【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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276. 我らが力を合わせれば珪素生命体(シリコニアン)など目ではないのであります!

 地球連合(ユナイテッドアース)基幹艦隊が打ち砕いた長軸約2,000kmの巨大GAMMAは、本部で衛星(サテライト)級と命名された。仮称をほぼそのまま採用した形だ。

 そして戦力評価としては衛星(サテライト)級を撃滅するには()()10個基幹艦隊以上の包囲によるベルカ砲の斉射か、もしくは決戦兵器轟雷が必要という結論になった。

 

 衛星(サテライト)級のラザフォード(フィールド)出力がスケールだけの大雑把な計算で推定1.00×1027Jだが、艦船同様に前後に長い戦艦(バトルシップ)級と違って衛星(サテライト)級は球体に近いので体積から更に10倍程度と脅威度を上方修正して1.00×1028J、本体耐久力と合わせてその倍あるとすると2.00×1028J。

 これに対し30.5cmベルカ砲1射で4.37EJ = 4.37×1018J、インファクトリ級1隻に8門搭載の2.5倍モードで秒間1.25発なので1隻あたり4.37×1019W、更に500万隻×10個基幹艦隊で2.19×1027W。

 この火力を額面通り発揮出来るのであればDPS計算上で9.13秒、着弾までを含めても十数秒で片付くので、予め主砲がチャージされていたとしても2射目を受ける可能性がかなり低くなる。

 

 つまり最初に遭遇した地球連合(ユナイテッドアース)基幹艦隊の10個基幹艦隊規模でも最初の10秒程度で衛星(サテライト)級を沈めることが出来た計算になるが、これには2つ問題があった。

 まず1つは、衛星(サテライト)級以外にも戦艦(バトルシップ)級が800万体おり、更にその艦載機が展開済みであったため射線を遮られていたこと。

 そしてもう1つは、地球連合(ユナイテッドアース)基幹艦隊の陣形が侵入阻止(ホームセキュリティ)ドクトリンを重視した立方陣の膨張率1倍だったので味方艦に射線を遮られて全火力を同時に発揮出来なかったことだ。

 艦隊の全火力を同時に発揮するには、最前列にほぼ全艦を並べる平面陣や半球面包囲陣にする必要がある。これだけで火力が立方陣や球形陣の5倍から10倍程度違う。ついでにクロスファイア効果までついてくる。

 しかしそのためには陣形変換に時間が掛かるのでその間に何度も攻撃を受けることになる。また、陣形変換を終えたとしても今度は侵入阻止(ホームセキュリティ)ドクトリンが破綻してワープ突入攻撃を防げなくなる。そのため、轟雷による突撃が最善手となったわけだ。

 

 一方、無人のTOM(トム)にミサイルタレットMk.3 Type Gを80搭載してP弾頭を連射すると140(けい)DPS、30.5cmベルカ砲ことレールガンMk.4/XLを1門搭載して54(けい)6250兆DPS、合計194(けい)6250兆DPS = 1.95×1019Wになる。

 しかし衛星(サテライト)級がAWF(アンチワープフィールド)を張ることを前提とするとミサイルはその範囲外にワープアウトせざるを得ないので、迎撃による爆発で逆に他のミサイルやベルカ砲の砲弾を巻き込んでしまう可能性が高い。よってベルカ砲のみで攻撃すると想定する。

 そうなるとTOM(トム)8機でインファクトリ級1隻分の攻撃力になるので、5千万×8=4億機で10個基幹艦隊分の攻撃力だ。艦載機だけで9.13秒、艦隊と合わせれば4.57秒での衛星(サテライト)級撃破が可能となる。

 しかし、ベルカ砲だと射線が通らないと撃てないのでやはり球形陣や方形陣ではTOM(トム)も出撃後すぐには活躍出来ない。それどころか逆にTOM(トム)が射線を遮るという本末転倒なことにもなりかねない。

 防衛戦なら予め最適な位置に配置しておけるので、そちらの用途で使うべきだろう。

 

 ここで、陣形バリエーションには侵入阻止(ホームセキュリティ)ドクトリンと火力をある程度両立するものもある。同じ形でも艦隊を並べる間隔を通常より大きく取る膨張陣形というものだ。例えば10倍程度ならまあ平面陣の半分くらいの火力は発揮出来ると言われており、一文字艦長は立方陣の10倍を指示している。

 普段からそうしていないのはデメリットがあるからだ。10倍膨張時には陣形の密度が低下するため、1隻あたりで支えるべきAWF(アンチワープフィールド)の距離が10倍、体積が1,000倍になる。距離が遠ければその分効果が低下するし、1,000倍の体積に1,000倍の艦隊が一斉ワープアウトしようとすれば到底支えきれるものではない。実際防げるのは少数の艦隊や空間跳躍ミサイル程度のものだろう。

 

 膨張陣形はその場の対応としては悪くない選択肢だが、実はもっと簡単な解決法がある。それは艦隊数を10倍にするというものだ。要するに火力が平面陣の1割しか出ないなら10倍並べればいいじゃないという単純な答えだ。すなわち最低限必要と言われる10個基幹艦隊から10倍に増やして、100個基幹艦隊規模だ。何だったら複数の衛星(サテライト)級との遭遇に備えて1,000個基幹艦隊規模にしてもいい。数にはまだまだ余裕があるのだ。旗艦の回避余裕を考えると陣形は立方陣が望ましい。

 ランチェスターの法則からしても、基本的に味方の数が多ければ多いほど損害が少なくなるが、衛星(サテライト)級の主砲が貫通する範囲攻撃という事情を加味すると、密度を高めすぎると逆に損害が増大する場合があるので注意が必要だ。

 

 

 

 そして次の問題として、この星系の居住可能惑星には珪素生命体(シリコニアン)らしき知性体が存在し、ここまでの調査でどうやらBETAの創造主でほぼ間違いないだろうという結論が出ている。

 その詳細はまた後で述べるとして、珪素生命体(シリコニアン)が居住している惑星全てに最終防衛装置としてあの衛星(サテライト)級が配置されているのなら、あのデカブツをあとどれだけ相手にすれば良いのかという話だ。

 

 大マゼラン雲の残り部分直径1万4千光年における珪素生命体が居住可能な惑星の数を考えてみよう。

 小マゼラン雲の直径約1万8千光年において、珪素生命体が生息していた惑星は僅か1つであった。これを考慮するとそれより狭い大マゼランの残り範囲では精々1つ程度に思えるが、実際の数はそうではない。

 まず小マゼランで実際に珪素生命体が存在した惑星が1つしかなかったが、もう少し詳細に調べてみると珪素生命体が発生しそうな条件を揃えた惑星は139個ほどあり、その中には微生物レベルでは存在する星も5あった。つまり炭素生命体と違って、珪素生命体は発生環境が整っていても発生する確率や多細胞生物に進化する確率がかなり低いのだ。

 

 シイレント文明との接触後に大マゼラン外縁部の全周囲包囲が完了し大マゼランの直径1万4千光年まで進む間の調査によると、大マゼランの直径1万4千光年より外側の部分で見つかった珪素生命体が発生可能な惑星は541個ほど。この部分は小マゼランに比べて体積比で4倍程度なので単純計算ではほぼ同じ密度になるが、そもそも銀河の外縁部で恒星密度が薄いことを考慮すると、小マゼランよりは珪素生命体居住可能惑星の密度が高いことになる。

 これもシイレント文明との接触後の調査結果になるが、大マゼランの直径1万4千光年より外側の部分で、珪素生命体が実際に存在する星は20見つかっている。そのうち多細胞生物に至っているのが3で、文明を持つに至っているのは0だ。当然全てBETAとは無関係であった。

 

 大マゼラン雲の未踏破エリアと既知エリアの体積比は1:9程度になる。単純に541を9で割ると60個程の珪素生命体が発生可能な星が封鎖線の内側にあることになるが、銀河は中心に近い方が密度が高いので、300以上あってもおかしくない。

 また、シイレント人より条件が緩い可能性もあるし、テラフォーミングして住めるようにしている可能性もあるため、実際には1,000以上あるかもしれない。

 

 以上から、更に1桁多めに見積もって1万体程度の衛星(サテライト)級が存在するとしよう。

 現状で轟雷を十全に扱える魔導衛士を全部で3,000人程度は育成出来ており、魔導衛士の水準に達していない衛士を含めれば3万程度。それとは別に全員が魔導衛士水準で轟雷の操縦を担当する星屑の聖十字軍(スターダスト・クルセイダース)が3万存在する。精鋭以外を外すとしても3万3千の轟雷が能力を十分発揮出来る。

 そうなるとスリーマンセル編成で1つの衛星(サテライト)級を撃破すればいいので、移動さえ何とかすれば全ての衛星(サテライト)級の撃破は容易だ。

 

 或いは、先ほど計算したように無人艦隊でも100個~1,000個基幹艦隊固まれば安全に勝てるというのなら、100万~1000万個基幹艦隊程度を一斉にぶつければ短期で勝てる計算になる。

 幸い大マゼラン銀河中心殴り込み艦隊には100億個基幹艦隊が所属しているので、その0.1%を割くだけで衛星(サテライト)級対策に贅沢に1,000個基幹艦隊ずつ使えることになる。こちらのプランでも余裕だ。

 衛星(サテライト)級のレーザーをしっかり避けないと有人艦でも沈む可能性が無くはないので、無人艦隊をぶつければより安全だろう。

 

 というわけで、参謀部とマインが考えた大マゼラン銀河中心殴り込み艦隊100億個基幹艦隊の行動方針は以下のものである。

 

・まず全無人艦隊から0.1%=1000万隻を抽出して1,000個基幹艦隊規模の無人艦隊を1万編成する。それぞれを無人遊撃艦隊と称する

・抽出されなかった残りの無人艦隊はこちらも最低10個基幹艦隊ずつ集結し、戦艦(バトルシップ)級との遭遇に備える。集結後、引き続き恒星系の調査とBETA、GAMMAの撃滅に従事する。この艦隊で手に負えないレベルの相手と遭遇した場合は無人遊撃艦隊を呼ぶ。近くに有力な有人艦隊が存在する場合はそちらが向かっても良い

・有人艦隊も衛星(サテライト)級との交戦に備え、魔導衛士が配属されていない艦隊は1,000個基幹艦隊、配属されている艦隊は100個基幹艦隊以上まとまって動く

 

 結局の所、「戦艦(バトルシップ)級出現戦域はまず戦力を集中して対応せよ」というマインが打ち出した暫定方針から大して変わってはいない。戦術の基本に則った単純で汎用性が高い対処法である。

 といった感想に対するマイン達の反応はというと。

 

マイン「当たり前だ。大体の戦闘は戦力集中の大原則に則って局所的有利を作り出せば何とかなるのだ。それで勝てないのなら戦略レベルの失敗であることは確定的に明らかだ」

 

ターニャ「まあいつでも基本は大事ということですな。相手の衛星(サテライト)級が各恒星系の防衛に徹しているのならこちらがそこに攻め込むまでは遊兵化しているとも言えますし、各個撃破も簡単です」

 

マジェリス「どちらかと言えば、この編成変更に即時で対応出来る戦略情報統括センターのオペレーター達が優秀と言えるな」

 

マキューズ「フフフ、我らが力を合わせれば珪素生命体(シリコニアン)など目ではないのであります! 今度はあちらが滅亡の恐怖に怯える番であります! 絶望に身をよじるが良いのであります!」

 

 マキューズ達心の友(イバーク・ルイエ)の戦意は極めて高く、一刻も早く珪素生命体(シリコニアン)を追い詰めるべく艦隊統合再編成に勤しんでいるのであった。

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