283. 危惧していた情報流出がここで来ましたかぁ
夕呼「状況を説明するわ。特に
ステーク「……はい」
およそ1時間後、デイリーライトの通信大会議室。出席すべき面子はほぼ揃い、
純夏が何故集中治療室にいるのか。それは
通信画面の中の純夏の横には霞がついており、真剣な面持ちで純夏の手を取って見つめていた。
なお霞が欠席している代わりに会議にはイーニァが呼ばれている。
夕呼「まず鑑が倒れた原因からね。これは簡単に分かったわ。この眼鏡よ」
夕呼が白衣の胸ポケットから出した眼鏡をわりとぞんざいにテーブルの上に置くと、明らかに見覚えのある形に、過半数がカミールの方を振り返った。
カミール「いや、ワタシの眼鏡ならここにあるぞ?」
カミールが左手で右肘を支え、右手で眼鏡をアピールしてみせる。
シュミット≪ということはあれは≫
トピア「『知性の眼鏡』ってことですね」
カミールは最初に七つの楔の塔を起動した際に膨大な情報流入によって一時的に人格がおかしくなっていた。楔の塔の破壊後、カミールに悪影響を及ぼさずに楔の塔を再起動するための調査で、その原因がカミールが着用していた『知性の眼鏡』にあると判明したため、今カミールが着用しているのは同じデザインの普通の眼鏡だ。
テーブルに置かれた眼鏡に注目してみると、アヌビス神やクラエル神の加護に付随するアイテム鑑定能力によってアイテム名が表示された。確かに『知性の眼鏡』と出た。
ラリー「じゃあ前のカミールみたいに情報の流入に耐えかねて倒れたって事なのか?」
サティ「あれカミールが貸したの? 迂闊じゃない?」
カミール「いや待ってくれ。実はワタシが以前に使っていた『知性の眼鏡』もここにあるんだ」
サティの責めるような言葉に対し、カミールが懐から出した眼鏡ケースをテーブルに置いて開けてみせると、やはりそこにも『知性の眼鏡』が入っていた。
テクス「一体どういうことでござる?」
カミール「そもそもこれはワタシが遺跡調査をしていて偶然拾ったものだ。ワタシが見つけたのが1つきりだからといって唯一である保証は無い」
そうなのかと皆が視線で問うと、アヌビス神が黙って頷いた。後付けで神器扱いに昇格させたとはいえ、神器の扱いが雑だ。
スコア「そういうものか……今後管理を徹底しなくてはいけないな」
トリオ「じゃのう。何か作ってみるかの」
ファム「管理については神事部が担当します」
クラフト技術をインストールする対象を神器によって管理するプランもこれでは穴だらけだ。複数存在すると考えていなかったので全く探していなかったが、『知性の眼鏡』をまずは全部回収しなくてはならないだろう。
技術本部は特定の魔道具を探す何らかのシステムを開発しなくてはならないし、神事部は神器の管理体制を整えなくてはならない。
とりあえずカミールは今後疑われることが無いように神事部に『知性の眼鏡』を譲渡した。
マイン「だが、その眼鏡が原因なら記憶の整理が付けば復帰出来るということだろう?」
それならば記憶を保持したまま体を治そうとするオーバーリザレクションで治らなかったこととも辻褄が合う。記憶の混乱の方が問題なのだから。
既に純夏は『知性の眼鏡』を外されており、カミールの例からするとじきに復帰出来るはずである。
ステーク「そうか、それなら安心だな」
純夏が『知性の眼鏡』をどうやって入手したかについて疑問はあるが、純夏が回復出来るのであればステークにとっては一安心だ。
やはりあのときすぐ部屋に入ってオーバーリザレクションを掛け、何か嫌なものを感じた眼鏡を外させたのは正解であった。最悪でもリィズに使った応用版オーバーリザレクションの方で記憶の方を巻き戻せば何とかなりそうだ。
……と思ったのだが。
夕呼「それがそうとも言えないのよ」
ステーク「……どういうことですか?」
また不安を煽るようなことを言い出す夕呼に視線が集中した。
いや、そもそも夕呼は、説明をちゃんと聞かなければ純夏を助ける事が出来ないと最初に言っていた。回復を待つだけで解決なら話が繋がらなくなる。
夕呼は何やら非常に不本意そうな表情でその続きを告げた。
夕呼「社に鑑の意識を少しずつ読み取らせてみたんだけどね……どうも並行世界の鑑、つまりは
トピア「ああ、危惧していた情報流出がここで来ましたかぁ」
九十九「00ユニットをこちらで作らなければセーフかと思ってたけど、そのルートは考えてなかったネ」
00ユニットは並行世界の同一ユニットとの並列演算を行う都合上、どうしても情報流出リスクがある。そのため00ユニット抜きでもBETAを一方的に狩ることが出来るこの世界では過ぎたギャンブルであるとして夕呼に現品の開発を中止してもらっていたのだが、まだ抜け穴があったということだ。
しかも装着者にあらゆる知識を授ける『知性の眼鏡』経由ということは、純夏本人が元々知っていたこと以上の知識が流出しているはずだ。当然標準インストールのクラフト知識やエンチャント知識もだ。GAMMAに関する情報も漏れているかもしれない。
ジョンストン卿「……その00ユニットに関する情報は部外秘として聞いているが、この通信会議で公表してしまってよかったのかね?」
ジョンストン卿や投票権持ち文明代表大使は部外秘情報もある程度知らされている。だがここはそれ以外の文明の代表大使も参加している通信会議だ。
夕呼「ええ、こうなった以上は
九十九「それに、流出した情報を手にした誰とも知れない相手よりもここの面子を信用出来ないというのも失礼だしネ」
トピア「夕呼先生、この際経緯説明に必要な情報は全部出してしまいましょう。ステークさんもいいですね?」
ステーク「……分かった」
00ユニットを知らないその他の代表大使達にとっては香月 夕呼博士と言えば因果律量子論によって神の御業にも等しい
00ユニットは情報流出リスクだけでなく、多分に非人道的側面を含むので、真相を聞かされた各文明代表大使の表情がやや険しくなっていた。
トピア「まあ非人道的手段ではありますが、その世界の地球はそれに頼らざるを得ないくらいには追い詰められていましたので、人道的にどうかという話は一旦脇に置きましょう。とりあえずイーニァさん、ここにいる面子だけでも
トピアの問いかけに対しこの会議室に直接来ている面子が考え始めたタイミングでイーニァが思考を読み……ニッコリ笑って白の判定を出した。
イーニァ「大丈夫だよ、一体誰だってみんな思ってる。いい人ばかりだね」
トピア「ありがとうございます。ひとまずこの場にいる人達を疑わずに済みますね」
ラリー「また唐突にESP判定したな。俺はいいんだが」
トピア「まあ大丈夫だとは思ってましたが、これから厄介なことになりそうですので、早めに疑心暗鬼を潰しておいた方が良いかと思いまして」
タバサ「それも道理だねえ」
仲間を疑いながらの作戦行動など、まともに出来たものではない。今後原因を追及するにしても、ひとまずの安心が必要だ。
なおこの場にいない面子に関しては諜報部が現在調査中だ。諜報部は全員念話術式に熟達している上に、この1年で複数のESP発現体が加入しているので、デイリーライトの中くらいはすぐに調査が済むだろう。
カミール「問題は流出した技術がどこまで広がっているか、そしてそれをどう収拾するかだな」
グイリ≪しかし、何やら純夏さん一人が倒れたのが随分大きな話になってきましたね?≫
シュミット≪並行世界を考え出すと一気に話がややこしくなるだわね≫
夕呼「そこでまた悪いお知らせなんだけど」
サティ「まだあるの?」
夕呼「まだまだ序の口よ。鑑から流出した情報はBETAに鹵獲された00ユニットにまで流れてるわ」
それは