【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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274. 我が斬澗刀(ざんかんとう)に断てぬ物無し

ラダビノッド「被害状況知らせ! 大雑把でいい!」

 

 どうにか難を逃れた宇宙最速理論(スピードスターオーシャン)戦闘指揮所(CIC)では、ラダビノッド大将が状況把握に努めていた。ディスプレイに出る情報が錯綜している。

 

オペレーター「本艦被害無し! 味方艦轟沈約200万! 轟雷は中破3、他は健在です!」

 

 インファクトリ級5000万隻のうち200万が轟沈し復帰不能。4%だ。恐らく今作戦始まって以来の大損害ではないだろうか。

 

一文字「大分やられましたね」

 

ラダビノッド「だが生き残った。我々の勝ちだ」

 

一文字「ええ」

 

 操舵席を見れば、操舵手が操縦桿を握って次の攻撃を警戒していた。

 艦隊のほぼ正面から円柱状のレーザーが貫通したとする。1辺7,370kmの立方陣なので1辺あたり368.5隻並んでおり、レーザーの被害範囲円柱の高さにあたる艦隊前後方向には368.5隻ずつ並んでいたはずだ。つまり轟沈艦200万を368.5で割って、円柱には5,427隻分の断面積があったことになる。1隻あたりの専有面積が400km2なのでこれを掛けて217万km2。この面積に相当する円の半径は1,176km程度になる。

 宇宙最速理論(スピードスターオーシャン)を中心に捉えての攻撃だとすると、あのわずか数秒で1,176km以上の距離を移動したことになる。光速は越えていないので可能と言えば可能だが、密集隊形の中でこれをやるのは困難だ。

 しかし、地球連合(ユナイテッドアース)基幹艦隊に弱卒はいない。宇宙最速理論(スピードスターオーシャン)の操艦を担当する操舵手も、操艦技能で匠衆(マイスターズ)でもトップを争う一文字艦長が直接鍛え上げた猛者だ。

 そして球形陣に比べれば立方陣は艦隊の並びがすっきりしていることもあり、操舵手にとっては事前に分かっている攻撃の回避程度は出来ないことではなかったのだ。

 

一文字「艦隊陣形、穴を塞ぎつつ膨張率10倍! ……操舵手、次も頼むぞ」

 

操舵手「は、お任せ下さい」

 

 任せていられない状況になれば一文字艦長自らが操舵を行うこともやぶさかではないが、まずその必要は無いだろうというくらいには一文字も操舵手の腕を信用している。そうでなくては宇宙最速理論(スピードスターオーシャン)の操艦は任せられない。

 

 なお陣形膨張率10倍というのは通常の立方陣に比べ艦の配置間隔を10倍、200kmにして隙間を大きくし、AWF(アンチワープフィールド)を保ちながら射角を確保して一度に行使出来る火力を増強するということだ。また同じ攻撃が来るならレーザーが当たる艦の数を1/100に減らす意味もある。

 

 そうして状況を整えていた所に魔術機連隊から連絡が入った。

 

アイリスディーナ≪閣下、突入部隊集結完了しました≫

 

ラダビノッド「宜しい、攻撃開始! 雑魚は気にしなくていい!」

 

アイリスディーナ≪了解!≫

 

 

 

 戦域の一角に、総勢12機1個中隊の轟雷が集結していた。所属する魔導衛士は以下の通りだ。

 

・アネット・ホーゼンフェルト准将

・沙霧 尚哉大佐

・駒木 咲代子中佐

・篁 結衣中佐

崔 亦菲(ツイ・イーフェイ)中佐

・月詠 真那中佐

・神代 巽少佐

・巴 雪乃少佐

・戎 美凪少佐

・御剣 冥夜少佐

・ユウヤ・ブリッジス少佐

・タリサ・マナンダル少佐

 

 近接戦闘に長けた面子ばかりが揃っていることが分かるだろう。彼女達は人呼んで地球連合(ユナイテッドアース)戦闘団抜刀中隊。地球連合(ユナイテッドアース)戦闘団魔術機連隊突撃前衛長(ストームバンガード・ワン)を務めるアネット准将が率いる突破力特化部隊だ。

 ただし普段の所属中隊はばらばらである。普段はそれぞれの所属部隊で近寄ってくる敵を迎撃したり、部隊の前進に合わせて眼前の障害を駆逐したりするのが役割だ。それを今回ひとかたまりに集めたのだ。その目的は明白であろう。

 

アネット≪突入許可が出たぞ野郎共ォ! 久々の光線級吶喊(レーザーヤークト)だ! びびってる奴はいないだろうなぁ?≫

 

亦菲(イーフェイ)≪今更そんなのいるわけないでしょう?≫

 

タリサ≪あったりまえだぜ!≫

 

 部隊長のアネットが軽く挑発しつつ通信越しに隊員の表情を睥睨するが、勿論この期に及んで覚悟が決まっていない者などいない。

 

 光線級吶喊(レーザーヤークト)。本来はその名の通り、敵陣の奥に控える光線(レーザー)級や重光線(レーザー)級を始末するために敵陣深くに切り込む対BETA戦術。浸透戦術の一種に分類される。

 光線(レーザー)級の命中精度と攻撃力の高さ、戦術機の防御力の弱さから、実行には多大なリスクを伴うが、やらなければそれ以上の被害を受けるためやらざるを得ないという、過酷な使命を負った戦術行動である。

 そしてアネットが元々所属していた第666戦術機中隊黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)はその光線級吶喊(レーザーヤークト)のスペシャリストであり、味方の砲撃援護が不完全な状況で第一世代戦術機MiG-21バラライカ僅か1個中隊弱で突撃して戦術目標を達成しつつ、中隊の機体はともかく人員にほぼ被害を出さないというとんでもない技量を誇っていた。

 驚くべき事にこれはターニャが介入する前の時点での戦果だ。ターニャの手によって第666戦術機中隊が国連軍に引き入れられ、最新鋭機が配備されるようになってからは、特訓の成果もあいまって損害がそれまで以上に軽減されたことは言うまでもない。

 

 そして今現在敵陣後方にあの巨大GAMMA、仮称衛星級が居座って極太レーザーを撃ってくる状況でその討伐のために切り込むのは、戦術的には同じ意味がある。この引率をアネット准将に任せるのは妥当な采配だと言えるだろう。

 

アネット≪ワープアタックを敢行する! 目標、衛星級! 準備はいいな! 3……2……1……ワープイン!≫

 

 抜刀中隊中隊長を務めるアネットのカウントダウンで全機が一斉にワープインし、超空間へと突入した。

 迅雷に比べ容積に余裕がある轟雷には時空勾配推進システムに加えてワープエンジンMk.3/Sも搭載されている。/Sとついている省体積版だけあってこのワープエンジンは艦載用ほど高性能ではないが、一日に数百光年程度の行軍になら自力でついていける程度の性能はある。

 また、サイズの問題でヘビーインファクトリ級1隻に轟雷1個連隊を直接格納することは出来ないが、必要ならば旗艦以外の無人のインファクトリ級に数機ずつしがみついて一緒にワープするシップデサント戦術も可能である。こちらの方法なら衛士の疲労と引き換えに5,000光年/日の行軍が可能だ。

 今回はわずか5.5光秒の距離なので轟雷自前のワープエンジンを使う判断になったわけだ。

 

 わずか5.5光秒ならば距離的には時空勾配推進で亜光速まで加速しての突撃も理論上は可能だが、いかんせん敵が多い。轟雷は非常に頑丈だが、濃密な弾幕と艦載機の群れに亜光速で突っ込むと避けづらいし、レーザーはまだしも亜光速衝突の衝撃が魔導衛士に与えるダメージは無視出来ない。

 そして今のところ実空間から超空間への攻撃が確認されていないので、超空間経由での侵攻が選択されたわけだ。実際ワープイン時点で前方に敵影は無かった。

 しかし敵の対応は早かった。目標距離の1/3ほどを進んだ時点のことであった。

 

コマンドポスト≪抜刀隊前方2光秒にワープイン反応! 数は100万!≫

 

アネット≪ハッ、()()()()()()()! 各機抜刀! 速度を落とすなよ!≫

 

 どうやらGAMMA側は空間跳躍ミサイルのような超空間迎撃手段が無いため、直接超空間内にワープインして阻止するつもりのようであった。

 ワープインした100万体の戦艦(バトルシップ)級が超空間内に出現し、抜刀中隊の行く手を阻む。しかしアネットだけでなく誰一人それに怯んではいない。速度を落とさないどころか逆に加速を続け、上下左右方向への微調整で隙間を抜けながら抜刀し、戦艦(バトルシップ)級の側面ラザフォード(フィールド)を斬りつけた。

 むしろGAMMA側がワープインしてから艦載機を発艦させる暇が無いので待ち伏せの利点が消えており、衝突事故になる対象が少ないため、対処が楽なくらいだった。

 

 現在の抜刀中隊の轟雷は、元々物理攻撃力が過剰なのにエンチャントまで物理に寄せている。

 轟雷のステータス表示にエンチャントの項目があり、標準で『魔導』になっていたのを覚えているだろうか。つまり現在の匠衆(マイスターズ)の技術では機体を変更せずともエンチャントだけ随時入れ替えて最適化することが可能になっており、抜刀中隊では全員敵陣突破用の物理エンチャントに切り替えているのだ。

 ただでさえ轟雷の物理攻撃力は迅雷の100(けい)倍。それに物理エンチャントを乗せた結果、通りすがりの通常攻撃でオーバーキル判定が発生し、多数の戦艦(バトルシップ)級が連鎖的に爆散した。

 それを振り返りもせずに抜刀中隊は突き進み、目標の仮称衛星級に接近してワープアウトしようとした所で、問題が発生した。

 

冥夜≪AWF(アンチワープフィールド)だと!?≫

 

コマンドポスト≪敵AWF(アンチワープフィールド)、1光秒範囲は12機で押してもワープアウト不可能です!≫

 

 元々出来たのかこちらを学習した結果なのかは知らないが、仮称衛星級がAWF(アンチワープフィールド)を展開してワープアウトを阻害したのだ。かなり出力が高く、艦載用と比べると低出力なワープエンジンMk.3/Sでは12機分のワープアウト圧を合算しても仮称衛星級から半径1光秒ほどはワープアウトが難しい。

 しかし仮称衛星級以外はAWF(アンチワープフィールド)を展開していないので、その外側からのワープアウトであれば問題無い。

 

アネット≪チッ! 1.2光秒通り過ぎてからワープアウトして折り返すぞ!≫

 

コマンドポスト≪更に前方にワープイン反応! 数は20万!≫

 

アネット≪好都合だ、蹴散らせ!≫

 

 衛星級を通り過ぎたあたりにもまた戦艦(バトルシップ)級がワープインしてきたが、これも抜刀中隊各員が通常攻撃に術式で倍率をかけて斬りかかると、オーバーキル判定であっという間に壊滅させることが出来た。少しは残っているが気にするほどでもない。

 アネットは手早く二重空間超越レーダーの結果を見ると、更に指示を出した。

 

アネット≪各機反転、一斉ワープアウト!≫

 

 アネットの指示で轟雷各機が一斉ワープアウトを試みると、12機分の出力を以てしてAWF(アンチワープフィールド)の抵抗を突破し、実空間へのワープアウトが成功した。

 

コマンドポスト≪衛星級、チャージを完了しつつあり!≫

 

アネット≪沙霧、ぶちかませェ!!≫

 

沙霧「承知!」

 

 沙霧機が衛星級に目標を定め、突撃を敢行する。

 標的である衛星級の大きさは戦艦(バトルシップ)級の100倍。ラザフォード(フィールド)耐久力は戦艦(バトルシップ)級の100万倍程度と推定されている。つまり100(じょ)ほどになる。

 その衛星並の規模のGAMMAに対し突撃を敢行した沙霧は、()()()()()()()()で渾身の一太刀を浴びせた。

 

沙霧「チィェストォォォッ!!!!」

 

 その一太刀には原子核パスタの膨大な質量、時空勾配推進機の重力加速、物理特化のエンチャント、各種バフ、縮退炉機関出力、鍛え抜いた剣技と魔導の技量、そして裂帛の気合が乗っていた。

 結果として沙霧の剣閃は衛星規模のGAMMAを真っ二つにするどころか粉微塵にし、周囲の敵艦隊100万隻ほどを艦載個体もろとも巻き込んで爆散させた。

 

沙霧「……我が斬澗刀(ざんかんとう)に断てぬ物無し」

 

 満を持して登場した超大型種がまさかの一撃で葬られるという異常事態であり、もしGAMMAに感情があったら大いに困惑していたことだろう。

 

冥夜≪これが雲耀(うんよう)の境地……凄まじいな≫

 

 雲耀(うんよう)。雷雲の狭間から漏れる雷光のことで、この場合は示現流の流れを汲む沙霧の全力の一太刀、『雲耀(うんよう)の太刀』のことを指す。

 迅雷の必殺技が威力倍率65の『迅雷』だったのに対し、『雲耀(うんよう)の太刀』の倍率はと言うと……実は1だ。

 というのも、そのあまりにも神懸かった威力から『雲耀(うんよう)の太刀』と呼ばれてはいるが、その実態はスキルではなく沙霧個人の技量に依存した()()()()である。




 (じょ)の字は正しくは「禾予」なのですが、表示出来ないので代替文字になりました。
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