【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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266. 食事のお誘いなど緊急性の無いお問い合わせはご遠慮ください

 作戦開始から6時間が経過した頃、全艦隊総旗艦であるインファクトリ級1番艦インファクトリの戦闘指揮所(CIC)

 こちらは7番艦宇宙最速理論(スピードスターオーシャン)以上に大きく改装されており、戦略情報統括センターを設置してありとあらゆる情報が処理されていた。全体を統括する都合上指揮下の軍勢が最も多いため、整然と並んだオペレーター席に心の友(イバーク・ルイエ)達が800人以上座っているのは壮観だ。その殆どは画面やコンソールを経由せず情報を直接やりとりするために情報処理端末と有線接続している。

 800人以上というのは、まず大マゼラン雲全体を覆う楕円球体で240にエリア分割してそれぞれに担当がついている。100億の基幹艦隊もそれぞれのエリア内を概ねまっすぐ銀河中心に向かうことになる。

 更にそれらのエリアを大マゼラン雲の銀河座標軸を基準として東(East)・西(West)・南(South)・北(North)・上(Top)・下(Bottom)方向に分けてそれぞれ40ずつのエリアで方面グループにし、方面統括官の6人がその方面情報をとりまとめている。これが更に殴り込み(Attack)担当と封鎖(Closure)担当に分かれるので2倍の492人。更に戦略予備管理担当が各方面に21人×6、追撃担当41人をプラスして659人。

 更に天の川銀河や他の銀河の匠衆(マイスターズ)加盟文明恒星系防衛についている各2万個基幹艦隊にも担当人員が必要なので、当初加盟分の108人を足して767人。それから急遽加盟が決まった恒星系の担当で逐次人数が増えている。他にも各銀河全域の状況を監視している者も居る。

 文明防衛艦隊担当は敵が出現していないのでまだまだ平和なもので、その担当テーブルからは事務的な応答が聞こえてくる有様だ。

 

文明防衛艦隊担当1「現在天の川銀河に敵勢力の出現は確認されておりません。出現の兆候があり次第放送でもお知らせしますので頻繁に問い合わせるのはおやめください」

 

文明防衛艦隊担当2「防衛艦隊は初期配置として均一に配置しておりますが、星系内の戦力配分はワープで随時対応出来ますのでご安心ください」

 

文明防衛艦隊担当3「ディストーションレーザーは最新型の迎撃用レーザーの通称で、防衛艦隊にも同数装備されております」

 

文明防衛艦隊担当4「食事のお誘いなど緊急性の無いお問い合わせはご遠慮ください。いざというときの防衛に差し支えます」

 

 文明防衛艦隊担当には特例として応対部を通さない緊急用直通回線が引かれているのだが、どうもそれを不安解消やお問い合わせ、食事のお誘いなどに使われているようだ。

 機械知性体に対する偏見が無いのは良いことだが、流石にこのタイミングで口説き落とそうとするのはいかがなものだろうか。偏見が無いのも単に人間との区別が付いておらず美男美女揃いの心の友(イバーク・ルイエ)に口説き文句を垂れているだけのような気もする。

 なお緊急でなくても意味のある問い合わせに関しては、放送の方でFAQ的にオペレーターの回答とほぼ同一のテロップを流すことになった。

 

 戦略情報統括センターがかなり大規模になっているため、その人数を収容するために各方面ごとに二重半円形のテーブルに備えられた席に外側に向かって40人が座り、方面統括官がその中央の一段高い席に座る形になっている。

 当初トピアが提案したのはヱクセリヲン艦橋型、つまり証券取引所のように島状の端末群をグループごとに囲む形だったのだが、これだと統括官が島の周りをぐるぐると回る必要が出てくるのでアレンジして外向き二重半円形になったのだ。

 デイリーライトから移動してきたマイン達中枢メンバーは情報処理センターより1フロア分高い位置の壁から突き出したそれなりに広いキャットウォーク状の部分に据えられた席に座っており、情報処理センターのテーブル群を上から見下ろす形になっている。こちらはほぼヱクセリヲン艦橋の艦長席付近と同じだ。タシロ艦長達がスシを囲んでいたテーブルと言えば分かるだろうか。あれがそのまま匠衆(マイスターズ)幹部会議同様のテーブルになっている。

 ただしそれに加えてオペレーター達がまとめた戦略マップが3Dプロジェクターによって情報処理テーブル群の上に投影されている。これはマイン達幹部の操作で縮尺や角度を変更可能な優れものだ。現在の表示は大マゼラン雲全体の星図となっており、じわじわと未探査領域が縮まっている。

 また、戦略マップ以外の情報は幹部席とは反対側の壁面に設置された多数のFICSIT製ディスプレイに表示されている。FICSIT規格のディスプレイは最大16m×8mのサイズが存在しており、それではインファクトリの戦闘指揮所(CIC)に設置するにもでかすぎるので、『小型看板』という名前の2番目に大きい8m×4mディスプレイを横並びに複数設置している。一体どの辺りが小型なのかと突っ込みたくなるが、あくまで看板基準の大きさなのだ。

 

 大マゼラン側だけでも10(けい)隻を超える大艦隊を組織するに当たって、最も大きな障害になったのがこの戦略情報統括システムだった。艦の数があまりにも多すぎるので情報をさばくのが困難というボトルネックが発生してしまったのだ。

 サティ達生産部はインファクトリ級の大量生産体制を整えることでバーナード星系の本拠地から天の川銀河へ、そして周辺銀河へ多数のインファクトリ級を進出させていったが、無人惑星のBETAの掃討は小艦隊戦力と自動戦闘アルゴリズムで片付いていたので、まとめて全部動かす際に困難になるという発想が無かったのだ。単なる数だけを集計するならば量子演算機の処理能力に物を言わせればいいが、未知の戦力であるGAMMAと戦う際に各艦隊から上がってくる貴重な意見や見解の分析まで含めるとそれを判断する知性がかなりの数必要になってくる。

 その状況を打開したのが高い知性と高速処理能力、高い疲労耐性、そして人格的信頼性を併せ持つ心の友(イバーク・ルイエ)という存在である。彼らは魔法適性こそ無かったが、こういう仕事を任せれば百人力を優に超えるのだ。音声発話ではなく通信回線へのダイレクト接続ならば複数の問い合わせに対し一人で同時に受け答え出来るのも強力だ。

 心の友(イバーク・ルイエ)達は種族全員その特性を持っていて、しかもある程度の量産が効く上に性能強化まで出来るのだからありがたいことこの上ない。

 

 なおあまりにも艦隊数が多いのと、威力偵察用や戦力補充用の艦隊も必要なため、星屑の聖十字軍(スターダスト・クルセイダース)すら着任していない完全無人基幹艦隊が大多数を占めている。そういう艦隊に関しては事実上ここのオペレーターが艦隊司令官の代わりに作戦命令の範囲内で指示を出すことになる。そして作戦命令の範囲内で対応出来ない場合、方面統括官にエスカレーションすることになる。方面統括官は将官クラスなのでかなり融通が利くし、裁量を超えたとしても統括官の人数が少ないので更に上に指示を仰ぐことが出来る。

 

 そうした優秀なオペレーター達がまとめている情報によると、大マゼラン銀河中心殴り込み艦隊は進出開始点から平均1,000光年ほど前進して各基幹艦隊の損害は軽微。現状の損耗は1%もない。敵艦GAMMAもインファクトリ級に損害を与えるほど強力なはずだが、ランチェスターの法則が猛威を振るっているのだろう。多少損耗した基幹艦隊にも周囲の無人艦隊から補充艦が送られるか、もしくは統合することでほぼ万全の状態に戻している。

 というか、5(けい)から1%減ったら500兆だ。敵の見込み数より4桁多い。もしそんなに減っていたらどこかに重大な問題があるということだ。実際には10億も減っていない。

 また、敵艦GAMMAは天使の光輪(エンジェル・ハイロゥ)級と同等の規模だが、今のところ念話を使った精神攻撃の類いは確認されていない。あれはやはりはじまりの星や惑星メシエクラ・ライグのBETAが独自に学習して身につけたものなのかもしれない。

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