探検家のスコアがトピアのピンチに颯爽と登場しようとして滑ったことが判明し居たたまれないことになっていたが、それはともかく挨拶は大事である。歩いてスコアの拠点に向かいながらの自己紹介となった。
トピア「えーその、スコアさん? 私はトピア・ポケクラフ、文明促進業務をやっている
サティ≪通信越しに失礼、私はサティ・カフェイン・トリファクス。FICSIT社の
スコア「おお……おお、外部と通信が出来ているのか。それは素晴らしい。私もここから出られなくなってそれなりに長いからな……」
ラリー「おう、良かったな?」
探検家のスコアも携帯電話や通信機の類いを持っていなかったわけではないが、ここは地中深く。地下1,500ftと平然と通信出来ているFICSITの技術力がおかしいのだ。
それを悔しく思ったわけではないのだろうが、スコアの表情は言葉とは裏腹にそれほど嬉しそうではなかった。
スコア「そういえばだ、ラリー。どうして君が日本語を喋っているんだ?」
ラリー「お? そりゃあこいつが英語あんまり分からんっていうから……」
スコア「こっ、こいつゥ? 君ィ、トピアさんに対して馴れ馴れしくないか?」
トピア「え、ええー……?」
むしろ勝手に馴れ馴れしい判定しているスコアの方がどうなのかと感じる言い草にトピアは困惑した。それを察したラリーの方がフォローを試みる。
ラリー「あー、すまんな、こいつ遭難して以来全く人間と会話してなかったらしくてな、久しぶりに遭遇した女にいい格好したくてちょっとおかしくなってるんだ。何しろさっきまでは明らかな人間ってだけで俺にすらめちゃめちゃ距離が近かったんだぜ?」
サティ≪ああ、そういう……≫
トピア「人恋しかったんですねえ」
トピアにアピールするあたり生粋の同性愛者ではないのだろうが、極限環境で新たな扉が開いたタイプだろうかとは思っても口にしなかった。その程度の配慮はしているのだが、視線は生暖かかった。
スコア「……すまない、しかと反省するから哀れみの目を向けるのはやめていただけないか」
同情によりスコアには逆に精神的ダメージが入ったようであった。
スコアは己を恥じた。いい格好したいという表現はマイルドな方で、実際の所は仲良くなって
なおがっつくようなアプローチが良くなかったと反省するだけで、目的自体を諦めたわけではない。狩人は獲物に警戒されるべきではないという基本を思い出しただけである。目的を達成するためには焦ってはいけないのだ。
つまり同性愛は誤解なのだが、極限環境でスコアのそういった本能が高まってしまっているのは単なる事実であり、そのあたりは当人にも自覚が無かった。
サティ≪それで、遭難というのは?≫
スコア「うむ、よくぞ聞いてくれた」
再び居たたまれなくなった空気をどうにかするべくサティが矛先を変えたため、スコアはこれに素直に乗ることとした。
スコア「ある日私は秘境の森深くを探検隊の一員として探索していたのだが、そこで奇妙な遺物を見つけてね。それに引き寄せられるように手を伸ばすと、同じ遺物が鎮座した真っ暗な地下世界に閉じ込められていたのだよ。恐らく一方通行の転移という奴だな」
トピア「へえ」
人を転移させる遺物的な物ということでトピアは転移の祭壇を思い浮かべた。大きな石造りの閉じた門の様な形をした設備で、こちらの世界に来てからは作れなくなってしまった便利アイテムだ。まあそもそもの機能が空間的に断絶した他の島へと移動するもので、同じ島に複数の祭壇があっても相互に転移は出来なかったので、こちらで作っても意味は無さそうと予想出来るものであったが。
そうなると移動に不便するので何か代わりの物があっても良さそうなものだが、今のところ見つかっていない。これもワールドシステムが不完全なせいかもしれない。いや、もし各地に備わっている形ならば、BETAに利用されることを警戒して撤去した可能性もある。
スコア「それ以来、灯りを、鉱石を、食料を確保して、周囲の脅威を取り除き、農業や畜産の形をどうにか整えていたのだが……昨日になって、一度倒した周辺の脅威生物が突然復活してね。ああ、奇怪生命体グラーチという赤い巨大スライムで、それ自体はあっさり始末したんだ。だがドロップを回収するかと思ったところにまた別の巨大スライムが現れた。青い体に王冠を乗せたキングスライムという奴だ。絶望的な強さという訳ではなかったが、初遭遇だったので勝手が分からず攻めあぐねていたところ、そこに天井をぶち抜いて現れキングスライムを瞬殺したのがこのラリーだ」
ラリー「そう、この俺だ」
何やらキメ顔で親指で自分を指さしたラリー。ピンチに現れるとはこういうことだと言わんばかりの表情にスコアは若干の苛立ちを覚えた。
スコア「遂に助けが来たのかと喜んだのも束の間、彼によるとここの地上世界は私が知るものとは全く違うらしいじゃないか? あのキングスライムも彼の世界にいたものだと言うし」
なるほど、先ほどの地上と通信出来ることを喜びたいが喜べないような表情は、ここの地上が彼の故郷とは違う場所であることを既に把握していたからのようであった。
それと同時に、キングスライムの見た目の特徴、そしてラリーの世界にいたという関連性から、トピア達はそれが地上でスパイダートロンに瞬殺されたものと同一存在と確信した。そしてそこからスコアの戦闘能力がどのくらいか概ね察した。
ラリー「俺もこの辺りが見たことないものばかりで驚いたんだぜ? ああ、キングスライムとケイヴリングだけは見たことがあったな。俺が知ってるケイヴリングは麦藁帽子を被って鍬を担いだ奴だったが」
スコア「それはもう少し東の方にいるケイヴリングガーデナーの方だな。それよりもラリーは色んな世界を股にかけて冒険していると言うではないか。そこで私はまさかと思ったのだ。これほど常識が食い違うのであれば、私は転移で別の世界に来てしまったのではないかと」
ラリー「まあ森から転移したときか、スコアの言う『昨日』の異変のときか、どっちのタイミングでここに転移したのかは分からないんだけどな。もし『昨日』だったら拠点の周囲丸ごと来てるのはすげーよな」
トピア「ラリーさんはどうしてここに?」
スコアの事情は分かったが、ラリーも複数の世界を冒険していると聞いたトピアは、どういういきさつでこの世界に来たのかを尋ねることにした。自らの意志で来たのならば、一方通行ではない可能性があるからだ。
ラリー「おう、次の冒険先を見繕ってたらなんか面白そうなワールドを見つけてな。早速準備して飛び込んできたって訳よ。まあどういうわけか帰れなくなったんだけどな、わはは!」
サティ≪まさかの好奇心100%≫
自らのトラブルを笑い飛ばすラリーは全く後悔するそぶりが無かった。メンタルが太い。
そしてラリーも帰れないということは残念ながらサティ達の帰還の手がかりにはならないのだが、トピアは一つ思いついたことがあった。
トピア「もしやその面白そうなワールドを見つけたっていうのはうちの上司が関与しているのでは?」
スコア「ふむ、その上司とは?」
トピア「はい、このスコアさんの拠点周辺の外側にはラリーさんの馴染みの環境がありますけど、更に外の星全体の大枠は元々うちの上司の女神的存在が整備したものらしいんですよ」
スコア「女神……的存在?」
女神と断言しない妙に曖昧な言い様に、スコアは首を傾げて問うた。
サティ≪あー、トピアの上司は神のような力はあるらしいけれど、素行がもの凄く悪いらしいから期待しない方がいいわよ≫
ラリー「そうなのか?」
トピア「はい」
ラリーの確認にトピアはノータイムで頷いた。
トピア「まあそれはともかく、この星は私の馴染みの世界がベースになっているわけです。ただ、世界の構築中に外敵の侵略を受けたために正常にシステムの構築が出来ず、その外敵を駆除するために送り込まれたのが私です。あと駆除出来るまで一方通行になるとも伺っています」
ラリー「その話さっき聞いた気がするな。外敵の一つがクトゥルフって話だったか?」
トピア「はい、現在確認出来ている外敵はBETAとクトゥルフの二つです」
スコア「するとあれか、クトゥルフを討滅させるためにクトゥルフバスターであるラリーが呼ばれたということかね」
サティ≪トピアの上司がマイスター七人で協力せよと話してたから、その可能性があるという話ね。そして、帰還条件も同じだとすれば私達の敵は同じということになるわ≫
そうだとすれば戦う為の意思統一は容易いのだが、わざわざそんな条件でこの世界に放り込まれること自体が当人達にとっては不本意に違いない。よってトピアはまずそこの感情的軋轢を少しでも緩和するため、上司の不始末を代わりに謝罪することにした。
トピア「というわけでうちの上司がご迷惑をかけたかもしれず、代わってお詫び申し上げます」
サティ≪まあ呼んだのか来るのを知ってただけなのかは分からないのだけれど≫
スコア「ふむ……」
ラリー「いや俺は一向に構わないが?」
トピア「は?」
サティ≪何て?≫
少し考え込んだ様子のスコアと違って、ラリーの返答は実にあっけらかんとしており、トピア達は意表を突かれた。
ラリー「そもそも俺は新しい冒険をしたくて飛び込んだんだ。未知の強敵上等じゃねえか。帰りたけりゃそいつを倒せっていうのもむしろシンプルでいいぜ」
スコア「こいつはそういう奴なんだよ」
サティ≪頼もしいけれど……≫
トピア「つまりはバトルジャンキーの方でしょうか?」
ラリー「よせやい、照れるぜ」
バトルジャンキー呼ばわりされたラリーは何故か喜んでいた。
サティ≪それ褒め言葉なの?≫
スコア「分からん。それと私に関してもそう気にすることはない。元々1年ほど地下から脱出不能の状況だったから、それよりはマシとも言えるさ」
サティ≪それはありがたいけれど≫
トピア「1年は大変でしたね」
スコアが孤独を味わっていた期間が思ったより長かったのでトピア達は神妙な態度になり、スコアも苦労を思い返しているのか視線が遠くなった。
スコア「まあな……っと、見えてきたな。あれが私の拠点だ」
蟲が周回していた道から内側に向かって、地割れに架かった橋を渡り更にもう暫く。前方に防壁が見えてきた。地面から天井までみっちり詰まった綺麗な桃色の壁である。上に通る隙間が無いのは天井がある地下ならではの光景だ。
防壁の門の左右には松明が灯っている。
サティ≪あの壁は?≫
スコア「サンゴの壁だね。サンゴと侮ってはいけないぞ。ああ見えて真紅石よりも頑丈なのだ」
そう言われても比較対象の真紅石の頑丈さが今ひとつ分からないので首を傾げる一行である。
スコア「まあ待て、この辺りの鉱石は銅、ブリキ、鉄、真紅石、オクタリンと順番にグレードが上がっていくわけだが、サンゴの壁はこの真紅石より上位の頑丈さなのだぞ?」
サンゴの壁が鉄の上のそのまた上のグレードなのは分かったが、それとはまた別の疑問点が生まれてしまい、トピア達は未だ納得しかねている様子であった。
スコアは自分の説明に不足があったと考え、改めて質問を受け付けた。
スコア「……何か不明な点があったかな?」
サティ≪今おかしな言葉が聞こえたんだけど、よく分からないオクタリンはともかく、ブリキの鉱石って何?≫
スコア「うん? 元素番号50番のブリキだが?」
サティ≪ああ、なるほど≫
その返答を聞いて漸くサティの声に理解の色が宿った。
サティ≪つまりは和訳の選択を間違ったのね。tinには複数の意味があるでしょう? ブリキは鉄にメッキした方よ。単体元素の方は錫≫
スコア「なん……だと……!?」
間違いに気づいたスコアは目を見開いてトピアの方を振り返った。先ほどから失敗を繰り返しているが、またしても評価を下げてしまったのならば何とか挽回しなければいけないし、それ以前に意中の相手に笑われること自体が耐えがたい。実際錫の取り扱い経験があるラリーは腹を抱えて笑っていた。殴りたい。
ところがトピアは全く笑う様子が無く、きょとんとした顔をしていた。とはいえ今の話を理解していないわけでもなさそうだ。
スコア「君は私を笑わないのか?」
トピア「え、笑いませんよ? だってそもそも私のために慣れない日本語を使ってくれてるんですから。それに間違うということは魔法の自動翻訳とかじゃなくて自力で習得したんですよね? むしろすごいじゃないですか」
スコア「何と……やはり貴女は素敵な人だ」
感極まったのか、スコアは目頭を押さえて天を仰いだ。
サティ≪トピア……折角落ち着いてきた男をまた一撃で落とすのやめなさいよ≫
トピア「割と当たり前のことしか言ってないと思うんですけど!?」
そもそもトピアは訳語を間違える以前にtinという単語自体今知った口である。これで人のことを笑えるわけがない。
そんな当たり前のことを言っただけで咎められるのも勝手に惚れられるのも納得がいかないトピアであった。
ただし遭難してひとりぼっちだったスコアが少し優しくされただけでトピアに入れ込むのも、ただのぼっちだったトピアがやたら過剰評価して師匠に入れ込むのも、端から見れば殆ど同じなのだが。
この時点でサンゴの壁が最強扱いなのは、筆者がCore Keeperを最初に通しプレイした時期には沈んだ海までしか実装されていなかった為で、拠点ごと参加の代わりにスコア氏にはそこからスタートしていただきました。
tin=ブリキはCore Keeper三大誤訳の一つ。現在は「スズ」に修正されていますが、沈んだ海までの実装時点では本当に「ブリキ」と表記されていたんです。とはいえ概ね快適に日本語でプレイ出来るだけありがたいよねっていう。(笑わなかったとは言ってない)