【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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268. やはり戦術の概念があるか……侵入阻止(ホームセキュリティ)ドクトリンが早速役立ったな

ラダビノッド「周辺戦力を召集する。まずは直近の9個基幹艦隊だ」

 

オペレーター「了解!」

 

 新種のGAMMAこと戦艦(バトルシップ)級10万体の超空間感知報告を受けたラダビノッド大将は即座に戦力の召集を指示した。単純に体積換算で内包エネルギーが1,000倍ともなれば容易に撃滅出来る相手ではない。

 だが敵のワープアウトの方が早い。手透きの味方艦隊が駆けつけるまで数分はかかるだろう。その時間差分は1個基幹艦隊500万隻で耐えなければならない。

 

一文字「まず艦載機隊、無人のTOM(トム)を出撃させろ。炉の安全半径は無視していい」

 

オペレーター「了解」

 

 炉の安全半径とは、仮にインファクトリ級が一撃で爆沈した場合に縮退炉の爆発の影響を強く受ける範囲だ。消耗前提の無人艦載機で、節約する必要も無いので出せるだけ出してやれということだ。

 無人TOM(トム)の出撃は、直接乗り込む有人機同様に格納庫内に出してから前甲板や後甲板の滑走路経由で射出する経路もあるが、それとは別に外部の統合建設システムを使って外でTOM(トム)を組み立ててそのまま発進させる事も出来る。このため、発進プロセスは有人機より大分手早かった。

 しかし()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ため、これは真っ先にやっておかなければならない。

 

一文字「前衛艦は縮退炉をオーバードライブ、防御に全出力を集中せよ」

 

オペレーター「前衛艦、オーバードライブSecondモードへ移行開始。移行完了まで残り57秒」

 

 インファクトリ級の主機関である縮退炉は通常航行ではHourモードの26.4EW出力だが、戦闘時にはMinuteモードの400EW、緊急時にはSecondモードの6.23ZWまで上げることが出来る。ただし縮退炉の特性でHourからSecondへの移行に59分、MinuteからSecondへの移行に59秒かかる。この移行時間を見越して事前に調整しておかなければならないのだ。

 そして主砲の全力が100EWなので、攻撃に関してはわざわざSecondモードにする必要は無い。してもいいのだが、機関に大きな負荷が掛かりやや不安定になる上に制御を外れてから1秒しか対処時間を取れないので、最悪爆発してしまう可能性がある。これは無人艦だからこそ気軽に使えるのだ。

 

 なお前衛とは言葉通り正面というわけではなく、球形に展開した艦隊の外側付近に並んだ艦のことを指す。

 宇宙艦艇の展開は三次元だ。なので水上艦同様の輪形陣では穴だらけだ。そのため防御の厚みを確保するためには球形に並べることになる。そしてここに航空機のコンバット・ボックスを組み合わせて迎撃に死角が出来ないようにする。とはいえレーザー砲の死角がほぼ無いのでそれほど複雑な並べ方にはならない。これが匠衆(マイスターズ)基幹艦隊の基本陣形である球形陣だ。勿論旗艦はその陣形の中心付近に位置して最も手厚く防御されている。

 

一文字「次に、前衛以外は主砲発射用意。まず敵艦隊の1標的に対して1,000隻単位で、シールドの隙間を狙って主砲の集中砲火を浴びせる。それで問題無く撃沈出来れば対象を分散させるが、その効果次第で武装を変更する」

オペレーター「了解」

 

 相手の内包エネルギーが単純に1,000倍であればラザフォード(フィールド)で防げるのは主砲単照射でおよそ10秒。集中すればもっと短くなる。しかし更に円盾(ラウンドシールド)級やその上位種が展開されていればその限りではない。

 

一文字「……そろそろだな。前衛艦を除きAWF(アンチワープフィールド)展開せよ」

 

オペレーター「AWF(アンチワープフィールド)展開開始」

 

 艦隊の陣形と状態を示す情報画面にAWF(アンチワープフィールド)展開領域の表示が広がっていく。

 それが広がりきったあたりで、AWF(アンチワープフィールド)負荷の数字が一旦2%ほど増えてすぐに0%に戻った。

 

オペレーター「敵艦隊接近、本基幹艦隊内部へのワープアウトを失敗し、後方にワープアウトします。敵艦隊中心は距離2光秒、方位178、俯角3!」

 

 オペレーターの報告と共に戦闘指揮所(CIC)中央の三次元天球儀に赤い光点で敵艦隊の方位が示される。

 これは大マゼラン雲の銀河座標軸東西南北上下を基準として艦隊を中心にローカル化したもので、方位は北から反時計回りの天球経度、仰角・俯角が天球緯度に相当する。地球連合(ユナイテッドアース)基幹艦隊は元々南側から北向きに進軍しているため、方位178の俯角3はほぼ真後ろだ。

 ローカル化と言いつつ方位・仰角・俯角が銀河座標軸基準なのは、艦隊が向いている方向というのを定義しづらいからだ。

 まず球形陣のような防御重視陣形では全艦が放射状に球面の外側向きになる。全艦向きがバラバラなのだ。これは推進機の向きが限定される反作用推進ではなく時空勾配推進を採用しており、艦がどこを向いていてもあらゆる方向に加速可能だから出来ることだ。

 そして旗艦の向きを基準にするには旗艦の向きを艦隊所属全艦がリアルタイムで参照し続ける必要があり、即応性がやや低下する上に何らかの原因で旗艦の向き情報をロストした場合などに混乱が生じる。

 ただそれはそれで旗艦を主観とする方位が分かりづらくなるため、戦闘指揮所(CIC)中央の三次元天球儀には切り替え機能が付いており、透明な天球儀の中心に表示される旗艦の向きを正面に固定して方位や仰角・俯角の方を変動させるようにも表示出来る。

 

一文字「前衛艦以外は主砲旋回、敵艦隊出現方向へ指向」

 

 一文字の号令を受けて全艦の主砲が大マゼランの南側を指向した。

 無論主砲塔の旋回速度は十分な性能を確保してあり、180°の旋回に1秒かからない。有人艦でも砲塔だけなら人員への回転慣性がかからないので配慮の必要が無いのも利点だ。

 ただし艦の下方向には撃てないので、そこは艦自体の方向を調整する必要がある。

 

ラダビノッド「やはり戦術の概念があるか……侵入阻止(ホームセキュリティ)ドクトリンが早速役立ったな」

 

一文字「ですね。無ければ大損害を受けている所だ」

 

 ラダビノッド司令官と一文字艦長は情報ディスプレイから視線を逸らさないまま参謀部の先見の明と技術本部の開発力を称賛した。

 一見理想的な防御力を誇る球形陣だが、ワープ機関を持った艦船同士の機動戦では、陣形の内側にワープアウトされたら意味が無いという大きな弱点を抱えている。そして現在のインファクトリ級はこれに対する対抗装置を備えているのだ。それが先ほど一文字艦長が展開を指示していたAWF(アンチワープフィールド)だ。

 

 ワープは恒星系外進出のためにほぼ必須の技術だが、艦隊戦の常識も覆してしまう。

 これまでにマインと参謀部がシミュレーターを使ってワープ機関有りの艦隊指揮演習を繰り返した結果、やはり陣形内部へとワープアウトされる特攻戦術が一番損害を受けるという結果が出た。人間が乗っているならそんな特攻は幾らか躊躇うだろうが、無人機やBETA、GAMMAならば話は別だ。これを何とかしなければ戦力で上回っていても万が一があり得る。そのためまずこれを防ぐべしとして提唱されたのが侵入阻止(ホームセキュリティ)ドクトリンだ。

 しかし陣形をどう組んでも至近距離の殴り合いによる危険は大して変わらず、特に旗艦が危険に晒される問題が如何ともしがたいので、これを根本的に解決するために開発されたのがAWF(アンチワープフィールド)システムだ。

 AWF(アンチワープフィールド)システムとは、ワープ機関を逆用して一定範囲内における実空間と超空間との往来をシャットアウトするように空間に干渉するものだ。そもそも平常状態で空間に穴は空いていないので、ワープアウトを阻止する方がエネルギー的には有利なのだ。

 そしてそのAWF(アンチワープフィールド)システムの運用に最も適しているのが球形陣である。AWF(アンチワープフィールド)で内側への直接侵入を防ぎながら、距離が離れた全方向へのワープアウトを警戒して放射状に外向きに並んでいるのだ。無論それ以外の陣形もAWF(アンチワープフィールド)の隙間を作らないことを前提に調整されている。

 

一文字「主砲斉射!」

 

 地球連合(ユナイテッドアース)基幹艦隊の後方にGAMMA戦艦(バトルシップ)級のワープアウトが始まると同時に100EWレーザー主砲の斉射が開始された。全部出てくるまで待ってやる義理は無いということだ。

 戦艦(バトルシップ)級1体あたり1,000条も照射されたレーザーは2秒ほど虚空を進んで、最初にワープアウトした戦艦(バトルシップ)級へと着弾した。

 ワープアウトした戦艦(バトルシップ)級はまだ防壁を展開していなかった。恐らくMk.4以前のレーザー反射ミラー端末と同じ理由で、防壁端末をワープで置き去りにするのを防止するためだろう。

 1,000条もの100EWレーザーが直撃したことでその戦艦(バトルシップ)級は爆散した。ラザフォード(フィールド)によって主砲レーザーを屈折反射しようと試みた形跡はあるが、流石に合計10ZWは返しきれなかったようだ。ほぼ同様の結果が約5,000箇所で発生した。

 

オペレーター「敵戦艦(バトルシップ)級4,905個体撃沈! 一部反射されましたが、前衛艦が防ぎきりました!」

 

一文字「よし、同様に次のターゲットに攻撃を浴びせろ!」

 

 撃沈数が5,000よりやや少ないのは、前衛艦が攻撃に参加せず防御に集中しているためだ。

 しかし次の攻撃ターゲットを絞ったときには他の戦艦(バトルシップ)級は防壁リングの展開を半分以上終えていた。多数の発艦口から同時に素早く防壁端末を射出したようで、しかも防壁のサイズも10倍ほどにスケールアップしている。

 各艦は防壁リングの隙間を狙って戦艦(バトルシップ)級を撃ったが、何しろ2光秒の距離なのでレーザーでも着弾まで2秒のタイムラグがある。このラグのために防壁の動きに対する照準の対応が間に合わず、防壁が大半の射線を遮ってレーザーを受け止めた。インファクトリ級各艦が個別に別々の隙間を狙っていたのと、反射膜の厚みが10倍、更に拡散させる面積が100倍で、総じて熱量兵器に対しては最大1,000倍の防御力になるせいか、それは容易に反射されてしまった。

 反射されたレーザー光線が基幹艦隊前衛艦に到達し、そして貫通した。1条ならば容易く防げただろうが、複数が集中したのがまずかった。

 

オペレーター「前衛艦502隻、その他5,156隻轟沈しました! 更に大破艦10,072隻、中破艦21,263隻!」

 

一文字「主砲斉射やめ! 全艦ベルカ砲スタンバイ! 照準完了次第斉射せよ! 大破・中破艦はまず防御と修復に専念だ!」

 

オペレーター「了解!」

 

 インファクトリ級の主砲が効かずに逆に大損害を被るという事態に陥ったが、一文字艦長の指示は冷静であった。3万5千隻程度行動不能にされたところで全体の1%にも満たないし、既にレーザーが効かない場合への備えがあったからだ。

 その指示によりインファクトリ級各艦に上下合計8門備えられたレールガンMk.4 Type G/XL、通称ベルカ砲が敵艦を指向し、巨大な砲弾を射出した。左右方向に背負い型配置で設置された荷電粒子砲の更に上の段に背負う形で2基ずつ設置されたものだ。

 射出された砲弾は()2()()()()()()()()1()()()()()()()、防壁を打ち砕いて戦艦(バトルシップ)級のラザフォード(フィールド)に突き刺さった。

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