無限の並行世界に存在するBETAを平らげることは難しい問題が共有された所で、夕呼がそれに対する対策の糸口を示した。
夕呼「ええ、無限の並行世界にはびこるBETA全てを滅ぼすことは出来ないわ。でも、そうなると
テクス「それもそうでござるな」
確かに人類側の事情と同じで、BETAも全ての並行世界の人類を滅ぼし尽くすことは出来ないはずだ。ならばBETAは最終的にどういう状況に持っていくために進出を始めたのか。
マイン「ふむ、つまりBETAはそれを何とかする目算があって並行世界への進出を始めた、と?」
夕呼の意図を理解したマインの言葉に、夕呼は肯定の頷きを返した。
夕呼「そうよ。現状の並行世界の分布を調査してみた所、
マジェリス「……つまり待っていれば勝手に数えられる程度まで統合してくれるからそこで雌雄を決すればいいっていうわけですかい?」
それは聞いた限りではむしろ攻略対象を有限に減らしてくれて好都合であるように聞こえるのだが、夕呼はやや首を傾げてこれに答えた。
夕呼「究極的にはそうなるけれど、並行世界統合のたびにBETAの支配領域と人類の生息域が被るから、最終的な形に統合されるまでに市民にとんでもない犠牲が出るわよ? それでもいい?」
マジェリス「いや、良かねえな」
突然BETAが町中に出現したなら、市民はただ虐殺されるだけだ。横浜基地のように、制圧したはずのハイヴが突然復活するということもありうる。
並行世界の出来事だからと言ってただ座視するわけにはいかない。
夕呼「それに、今回の情報流出で
リテリア「そいつはふてえ野郎共だ」
ベッキー「益々待つわけにはいかねえな」
マイン「悩むまでもなく攻撃一択だな」
放っておけばマブラヴ確率時空に直接関係ない世界まで進出して人間を滅ぼそうとするというのだ。これを甘んじて待つ理由はないと武闘派の面々が気炎を上げた。
トピア「夕呼先生、一つ疑問なのですが、統合元の世界同士で同一人物の生死が分かれていた場合、統合後にはどういう結果になるんですか? 或いは両方生存していた場合二人になったりは?」
夕呼「そうね……不確定性原理、いわゆるシュレーディンガーの猫は知ってるわよね?」
トピア「ええ、確か箱を開けて観測するまで猫が生きている状態と死んでいる状態が重ね合わせで同等に存在するという?」
夕呼「大体合ってるわ。それを踏まえて聞いてちょうだい。世界によって健在状態と損壊状態の両方が存在する同一施設や同一人物を1つに統合するとして、これを量子的に一旦不確定状態にして、統合後にどちらかの状態になるのだけれど、これまでにBETAが実施した統合は、集合論で言う論理和にあたるわね」
九十九「フム、統合された世界の中に1つでも生存世界があった場合は生存が確定するというわけだネ」
そんな巨視的スケールで量子作用が起きうるのかという問題については、マブラヴ原作の因果律量子論や因果導体からしてそうなので今更の話だ。
ここで勢いよくマキューズが挙手した。
マキューズ「夕呼先生! 統合結果が
確率時空の中には、エクストラ世界などそもそもBETAが地球に来ていない世界も存在するのだ。イバーク・ルク人が生き残っている世界も当然あるだろう。
夕呼「ええ、そしてBETAはその生き残りをも絶滅させようとしていることになるわね」
並行世界への侵略を開始したBETAの目的が
マキューズ「フオオオオ!! ゆっ、ゆっ、許さァーーーーーんッ!! BETAどもめッ!! どこかの世界で生き残っているであろう我らの友までも絶滅させようなどと!! この期に及んで我らから奪おうなどとッ!!」
マキューズは膝裏で椅子を蹴飛ばすような勢いで立ち上がり、鼻息も荒く宣言した。その同胞である戦略情報統括センターのオペレーター達も思わず手を止めて振り返っていた。これは突然マキューズが怒りだしたことを訝しんだわけではない。皆マキューズと同様のことを思ったからだ。
イバーク・ルク人の滅亡回避は、マキューズだけでなく全ての
マキューズ「では今すぐ出撃を!」
夕呼「まだ作戦どころか状況の説明も終わってないのにどこに行く気よ?」
マキューズ「うっ!?」
それに誰よりも純夏を助けに行きたいはずのステークは努めて冷静に話を聞いているのだ。
トピア「トナルさん、ステイステーイ。出番が来たらお任せしますので会議に戻りましょう」
マキューズ「わかったであります……」
マキューズは起立する際に蹴飛ばした椅子を拾ってからションボリ気味に着席した。
夕呼「話を戻すけれど、論理和統合は論理積統合されるよりはまだましな結果よ。これはBETAが
スコア「論理積……並行世界のうち1つでも死亡している世界があったら死亡が確定する統合結果か。確かにそれだと人類だけでなく
聖騎士「そうであるな。特に我々がこの世界の
それだけでなく、
トピア「夕呼先生、統合した場合に記憶も論理和や論理積になるんですか?」
夕呼「ええ、だから事前に注意が必要でしょうね。並行世界での恨み辛みや犯罪経歴は一旦白紙にした方がいいわよ」
ジョンストン卿「まあ、あらゆる並行世界の罪状まで追及されたらたまったものではないからね」
ロナルド「ですなあ」
ジョンストン卿自身だってどこかの並行世界では国の利益のために何か法に触れることをやらかしている可能性はそれなりに高いし、ロナルドも冷遇されて自棄になった世界があるかもしれない。
サティ「聞く限りどう統合しても私達の側に被害が出るようだけれど、解決策はあるの?」
夕呼「そうね、無限にある並行世界に事前に避難を促して説得するのは無理だから、論理和統合の直後にこちらから救援を差し向けてBETAを滅ぼすのが一番被害が少ないでしょうね」
ターニャ「まあそれしかないでしょうな」
マジェリス「数が増えるだけでなく100倍強化されたBETAまで出てきたら、他の世界が独力で対抗するのは困難でしょうから、その意味でも救援は必要でしょうな」
トピア「今回ばかりは完璧に犠牲を0にする方法は無さそうですね」
タバサ「統合しなくても他の世界ではBETAによる犠牲が出続けているからね。せめて最善を尽くすしかない」
そもそも統合せずに放置するだけでも他の世界ではBETAによる犠牲は増え続けている。それを防ぐには一旦BETAが存在する世界全てを有限の数まで統合してBETAをくまなく殲滅する必要があるということだ。1回発射すれば全ての並行世界のBETAを滅ぼすビームなどがあれば解決なのだが、勿論そんな都合のいいものは無い。
そして統合するだけで人口が激減もしくは消滅する論理積統合はもってのほかなのだから、論理和統合を前提として犠牲を抑える手段を考えるしかないという話になる。
とはいえ、統合直後にBETAに殺されてしまった人物も他のどこかの世界で生きていれば最終統合時には論理和で生きている状態になるので、それを許容するなら取りこぼしは最低限になる。むしろ既に片付いたはずの共産圏指導者層が復活する方が面倒かもしれない。
聖騎士「しかし防衛のためにそれぞれの並行世界に打って出る必要があるというのはなかなかコストが嵩みそうであるな。敵本拠地への攻撃も考えると手が足りるかどうか」
聖騎士の言う手が足りるかどうかというのは、足りなければまた
グレーテル「無事に保護出来たとしても、ここ以外では食料不足が問題になりそうですね」
サティ「人口が増えることを考えると、居住地としても避難先としてもスペースコロニーの増産は必要ね。……ダグさん、暫くは緊急事態扱いにしても?」
ダグ「無論構いませんぞ。こちらの国民の安全にも関わることですからな」
最終的にこの
短期間なら大量にあるインファクトリ級に乗せるという手もあるが、ある程度長期の疎開になるならばヴァンドルフ製スペースコロニーの方が暮らしやすいだろう。
現在のヴァンドルフ製スペースコロニーは、生産自体は
そして統合によるBETA被害を防止出来て逆に死んでいたはずの国民が蘇ったとしてもこれも逆に問題で、住民の数が突然何倍にもなると惑星上でそれを養えるかという話になってくる。
そうなると惑星外での永住を考慮する必要があるので、益々インファクトリ級に住まわせるのは問題であり、やはりスペースコロニーが必要という結論になる。
サティは早速各文明の母星近くに大量のスペースコロニーと食料プラントを建設する指示を出し始めた。
夕呼「えー、話を続けるわよ。統合された並行世界への戦力派遣は、ただ住民を救うだけではなくて、
作戦の説明に入ろうとした所でまた話の腰を折られて夕呼が若干不機嫌な顔になった。その視線の先では、シイレント部族連合代表大使のグイリ・アミアグルが申し訳なさそうに手を挙げていた。
挙手したグイリの質問は至ってシンプルだ。
グイリ≪あのう、非常に根本的なことを尋ねるようで申し訳ないのですが……並行世界とか分岐世界が無限にあるというところから実は理解が出来ていなかったので、詳細に入る前にご説明いただきたいのですが≫
夕呼「えっ」
その段階から理解していないことを想定していなかった夕呼は、明らかに意表を突かれた顔をした。