【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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 [2025/08/23]ウルジマルク側の損害に本星住民をカウントしていなかったので修正しました。


281. 終わった、か……

 2日後、トピアが使命を受けてから368日目の2002年10月24日、木曜日。匠衆(マイスターズ)の艦隊が珪素生命体(シリコニアン)の首都星であるスベアチレ星系第3惑星ウルジマルクを包囲した。

 ウルジマルク本星は流石に植民惑星よりは防備が厚く、衛星軌道上に16体の衛星(サテライト)級と2500万体の戦艦(バトルシップ)級、そして10億体の巡視船(パトロール)級が集っていた。

 衛星(サテライト)級が16体もいるのは、守るべき首都星であるからという以上に、ここが物資集配の本拠地であるためで、要するに衛星(サテライト)級1体や2体では押し寄せる大量の物資をさばききれなかったのだ。

 付随の戦艦(バトルシップ)級は首都星戦力としての配置だが、それ以上に大量にいる巡視船(パトロール)級は、捕手である衛星(サテライト)級が受け止められる範囲外に飛んできた資源パッケージをスベアチレ星系の隅々まで回収しに行く外野手だ。捕手が受け止められず外野まで飛んで行くのは野球なら大暴投も良い所だが、恒星間程度ならともかく、流石に銀河間のスケールでは初速度だけで惑星ウルジマルクの衛星軌道を正確に狙えるものではなかったのだ。スベアチレ星系内に飛んできただけ上等であると言える。

 

 首都星ウルジマルクから植民惑星への物資輸送は現代ではワープゲートによる転送が主力になっており、衛星(サテライト)級1体が維持出来るワープゲートは64。16体で合計1,024になる。

 最終的な調査結果ではウルジマルク人の居住惑星は首都星を含めて6,208とそこそこの数になったので、16体の衛星(サテライト)級だけでは植民惑星全てに物資を送れない。しかし各植民惑星にも1体ずつ衛星(サテライト)級が配置されているため、そこで更に64分岐させられる。分岐させれば6,208くらいは容易いことだ。

 このため首都星ウルジマルクのワープゲートは末端の植民惑星シュモルレには直接繋がっておらず、シュモルレ制圧の時点でその異常は首都星には伝わっていなかった。

 

 首都星ウルジマルクの戦力を最初に観測したのは産業の支配者(マインダストリー)基幹艦隊指揮下にある無人艦隊だった。例によって100光年先からの光学観測だ。

 匠衆(マイスターズ)総司令部は、首都星に下方面から迫っていた産業の支配者(マインダストリー)基幹艦隊と上方面から迫っていた理想郷の建設者(クラフトピアン)基幹艦隊、それと南方面から迫っていた地球連合(ユナイテッドアース)基幹艦隊の合同でこれを制圧することにした。

 進出開始点が首都星に最も近かったのが産業の支配者(マインダストリー)基幹艦隊、その次に近かったのが理想郷の建設者(クラフトピアン)基幹艦隊、更にその次に近かった上に進出速度では最速だったのが地球連合(ユナイテッドアース)基幹艦隊だったので、この3方面軍は途中にある恒星系の完全制圧を後回しにすれば半日もかからずに合流することが可能だったからだ。

 

 3方面軍合わせて総勢21万個基幹艦隊が揃った所で惑星ウルジマルク包囲殲滅作戦が開始された。

 観測出来た戦力で全てなら周辺の基幹艦隊を2万程集めれば産業の支配者(マインダストリー)基幹艦隊だけでも攻略は可能であったが、まだ奥の手がある可能性は捨てきれないし、わざわざ手加減する必要も無い。だから最終決戦に際して必要な戦力の最低10倍以上は集めることにしたのだ。

 

 結果として、首都星の攻略戦は30分も掛からずに終わった。というよりも時間をかけると被害が増えるので最大火力で一気に片付けたという方が正しい。

 

 戦術としてはまず物理特化轟雷による光線級吶喊(レーザーヤークト)から始まったわけだが、今回は無人のインファクトリ級に轟雷2機ずつをしがみつかせてインファクトリ級をSFS(サブフライトシステム)代わりに使うシップデサント戦術を併用した。

 これまでの交戦結果から、星系防衛の最終防衛線である衛星(サテライト)級は半径8光年程度までの対象を認識出来る事が分かっている。これは太陽系のオールトの雲の端の半径1.6光年の5倍にあたる。

 これに対し轟雷のワープエンジンMk.3/Sが500光年/日、インファクトリ級のワープエンジンMk.3が5,000光年/日であるため、衛星(サテライト)級に察知されてから実際の襲撃までに掛かる時間は轟雷で23分2秒、インファクトリ級で2分18秒になる。この差は大きい。

 これにより相手がこちらを察知して迎撃態勢を整える前に襲撃することが可能となっていた。一旦恒星系外縁部で立ち止まるとそこで防衛体制を整えられてしまうため、10光年以上離れた宙域から直接ワープで飛び込む形だ。ここまでシップデサントという手札を見せていないことも奇襲として効果を発揮した。

 結果として、全てのシップデサント用無人インファクトリ級を沈められるのと引き換えに16体全ての衛星(サテライト)級の撃破に成功した。突入した物理特化轟雷各機は自前のワープエンジンMk.3/Sで突入とは反対方向に抜け、最大でも中破の損害で全機無事帰還した。

 

 実際のところ、途中までは突入部隊と足並みを揃えて本隊も進軍しており、スベアチレ恒星系の防衛艦隊を包囲するラインで21万個基幹艦隊本隊がワープアウトして敵の防衛戦力を引き付け、突入部隊はワープアウトせずにそのまま突入している。つまり本隊がワープアウトして突入部隊の突出が始まるまで相手には本隊と突入部隊の区別がつかないので、相手が突入部隊に対応出来る時間は2分18秒より更に短い。

 突入部隊が衛星(サテライト)級を撃破して包囲線から脱出すると同時に、フレンドリーファイア回避のために一旦防御を固めていた本隊が攻撃を開始、ベルカ砲8兆4千億門とその100倍以上の空間跳躍ミサイルによる超光速の豪雨が首都星防衛艦隊を耕し始めた。勿論光線級吶喊(レーザーヤークト)に参加していない轟雷もこちらの本隊にシップデサントで随伴しており、即時攻撃開始して残存戦力をなぎ払った。

 

 想定外の奥の手による反撃は特に無く、ウルジマルク本星に攻撃が当たらないように配慮する余裕があった。

 いや実際にはESP通信を利用した精神デバフ攻撃があったようだが、天使の光輪(エンジェル・ハイロゥ)級やイバーク・ルク戦線の前例からそれを想定して対抗術式を完備していたために何の損害にもならなかった。

 

 これにより首都星ウルジマルクと接続したワープゲートが消え、異常を察知した一部の自治領からは住民が惑星防衛艦隊に護衛されながら包囲脱出を試みたが、これは例外なく撃滅された。

 一応停止するように勧告はしたのだが、およそ半分は突破のための交戦を選択し、もう半分もワープで逃げようとした。当然前者はそのまま撃滅し、後者は超空間で追撃することになった。幸いGAMMAのワープ性能は300光年/日前後であったため、轟雷でも余裕で追いつくことが出来たし、実空間から発射した大量の空間跳躍ミサイルをそのまま叩き込むことも可能だった。

 こうした反応から封鎖ラインを超えるものこそあったが、大マゼランから外には出さずに全て仕留めたので、追撃艦隊を編成する必要は無かった。

 

 

 

 それから更に5日後、トピアが使命を受けてから373日目の2002年10月27日、火曜日。珪素生命体(シリコニアン)ことウルジマルク人が居住する全ての惑星の制圧と資源の没収が完了した。その居住惑星の総数は6,208であった。また、それとは別に移民途中の船団が2つあった。

 資源の没収については、首都星ウルジマルクからは没収していない。ただしこれは慈悲の類いや交渉のための配慮ではない。首都星ウルジマルク衛星軌道上に配置された16体の衛星(サテライト)級と恒星系内に配置された資源回収艦隊が粉砕されたために、BETAが送りつける資源パッケージを受け止める設備がなくなり、資源は一転して首都星ウルジマルクを襲う無尽蔵の隕石雨となったからだ。

 一応そうなる前に無条件降伏をする気があるかどうかを尋ねてはみたのだが、返答はシュモルレ領主と同じであった。

 斯くして珪素生命体(シリコニアン)の首都星ウルジマルクはBETAが送りつけた隕石雨によりあっさり滅んだ。自らが収奪を命じた資源で滅ぼされるのはまさに自業自得であろう。

 

 

 

ステーク「終わった、か……」

 

 ステークはインファクトリ級2番艦デイリーライトの自室でその報告を聞いた。理想郷の建設者(クラフトピアン)基幹艦隊の担当範囲は既に処理が終わっており、他の方面の手伝いも無人艦と無人機だけで足りたので、一旦休みを貰っていたのだ。

 ステーク自身も艦隊を率いて戦っており、どうせなら最後までやるつもりでいたが、イスカンダル作戦(オペレーション・イスカンダル)の最終段階開始から全く休んでおらず、連勤しすぎだから休めと言われれば仕方ない。しっかり休むために熟睡していた所に連絡を受けて起きた形だ。

 何ともあっけない幕切れではあるが、あっさり勝てるだけの戦力を用意した結果だ。それは文句を言うところではない。

 ただ、ステークが率いていた理想郷の建設者(クラフトピアン)基幹艦隊もそれなり以上に精鋭であり、全く苦戦しなかったために今ひとつ実感が無かった。贅沢な悩みだろう。

 

 ここまでの両陣営の損害は

 

匠衆(マイスターズ)

インファクトリ級:1兆2300億隻/10(けい)8千兆隻 = 0.00123%

ヘビーインファクトリ級:1隻/1,200隻 = 0.08%

TOM(トム):335兆機/1(がい)機 = 0.000335%

迅雷:18機 / 62,238機 = 0.0289%

轟雷:2機 / 62,238機 = 0.00231%

人員:58人(※全員無事リポップ済) = 0%

 

珪素生命体(ウルジマルク)

巡視船(パトロール)級:3兆5700億体 / 3兆5700億体 = 100%

戦艦(バトルシップ)級:558億体 / 558億体 = 100%

衛星(サテライト)級:6,223体 / 6,223体 = 100%

人員:112億人(※隕石雨で滅んだウルジマルク本星の住民の数。ただし他も物資途絶により滅亡確実なので更に増える予定)

 

 となっている。予測の100億体より数でも363倍多かった上に戦力では巡視船(パトロール)級122兆体相当=予測の12,200倍程度になったが、そもそも匠衆(マイスターズ)は予測の500万倍以上の戦力を用意していたので全く余裕であった。損失艦数も相手の巡視船(パトロール)級122兆体相当を大幅に下回る1兆2300億隻、全体の0.00123%なので、適切に戦力を運用出来ていたと言えよう。

 死亡人員に関しては迅雷の合体前撃墜で18名と轟雷の亜光速挙動制御ミスによる自滅が20名(※内18件は機体が修復可能な範囲で衛士が死亡)と旗艦ヘビーインファクトリ級全損1件で20名(※ワープ操作を誤って中性子星に墜落した)、合計58人が一時的に死亡しているが、リポップや心の友(イバーク・ルイエ)の記憶移植をセーフ判定とすれば人員の損失が0なので完勝と言える。

 魔導衛士が3千人程度しかいない割に轟雷が6万機以上いるのは、訓練を最後まで修了しておらず魔導衛士には至っていないが最低限の攻撃力千倍程度は発揮出来ると判定され轟雷を任された衛士が3万人近くいるのと、それに加えて約3万人の星屑の聖十字軍(スターダスト・クルセイダース)が搭乗しているためだ。

 

ステーク「おっと、呆けてる場合じゃない。呼ばれてるんだったな。純夏も誘ってやらないと」

 

 これから終了報告会ということで、ステークも通信大会議室に呼ばれているのだ。待たせてはいけない。

 ステークは自分の頬を軽く叩いて眠気を覚まし、一通り身だしなみを整えてから鏡で問題が無いことを確認すると、自室を出て隣の純夏の部屋の呼び鈴を押した。

 

ステーク「おーい純夏ー。会議室に行くぞー。……何だ、先に行ったのか?」

 

 インターフォンの前で少し待つが、全く反応が無い。

 もし一緒に呼び出されてまだ準備が終わっていないのなら部屋にいる筈で、先に準備が終わったのならステークの部屋に寄っている筈だ。

 だとすると元々部屋から出ていて、仕事中もしくは勉強中だったのかもしれない。

 近頃の純夏は仕事も勉強も頑張っている。元々成績が良くなかったのに中学3年の頃にBETAに囚われて以来3年間学校にも通えていなかったが、わずか1年でそれを取り戻す勢いの頑張りだ。ステークとしては勉強に集中したいなら庶務課の仕事は休んでもいいと言っているのだが、そちらも両立して頑張っているほどだ。

 それなら先に行っていてもおかしくはないな、とステークが考え始めた所で警報が鳴り始めた。かつて嫌になるほど聞いたこれは、コード911警報だ。

 

ステーク「BETA出現だと? どこだ?」

 

 大マゼランの掃除に討ち漏らしでもあったのか、とステークは考え、それを破棄した。無人艦隊で普通に対処可能な範囲のことでわざわざこのデイリーライトの警報が鳴るはずがない。では一体何なのか。

 

太陽系文明防衛担当オペレーター≪コード911発令、横浜ハイヴより大量のBETA出現を確認、現在防衛艦隊から100隻が急行しています。太陽系関係者は出撃に備えてください≫

 

ステーク「横浜ハイヴ? 頭脳(ブレイン)級がまだ生かされていたか!」

 

 とはいえ、実験用に頭脳(ブレイン)級を残すことが認められた国連軍横浜基地には万が一頭脳(ブレイン)級が新たなBETAを生産し始めた場合に備えて匠衆(マイスターズ)の肝いりで地下に対する防衛体制が整えられていた筈だ。そう慌てることも無いだろう。

 ならば出撃よりも会議が先か、とステークは純夏の部屋の前から踵を返し……そこで猛烈に嫌な予感に襲われた。ここで見過ごしてしまうと二度と純夏に会えない気がしたのだ。

 

ステーク「純夏、入るぞ!!」

 

 ステークはロックがかかったルミナイト(Luminite)合金製の扉を力任せに開け放った。素手であろうと、最大強化倍率100万を超える魔導衛士の力ならば容易いことだ。

 そうしてステークが純夏の部屋に踏み込むと、部屋の真ん中、床の上に純夏が横たわっており、その手元では通信機の呼び鈴が鳴り続けていた。また、純夏は何やら見覚えのある眼鏡を掛けていた。




 第12章終幕です。
 次回12:16に登場人物紹介を挟んで同日12:46に第13章開始です。
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