赤い森の洞窟の中は暗かったが、視界に問題は無かった。ヴァイキングメットにトリオに借りたヘルメット用懐中電灯をくくりつけていたからだ。これで松明を使う必要が無くなり、両手がフリーになっていた。文明の利器万歳である。ただ、照らしてみると洞窟の中も赤一色で染まっており、入り口の牙と併せて生物の体内に迷い込んだようで不気味ではあった。しかも色や匂いに反して地面と壁は硬質なので違和感が凄い。
洞窟を暫く降っていくと一見行き止まりに見えたが、そこから別方向への下り坂になっており、つづら折りのように坂を折り返して更に下へと降っていく構造になっていた。
最初に折り返してからは入り口の光はもう見えない。降っていくほどに肌寒く血の匂いが濃くなっていく気がするが、マーカーはこの先なので気を引き締めて進む。
2回ほど折り返した後の坂を下っていくと、蜘蛛を中心としたMOBが出始めた。蜘蛛はどうやら屋内だと壁に貼り付いて襲い掛かってくるようだ。だが結局一撃で倒せる相手なので、トピアは蜘蛛を突き殺しながら順調に降っていく。
更にもう一度折り返してMOBを見敵必殺しながら降っていくと、やや開けた場所に出た。広間と、そこから繋がる複数の穴だ。穴は下ってきた道と併せて8つあり、下の穴の幾つかに赤い水が溜まっている。相変わらずの赤尽くしだ。
敵は大したことがないものの道に迷いそうだと思ったトピアは、自分が立っている出口側の穴の地面にSFの屋根を1枚だけ設置した。この真っ赤な景色の中で白い建材は明らかに浮いているので目印として分かりやすいだろう。
ところで先ほどから気になっているのは、何か鼓動のような音が聞こえてくることだ。それに加えて先ほど肉を潰すような音と悲鳴のようなものが聞こえた。一体ここで何が起こっているというのか。
トピアがヒルデブラントでMOBを殲滅しながら広間の中央に出ると、ふと掘削音のようなものが聞こえてきた。右手斜め下の穴だ。マップを見ると味方マーカーがそちらにある。
トピア「恐らくあの穴の奥に四人目がいます。今から入ります」
サティ≪慎重にね≫
トピア「了解」
兎に角接触して話を聞くべきであろうと判断し、ヘッドセットの通信機越しにサティに一言報告してからトピアはその穴に進入した。このヘッドセットにはカメラも付いているので、サティにも周囲の状況は伝わっている。
穴に入ると掘削音とともに鼓動も大きく聞こえてくるようになった。その穴の途中には更に横穴があり、横穴からは光が漏れてきていたため、トピアはそちらに目を向けた。そこにいたのは太陽のように輝く鎧を身に纏い金色の槌と水色の斧が一体化したような長物、いわゆる槌斧を振りかぶる茶髪ツンツン頭の男であり、その槌斧が狙う先はむき出しの大きな心臓であった。
トピアは先ほど聞こえた肉を潰すような音が何だったのかを理解したが、何のために心臓を潰して回っているのかまでは理解が及ばなかった。
しかも男の鎧よりも更に明るい光を放つ何かがその傍らに浮いていた。何か。一言で形容しがたいそれは、緑色に光る目玉に蛸のような複数の触手が生えたものであった。
茶髪男「Go!」
訳の分からない状況にトピアが困惑している間に男は心臓を叩き潰した。
心臓が潰れるとともに重苦しい圧力があり、何か巨大な物が出てくるのが分かった。空間から染み出すように出てきたそれは、高さだけでも人間の3倍ほどの大きさがある、巨大な脳であった。その巨大な脳が空中に浮いている。インパクトは抜群だ。
トピア「は、はあ!?」
茶髪男「What? Sorry brother, this is my game!」
そのあまりのビジュアルにトピアが素っ頓狂な声を上げると、それをどう勘違いしたのか、振り返った男は獲物の占有権を主張した。
いきなり出てきた英語に咄嗟に返答が出来ずにトピアがまごつく。
サティ≪『悪いなご同輩、こいつは俺の獲物だ』ですって。『All right, your game!』って返しときなさい≫
トピア「たすかるゥ! おーらいゆあげいむ!」
トピアが英語を翻訳しながら状況に対処するのは無理があると察したサティが通訳アシストに入った。
男はその返事に対し親指を立てて笑顔で了解の意を示した。無事通じたようだ。なるほど通信機を切るなとはこうなることを見越してのことだったのかとサティに対するトピアの好感度と尊敬度と依存度が上がった。
そうしている間にも巨大な脳が接近してきて、それを取り巻くようにどこからともなく飛んできた直径1m前後の巨大な目玉が体当たりを敢行しようとする。その2割ほどはトピアめがけて迫ってきたので槍で迎撃し叩き落としたが、それが終わる頃には男は残りの8割を全て叩き落としていた。大した殲滅力だ。
目玉が全て無力化されると巨大な脳の様子が変化した。左右の脳の間に裂け目が走り、それが左右に割れて牙を剥いた口のようになると、その中から脈動する心臓が見え、心臓には先ほどとは別の一つ目がついていた。第2形態という奴であろうか。ともあれビジュアルが先ほどよりも更に酷い。
茶髪男「Finish!」
その第2形態の脳に向かって男はいつの間にか手にしていた見事な装丁の直剣を振りかぶり、そして迷うことなく投げつけた。投げつけた剣は狙い過たず巨大脳に命中し、それだけでなく一度の投擲で幾つもの剣が次々と巨大脳を襲った。哀れ、巨大脳はその攻勢に耐えられずあっという間に砕け散った。そして周囲には肉片とともにドロップアイテムがばらまかれた。そのビジュアルは死に際まで酷いものであった。
男が投げつけた直剣はブーメランのように戻ってきて、残像のように軌道を追随していた他の剣も含めて男の手の中で一本の剣に戻った。恐らくそういう機能の魔剣なのだろう。強い。
その時、トピアの目の前に通知パネルが開いた。
外敵駆除
Clear
Get!
EXP +2,000
レベル上限解放 +1
どうやらこいつも倒すべき外敵であったらしい。報酬からしてそれほどの強敵ではなかったようだが。ではこの赤い森自体もその外敵の影響なのだろうか?
トピア「サティ姐さん、討伐報酬が入りましたよ。レベル上限+1ですって」
サティ≪何、アレもBETAだったの? 確かに酷いビジュアルだったけど≫
トピア「いえ、全く知らないんですが通知にはクトゥルフの脳と出ました」
サティ≪クトゥルフか……それは外敵扱いも分かるわね≫
どうやらこのシームレスワールドを侵略する外敵はBETAだけではないということが図らずも判明してしまった。他のクトゥルフもこの程度の脅威であればありがたいのだが……いや、レベル上限+5の目標もあることだし、それは期待出来ない。まあ強ければ強いでBETAにぶつける手もある。
男がドロップアイテムを回収し始めたので、横取りの意思がないことを主張するためトピアは暫しその場で待った。周囲を見渡してみると、おそらく掘り進んだであろう道に比べ男の周りだけかなり空間が広く、地面が平坦になっており、掘削の跡もあるので、どうやら戦場として適切な形に整えた上で戦闘を開始したようであった。なるほどこれだけ準備していたのであれば獲物を横取りされるのは嫌だろうとトピアは納得した。戦いは始める前の準備こそが肝要という原則をしっかり守っていることには好感を覚える。
トピア「サティ姐さん、交渉をお願い出来ますか?」
サティ≪分かったわ、外部スピーカーをONにして≫
トピア「はい、ONにしました」
サティ≪音声出てる?≫
トピア「ばっちりです」
地上に残してきた二人のうちサティばかりが喋っており、トリオはどうしたのかと言えば、スパイダートロンで周辺警戒をしていた。適材適所の分業である。
アイテムの回収が終わったのを見計らってトピアは男に接近し、サティが通信機越しに話しかけた。
サティ≪Nice to meet you, nice guy. I'm Saty, and this girl is Topia. Topia can't speak English very well. Can you speak Japanese?≫
茶髪男「Oh, Nice to meet you Saty and Topia. I'm Rarry. Speak Japanese? Hmm...」
ラリーと名乗った男は空中に桃色に輝くゲートを形成すると手を入れて中を漁り、そこから青いスクロールを取り出した。
ラリー「Enable Japanese Language Pack! ……これでどうかなご同輩?」
どうやら青いスクロールは魔法のスクロールか何かのようで、Ficsitの言語パックと同等の機能があるようだった。
トピア「おお、助かります! 私はトピア・ポケクラフ、文明促進業務をやっている
サティ≪私はサティ・カフェイン・トリファクス。FICSIT社の
ラリー「ああ、なるほど
四人目の
既にお気づきの方も多いと思いますが、
例外的に工場長が最初からスペース広島弁を喋ってたのは直前にスペースヒロシマに長期滞在していたお陰です。