昼食後。三人は調査目標であった西の赤い森と東の紫の森のうち、近い方の赤い森に来ていた。元々遠出して調査を行うことだけは決まっていたが、元々調査に向かう予定だったトピアに加えて本格的な調査にはやはり科学分析が必要なのでサティの同行が決まり、レベリングをするならまとめてやった方がいいだろうということでトリオの同行も決まったのだ。
トリオはスパイダートロンに乗り、サティとトピアは新たに作ったエクスプローラーに乗っていた。
エクスプローラーはFICSIT規格車両の一つで、90km/hまで出せる上に鉛直の壁でも登るという極めて高い登坂性能を備えた車両である。名前の通り、探検に乗っていくのに向いている車ということだ。ただしペイロードはトラックの半分しか無く、平地ならばトラックで輸送した方が良いという棲み分けになっている。エクスプローラーの座席はやや狭いが左右に並んで二人乗れるようになっており、運転席にサティ、助手席にトピアが座っている形だ。
トピア「いやいや登坂性能すっごいですねこれ。割と意味わかんないレベルですよ」
サティ「まあ小回りがきかないからホバーで登った方が早い場合もあるんだけどね」
電力が本格的に動き始めたことで、サティはホバーパックを使い始めていた。
ホバーパックとはパラシュートやジェットパックなどと同じ背面装備の一つで、FICSIT規格の通電している設備が32m以内にあるならばずっと浮遊していられるという代物である。つまり本来の用途としては工場整備に便利なツールなのだが、この通電設備というのは電柱や壁用電源差込口でも構わないため、
しかし逆に言うと通電設備が無いと使えないので、電柱を逐一並べずに車で遠方に出かけた場合は出先に臨時のバイオマスバーナー発電機でも設置しなければ石の狸も同然であった。
今回は目標がそこそこ遠い上にスパイダートロンの機動力について行くのにいちいち電柱を並べていては足を引っ張るという理由でエクスプローラーを持ち出すことになっていた。まあ電柱は工場の規模が広がれば勝手に増えていくだろう。
さて、肝心のパワーレベリングであるが、行軍速度をほぼ落とさずにスパイダートロンが出会い頭の自動迎撃レーザーでMOBを鏖殺していた。最終機動兵器は伊達ではない。レベリングのついでに乗り込み型の兵器で敵を倒したときに経験値が入るのかを実験してみたのだが、普通に入った上にちゃんと三人に分配されたので、移動しながらのレベリングと相成ったわけである。トリオとサティのレベルは早くも20に達していた。
戦う必要が無いとは言えただ移動するだけでは勿体ないので、サティはエクスプローラーを走らせながら助手席のトピアに資源スキャナーを使わせており、見つかった鉱脈を逐一記録に残していた。また、鉱脈ほどの規模が無くても新たに見つけた資源はサンプルとしてトピアが掘削採取していた。特に地球ではまず見られない大粒のダイヤモンドの原石はトリオやサティが利用価値を見出したため、見つけ次第採掘を繰り返した。そのたびにエクスプローラーが一旦停車することになったが、最高速ではスパイダートロンを超えるので追いつくことは可能であるし、そもそも主目的が調査なので多少行軍が遅れても問題は無かった。
ここに来るまでに生息するMOBの種類が何度も変化していたが、赤い森付近に来ると三人とも全く見覚えの無いMOBばかりに遭遇し、おまけに空から次々にスライムが降ってくるという怪現象にまで出くわした。そのスライムを処理していくとしまいには王冠を被った巨大スライムと戦う羽目になったが、これはスパイダートロンがやはり瞬殺した。総じて敵が強いわけではないが、よく分からんことが起こっている以上は警戒が必要である。
更に赤い森に進入すると、大蜘蛛、頭のでかい人型の何か、空飛ぶ海老のような何かに遭遇した。どいつもこいつも森同様に赤くて目に悪いが、これらもやはりスパイダートロンが鏖殺した。圧倒的である。敵として認識されない赤い茨の処理の方が面倒なくらいであった。なお人型の何かとは一応対話を試みたのだが、ゴブリン同様に全く話が通じる様子が無かったので敵性生物と判断した。
この赤い連中は見た目も厳しいが、度々用途不明の生々しい背骨のようなものをドロップするのが一層気味が悪かった。そもそも蜘蛛と海老は外骨格構造なので、こいつら自身の骨でもないだろう。
骨と言えば巨大な爬虫類らしき生物の白骨死体がちらほら横たわっており、警戒対象になっていたのだが、生存個体は一切見当たらなかった。巨大生物を警戒しなくて良いのはありがたいが、もしこの環境に適応出来ずに死に絶えてしまったのだとすると環境の方がより脅威ということになる。
サティは戦闘をトリオに任せ、トピアを助手兼護衛兼茨刈り係にして周囲のサンプルを収集していた。本日のトピアは汎用性の高い槍装備であったが、この茨刈りのために槍を斧に持ち替えていた。とはいえこれは想定内の運用である。また、草を刈るなら斧より剣の方が使いやすそうに見えるが、
サティはここでも資源スキャナーを使ってみたのだが、地表に露出した鉱脈は無く、地下の資源反応も殆どが細かいものであった。
つまり地表はただ敵が襲い掛かってくるだけで木材以外の資源も無い上に茨が鬱陶しい不毛の地だったのだが、暫く赤い森を進んだ頃、三人はいかにも怪しげな洞窟を発見した。
サティ「これどう思う? 斜め下に続いているようだけれど……」
トピア「ダンジョンとも違いますね」
クラフトピア仕様のダンジョンはまず入り口があってそこから別の空間に飛ばされるものであり、全く違うものであるのは明らかであった。
トリオ「スパイダートロンがギリギリ入れても自由には動けんくらいの洞窟じゃの。照らしてみる限りそれなりに深さがあるようじゃし、厄介じゃのう」
では何故そんなところを調べてみる気になったのかというと。
トピア「やっぱりこの下にいますね」
トリオ「四人目か」
サティ「まさか地下とはね」
トピアのマップには味方を意味する四つ目のマーカーがはっきり表示されていたのだ。
そのマーカーと重なる地点まで移動しても地表にも上空にも姿が見当たらず、じゃあ地下なのかと周辺を探索したところ、いかにも怪しい地下へと続く洞窟の入り口を発見したのである。どういうわけか入り口に牙のような物が生えており、生臭い血の匂いまで漂ってくるあたりホラー染みた雰囲気を醸し出している。
トピア「まず私が見てきましょうか」
サティ「……そうね、ついていっても足手まといになりそうだし、頼めるかしら? 通信機のスイッチは切らないでよ?」
トリオ「儂はここで退路を確保しておくぞ。安全マージンはしっかり取るんじゃぞ」
トピア「了解、では蒸着!」
左拳を腰に、右掌を真上に。トピアの体から光が溢れ、装備が一新された。
左手に 灰燼に帰す 不死殺しの 炎の悪魔の 危険な ヒルデブラント改+99。
右手に 伝説の 盗賊頭の 危険な 早口な アスクレピオスの盾。
頭部に 盗賊頭の 危険な ファーヴニルの 早口な ヴァイキングメット。
服は 万物流転の 盗賊頭の 危険な 早口な スマートカジュアルアタイア緑♀。
背中に 盗賊頭の 危険な ファーヴニルの 早口な ジェットパック。
補助ツールに 盗賊頭の 危険な ファーヴニルの 早口な 鉄の砥石。
アクセサリ1に 盗賊頭の 危険な ファーヴニルの 早口な 光のロザリオ。
アクセサリ2に 盗賊頭の 危険な ファーヴニルの 早口な 光のロザリオ。
トピア「
基本
槍は通常攻撃が使いやすくノックバックも受けにくいので、汎用性に優れるのだ。ボス戦だけを見据えるとやや見劣りするが、ちょっとした冒険ならこれ一セット+部分持ち替えオプションだけで済んでしまうほどである。
探査メインの場合は片方のロザリオを ドラゴンの 危険な ファーヴニルの 早口な 探知機に変更する。ロザリオの
採掘の場合はヒルデブラントを 不死殺しの 危険な ファーヴニルの 炎の悪魔の ダイヤのつるはしに持ち替えることで対応する。攻撃力が高いのでかなりの採掘速度が期待出来、本日の採掘業務は勿論、以前に鉱脈を人力で叩き割ったのもこの装備である。
伐採の場合はヒルデブラントを 灰燼に帰す ファーヴニルの 危険な 炎の悪魔の プラチナの斧に持ち替えることで対応する。先ほど赤い茨を刈っていたのがこれだ。
トピアのメイン武器は実は槍であり、ファーヴニル系エンチャントの恩恵で地上移動速度が200%に達するより以前の、クリヴァル・Ω改+99や蛇王槍ナーガラジャ改+99を使っていたものまで含めればフルエンチャント仕様だけで実質Mk.5にもなる。
サティ「あ、それそういう名前だったのね」
サティの反応は薄かった。トリオに至っては全くの無反応である。
トピア「反応薄っ。これでもフルエンチャント装備なんですよ?」
サティ「作るのが大変とは聞いたけれど、恰好が殆ど変わってないし、特に緊迫してない場面で名前を出されても……ねえ?
名前が出たので色々と詳しい内容に触れたが、今の蒸着は要するに斧を槍に戻しただけであった。
トピア「むむむ、反論の余地が無い……まあ行ってきますね」
サティの尤もな言い分にトピアは反論を諦めた。例えば日常業務の時点で解放していた卍解の名前を今から戦闘するかもというところで出されたところでカッコイイかと言えばそれは否であろう。翻って、この
ネタ的にOSR漫画と呼ばれてはいたが、あれはあれで作者が考える最高にカッコイイ演出をズバンと出すことに特化していたんだなあとトピアは認識を新たにした。
サティ「行ってらっしゃい」
トリオ「足元に気をつけるんじゃぞ」
しまらないものだが、何はともあれ、この世界に来て以来初の地下探検が始まるのであった。