【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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277. 反理想郷(ディストピア)的というか何というか

 さて、地球連合(ユナイテッドアース)基幹艦隊が珪素生命体(シリコニアン)らしき知性体を発見した話に戻ろう。

 

 地球連合(ユナイテッドアース)基幹艦隊は魔術機連隊の活躍もあって周辺のGAMMAをつつがなく掃討し、当面の目的地としていた珪素生命体居住可能惑星の簡易調査を開始した。

 軌道上に衛星(サテライト)級GAMMAが駐留していたその惑星はBETAがハイヴを築いておらず、軌道上からの観測でも何らかの人為的建造物があることが分かった。つまり何らかの珪素生命体が惑星上に文明を築いているということに他ならないので、中枢の守護者(コアキーパー)調査中隊や惑星の開拓者(パイオニア)戦闘工兵隊、工業の伝道者(ファクトリオ)戦闘工兵隊、シイレント調査隊といった専門の調査隊を呼ぶことになった。

 そうして詳細を調査した結果、以下のようなことが判明した。

 

 

 

 まずこの惑星の名前はシュモルレ。

 物質的観点から見た特徴として、まずこのシュモルレはBETAが仕送りした資源を明らかに受け取って利用している。これは物流を見れば間違いない。あの衛星(サテライト)級が軌道上で受け取った資源パッケージを軌道エレベーター伝いに地上に降ろして利用していたのだ。

 資源パッケージはどうやらワープゲートを通って届けられていたようだが、シュモルレ側のワープゲートは衛星(サテライト)級が展開していたので今は開かない。つまり少なくともシュモルレに何か異常があったことはワープゲートの向こう側に知られており、もしかすると本星にも知られているかもしれない。

 次に、殆どの建物の素材が炭素化合物で、一部が金属製。これは金属が希少なためで、金属は建造物の構造強度を高めるためではなく、地位の高さを表す為に使われている。

 機械文明ではなく、電力は殆ど使っていない。代わりにBETAやGAMMAに似た様々な炭素系生物を使役している。輸送手段も通信機器も映像機器も計算機も全部生物構造。調べた所によるとこの炭素系使役生物は労働力(マスニフ)と呼ばれている。機械文明で言う所のロボットのような扱いだ。

 この労働力(マスニフ)の原料や燃料にG元素(ゲド)を継続的に消費する文明が成立しており、G元素(ゲド)が全てのインフラの要になっている。他の恒星系や銀河の外までBETAを送りつけたのはこの消費文明を維持するためである。

 以上のことからシュモルレがBETAの創造主である珪素生命体(シリコニアン)もしくはその関係者の居住惑星の一つであることはまず間違いない。

 

 次に社会的特徴として、エネルギーが潤沢なためか支配者層以外の貧富の差は無い。そもそも仕事や金銭のやりとりが基本的に無く、与えられるままを享受している。

 娯楽すら頭脳型の労働力(マスニフ)が作っており、市民はただ消費するだけ。市民自体が社会の役に立つことは基本的に無い。

 多少なりとも働かなければならない植民惑星自治領主は地位は高いが実質ただの貧乏くじなので、余程名誉欲がないとなりたがらない。

 

 ここまでの特徴は見た目と炭素生命体由来文明への迷惑はともかく文明内では貧富の差も無く働かずにぐうたらと過ごせる理想郷(ユートピア)的な社会とも言えるのだが、問題はここからだ。

 

 生物的特徴として、居住しているのは珪素主体生命体である。

 ここの珪素主体生命体は内骨格型生物で、マグネシウム化合物主体骨格の上に高分子珪素化合物主体筋肉を纏っている。

 ()()()コミュニケーション手段は音声ではなく、ESPに近いものだ。念話術式は通用する。

 その独自のコミュニケーション手段によりネットワークを構築しているが、自力で展開出来るのは惑星内までで、他の惑星とコンタクトを取るには長距離通信用労働力(マスニフ)に頼る必要がある。

 ()()()()()()()()()()退()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので、生まれてからずっと労働力(マスニフ)に介護されるような生活をしている。

 具体的には1.5頭身くらいしかないので、自力歩行など到底出来ず、首から下はかつての身体の名残でしかない。同様に発声器官も退化しているので、昔は音声によるコミュニケーションも出来たと思われる。

 

 

 

 生物的特徴の解説とそれに添えられた現地住民の写真を見た匠衆(マイスターズ)幹部会出席者達が露骨に顔をしかめた。

 ここはインファクトリの戦闘指揮所(CIC)で、重大情報の共有のためにステーク理想郷の建設者(クラフトピアン)戦闘団団長 大将やラリー・テアリジック大地の冒険者(テラリアン)戦闘団団長 大将など艦隊を率いていた幹部も一旦こちらに戻ってきている。

 

トピア「……これは何とも、反理想郷(ディストピア)的というか何というか……環境を快適にしすぎて生物的に駄目になった的な?」

 

 一般的には反理想郷(ディストピア)とは行きすぎて人間性が失われた管理社会のことを指すが、理想郷(ユートピア)的な側面を持ちながらもその実態が残念すぎるという意味ではシュモルレの社会も反理想郷(ディストピア)の一種と言えるだろう。

 

ダグ「退化ということは、以前の姿も分かっているのですかな?」

 

パーキンソン教授「うむ、2億年ほど前は地球人類というか、シイレント人に近い体型だったようだよ。このように」

 

グイリ「……なるほど、似てますね」

 

 中枢の守護者(コアキーパー)調査中隊副隊長のパーキンソン教授が出した資料は確かに同じ珪素生命体のシイレント人に似ており、髪が透き通った人型体型であった。この時点でも首の長さや指の本数などに違いはあるが。

 

タバサ「ふむ、何百万年後の人類は脳以外が退化するという未来予想図にそっくりだね。2億年くらい前から労働力(マスニフ)とやらに頼り切りだったとするならこうもなるか」

 

サティ「そう考えると怖いものがあるわね」

 

テクス「あれ、四肢の小ささではむしろ小人族(ランティノイド)の方が危ないのではござらんか? 急に恐ろしくなってきたでござるな」

 

ペディオ神≪その心配は要らないわ!≫

 

テクス「大地母神様?」

 

 突然背後からビジョンを出してきたペディオ神にテクスが少し驚いた顔で振り返った。

 

ペディオ神≪私が愛する小人族(ランティノイド)達にそんな悲惨な末路は辿らせないし、万が一介護が必要になってもこの私が面倒を見るわ!≫

 

テクス「……お言葉は有難いでござるが、なるべく自助努力で何とかするでござるよ」

 

 どこからかガラガラを取り出して鼻血を垂らしながら恍惚としているペディオ神に頼ると碌な事にならないだろうとテクスは本能で理解したのだった。

 

九十九「教授、過去の資料があったということは歴史的経緯も判明したのかな?」

 

パーキンソン教授「勿論だとも。彼らの故郷はBETAの物資集積点すぐ近く、スベアチレ星系第3惑星、ウルジマルクというらしいのだが――」

 

 パーキンソン教授が語った内容は、これもシュモルレの住民がBETAの創造主の末裔であることを示すものであった。

 

 

 

 珪素生命体(シリコニアン)、惑星ウルジマルク発祥であるいわゆるウルジマルク人の歴史を語ろう。

 まず惑星ウルジマルクには珪素を基質とし自己形成・自己増殖する散逸構造、いわゆる珪素生命体が単細胞生物として誕生した。そして進化の果てにその内の一種が知的生命体に至った。そこまでの歴史で炭素生命体はこの星には全く存在しなかった。地球とは根本的に環境が違うのだ。

 文明を持ち始めた時点でのウルジマルク人は、体格としては地球人やシイレント人と同じくらいで、首が長く、指が4本ずつだった。戦車(タンク)級の指が4本ずつなのはこれに由来しているらしい。ちなみに指の数に合わせて数字は8進法である。

 彼らの文明初期段階では様々な勢力が点在していたが、最も大きな大陸では勢力がまとまるにつれ遊牧民族と農耕民族の2大勢力が対立する形になった。時代が下るにつれて大陸では多くの人口を支えるのに有利な農耕民族の勢力が増した。しかし遊牧民族はG元素(ゲド)を使用することで一部の家畜の性能を格段に高められることを発見した。

 G元素(ゲド)は天然にはほぼ存在しないが、幸い鉱物を食して体内で精製したG元素(ゲド)を排出する珪素生物が天然に存在した。G元素(ゲド)を利用した圧倒的軍事力により、遊牧民族が支配的立場を手をするに至った。遊牧民族はそのまま惑星全域を支配下におさめた。

 ウルジマルクというのはこの支配者層の遊牧民族の言葉で大いなる大地の事であり、語源が『地球(アース)』と一緒だ。つまり偶然にも彼らは『地球(ウルジマルク)人』と名乗っていることになる。

 

 

 

ロナルド「地球(ウルジマルク)人……嫌な偶然の一致もあったものですな」

 

ジョンストン卿「地球人の敵はある意味地球人だった、というわけかね。名前だけとはいえ」

 

夕呼「まあ地上で育った知的生命体が地面という言葉を星の名前にする可能性は低くないんだから、今更そんなに気にすることも無いでしょう」

 

アシレ≪そうそう、うちの星も海で文明が育ったから『大いなる海(アウシアント)』でゲソ≫

 

パーキンソン教授「ですな」

 

 マブラヴ地球人達は相手の種族名が自分達とほぼ同じだったと聞いて何とも言えない表情をしていたが、夕呼は割り切ったものだった。

 

 今更ながら、地球(ウルジマルク)人の手先であるBETAと戦いながら地球(アース)人同士でいがみ合っていたというと何だかよく分からない字面になるのだった。

 

 一方トピア達理想郷の建設者(クラフトピアン)は『バッフクランの地球』みたいなものだなと理解した。

 バッフクランとは、伝説巨神イデオンにおいて主人公達が戦うことになる勢力で、イデオンが埋まっていたアンドロメダ銀河のソロ星を中心としていわゆる地球(アース)の丁度反対側の星で生まれた文明だ。

 バッフクランも彼らの言語で母星のことを地球と呼んでいるため、字面上は地球人同士で争っていたことになる。まあこちらは作中当事者が認識していない設定上では本当にほぼ同一の種族なのだが。

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