【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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280. 死刑執行へのご署名大変ありがとうございます!

 珪素生命体(シリコニアン)ことウルジマルク人の歴史と現状について一通りの理解が出来たところで、次はどう対処するかの話だ。

 

ラリー「しかしこう、あれだな。創造主なんて偉そうなこと言ってても、もはや自力で生きていけないんじゃあ、俺らがわざわざ攻撃するまでもなく資源とインフラを没収するだけで勝手に滅びそうじゃねえ?」

 

モモ王女「名案だと思いますわ」

 

ロゼッタ王女「先にやられたからと言って、()()()()()()虐殺し返すのはいささか野蛮ですもの」

 

ジョンストン卿「そうだね、結果が同じでも手段が選べるのならそれに越したことは無い」

 

マイン「フン、連中には似合いの末路だな」

 

マキューズ「なるほど、結果と名分の両取り……人類の知恵でありますなあ」

 

ダグ「ヴァンドルフ連邦としても異存はありませんぞ」

 

 マキューズは深く納得した様子で頷いた。

 BETAとの戦いが種族・文明単位の生き残りを賭けた族滅戦争だったので忘れがちだが、非戦闘員の虐殺に対する復讐で非戦闘員の虐殺をやり返すのは戦争の基本ルール上あまり褒められたものではない。だから、()()()()()()()()()()()()()()という形式を取るのだ。

 珪素生命体(シリコニアン)は自分の贅沢を維持するために天の川銀河までBETAをけしかけて散々収奪の限りを尽くし炭素生命体を滅ぼしてきたのだ。奪い返しても文句を言われる筋合いは無い。

 匠衆(マイスターズ)によるイスカンダル作戦(オペレーション・イスカンダル)は、珪素生命体(シリコニアン)が無条件降伏を受け入れないのならば再発防止のために根絶やしにするのが()()()()である。たまたま()()()()()()()()()()が見つかったのでそれに切り替えるというだけの話であった。

 

 そして友であるイバーク・ルク人を滅ぼした珪素生命体(シリコニアン)どもが飢えに苦しんで滅ぶならば、マキューズ達心の友(イバーク・ルイエ)としても文句は無い。BETAに多大な被害を受けた地球人やヴァンドルフ人としても同様の考えだ。

 

ターニャ「とはいえ、労働力(マスニフ)というのは創造主の絶滅対策を勝手に開発するくらいの能力があるようですので、資源供給が途絶えれば勝手に採掘を始めるくらいはするでしょうし、いずれ星の外にも飛び出そうとするでしょう」

 

トピア「そう考えると労働力(マスニフ)までは確実に滅ぼしておく必要がありますね。TOM(トム)にも搭載してるBETA識別能力でいけると思いますが」

 

 労働力(マスニフ)珪素生命体(シリコニアン)にとってのロボットであり、自ら生命体ではないと言い張っているBETAもその一種であり、邪魔と見れば躊躇無く炭素生命体を殺戮しようとする危険物だ。その討滅は虐殺にはあたらない。それにBETA同様に還元するとG元素が採取出来るので、奪われた資源の一部でもある。そういう認識であった。

 

マキューズ「フフフ、草の根を分けてでも滅ぼしてご覧に入れましょう」

 

 大量の無人機部隊のオペレートは心の友(イバーク・ルイエ)の得意分野である。植民星が1万存在したとしてもその全てを完全制圧することは難しくない。

 

九十九「まあ実際にそれをするかどうかはシュモルレ自治政府の反応次第だけどネ。というわけで現地のカミール君?」

 

カミール≪こちら現地のカミールだ≫

 

 九十九の呼びかけに応じて、幹部達の視線の先のディスプレイに植民惑星シュモルレの様子が映し出された。そこは制圧済みの惑星自治領主の部屋で、領主を調査部隊の一部が取り囲んでいる所だ。それ以外の調査部隊員が何をしているかと言えば、資料を漁ったり館そのものを調べたり労働力(マスニフ)の肉片を片付けたりしている。その暗赤色の体液が飛び散っているので若干スプラッタ風味だ。

 要するにここまでの情報は領主の館にあった様々な資料から読み取れたものだ。

 大気組成の都合上、シイレント調査部隊員は生身だがそれ以外の調査部隊員は全員気密服を装備している。

 取り囲まれた領主がESPで何やら喚いているのが隊員の通信機越しにインファクトリにも伝わってくる。

 

シュモルレ領主≪このっ、麿はこの星の全権を預かる領主ぞ! この麿に労働力(マスニフ)をけしかけるとは何事ぞ、この()()()ども!≫

 

ラリー「ブホッ!?」

 

テクス「……何で公家言葉なのでござるか?」

 

 何故か領主が公家言葉で叫んでいるので一部の匠衆(マイスターズ)幹部が噴き出したり笑いを堪えたりしている。しかしこれは翻訳機が勝手にそう翻訳しているのではないし、笑わせるのが目的でもない。

 なお疑問を呈するテクスも武家言葉なので、よりによってお前が言うのかとツッコミ所が増える結果になっている。

 

カミール≪ああ、この領主は古来の上流階級言葉を使ってるんだ。だからワタシ達の認識ではそれ相当の公家言葉に聞こえるんだよ。現状のウルジマルクにおいて統治者とは貧乏くじだから、その地位自体に価値を見出す者しかなりたがらない。そして自分の地位を誇りたいが為にどうしても偉さをアピールする口調になってしまうわけだね≫

 

トピア「なるほど、ありがとうございます」

 

九十九「衰退したとは言え、それなりの文化があるものだネ」

 

 現地調査に志願して領主の館に乗り込んでいたカミールの解説に一同は納得した。カミールはターニャ式の魔導衛士育成訓練は受けていないが、装備は充実しているし最低限の術式も使えるようになっているので自衛能力がある。

 

アキ≪しかし原始人とは何とも酷い言われようだね≫

 

シイレント人調査員≪いやあ、こんな一人じゃ何も出来ないような進化をするのは御免なので、もう原始人でも何でもいいですよ≫

 

アキ≪それもそうだね。私もコレはちょっと≫

 

 同じ珪素人類にカテゴライズされるシイレント人からしても、やはり進化の果てに無価値なほどに退化してしまったウルジマルク人の方が炭素人類よりも余程遠く見え、全く会話する気にもならないようであった。喚く領主本人をほったらかしてアキと談笑するほどだ。

 

カミール≪GAMMAはそうでもなかったけれど、彼らは非接触状態で炭素生命体と珪素生命体の区別がつくようだね。恐らくESP能力の一部なのだろうが、興味深い。いや、労働力(マスニフ)はシイレント人への攻撃を躊躇っていたから、GAMMAが気付かなかったのは距離や隔壁越しという問題もあるかな?≫

 

 カミールに至っては既に領主を調査対象の実験動物扱いしていた。領主のベッドと椅子とトイレと風呂と給餌器と自動歩行器と通信機を兼ねていた介護用労働力(マスニフ)は既に調査隊員によって始末されているので、領主は移動が出来なくなっている。

 

シュモルレ領主≪ええい、そこの原始人ども、領主に対して何たる態度か! いや、理想郷の守護者(ゾーレ・ヴォ・エベクライデ)()()()()()からにはよもや旧政府関係者ではあるまいな? どちらにせよ、そなたらは通報済みでおじゃるぞ! 今に理想郷の守護者(ゾーレ・ヴォ・エベクライデ)が駆けつけてそなたらを粉微塵にするでおじゃる! 辺境といえど、この星系の戦力は十分で……ええいその原始的な道具でつつくでない!! 意外と良い金属を使ってそうなのが余計に腹が立つでおじゃるゥ!!≫

 

 放っておくとまあよく喋る。自分で起き上がることも出来ないくせにこれだけ啖呵を切るのだから肝は太いのだろうか。いや、単に現実が見えていないだけであろう。アキが剣先でつんつんとつつくのに怒っているようだが、何一つ抵抗出来ていない。

 通報済みも何も、今軽く一突きすれば死ぬということが理解出来ていないようだ。危機感が全く無い。

 

トピア「カミールさん、ちょっと今からの言葉を中継してもらっていいですか?」

 

カミール≪了解……準備出来たぞ≫

 

 トピアはカミールに念話の中継を頼んでからシュモルレの領主と少しだけオハナシすることにした。トピアがカミールに普通に音声で通話して、カミールが聞いたトピアの言葉を念話にして領主に届ける形だ。

 降伏勧告のためでもあるが、少しくらいは自らのやらかしを知ってもらっても良いだろう。まあ理解出来る知能があればの話だが。

 カミールの通信機から空中に映像が投影され、トピアの顔が大写しになった。

 

トピア「では失礼して。ドーモ、シュモルレ領主=サン。匠衆(マイスターズ)代表、トピア・ポケクラフです。降伏勧告のついでにちょっとだけお話を聞いて差し上げますけど、そのご自慢の理想郷の守護者(ゾーレ・ヴォ・エベクライデ)ってあの800万隻くらいの艦隊と衛星くらいの大きさの軌道要塞のことですよね? それならうちの軍がもう粉砕しましたけど」

 

シュモルレ領主≪は、はあ?≫

 

トピア「あと私達は労働力(マスニフ)とかいう被造物じゃなくて、あなた方が資源採掘のために宇宙に解き放った理想郷の建設者(サマサ・ヴォ・エベクライデ)とかいう無法集団に故郷を散々荒らされた被害者の連合軍で、その反撃でここまで来ております。つまり最初に問答無用の族滅戦争を始めたのはあなた方の方です」

 

シュモルレ領主≪出鱈目を申すな、建国以来無敗の理想郷の守護者(ゾーレ・ヴォ・エベクライデ)が負けるはずがないでおじゃろう! そも、理想郷の建設者(サマサ・ヴォ・エベクライデ)は生命体が存在可能な星には関わらないはずでおじゃろうが!≫

 

トピア「領主さん、話聞いてます? あなた方が珪素生命体のみが生命だと言い張って炭素生命体を滅ぼしまくったから炭素生命体の敵である珪素生命体(ウルジマルク)を討つべしとなってるのですよ?」

 

シュモルレ領主≪炭素生命体? 戯言を! そんなものおるはずがないでおじゃろう……つつくでないわァ!≫

 

 未だに炭素生命体の存在を認めようとしないシュモルレ領主に苛立ったアキが領主を剣先で軽くつついていた。それでも大きな傷が出来ない程度に加減してはいる。

 

トピア「まあ別に信じていただかなくても一向に構いませんよ。降伏を拒否するなら滅んでいただくだけですので。それで降伏勧告のお返事はいかに?」

 

シュモルレ領主≪創造主が被造物に降伏するなど有り得ん話でおじゃる! 無敵の理想郷の守護者(ゾーレ・ヴォ・エベクライデ)に処されるがよいぞ!≫

 

トピア「死刑執行へのご署名大変ありがとうございます! カミールさん以上です」

 

カミール≪お疲れ様。分かってはいたが全く話にならないな≫

 

トピア「何しろ2億年ものの平和ボケですからねー。重症ですね」

 

アキ≪労働力(マスニフ)に頼り過ぎて逆に飼育されてる状態だっていう自覚も無いくらいだからねえ≫

 

 追い詰めれば隠していた切り札くらい出してくるかなと思って少し挑発してみたのだが、それすら出てくる様子が無い。どうやら植民星防衛に当たっている戦艦(バトルシップ)級800万体と衛星(サテライト)級1体を倒せる相手がいるということを全く想定していないようだ。まあ植民星ごとにこれだけの防衛戦力がいれば普通は十分ではあるし、これまで2億年もの間、あらゆる外敵を撃退してきた実績もあるようだが。

 なおアキの口調がまた雑になっているのは、恋敵ではないと分かったトピアと多少は仲良くなったからだ。

 

トピア「というわけで、降伏勧告が()()に終わりましたが、グイリさんもこれで構いませんか?」

 

 建前上失敗と言っているが、無条件降伏を受け入れてくれない方が遠慮無く族滅出来て助かるというのは既定路線だ。

 

グイリ「ええ、もはや処置無しですわね」

 

 より丁寧に手続きを進めるならば炭素生命体が存在するということを理解させてからの交渉をするべきではあるが、そもそも連中はその理解を雑に放棄した結果一方的に炭素生命体を滅ぼしまくっているので、理解しないまま死刑執行にサインするのは自業自得でしかない。それに幾つあるか分からない植民星相手にいちいちそんな面倒なことをやっていられないのだ。

 資料からするとこのシュモルレの防衛戦力は一般的な開拓済み植民星の戦力水準と同等なので、これがあと1万あっても匠衆(マイスターズ)の勝利を揺るがすことは無い。ウルジマルク人を無言で殲滅せずに降伏勧告をするのは戦争における最低限のルールと、あとは同じ珪素生命体であるシイレント人に対する配慮にすぎない。

 

 実際のところグイリ達シイレント人としては、実物を見るまでは同じ珪素生命体という同類意識が多少はあったのだが、いざ見てみるとあまりに生態がかけ離れており、あんな身勝手でどうしようもない連中を庇って同類扱いされるのはデメリットしかないので、今後は全く別の種族であることを積極的にアピールしていくつもりであった。

 幸いシイレント人は見た目が地球人に近く、匠衆(マイスターズ)の投票権すら持っているのでこのイメージ戦略は容易に通せる。今後はシイレント人こそが珪素生命体の代表なのだ。

 

ステーク「しかし防衛戦力はこっちが警戒した以上に強化されてたのに、珪素生命体(シリコニアン)自体は勝手に退化して無力になってたって、何だかなあ……」

 

 夕呼と霞が40年以上掛けて漸く対話に挑んだ相手がこれだったと思うと何とも言えない脱力感に襲われるステークであった。

 しかし脱力感で済ませられるのは、連中を上回る戦力を持っているからだ。

 多大な犠牲の末に長い年月をかけて成立した人類統合体の使節が対話に挑んだ相手がウルジマルク人であればその認識故に交渉は困難を極めるであろうし、どこかで他の珪素生命体を探し出して交渉の矢面に立たせたとしても、文明の存続に関わるG元素の採掘を諦めさせるには利害の衝突故にやはり戦力をどうにかするしかない。

 そこで出てくる戦力が理想郷の守護者(ゾーレ・ヴォ・エベクライデ)であれば巡視船(パトロール)級の()()()()くらいは第8世代戦術機にあたるF-47イシュクルで何とか出来たとしても、まず最初の10万体という集団を討滅出来るかが怪しいし、戦艦(バトルシップ)級以上に対抗出来るかと言えばまず無理だろう。

 根本的な問題として、大マゼラン雲の半径の半分くらいを覆う規模の理想郷の守護者(ゾーレ・ヴォ・エベクライデ)に対抗するには、地球人類基準の物量では全く話にならないので、反撃で地球に攻撃を受けなかったとしても戦力を整えるにはまだまだ長い年月が掛かるだろう。その後の地球人類と夕呼、霞の苦労は想像に難くない。

 

 まあリセットしてしまった世界のことを今更考えても仕方ない。

 こちらの世界においては、結局の所防衛戦力を何とかする見通しは立ったし、対話交渉して引き出すべき条件も何一つ無いので、あとは消化試合になるだろう。

 いや、もしウルジマルク本星に異常事態を知られているのなら、戦力を集中して複数の衛星(サテライト)級が一斉に出てくる可能性もあるので油断は出来ないが。

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