【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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284. そもそもこの確率時空において並行世界の数は有限なのかという話だヨ

 鑑 純夏から『知性の眼鏡』を経由してBETAに鹵獲された00ユニットにまで情報が流出している。

 夕呼のその言葉は匠衆(マイスターズ)の科学・魔法技術が並行世界のBETAにまで流出したということにほかならなかった。

 この一大事に空気が重くなる会議場で、最初にそれに気付いたのは参謀部長のターニャだった。

 

ターニャ「ふむ……ということは、横浜の一件はまさか?」

 

ラリー「横浜? 何か関係があるのか?」

 

 横浜基地からBETAが出現した一件に関しては、即座に動いた太陽系文明防衛艦隊によって多数のTOM(トム)が投下され、レーザー掘削攻略により中枢の頭脳(ブレイン)級が既に破壊されている。

 であれば、BETAは殲滅済みであるし、新しく生産もされないはずで、事態は収拾したとも思える。それと純夏と00ユニットに一体何の関係があるのか。大半の面子が理解出来ていなかった。

 

マジェリス「ああ、横浜に出現したBETAな、殲滅は出来たんだが、従来に比べてかなり強化されてたんだ。()()()1()0()0()()

 

スコア「100倍、って……GAMMAと同等の技術水準になってるという事か!?」

 

 2億年前のウルジマルク文明の技術を元にしているBETAとそこから2億年の効率改善を続けた現代のGAMMAでは、技術年代の隔たりにより同じ重量と同じG元素量でも性能がおよそ100倍違う。

 その技術自体は匠衆(マイスターズ)でもまだ解析中なのだが、純夏が『知性の眼鏡』によって技術情報を獲得していたならば伝わっていてもおかしくないし、同じ労働力(マスニフ)の一種であるBETAから見ると技術自体が分かっていなくても生体構造を真似るだけでも性能を再現出来るかもしれない。

 

テクス「つまりその原因は……」

 

夕呼「ええ、お察しの通りあれは情報流出の影響よ」

 

聖騎士「そもそも横浜基地に残されていた頭脳(ブレイン)級が新たにBETAを生産したのが原因という仮説が覆される、ということであるか?」

 

 本日時点で地球どころか天の川銀河に残っていたBETAは、完全な駆除が今のところ難しいものの活動を停止している細菌(バクテリア)級を除けば横浜基地の頭脳(ブレイン)級くらいしかいなかったため、その頭脳(ブレイン)級がどうにかして新たなBETAを生み出したのだろうと推測されていたわけだが、情報流出の影響となるとその情報を獲得した並行世界のBETAの差し金ということになる。

 

夕呼「それ自体は間違いとも言い切れないわね。強化型BETAを直接送りつけられた可能性もあるけれど、並行世界のBETAから情報と指示だけこちらにもたらされてこちらの頭脳(ブレイン)級が強化型BETAを生産した可能性もあるわ」

 

マジェリス「結果としては大差無いが、敵側からの侵攻がどのレベルまで可能なのかというのは必要な情報だな」

 

夕呼「現状ではどちらとも言えないけれど、現場調査は続けているわ」

 

 何しろ事件発生からまだ1時間だ。制圧にもそれなりの時間が掛かったので、制圧後の現場調査も完全に終わってはいないのだ。

 なお突然BETAが出現したため、横浜基地でBETAの研究をしていた者には犠牲者が幾らか出ている。

 

タバサ「つまりはこういうことかな。00ユニットを鹵獲したBETAにこの世界の情報が伝わった。現代のGAMMAの技術、世界の境界を超える我々の技術、そして創造主が滅亡の危機にあるという情報だ。そうなると、今までただの障害物だと思っていた人類を積極的に排除するべき敵と見なしてもおかしくないね」

 

テクス「そうなると今の段階で敵の並行世界進出を察知出来たのはむしろ有難いとも言えるでござるな。ああいや、現場で犠牲が出てしまったのは残念でござるが」

 

 匠衆(マイスターズ)としては頭脳(ブレイン)級だけでも生かしておくのは危ないと国連に警告していたし、匠衆(マイスターズ)が万が一のための迎撃設備を整えていなければもっと犠牲が出ていたのは間違いないので、立場的にあまり配慮の必要は無いのだが、流石に有難いという言葉は反感を買いそうだと気付いてテクスは言葉を付け足した。

 

サティ「明らかにこちらの世界の制圧には足りない戦力だったし、威力偵察か何かのつもりだったのかしらね?」

 

マイン「どちらにせよ厄介な事態ではあるがな」

 

 ステークとしては何やら純夏がやらかしたことで世界が危機に陥っていると言われているようで気分が良くなかったが、実際想像以上に大変なことになっているので、口を噤んで堪えた。

 しかし次の夕呼の一言はステークにとって意外なものだった。

 

夕呼「ええ、鑑もそれに責任を感じて自分で何とかしようとしたんでしょうね」

 

ステーク「純夏が?」

 

 夕呼はその問いに頷き、説明を続けた。

 

夕呼「BETAに情報が渡ったことを理解した鑑は、あらゆる世界の00ユニットに情報を共有することでBETAに対抗しようとしているわ。だからこの事態を収拾するまで恐らく鑑の意識は帰ってこないわよ。馬鹿な子ね……元はと言えば()()()()()()なのにね」

 

 夕呼は敢えて純夏を罵るような言葉を吐きながら、実際は自分を責めるように誘導していた。この人はいつもこうだった、とステークはやや懐かしさを感じた。

 しかし現状は悠長に懐かしんでいる暇は無さそうだ。

 

ステーク「夕呼先生、説明を聞かないと純夏を助けられないというのはまさか」

 

夕呼「ええ、このままだと仮に記憶を巻き戻しても並行世界でBETAと戦っている00ユニットに引っ張られて全部流出してしまうでしょうね」

 

ステーク「!! ……あいつ、また一人でそんなことを……!!」

 

 そういった現象は以前にもあった。白銀 武が因果導体であった頃、エクストラ世界で接触した純夏の記憶が武を通じてオルタネイティヴ世界の00ユニット側に流れ込んでしまい、純夏は日記を読み返すことで必死に記憶をつなぎ止めようとしていたのだ。

 まさか今になって全く別の原因でそんな事態に再び遭遇しようとは。

 いや、桜花作戦の時も純夏は武を辛い目に遭わせた責任を感じて、武には打ち明けずに一人で事態を何とかしようとしていた。純夏には元々そういう責任感が強すぎる側面があるのだ。

 ここ最近純夏が色々と頑張っていたのも、ステークが純夏を助けるために長年頑張っていたことに対するものだったのかもしれない。ならば全く兆候が無かったとは言えない。ステークはそれを察してやれなかった自分に対する怒りが湧いてきた。

 

トピア「……夕呼先生、解決方法は?」

 

 純夏の状態が思ったより悪いことでステークが何やら考え込み始めたため、トピアが代わりに必要な質問をすることにした。

 

夕呼「そうね、一つはあらゆる並行世界の00ユニットを停止させること。勿論そのあとで記憶を統合する必要があるし、鑑自身でもある00ユニットの停止なんて白銀はやりたがらないでしょうけど」

 

トピア「そんなのステークさんでなくてもやりたくないですよ。もう一つの方法は()()()()()()()B()E()T()A()()()()()()()()で合ってますか?」

 

夕呼「ええ、その通りよ」

 

マキューズ「何だ、あるのではないですか、普通にハッピーエンドに至る方法が! あんまり脅かさないでほしいでありますよ夕呼先生」

 

フガル「BETAの大幅強化と並行世界侵略に対抗する必要はどのみちあるのですから、そう考えると大した手間ではないですね」

 

 解決方法を聞いて安心したマキューズやフガルが明るい声で反応するが、その一方で(マイスター)達の反応は芳しくない。

 

トリオ「……出来ると思うか?」

 

サティ「簡単ではないでしょうね」

 

テクス「どうしたもんでござるかなぁ」

 

ダグ「はて、珍しく弱気なご様子。今の匠衆(マイスターズ)の戦力ならそう難しくはないのではないですかな?」

 

 わずか1年で10(けい)を超える主力艦を用意して見せた(マイスター)達が珍しく弱音を吐いたことに、ダグは眉根を寄せて疑問を呈した。これに代わりに答えたのが九十九だ。

 

九十九「そうだネ、それぞれの世界にいるBETAがどれだけの数であろうが、()()()()()()()()()まず確実に滅ぼせるだろう。しかし問題はそこじゃない。そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という話だヨ」

 

グレーテル「それに我々が介入した時点で介入した世界と介入しなかった世界が分岐してしまうならBETAが存在する世界の数は一向に減らないことになりますね」

 

アシレ≪なるほどそれは難しい話でゲソね≫

 

 匠衆(マイスターズ)の生産力がどれだけ高かろうと、介入するだけ却って増えていくような無限の並行世界に存在するBETA全てを滅ぼすことは難しい。そういう話であった。

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