ステークは以前とほぼ同じ説明を繰り返した。
因果導体としての特性を失ったため、元の世界を修復するためにも元の世界へ帰らざるを得なかったこと。
その際に白銀 武の集合体の一部が後悔の塊として剥がれ落ちてしまい、それが今のステークの元になっていること。
欠片の量が足りず実体化出来なかったため、人知れず
2044年に地球が人類統合体という統一政府を発足し、2049年の初めについに
そこまで見届けて
今度は死なせたくない人達が一人でも死んでしまうとループする条件になり、
それを突破するための力を付けるべくクラエル神の元で53年間修行していたこと。
修行の完了に合わせてクラエル神が他の6柱の神を誘ってBETA討伐の人員を派遣してくれたこと。
しかしステーク自身と迅雷が
その説明に合わせて夕呼が樹形図を書き足した。
ステーク「……つまり無意識とはいえ、オレの後悔が引き起こしたことなんだ。すまない」
ステークは自らの非を認めて深々と頭を下げた。少しの間沈黙が場を支配したが、最初に発言したのはジョンストン卿だった。
ジョンストン卿「そうか、前の世界では統合に40年以上掛かったか……いや、ステーク君。君に謝られる謂れは無いよ。結果的には前より良い結果に至ろうとしているのは間違いない。むしろ
これは単に
ロナルド「そうですな、地球人類だけの力で勝てたというのは素晴らしいですが、犠牲はかなり多かったようですし、
トピア「あっ、今回の犠牲の少なさに関しては是非デグさんを褒めてあげてください。何しろ以前は2001年10月時点で15億人しか残ってなかったですからね」
珠瀬「国連の推計ではデグレチャフ閣下は5億人ほど犠牲を減らすのに寄与したと聞いていましたが、実際はその倍も影響していたのですか。それは素晴らしい」
ダグ「むむ、待って下され。2001年10月までしか巻き戻らないのにどうしてその開始時点の状況が大きく変わっておるのですかな?」
フガル「言われてみればそうですね?」
現行の地球の歴史資料によると、ターニャは明らかに1967年のサクロボスコ事件から関与して歴史に名を残している。ループは2001年10月22日までしか巻き戻らないので、最初のループ開始以前からこの世界にいないとその時代には関与出来ないはずなのだが、ステークが修行を開始するまでにはターニャの存在は確認されておらず、その前後で2001年10月22日時点での残存地球人口に10億人もの差が出ていることからもやはりそれ以前には存在していなかったことが分かる。
これは一体どういうことなのか。
夕呼「ああ、それは……元帥、説明してもいいかしら?」
ターニャ「この際仕方ありませんな。小官だけが出し渋るわけにはいきません」
夕呼がターニャの方を見て意向を伺うと、ターニャは諦めたように承諾した。
この際経緯説明に必要な情報は全部出すべき、というトピアの方針に従って夕呼やステークが今まで自主的には公開していなかった事情を洗いざらい説明しているので、この期に及んで自分だけ拒否する訳にもいくまいということだ。
夕呼「助かるわ」
承諾を得た夕呼は「クラエル神が時代を巻き戻して環境を調整する」「このあたりのどこかでターニャが加入、2001年10月22日までの状況に大きく影響」と書き加えた。
夕呼「このように、クラエル神がループとは別に時代を巻き戻したことで、ループ開始前に関与する余地が生まれた、ということで合ってますわよねアヌビス様?」
アヌビス神「X. XXXX,XXXX. XXX,XXX. XX,XX(然り。因果導体となった使徒ステークがこの世界に存在し関与出来るのは2001年10月22日以降と決まっているが、その日付から作戦を開始するにはそれ以前からある程度環境を整えておかねばならぬ。そこで我がクラエル神ははじまりの星の環境を整えるために、一旦ループ開始より前の時代まで巻き戻した。使徒ターニャに関しては、そこに存在Xが便乗して送り込まれたのだろう)」
なるほど、BETA討伐の前準備としてループ以前までの巻き戻しがあったのならば辻褄は合う。
しかし事情を詳しく知らない者にとっては、それとはまた別の疑問が生まれてしまった。
ジョンストン卿「送り込まれた? 失礼、その存在Xというのは、デグレチャフ元帥が以前言及していた悪魔だか邪神だかのことかな?」
アヌビス神「X(然り)」
グレーテル「ど、どういうことですか!? あり得ない話です!」
ターニャを信奉するグレーテルが反射的に立ち上がって疑義を呈し、会議場もざわつき始めた。
時代を大きく巻き戻したのならバタフライエフェクトで偶然ターニャが生まれたという解釈も可能なのだが、それは邪神による影響だとアヌビス神が言い始めたのだ。
確かにターニャは恐ろしい作戦を思いつくし、
ターニャ「落ち着きたまえイェッケルン准将、私が邪神によってこの世界に送り込まれたのは事実だ」
グレーテル「デグレチャフ閣下!?」
確かに邪神に送り込まれたというのは外聞の悪い話であり、自分から話すつもりは全く無かったが、
珠瀬「ふむ、それはその邪神というのが我々が思ったほど邪悪ではないのか、それともデグレチャフ元帥が邪神の意に反した動きをしているのか、どちらなのですかな?」
トピア「概ね後者が正解ですね。デグさんは存在Xの手先などではなく、むしろ前世以前から存在Xにつきまとわれて迷惑してる人です。ですので存在Xを警戒している我々とは最初から利害が一致しているのです」
いきなり前世の話が出てきて、本当なのかという困惑の視線を多数向けられたターニャが黙って頷いた。
グレーテル「前世……いえ、あのようなたゆまぬ努力を我々より遥かに長い時間続けてきたのだとしたら、閣下の今の能力にもむしろ納得出来ますね」
一方グレーテルはターニャの能力の高さに説明が付いたことで逆に納得していた。一番不自然だったのはアヌビス神の加護を与えられてすぐに既存の魔法と異なる技術体系の術式を披露したときで、天才の思いつきと言うにはあまりにも使いこなしていたのだ。それに限らずターニャには膨大な基礎の積み重ねを感じさせられる所があった。
トピア「この辺りで神々の目的について説明しておいた方が良いと思うのですが、アヌビス様、宜しいですか?」
アヌビス神「X(問題無い)」
トピア「ありがとうございます。……まず神々というのは、我々と違って信仰心を糧としています。しかしそのために取る方策が
同じ物を求めているのにやり方が逆、と言われて事情を知らない面子の殆どが疑問符を浮かべたが、ジョンストン卿はすぐに結論に辿り着いた。
ジョンストン卿「……なるほど、あなた方は人を助けることで真っ当に感謝されようとしているが、存在Xというのはあの恭順派のように人を絶望させることで神に縋らせようとしている。そういうことかな?」
トピア「流石はジョンストン卿。理解が早くて助かります」
九十九「だから吾輩達は存在Xを邪神だと認定しているし、警戒しているんだヨ」
タバサ「昔の教え……確かマタイ福音書では、善行を見せつけるような真似をするななどと無駄に厳しいことも言われているけどね、そんな条件にこだわっていちいち善行を隠す手順を挟むと救える相手が減ってしまって本末転倒だし、そもそも有形の報酬を要求していないのだから、偽善呼ばわりは一切相手にしないよ」
タバサが引き合いに出して釘を刺したのはマタイによる福音書第6章に書かれている一節だ。
1.人に見せるために人前で善行をしないように気をつけなさい。そうでないと、天におられるあなたがたの父から、報いが受けられません。
2.だから、施しをするときには、人に褒められたくて会堂や通りで施しをする偽善者たちのように、自分の前でラッパを吹いてはいけません。まことに、あなたがたに告げます。彼らはすでに自分の報いを受け取っているのです。
根底となっているのは、善行を積むことで死後に良い待遇を受けられるという応報論であって、現世で善行の利益を受け取ってしまっては死後の報酬は貰えませんよということだ。
ジョンストン卿「それは勿論だとも。しかしそうなると、以前のリィズ少佐はともかく、デグレチャフ元帥を存在Xは一体どのような思惑で送り込んだというのかな?」
タバサ「これがまた酷い話でね、『平和な世界で過ごしているから信仰心が無いというのであれば、生きるにも辛い世界で悔い改めれば信仰心が芽生えるか試してみよう』なんていう勝手な理屈で、繰り返し厳しい世界への転生を強いられてるそうだよ」
トピア「あの連中は自らは善悪に全く頓着せず平気でテロや戦争を煽ったりするのに他人には自分を信仰しろと強いる最低最悪の邪神ですからね」
ターニャ「まったく、人に信じろと言う前にまず自らの行いを省みていただきたいものです」
ジョンストン卿「それはまた……いや、それでも腐らずに我々のために戦ってくれたのか」
ターニャ「いえ、小官はただ平和で文化的な生活を送りたいだけです。
グレーテル「もう、デグレチャフ閣下は相変わらず謙遜が下手なんですから!」
ターニャ「君も相変わらず人の話を聞かないな……」
ニコニコと微笑むグレーテルにはターニャの真意が一向に伝わっている様子が無く、ターニャはため息をついた。
まあマブラヴ世界の地球で生き汚い連中は大体その内勝てるだろうとBETAを軽く見て短絡的に他人を犠牲にすることで生き残ろうとするので、人任せでは敗北が確定しているからと自ら軍を動かして勝利を目指し犠牲を大幅に減らしていたターニャが全く利己的に見えないのは当たり前である。なお彩峰一派などは善意で地獄への道を舗装しまくっているので、立ち位置をプロットするとあれは恭順派に近い。
更にターニャは元々
珠瀬「しかし、邪神によるペナルティが我々にとっては良い方向に働いたとは何とも皮肉なものですな。邪神の力になりたくはないので感謝するのはやめておきますが」
邪神の使徒の割にターニャが全然邪悪なことをしていないのはどういうわけなのかというのも理解出来たし、存在Xを邪神や悪魔と罵る事情もよく分かる。年齢以上に古強者であるのも、あの勤勉さで人生を何回も繰り返しているのだから、努力の賜物ということだろう。思わず立ち上がっていたグレーテルも納得して眼鏡の位置を整えつつ着席した。
ターニャとしては邪神の関与は前世の95式魔導演算宝珠による精神汚染ほどではないにしろ経歴上の汚点として見ていたので自主的公開を控えていたのだが、同じ邪神が関与したキリスト教恭順派との落差から、むしろ邪神に抗ってまで人々を救おうとした気高い