【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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275. これは雲燿(うんよう)の……いや、これこそがまさに神雷(じんらい)……!!

 まず沙霧の轟雷が使っているこの長刀、スケールはともかく、見た目は戦術機用長刀とあまり変わっていない。しかし素材が違う。この長刀は原子核パスタ製であり、名前を『斬澗刀(ざんかんとう)』という。

 (かん)は1036のことで、エンチャントとバフと技量を突き詰めればそのくらいの威力が見込めるという意味で付けられた名前だ。名前の元は勿論グルンガストやダイゼンガーの斬艦刀なのだが、実際の威力に比して対艦程度の想定ではスケールが小さすぎるということから(かん)に改められたのだ。

 ただし斬澗刀(ざんかんとう)は抜刀隊のみならず長刀使い全員の共通装備だ。

 

 そして物理特化轟雷と斬澗刀(ざんかんとう)による一般的な通常攻撃の威力だが、普通に振り抜いただけでも29(じょ)1000(がい) = 2.91×1025DMGになる。

 この時点で(かん)の桁には届いていないが、戦艦(バトルシップ)級のラザフォード(フィールド)耐久力1(がい)などとうに置き去りにして、29万1000倍のとんでもない()()()()()()をぶちかますことになる。すると何が起きるか。

 既に結果が出た通り、オーバーキルダメージで加害範囲が爆発的に拡大するのだ。しかも味方に当たらない。これは元々トピアがよく活用していた現象で、現在では『次元断』と呼ばれている。

 しかしこれは勿論実際に次元を斬っているわけでもないし、そういう名前のスキルでもない。なのに真空中で加害範囲の拡大現象が起きているため、スーパーイナズマキックのようにエーテルを介して衝撃波が伝わったかのようにも見えるが、この宇宙はトップ世界のようなエーテル宇宙ではない。

 ならば何故こうなるのかと言えば、そもそもステータスとエンチャントで攻撃力(ATK)が10倍になった状態で剣を振ったとして、実際の動きでは速度も質量も増えていない。物理法則とは無関係に()()として威力が10倍になるのだ。それと同じで、オーバーキルで加害範囲が拡大するのは、そういう()()であって、伝達に必要な何かがあるかどうかとは全く無関係なのだ。

 それを積極的に活用しすぎてもはや仕様の想定を超えたバグのような挙動になっているが、今沙霧達が見せたように、技量によってはとてつもなく強力になるので使わない手は無い。抜刀隊は同じ次元断を使って残存の戦艦(バトルシップ)級を万単位で駆逐し始めていた。

 

 しかしその通常攻撃29(じょ)1000(がい)程度のダメージでは戦艦(バトルシップ)級の100万倍の100(じょ)にはまだ届いていないので、頑張って倍率を上げるとしよう。

 

 まず追加で20並列物理威力強化100万倍を乗せると、3050(じょう) = 3.05×1031DMGになる。

 大した威力であり、既に仮称衛星級を倒せるようになっているが、ここでやめたら斬澗刀(ざんかんとう)の名折れだ。あと5桁を何とかしよう。剣技を極めるのだ。

 

 そもそも刀による通常攻撃は典型的な物理攻撃なので、剣の技量によってはまだまだ大幅に威力を増すことが可能だ。

 ただし移動速度と剣速が見た目上は光速を超えているのは物理法則と無関係なエンチャントによる効果である。そして仕様としてはエンチャントやスキルで速度が何倍になっても映像の早回しと同じで威力は全く変わらないので、エンチャント補正前の速度を基準として計算する。

 つまり実質の目指す所は時空勾配推進による()()()()()だ。

 何、出来ない? 大丈夫大丈夫、ファイブスターの騎士ならみんなやってる。平気平気。

 何しろこの亜光速の剣速を前提とした威力計算は現在の沙霧を基準にしたものだ。常識的に考えて出来るはずがないと思っていても、出来る実例がいるんだから出来るとしか言いようがないだろう。

 元々の剣速が108km/h = 30.0m/秒程度だったとして、スケールを100倍にした轟雷の剣速は3.00km/秒程度になる。時空勾配推進で光速相当の運動エネルギーを与えたとして、光速が30万km/秒なので、目一杯加速して10万倍。運動エネルギーにして100億倍だ。つまり30(せい)5000(かん) = 3.05×1041DMGになる。

 見ての通り、沙霧は想定された(かん)の桁を5つ程オーバーランしているが、まあ強い分には問題無い。この場合のエンチャント抜きの剣速は0.786c、エンチャントで速度2倍なら1.572cだ。

 実際には相対性理論により速度が増えなくても質量を増すことで計算上は光速相当を越える程の運動エネルギーを与えることが出来る筈だが、加速距離が短いのでとりあえず光速相当でヨシとしよう。

 

 さてこの亜光速斬り、何故沙霧にしか出来ないのかと言えば、単純に難しいからで、実現のために原理上必要な高等技術が3つある。

 

 1つは阿頼耶識改を通じた人機一体を通常よりも高度なレベルで行うことだ。

 先ほど計算した通り、人間の筋力による太刀筋を100倍スケールにしただけでは亜光速は出せない。その10万分の1程度だ。つまり同じスケールにしたとしても最大で人間の10万倍の速度を出せる轟雷の身体能力を完全に理解して我が物にする必要がある。

 しかも動作原理が筋肉の収縮と重力作用では根本的に異なるので、轟雷特有の感覚を掴むのはかなり大変だ。

 

 2つ目に、その身体能力を前提とした剣術の合理を実現すること。

 これが出来ないと自傷してしまうことになるのだが、動作速度が10万倍違うのに同じ合理を再現するのはかなりの困難を伴う。そのため、剣術を深く理解した上で、まずは可能な範囲の速度で剣を振り、最適化し、動作速度を少し上げてはまたその速度に最適なモーションを見つけるという極めて地道な繰り返し作業が必要だ。しかも実戦で使うには上段振り下ろししか出来ませんでは応用の幅が狭すぎる。その速度帯に合わせたあらゆる動きが臨機応変に出来なくてはならないのだ。

 

 最後の1つは相対性理論に基づく状態変化を掌握すること。

 剣速が光速に近づくことによって相対性理論により計算上の質量がどんどん増加し、加速しづらくなるので、力加減がより一層難しくなる。更に射出したらそれっきりの砲弾の場合は気にしなくて良いが、手持ち武器となると()()()()()()()()()という概念的に難解な状態になるのも問題だ。光速の10%前後からこれらが原因で感覚のズレが大きくなってくる。

 それらの複雑な特性を頭と体の両方で理解出来なければ亜光速域の速度は制御出来ない。元彩峰一派で論理展開に難があるため忘れがちだが、沙霧は学問も出来る方だ。どちらかと言えば文系とはいえ、伊達に眼鏡をかけているわけではないのだ。

 

 その3つの指針に基づいて抜刀隊所属隊員はそれぞれ剣速の向上に励んではいるのだが、それで光速相当の運動エネルギーまで到達しているのは沙霧だけという状況だ。二番手の月詠 真那でも光速の10%相当が限度で、このあたりで団子になって二番手争いをしている。当然威力は沙霧の1/100になる。3050(かん) = 3.05×1039DMG = 3.05×1040Jだ。

 つまり真那達の剣技でも通常の1万倍程度までは加速しており、威力としても斬澗刀(ざんかんとう)の名に恥じないレベルに達している。当然仮称衛星級をぶった切るには既に十分すぎるくらいなのだが、なまじ目標として沙霧が見えてしまっているため真那以下の隊員も更に上を目指して修練に励んでいる。

 また無駄に修行熱が高まってしまったことで、やめろとは言えない匠衆(マイスターズ)戦闘班も自身を鍛えるのに必死であった。

 

 一応術式で時間感覚を引き延ばせばある程度は自分の動きを知覚しながら剣を振り回せるのだが、それでも10万倍引き延ばすには枠一杯を使った上でオーバーブーストや重ね発動が必要で、あまり引き延ばしすぎると逆に身体感覚がずれてしまったり音声情報を聞き取れなかったりする問題もある。

 そして実は沙霧は時間感覚調整術式を精々1,024倍までしか使っていない。あと100倍ほどは複数の核ミサイルを雷速で斬ったときと同じで、ほぼ剣術のみで事を為している。実に変態的な人間離れぶりだ。

 

 さて、沙霧の渾身の一撃である雲耀(うんよう)の太刀をエネルギーに換算すると3.05×1041DMG = 3.05×1042Jになるが、これが実際どんなスケールのエネルギーなのかを見てみよう。

 

・1.14×1015J:(1.14P(ペタ)J)2kg重水素爆弾の放射エネルギー

・1.00×1016J:(10.0P(ペタ)J)二輪戦艦(アドラステア)級のラザフォード(フィールド)耐久力

・1.74×1017J:(174P(ペタ)J)1秒間に地球大気~地表に降り注ぐ太陽光エネルギー

・7.19×1017J:(719P(ペタ)J)8kg対消滅爆弾の放射エネルギー

・1.00×1018J:(1.00E(エクサ)J)巡視船(パトロール)級のラザフォード(フィールド)耐久力

・1.00×1020J:(100E(エクサ)J)インファクトリ級レーザー主砲の秒間最大出力

・4.00×1020J:(400E(エクサ)J)縮退炉戦闘出力Minuteモードの秒間出力

・1.00×1021J:(1.00Z(ゼタ)J)戦艦(バトルシップ)級のラザフォード(フィールド)耐久力

・1.59×1021J:(1.59Z(ゼタ)J)術式で100万倍強化した連続照射魔導光線の秒間威力

・6.23×1021J:(6.23Z(ゼタ)J)縮退炉緊急出力Secondモードの秒間出力

・1.88×1026J:(188Y(ヨタ)J)地球表面が蒸発するドリフ隕石の運動エネルギー

・2.91×1026J:(291Y(ヨタ)J)物理特化型轟雷の通常攻撃

・3.85×1026J:(385Y(ヨタ)J)太陽が1秒間に放射するエネルギー

・1.00×1027J:(1.00R(ロナ)J)仮称衛星級のラザフォード(フィールド)耐久力←今回の標的

・1.87×1032J:(187Q(クエタ)J)地球の重力結合エネルギー

・3.05×1032J:(305Q(クエタ)J)物理特化型轟雷の通常攻撃に物理術式100万倍

・2.00×1036J:木星の重力結合エネルギー

・3.05×1040J:物理特化型轟雷の通常攻撃に物理100万倍×速度1万倍

・1.90×1041J:太陽の重力結合エネルギー

・5.37×1041J:地球質量の理論上の総質量エネルギー

・3.05×1042J:雲耀(うんよう)の太刀←イマココ

 

 仮称衛星級のラザフォード(フィールド)耐久力を軽く超えているのは勿論、1033以降はSI接頭辞の語彙も尽きてしまい、(もし当たれば)太陽すら軽く消し飛ぶエネルギーレベルに至っている。それは「我が斬澗刀(ざんかんとう)に断てぬ物無し」の文言が額面通りに通ってしまうという異常な威力であった。衛星規模のGAMMAが消し飛ぶのも当然であり、こんなもの絶対に地上で使ってはいけない。オーバーキルダメージによる加害範囲拡大は味方や地形には影響しないとはいえ、魔法的原理によるそれとは別に亜光速の運動エネルギーによる物理的影響は大気や地面を伝わるのだ。

 

 現在ほぼこの計算通りの威力を出せているのは沙霧だけだが、では出来ないのに無理に真似しようとするとどうなるかと言えば、斬澗刀(ざんかんとう)がすっぽ抜けて飛んで行くだけならましな方で、大体は原子核パスタ構造材で出来ている頑強な轟雷の腕がもげて吹っ飛んでいく。もっと酷い場合は止めるべきタイミングで止め損ねて本体も大破する。本体が大破しなくても衝撃で衛士が死ぬ場合すらある。

 戦闘中にそんなことが起きれば一大事なのは勿論、どこかの有人惑星にでもメテオストライクしたら大惨事である。

 また、単なる体当たりで亜光速突撃してもかなりの威力は出るが、衝突の際の衝撃を相殺しきれずにやはり機体と衛士が大ダメージを受けることがあるので基本的には禁止されている。

 そもそも轟雷を運用する時点で物騒な桁のエネルギーを振り回すことにならざるを得ないという実態がある。オプションの名前に「決戦用」とわざわざついているのは、必要も無いのに引っ張り出すと惑星レベルで酷いことになるぞという意味なのだ。

 

 

 

 というわけで、沙霧の渾身の一太刀は、普通に使おうとすれば自滅するだけの技を努力と根性と技量で使いこなすという、職人芸や達人芸を超えたまさに神業とも言うべき所業なのだが、訓練中にその技を見せられたトピアはあまりのワザマエに驚愕し、思わず呟いた。

 

トピア「これは雲燿(うんよう)の……いや、これこそがまさに神雷(じんらい)……!!」

 

沙霧≪迅雷(じんらい)……?≫

 

 沙霧は迅雷の必殺技の方の65倍撃『迅雷』かと思って聞き返したが、同じジンライでも文字が違う。スーパーロボット大雷鳳(だいらいおう)の最終奥義『神雷(じんらい)』だ。

 大雷鳳(だいらいおう)雷鳳(らいおう)の強化型機体だが、設計上の問題で、全力の蹴りを下手にぶちかますと自機の方が耐えられず自壊するという欠陥があった。これを何とかするには機械の精密計算によって人間の限界を無理矢理引き出すシステムRIOHに再度頼るしかない、となったところで、パイロット自らの猛特訓によって常に相手の重心のど真ん中を捉えて攻撃することでRIOHに頼ること無くそれ以上の全力攻撃を可能にしたという、ひとえに努力と根性による神業。それが『神雷(じんらい)』だ。

 そういえば大雷鳳(だいらいおう)のパワーアップ前が雷鳳(らいおう)で、更にその前が()()()()だったな、と思い出した所でトピアの中でイメージが固まった。迅雷の必殺技が『迅雷』で、その決戦モードである轟雷の必殺技、しかも魔導衛士の技能、スキルではなく努力と根性による技能によってしか成立しない神業ならば『神雷(じんらい)』の名に相応しいのではなかろうか。

 

 とはいえそれで決定にはならなかった。

 トピアは当初『雲燿(うんよう)の太刀』にあやかった技名にしようかと思っており、理想郷の建設者(クラフトピアン)を中心にこちらの支持者も多かった。それは由来からして相応しい名前だからだ。

 雲燿(うんよう)の太刀は斬艦刀を武器とするスーパーロボット・ダイゼンガーの必殺技であり、同じく示現流の流れを汲むものだ。

 文字が似ていて紛らわしいが、雲燿(うんよう)とは雲耀(うんよう)の異体字で、つまり同じく雷雲の狭間から漏れる雷光のことだ。そして示現流において雲耀(うんよう)とは雷光のごとき打ち込みの速さのことを言う。

 そして日本帝国の剣技はその示現流をベースとしているため、沙霧が轟雷で光速相当の威力に至り、攻撃速度エンチャント込みで光速を越えるという一撃はまさに雷光、『雲耀(うんよう)の太刀』と呼ぶのが相応しいのだ。

 

 その技を実現した当人である沙霧を差し置いて匠衆(マイスターズ)幹部と理想郷の建設者(クラフトピアン)達が真剣に割とどうでもいい議論を重ねたが、決着は思わぬ形になった。

 元々最強の一角であるステークが、長年研鑽に励んだ熟練の魔導技術と体術、徒手空拳を以てして沙霧と同じ高みに至ったのだ。

 そこで沙霧の全力の一太刀を『雲耀(うんよう)の太刀』、ステークの全力の一撃を『神雷(じんらい)』と呼ぶことになった。

 ちなみに今やグルカ族の勇者として名高いタリサは器用なことに剣術と体術の両方1万倍までの加速に対応しており、特別な技名はついていないがこれはこれでかなりすごい。

 

 ところで技名に神の字が入っているのは不敬ではないかという懸念があるだろうが、その心配は無用だ。そもそも匠衆(マイスターズ)は神の意向により動く組織であり、許可を取ろうと思えば取れるのだ。

 つまりトピアがわざわざ七圏守護神(ハーロ・イーン)に掛け合って『雲耀(うんよう)の太刀』と『神雷(じんらい)』を神公認の神業と認定してもらったのだ。

 トピアは原作でもトップクラスのやらかしぶりから沙霧のことが好きではないが、沙霧がそれを反省してここまでやり遂げたのに認めないのでは幾ら何でも狭量すぎるだろうということだ。大体今では頼れるゲルマン薩摩武士として認知されているゼンガー・ゾンボルトだって最初は敵として出てきたではないか。

 七圏守護神(ハーロ・イーン)としてもこの常識外れの絶技は人間が研鑽により辿り着いた極地と認めるにやぶさかではなく、むしろ公認にすることで神の威光を増すとしてすぐに許可が下りた。

 ステークは元々クラエル神の第一の信徒であったことから既に使徒扱いでいいとして、沙霧の方は誰の使徒にするかで取り合いになったくらいであった。

 結局の所使徒の件は沙霧自身が「この身はまだまだ未熟であります」と断ったのだが、これは沙霧が一度道を誤ったことからまた神の名の下に自らの正しさを盲信することを懸念したための言葉であり、研鑽を認められたこと自体は嬉しそうだった。




 沙霧をゼンガーのような位置に置くのは幾ら何でも扱いが良すぎじゃないかと言われればぶっちゃけ作者もそう思うのですが、この人は原作ではやってることが迷惑なのに並ぶ相手がいないくらいに強いから、強い分だけ迷惑度が増していたタチの悪いキャラだと思うのです。
 それで、原作の強さを基準にして現在の環境で誰が最初に雲耀の境地に達するかなと考えたら、冥夜や真那じゃなくてやっぱり沙霧ではないかなと。
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