【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

291 / 387
291. 三千世界のBETAを殺し、安住の地を創るのです

 ステークのただならぬ反応に対して、その意味を理解していない出席者は結構多い。顔を見合わせた結果、代表してジョンストン卿が事情を尋ねることになった。

 

ジョンストン卿「すまない、年若い彼女達を選んだのには特別な意味があるのかね?」

 

トピア「……ええ、彼女達は白銀 武さんと一緒に喀什(カシュガル)ハイヴに突入して桜花作戦を成功に導いた人達です。()()()()()()()()()純夏さん、元の世界に帰らざるを得なかった白銀 武さんと合わせて、その世界ののちの時代では『尊き七人』と呼ばれていました」

 

 ステークが硬直しているので代わりにトピアが説明を試みると、珍しくステークが声を荒げて反応した。

 

ステーク「やめてくれ! オレは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()頑張ってきたんだ!」

 

ジョンストン卿「そうか、やはり彼女達が……」

 

 概ね推測通りだと理解したジョンストン卿が神妙な面持ちになった。

 

 白銀 武が何が何でもオルタネイティヴ世界を救おうとした結果、世界は救われたが、その代わりに武の大切な人達は殆どが失われてしまった。それはステークの後悔の源であり、その打開こそが最大の存在目的である。

 高潔な覚悟のある善良な人々ばかりが犠牲になる世界など、あまりにも救いが無いではないか。他の地球人を救うのはあくまでそのついででしかない。

 幸い彼女達は並行世界の自分の死に様を知って心を病むことは無かったようだが……いや、それ自体は心配することではなかった。覚悟を以て、命をなげうってまであの桜花作戦をやり遂げた仲間達なのだ。

 しかしだからこそ心配になる。BETAとの戦いは何とかなるとしても、そもそも防壁世界への突入からして、確実に成功するとは言えないのだ。

 

夕呼「言っておくけれど、これは白銀への嫌がらせでやってるわけじゃないのよ? 因果導体の真似事をさせようっていうんだから、御剣達五人が防壁世界への最初の突入に最適な人材なのよ」

 

ステーク「待って下さいよ、それならなおのことオレ一人でも……冥夜?」

 

 00ユニットへの採用基準とも共通するその適性ならば1番に純夏、2番にステークが位置づけられるし、そもそもステークには因果導体としての長い経験がある。ここにいる面々ならば真っ先にステークが適任者になる筈だ。戦闘能力に関しても匠衆(マイスターズ)全体でステーク、沙霧、ターニャ、リィズの4人でトップを争うほどなので不測の事態への対処能力が高い。

 ステークがそう反論しようとしたところで、冥夜がステークに歩み寄り、力強く殴りつけた。しかもかつてのように3発立て続けに殴った。

 

ステーク「ぐぅッ!?」

 

 ステークは反射的に術式で防御力(DEF)を引き上げて防いだので身体的ダメージはほぼ無かったが、精神は覿面に混乱した。

 

冥夜「女々しいぞ! 後悔の塊と言うだけあって、そなたには()()()()()()()()()()()が無いようだな!」

 

ステーク「な、何だって!?」

 

冥夜「今度こそ鑑を救いに行くのであろう? 我らの力はそんなに頼りないか?」

 

ステーク「そんなことはない! でももうやり直しはきかないんだ!」

 

 ステークは既に山を越えたと見なして因果導体特性を捨ててしまった。今犠牲が出たらやり直しはきかない。突入に失敗して確率時空の狭間で死んだりしたらアヌビス神の加護によるリポップも可能かどうか分からないし、生きたままBETAに捕らえられたりしたら最悪だ。

 

冥夜「馬鹿者! ()()()()()()()()()()()()()()()だッ!! そなたはそんなことも忘れてしまったのか!?」

 

ステーク「うっ!? ……いや、違う! 確かにそういう所もあるかもしれないが! オレは冥夜達も死なせたくないんだよ! その目的のために冥夜達を危険に晒してどうするんだ!?」

 

 ステークは何度でもやり直す覚悟こそあったが、何度でもやり直せるという状況に順応しすぎて、一発勝負のリスクを過剰に危険視するようになっていた。そういう所もあるだろう。

 そういう意味ではステークは痛い所を突かれた形になるが、論点としてはずれている事に気付き、すぐさま修正しに掛かった。ステークにとっては純夏だけでなく冥夜達も救いたい相手なのだ。その目的を果たすために救いたい相手を死の危険に晒すのは本末転倒に近い事態だ。

 

冥夜「危険、か。そうだな、そなたが我らを()()()()()のも分かる。あのときの我らは弱かった。ゆえにそなたを()()しかなかった。許すが良い」

 

ステーク「! ……いや、あのときも言ったが、それに関して冥夜は間違っていない。オレの心が冥夜達ほど強くなかったのが悪いんだ」

 

 あのとき。桜花作戦大詰めでのことだ。

 喀什(カシュガル)ハイヴの中に送り込めたのは武達が乗る凄乃皇(すさのお)四型が1機に冥夜達が乗る武御雷(たけみかづち)が5機。そのわずか6機がその時地球人類が出せる全てだったのだ。

 この戦力ではいつ誰が落とされても不思議ではない。だから最も突入を優先すべき凄乃皇(すさのお)四型が任務に集中出来るように、その護衛のうち誰かが撃破されたとしても生存マーカーが表示されたままになるような細工がされていた。それを武に知られないように最後に受け持っていたのが冥夜だった。誰が死んでも遂行せねばならないギリギリの作戦ゆえの判断だった。

 これを思い出したことで、ステークは自分の中に冥夜達への()()があることを自覚した。

 当時の武も冥夜の判断が正しいと認めてはいたが、心には忘れられぬ棘として刺さっていたのだ。自分の心が弱いばかりに仲間を失ったことすら教えてもらえないようなことはもう二度と御免だ、と。

 

 しかし後悔の塊であるステークの目指す所は仲間の死を教えてもらうことではない。何が何でも全員を救うことだ。だから仲間の死に対する恐れというメンタル上の弱点はむしろ以前よりも悪化しているとすら言える。目を離した隙にまた死んでしまうのではと内心恐れていた。要するに過保護で心配性なのだ。

 イスカンダル作戦(オペレーション・イスカンダル)最終段階でも、ステークは理想郷の建設者(クラフトピアン)戦闘団を率いながら地球連合(ユナイテッドアース)戦闘団の状況をちょくちょく確認していたのが目撃されている。ステークが作戦終盤まで全く休まなかったのもその心配性が最たる原因だ。

 

夕呼「はいはい、青春はそこまでにしておきなさーい」

 

ステーク「せっ……!?」

 

 ステークと冥夜のやりとりがまだまだ続きそうなので、夕呼は手を叩いて割って入った。

 

夕呼「白銀、まだ勘違いしてるようだけど、さっき言った通り、攻略作戦の最初の段階に必須なのはあんた以外の五人の方なのよ? あんたに関してはどうせ心配だろうからついていくのを許してるだけよ?」

 

ステーク「……どういうことですか?」

 

夕呼「白銀が単独で最初の防壁世界に突入した場合の成功率はおよそ8割。御剣達五人が一斉に突入した場合の成功率はおよそ10割という試算が出ているわ。逆に敵本拠地突入で適任なのはあんた一人しかいないから、2割もの確率であんたを失うわけにはいかないのよ。あんたが黙って待っていられるなら第3段階まで温存しておきたいくらいよ?」

 

トピア「なるほど、現状の編成でもむしろ最大限ステークさんに配慮した形になってるんですね」

 

マイン「そうなると作戦上貴様の我儘は看過出来んぞ。自分で護衛出来るだけ良しとしておけ」

 

ステーク「……分かった、無理を言ってすまない」

 

 そういう事情ならばステークも引き下がらざるを得ない。冥夜達を危険に晒したくはないが、ステークの要求を無理に通すことで2割の確率で純夏の救出を始めとする何もかもが駄目になってしまうのは流石に許容出来ない。

 

九十九「とりあえず、その敵本拠地突入でステーク君しか適任者がいないという理屈を説明してもらってもいいかな?」

 

夕呼「そうね……敵本拠地世界と周囲の全ての防壁世界で相互ロックがかかっているから突入が困難というのは既に述べたけれど、本拠地世界は憑依(ポゼッション)を以てしても突入がほぼ不可能になってるわ。理由は、憑依(ポゼッション)対象が()()()からよ」

 

ステーク「いない? まさかトライデント作戦の地球脱出も失敗したんですか?」

 

夕呼「桜花作戦が失敗してから敵本拠地世界でどれだけ経ってると思ってるの? 対話までに47年、修行で53年、更にループ数万回が平均1ヶ月ずつとしても数千年よ? 同一人物なんているわけがないでしょう?」

 

シュミット≪言われてみればそうだわね≫

 

カミール「ループの間も他の世界では時間が進んでいるんだったな」

 

 この経過時間は、BETAにどれだけ00ユニットと並行世界を研究する時間を与えてしまったかということでもあり、比重としては特にループの数千年の部分がでかい。完全に詰まるまではクラエル神に頼らず一人で何とかしようとしたステークの判断ミスとも言える。

 まあそれは桜花作戦で00ユニットがBETAに鹵獲された世界の時間が進むという認識が無かったからであるし、そもそも初対面のクラエル神を信用出来るかと言えば難しいだろうというのが理想郷の建設者(クラフトピアン)達の総意だ。

 

 敵本拠地世界への突入手段に関しては、その世界とほぼ同じ時代で別の並行世界から共通する人員を連れてくるという手が無くはないが、本拠地世界は情報がブロックされているのでまず誰が共通しているのかを確認するのが困難だ。また、迅雷や轟雷を扱えるようになるまで訓練するのもある程度の時間が掛かってしまう。その間に次の手を打たれるのは明白だ。

 人類を認識したBETAに時間を与えてはいけないというのは鉄則だ。BETAはその時間で新しい戦法を考案するかもしれないし、性能が更に強化されるかもしれないし、匠衆(マイスターズ)が察知出来ない世界に身を潜めて再起を図るかもしれない。可能な限り短時間で仕留める必要がある。

 

夕呼「だから作戦の第3段階では敵本拠地世界に唯一存在が確定している()()である00ユニット、いえ、鑑 純夏と深い関わりがある白銀が本拠地を急襲するのよ。憑依(ポゼッション)対象無しで鑑 純夏との繋がりだけで無から実体化するこの役割は囚われのお姫様の白馬の王子様であるあんたにしか出来ないし、白銀家の()()()もあんた専用だから他の面子には使えないわ」

 

 なるほど、因果導体のループの最初は毎回()()()()()()()()()()()()()()()()()する所から始まっていた。それは二度目の因果導体になってからも同じだったし、七圏守護神(ハーロ・イーン)によるBETA討伐が始まってからも変わらなかった。そういう点でステーク以外に適任者がいない。

 

テクス「救援が敵の本拠地を叩く前段階を兼ねるというのはそういうことでござったか」

 

夕呼「ええ。防壁の相互ロック構造が完全なうちはこの六人くらいしか突入出来ないけれど、そこを突き崩せばかなり抵抗力が下がって他の面子でも防壁世界に突入可能になるから、魔導衛士達には手分けして片付けてもらうわよ。まあ時空間の状態を見て適任者を選ぶことになるけど、そこから先は総軍本部で作戦を立ててちょうだい」

 

 言いつつ、夕呼は作戦の段取りを画面に出した。

 

・第1段階:冥夜達+ステークの六人が最初の防壁世界の制御を奪取する

・第2段階:他の魔導衛士達が他の防壁世界の制御を片っ端から奪取する。最初の防壁世界を含め、奪取した世界から順番に住民の救助を開始する

・第3段階:ステークが敵本拠地世界に突入し元凶を仕留め、技術を収奪する

・第4段階:調整しつつ全ての並行世界を有限の数まで統合する

・第5段階:この確率時空から全てのBETA、GAMMA、労働力(マスニフ)を抹殺する

 

ターニャ「とはいえ、ここまでお膳立てされては我々参謀部には大した仕事が無さそうですが」

 

マジェリス「まあどうすればいいのか分からん事態からどうにでもなりそうな事態まで改善されてますからな……あー、どうした、大元帥閣下?」

 

 マジェリスがわざわざどうしたと問うたように、マインは瞑目して肩を震わせるという少々不審な挙動になっていた。

 それはどうやら笑いを堪えていたらしく、マインは我慢をやめて魔王のように哄笑し始めた。

 

マイン「ククッ……フハハハハハ! やるではないかッ! これだけのやらかしをどれだけ挽回出来るものかと思って見ていたが、わずか1時間の対処で逆にBETA共の命運が尽きているとはな! 天才を自称するだけのことはある」

 

 何かツボに入ったらしく、マインは盛大に哄笑しながらも夕呼を絶賛していた。

 

夕呼「……まだ勝った気になるのは早いと思うけど?」

 

マイン「いいや、これで勝てなければ余程の無能だ。そして我らは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり奴らは終わりということだ」

 

ターニャ「後は犠牲を如何に減らすかが腕の見せ所ですな。()()()()()()()()()の集団もなかなか侮れんというところをご覧いただきましょう」

 

 お前らのような凡人がいるかというツッコミどころはあるものの、ここまでで情報的にも技術的にも生産力的にも何とかなる目処が立ったので、もはや総軍本部の気負いは全く無かった。

 孫子曰く、彼れを知りて己を知れば、百戦して(あや)うからずというものだ。

 あとは実際に作戦を遂行する人員が何とかするだけだが、こちらも銀河に名を轟かせる精鋭に珪素生命体(シリコニアン)を圧倒した決戦兵器を持たせて送り出すのだ。ぬかりはない。

 無能に足を引っ張られることに悩まされ続けてきたターニャとしても、この陣容ならば確実に勝てるという確信があった。

 

トピア「ここに来て新しい謙遜の形が生えましたね」

 

九十九「ブロンティストの研究が捗るネ」

 

 トピア達が暢気な話をしている一方で、ステークは冥夜達に頭を下げていた。

 

ステーク「冥夜、美琴、たま、彩峰、委員長……色々お節介なことを言ってしまったけど、オレも防壁世界突入作戦に参加させてもらっていいか?」

 

 むしろ自分の方が前段作戦上必ずしも必要の無いおまけだと知らされたからには、ステークの方から頼むのが筋だということだ。

 

冥夜「フッ、仕方が無い。仲間は互いに助け合うものだ」

 

美琴「大歓迎だよ!」

 

壬姫「たけるさん、また一緒に頑張りましょうね!」

 

慧「白銀は過保護。たまには大船に乗ったつもりで任せるといい」

 

千鶴「白銀、その代わりあんたは必ず鑑を助け出してきなさいよ?」

 

ステーク「勿論だ!」

 

 ステーク達六人は、以前のように拳を打ち付け合って作戦成功を誓った。

 

慧「……まあ今の私達は平和な世界のクラスメイトだった記憶もあるし、白銀の子を産んだ記憶だってある。()()()()()()は桜花作戦のとき以上に高まっている」

 

 彩峰はわざわざ腹部に手を当ててそう付け加えた。

 

ステーク「え゛っ!!?」

 

 心配が先行して全く気付いていなかったが、考えてみればあらゆる並行世界には平和なエクストラ世界や5人それぞれが白銀 武と結ばれてからバーナード星へ避難したアンリミテッド世界も含まれるのだ。知らないはずがなかった。

 つまりチームワークとはそれぞれ別の可能性世界で白銀 武の子を産んだ女のよしみということだ。

 

 しかし事情をよく知らない大使達には、あたかも平和な世界のクラスメイトを同時に5人も孕ませたかのように伝わってしまい、囚われの姫を救いに行く白馬の王子がこんな女たらしで大丈夫かという不安が漂った。

 

千鶴「あ、彩峰ェ!? 今言うことじゃないでしょ!?」

 

慧「心配を払拭しつつ緊張をほぐし更に場を温めるきめ細やかな心遣いには我ながら自画自賛せざるを得ない」

 

千鶴「却っておかしな空気になってるでしょ!?」

 

 一大作戦開始前にしては大分緊張感の無い空気が会議室に流れていたが、ステークは自分でも気付かないうちに笑顔になっていた。もはや二度と会えないはずの、()()()()()()()()()()()()とまた会うことが出来たのだ。嬉しくないはずがない。

 それにトピアとしてもこの方がやりやすい。

 トピアは起立して注目を促し、締めに入った。

 

トピア「まあ結局の所我らがやることは変わりません。三千世界のBETAを殺し、安住の地を創るのです。まだ理想郷(ユートピア)には遠くとも、人が人らしく生きていける世界を。我々匠衆(マイスターズ)は本作戦――三千世界作戦(オペレーション・オーバー・ザ・ワールド)に全力を尽くします。各部署は準備を開始して下さい。では今日も一日ご安全に!」

 

 トピアがすっかり定番化させた始業の号令で締め、会議は終了した。

 

 トピアとしても、原作マブラヴオルタネイティヴは確かに感動的な物語だが、その悲劇が現実に起きるとなるとちっとも楽しくなんかないのだ。

 何より、これまで真面目に頑張って散々辛い目に遭ってきた武達が幸せになれないなど、トピアだって到底納得出来るものではない。わちゃわちゃとラブコメしているくらいが丁度いいというものだ。

 ならば、あらゆる感動的(シリアス)なシナリオを叩き潰して茶番(コメディ)にしてでも確実にハッピーエンドを掴み取る。それが匠衆(マイスターズ)の、理想郷の建設者(クラフトピアン)の仕事だ。2億年モノの反理想郷(ディストピア)を作り上げた理想郷の建設者(サマサ・ヴォ・エベクライデ)などという紛い物に譲ってなるものかという想いと意地がトピアの中に渦巻いていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。