【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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298. こんなところで死んでいられるかァァ!!

 凄乃皇(すさのお)弐型が擱座した直後、オルタネイティヴ4計画に関係しない部隊は概ね3つに分かれた。ハイヴへの突入を命じられた部隊と、00ユニット撤退支援のための退路確保を命じられた部隊、最後にそれらを補助する陽動だ。

 どれも絶望的ではあるが、特にこの状況で攻略を命じられた部隊の生還の可能性は際立って低い。

 中でも佐渡島のハイヴから北西方向に布陣していたこの部隊などは、悲惨の一言だ。

 

衛士1≪ハイヴは陥落したんじゃないのかよ!?≫

 

衛士2≪もう駄目だ、オレ達は捨てられたんだ!≫

 

 第1世代型戦術機である撃震が両手に突撃砲を持って無数のBETAを迎撃しているが、飛び交う言葉からはその士気の低さがありありと見える。

 彼らの士気が低いのには4つの理由がある。

 1つ目は実に単純で、強化型BETAへの対処方法が確立していない中でそれと戦わなくてはならないことだ。相手の攻撃を食らったらほぼおしまいという従来の条件に、素早くなった上に耐久力が異様に高いという条件まで加わってしまい、戦闘を成立させることが非常に厳しくなったのだ。

 2つ目は凄乃皇(すさのお)弐型が地表構造物(モニュメント)を吹き飛ばしたことに感極まった司令部が、こともあろうにその時点で「ハイヴ陥落」の報を出してしまったことだ。しかし実際のハイヴ攻略など、オービット・ダイバーズが音信不通になった時点で頓挫したままだ。よってBETAはそれ以降もまだまだ元気に活動しており、ハイヴ陥落の報にぬか喜びさせられたことで却って士気が低下してしまったのだ。

 そこまでは他の部隊と大差無いのだが、3つ目の理由として、この部隊には特に厳しい命令が下っている。周囲のBETA、特に光線(レーザー)属種を可能な限り()()しながらかつ()()し、可能ならばハイヴに()()せよという三重の指示を受けているのだ。だがこの状況では前進どころかとどまるだけでも全滅しかねない。

 何故こんな無茶な命令が下ったのかと言えば、その理由も3つあり、1つには所在がハイヴから半端な距離であったこと、2つには丁度00ユニットの退避予定方向に布陣していたこと。そして3つにはこの部隊が()()()()だということだ。

 そして懲罰部隊であること自体が士気が低い理由の4つ目を兼ねる。帝国軍の一般部隊にも第3世代戦術機不知火はまだ行き渡ってはいないので、懲罰部隊である彼らの機体が型落ちの第1世代機なのは当然のことである。

 その部隊名は第999懲罰大隊。

 

 だが何事にも例外というのはあるもので、全員の士気が低いというわけでもない。

 

衛士3「怯むなッ!!」

 

 同じく型落ちの撃震を駆りながら、その最低限しかない性能で無数のBETAの間を掻き分けて36mm弾をばらまき、長刀を振りかぶって奮闘する者がいた。

 

衛士3「私達が戦うことで、一人でも多くの同胞を救えるのなら……ッ!」

 

 彼女の操縦席には2つの写真が貼り付けられていた。かつてこの佐渡島が陥落したときに喪った戦友の写真だ。

 それに目をやる暇も無く、兵装担架から撃震の脇の下にアームを通し、合計3つの突撃砲で瞬間火力を増強してBETAの数への対抗を試みる。

 

衛士3「掛かってこい、BETAどもォッ!!」

 

 それはかつてこの佐渡島を守り切れずに苦汁を舐め、帝都守備隊第1戦術機甲連隊では沙霧と共に12・5事件を引き起こしながら生き残った、駒木 咲代子の姿であった。

 駒木は12・5事件を起こしたこと自体は後悔していない。責任を取って腹を切るも辞さない覚悟で事を起こしたのだ。今現在のように懲罰部隊として国のために戦えるのならば、望外の結果とすら言っていい。駒木は最初からここで命を捨てるつもりで戦っていた。

 だが無駄死にはいけない。折角戦える機会なのだから、可能な限りのBETAを屠って、作戦の結果を少しでも良くしなければならない。砲弾も可能な限り使い切るべきだ。

 その思いが駒木にギリギリの見切りを行わせ、部隊の中でも最も多くのBETAを引き付けながらもどうにか生き延びていた。

 だがどれだけ動きが良くとも、攻撃に対して対処能力が飽和する瞬間というものがある。複数の強化型要撃(グラップラー)級と斬り結んでいた駒木機に要塞(フォート)級の溶解触手が迫り、致命傷は避けたものの左腕を切り飛ばされてしまった。これではBETAを倒すための攻撃力も不足するようになってしまう。

 

衛士3→駒木「ぐッ!!」

 

 駒木に対する助けは無い。周囲の味方機は自分のことで手一杯であるし、あとどれだけの間生きているかも分からない。支援砲撃が直接届くような場所でもないし、救援に入ったという斯衛も、もっと沿岸部に近い所の一般部隊を助けていた。そもそも懲罰部隊は生還を期待されていないからこんな無茶な命令を受けているのだ。

 せめて突撃砲の弾丸を使い切ろうと1連射した所、丁度良く弾切れとなった。駒木は今この場所が死に場所と定めた。

 

 撃震に残された右腕の長刀を水平に伸ばして構え、跳躍ユニットを全開。

 

駒木「う……オオオオオオォォォォ!!」

 

 殆ど防御を考えていない明らかに隙の大きいモーションで全力で水平に長刀を振り払って、その運動エネルギーで強化型の要撃(グラップラー)級を上下に両断、両断、両断。

 死ぬまでに一匹でも多くのBETAを殺し、死ぬまでに一歩でも前へと進み続ける。今の駒木がやるべき事はそれだけであった。

 7体目の強化型の要撃(グラップラー)級を斬りつけたところで長刀がへし折れた。だがまだ命はある。ならば使()()()()()()()()()()

 

駒木「ウア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァ!!」

 

 即断、駒木は獣のように叫びながら低い姿勢で要撃(グラップラー)級の懐に飛び込み、その拳を躱しながら体当たりをぶちかました。更に半分になった長刀を要撃(グラップラー)級の背中に突き刺した。

 これでも目の前の要撃(グラップラー)級は死ななかったのだが、それが逆に功を奏して、駒木はかなりの距離を前進出来、この周辺では最後に残っていた光線(レーザー)級10体を轢き潰した。BETAの誤射禁止特性に偶然はまったのが幸いだった。

 だが何故誰もこれをやらないのかと言えば全く安全ではないからだ。要撃(グラップラー)級の腕が駒木の撃震をがっちりと掴み、締め上げて軋ませていく。駒木の命はもってあと数秒だろう。

 

 その時、駒木の目に何かが映った。国連ブルーの不知火が3機、正面から駒木の上を抜けていくコースだ。話に聞いた撤退支援すべき部隊に違いない。

 

 あの部隊が射程内に入るとき、もう駒木の命は尽きている筈だ。救助は間に合わない。

 だが駒木は達成感に包まれた。駒木はあの部隊を撤退させるためのルート維持に成功した。この作戦の結果に少なからず寄与し、人類の明日を繋いだのだ。

 駒木はそれだけでも満足していたのだが、意外なことに相手の部隊から通信が送られてきた。――更に意外なことに、その相手は12・5事件で直接刃を交わした部隊の隊長であった。

 

 通信越しに顔を合わせた両者は、互いに驚いた表情を見せた後、無言の敬礼と微笑を交わした。

 敬礼を交わし、管制ユニットを潰されるまでの間、駒木は思い返した。ここまでの行いに後悔は無かったか。やるべき事はやったか。全力を尽くせたか。

 その答えは――意外なことに、否、であった。

 

駒木「……こんなところで死んでいられるかァァ!!」

 

 魔導演算宝珠Mk.4を取り出した駒木は、圧迫されて狭くなった管制ユニットを内側から素手でぶち破り、取り出した刀で目の前の要撃(グラップラー)級を両断。続いて迅雷四型を呼び出して乗り込んだ。

 駒木の迅雷は正面の要塞(フォート)級に突進して斬り上げで触手の先から頭上までを一刀両断し、オーバーキルによる次元断効果で周囲のBETAを一掃した。

 

駒木「はあ、並行世界の自分なのに意識の差がありすぎる……!」

 

 駒木は並行世界の自分との意識の乖離に頭を抱えた。思い込みでクーデターを起こしてあれだけ迷惑を掛けておいて、ハイヴの一つすら落としていないのに命を捨てて満足するなど、巫山戯ているのか?

 ……いや、大分強くなって忘れていたが、思い返してみれば確かに1年ほど前はこんな感じだった気がする。そもそも人が簡単に死ぬのが当たり前だったし、ハイヴは落とせないのが当たり前だったのだ。

 それにしたって将軍殿下の忠実な臣下である榊首相を誤解で殺しておいて後悔すら無いとは……いや、こっちではそれすら気付かないままだったのか。つまり最後まで勝手な思い込みだけで覚悟を決めて突っ走っていたんじゃないか、と気付いた駒木は益々頭が痛くなった。

 憑依(ポゼッション)で意識が覚醒するまでの時間には個人差があるが、その他に命の危機に晒される、或いは明確な確信を得るなどの条件により覚醒を早められるという。だから明らかに死にそうな状況に置かれているこの世界の自分ならすぐに覚醒するだろうと駒木は思っていたのだが、まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ここまで一向に目覚めないという弊害が発生するとは、思ってもみなかった。

 この調子では、別の防壁世界に行った沙霧は大丈夫なのだろうかと駒木は少し心配になってきた。

 

武≪は? BETAが一斉に死んだ……!?≫

 

みちる≪呆けるな、今のうちにここを抜けるぞ!≫

 

武≪りょ、了解!≫

 

 一方のみちるは、死にかけていた筈の駒木の暴れぶりを見て思考に空白が出来た拍子に意識が覚醒し、武と冥夜が駒木に注目している隙にこっそり迅雷四型に乗り換えていた。

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