ドローンを大量にばらまいている。

 この体制に比べると殴り込み艦隊の探査網にはまだ穴があるので、封鎖ラインでは脱出しようとするものをまずは漏らさず発見するのが第一目的となっている。

 

ターニャ「その場合は更に後方に引き継いで、3段階目として大マゼラン外縁の恒星系駐留艦隊と戦略予備が共同でこれの撃滅に動きます。ここまでで撃滅出来ない可能性はほぼありませんが、万が一それでも阻止出来なかった場合は、4段階目として逃亡方面の銀河間駐留艦隊に天の川銀河で新編した艦隊を多数の銀河間ワープゲートで合流させて追撃艦隊を組織し、有人の有力部隊も加えて完全に撃滅するまで徹底的に追撃します。作戦の内容は以上となります」

 

マイン「うむ、入念で宜しい」

 

マキューズ「4段構えの包囲撃滅作戦、素晴らしいでありますね!」

 

 全く情け容赦の無い包囲撃滅作戦にはイバーク・ルク統合体代表匠衆(マイスターズ)大使のマキューズも目を輝かせていた。

 心の友(イバーク・ルイエ)達は基本的には温厚だが、自分達の友たるイバーク・ルク人を滅ぼした怨敵、しかもその元凶が相手となれば、ダンケルク阻止のためにも余さず撃滅することに躊躇は無い。

 

夕呼「しかしあれよね、天文学的規模の包囲作戦を実施するために天文学的な戦力を用意しましたって、確かに正攻法なんだけど、それが出来れば世話はないっていう話よね。普通なら」

 

 伴銀河とはいえ、銀河丸ごとを包囲撃滅する作戦なのだ。実際にやるとなれば文字通り天文学的な数が必要になるだろうし、まさか1年でそれを達成してしまうとは、ということであった。つまり異常なのは包囲戦術そのものではなく、それを可能にする呆れた生産力の方である。

 

トピア「フフフ、それを可能にするのが我々匠衆(マイスターズ)なのです」

 

九十九「まさに勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求むだヨ。戦略上の準備が万端なら奇をてらうような戦術は要らないという典型だネ」

 

マジェリス「実際自分が相手側を指揮するとなると、1体あたりの性能が余程隔絶してないと何も出来ねえですよこれは」

 

カミール「参謀部次長からもそのような評価が出るのであれば安心というものだな」

 

 留意すべき点として、GAMMAは軍事用と想定されているので、BETAと違って戦術の概念を最初から持っているはずだ。それを有効に使われるとかなり面倒なので、どんな戦術であろうとも対応出来ないほどの桁違いの戦力で押し潰すという米帝戦略が基本路線であった。

 大量生産と米帝戦略。つまりは匠衆(マイスターズ)にとっての平常運転である。

 そもそも匠衆(マイスターズ)が目指しているのは()()ではない。味方に可能な限り犠牲を出さず、禍根も可能な限り残さない()()である。そして味方の損害を減らすランチェスターの法則は、性能で負けていない限りはいつでも数の暴力に微笑むのだ。

 

トリオ「しかし思った以上に大袈裟な数になってしまったの」

 

トピア「ほんの1017ですから、まだまだBETAが自称する総数の方が多いですよ。精々頑張っていただきましょう」

 

 まあその計算上1037個体を誇る筈のBETAも今や大マゼラン雲にわずかに残るだけになっているのだが。

 

タバサ「その自慢の数も殆ど細菌(バクテリア)級の数だったようだけどね」

 

ステーク「あれは何とも拍子抜けというか……まあ油断は出来ないが」

 

 通常サイズの個体とは異なる細菌というかほぼマイクロマシン扱いのBETAらしきもの、細菌(バクテリア)級は既に発見されており、これは普通の大きさのBETAに寄生してBETAの筋力や強靱さに寄与するもののようだった。発見が遅くなったのはあまりに馴染みすぎていてBETA本体の一部、血液細胞のようなものと見なされていたためだ。

 細菌(バクテリア)級の活動エネルギーは宿主のBETAから得ていたようで、宿主が活動停止すると細菌(バクテリア)級もエネルギー不足で活動を停止する。つまり突撃(デストロイヤー)級が活動停止すると甲殻の強度が大きく低下するのはこれが原因であった。

 機械文明における重機が珪素生命体(シリコニアン)文明における生体重機BETAならば、機械文明におけるマイクロマシンは珪素生命体(シリコニアン)文明において細菌(バクテリア)級という形態をとっていたということだ。なるほどマイクロマシンよりも細菌の方が量産は簡単そうである。

 なおナノマシンと呼ばないのは、細菌はナノサイズではなくマイクロサイズだからだ。

 

 そういうわけで細菌(バクテリア)級は今のところ人体に直接の影響は無さそうではあるし、殆どは通常のBETAと一緒に活動を停止しているようだが、放っておくと何をしでかすか分からないため、現在これを除去するための薬剤や魔法の開発が進められている。

 

マキューズ「ともかく、ここまで来た以上今度こそ私達の勝利は揺るぎないということでありますね!」

 

聖騎士「無論である! ウッ!」

 

ダグ「こうして長年の仇敵を仕留める戦いに参加出来るというのは誠に誉れでございますぞ」

 

アシレ≪まあ私らにとっては単なる食料だったから別に恨みは無いでゲソね≫

 

グイリ≪私達も直接の恨みは無いですけど、アウシアント人の事情はちょっと特殊すぎますよ……?≫

 

 前回の戦略会議から暫く経過して、総軍本部に連なる実戦部隊も増えている。当然心の友(イバーク・ルイエ)部隊、マハトラ=ミエデ人部隊、ヴァンドルフ人部隊、シイレント人部隊などもある。アウシアント人は残念ながら大きすぎて兵器に適合せず、自力で宇宙に出るのも困難なので、その見た目に反して魔法研究一筋となっている。ただしその魔法研究で非常に役に立っているので文句は出ていない。

 なお元々編成を進めていた7つの世界の部隊は、大地の冒険者(テラリアン)戦闘団以外は案外難航した。ターニャ式の訓練が厳しすぎて、元々戦闘狂(バトルジャンキー)のテラリアン以外は脱落する者が続出したからだ。その点上記4種族の部隊は厳しい訓練の突破率が9割を超え、優秀な成績を収めていた。

 やはり地球も含めて匠衆(マイスターズ)で活躍して故郷の地位を確固たるものにするぞという目的を持った連中の方がどうしてもモチベーションが高いのだ。ただし戦闘狂(テラリアン)は除く。

 

 予定していた部隊の編成は現在では全て終わっているのだが、他の編成が遅れたためどうしても最初期に編成を終えた地球連合(ユナイテッドアース)戦闘団の出番が増えてしまうことになり、その功績に応じてターニャ達の階級も上がってしまったわけだ。准将内定だったアイリスディーナもつつがなく将官教育を終え、更に2階級進んで中将に昇進している。兼務が忙しく軍を休みがちだったグレーテルは1階級進んだ准将止まりだが、代わりに総務本部長になっている。

 

 大地の冒険者(テラリアン)戦闘団は魔導衛士の育成は順調に進んだが、艦長適性のある者がいなかったので、結局ESP発現体同席の上で海賊(Pirate)のモルガンを入念に面接して採用することになった。

 当初の懸念に反してモルガンは念願の宇宙戦闘艦を任されたことで非常にやる気を出しており、歴戦のテラリアン達を船に乗せて転戦しては功績を荒稼ぎしていた。どうやらラリーの敵味方判別は正常に機能していたようだ。

 見た目と流儀はやはりどうしても海賊っぽかったが、宇宙の賊こと宙賊ではなく海から宇宙に出た海賊、すなわち宇宙海賊ということで妙な独自性と希少性を発揮していた。これは荒くれ者(テラリアン)共を率いるのにも向いていたようだ。

 

トピア「ともあれ、この最終段階のプランに関して何か質問や意見は……ふむ、無さそうですね。アヌビス様も宜しいですね?」

 

アヌビス神「X(うむ)」

 

 トピアが一同を見渡しても、質問や異議のありそうな面子は全く見当たらなかった。七圏守護神(ハーロ・イーン)の代弁者であるアヌビス神からも特に意見は無いようであった。

 まあトピアの考える戦力基準でも宇宙怪獣の大軍団と正面から戦って叩き潰せるくらいの戦力を揃えた筈だ。ここまでやっているのにBETAとその上位種程度に負けてたまるかといったところだ。いや恒星に卵を産む上に光子魚雷が直撃しても無傷な宇宙怪獣に熱量兵器はほぼ効かないので、戦って本当に勝てるかは正直分からないが。

 

カミール「まあ以前から通達していた概要に具体的な数字をつけただけだからね」

 

シュミット≪その数字だけでも大分印象は変わると思うのだわ。コレ負けようがないでしょって≫

 

テクス「でござるなあ」

 

トピア「ではマインさん、最終段階開始の指示をお願いします」

 

マイン「よかろう……イスカンダル作戦(オペレーション・イスカンダル)最終段階開始せよ! 大マゼラン銀河攻略艦隊抜錨! 奴らが認めない我らの命の力を存分に見せつけてやれ!」

 

 マイン総軍大元帥が立ち上がり、マントを翻してカメラに掌を向けて言い放つと、各艦隊が怒号のような返事を返し、天の川・大マゼラン周辺銀河を股に掛けた珪素生命体(シリコニアン)文明包囲撃滅作戦の最終段階が始まったのだった。

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