【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

301 / 387
301. あなたたち実は将軍殿下と彩峰中将のことが嫌いなんですか?

 2001年12月6日。この日、この世界では12・5事件のまっただ中であった。

 前日12月5日、沙霧 尚哉大尉率いる自称憂国の烈士こと戦略研究会がクーデターを決行。政府中枢を制圧して榊 是親内閣総理大臣をはじめとする内閣閣僚数名を国賊認定して誅殺した。

 自称憂国の烈士達は政治家達が政威大将軍の意向を無視して勝手にやっているから()()()()()()()()()()()()と主張していたが、実際には誅殺された榊総理は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことを徹底して政威大将軍に高く評価されていた政治家である。つまり困窮というのは限られたリソースに対し養うべき人数が多いことによる結果に過ぎず、別に政治家達が私腹を肥やしたからこうなったわけではない。

 ついでに言うなら榊総理は烈士達が信奉している彩峰 萩閣から直々にバトンを渡されていた人物ですらあるのだが、それも全く気付いていなかった。

 更に言って良ければ日本の生産能力が大きく目減りしているのは短絡的な善意で軍を壊滅させてBETAに日本の半分を明け渡した彩峰中将の責任がかなり大きい。

 要するに彼らは崇高な使命に殉じる自分に酔いながら都合の悪い所をひたすら他人に責任転嫁して、目的とはまるで逆の方向に突っ走っていた。

 

 その後、クーデター軍は厚かましくも政威大将軍の直命を賜ろうとした。厚かましいが、戦国武将が帝の勅許を大義名分にしようとするのと同様の行為であると考えれば政治的な意味は分かる。それはそれでお前らはいつの時代の人間だと言いたいが、この日本帝国は武家社会が現役なので完全に時代錯誤とも言いがたい。

 クーデター軍は帝都城を囲んで帝国斯衛軍と暫く睨み合いになっていたが、少なくとも帝都を戦場にする意図は無いとの主張であった。しかし実際には戦端は開かれた。これはクーデター軍に紛れ込んでいた米国中央情報局(CIA)の工作員の仕業だ。

 元々米国中央情報局(CIA)が計画しているクーデターをマシなものにするためには沙霧が主導するしかない、と情報省の()()()()()()()()()()()()沙霧はクーデターを決行したのだが、結局末端までの統制は出来ていなかった。

 

 これを受けて国連軍横浜基地のA-01部隊は207B訓練小隊も含めて後方警備任務に出動し、白銀 武達が所属する207B訓練小隊は将軍家の離城である塔ヶ島城の警備に当たった。

 政威大将軍である煌武院 悠陽は、帝都での戦闘をやめさせるため自らを囮として敢えて脱出の情報を()()()()()漏洩させ、()()()()()()()()()帝城を脱出し、塔ヶ島城においては()()()()()()()()()武と207B訓練小隊がその身柄を預かって横浜基地に護送することになった。

 

 お分かりだろうか。政威大将軍を含む全てが鎧衣課長の掌の上であることが。

 これには香月 夕呼も関わっており、オルタネイティヴ4に対するHI-MAERF(ハイマーフ)計画の接収が進んでいないという状況を何とかするため、まずは国連に対する日本の国民感情をどうにかすることを目的とし、そのためにこの事件で国連軍が将軍殿下を救出したという実績を作る為の盛大な茶番であった。

 

 その頃、自らを囮にした悠陽の行動に感銘を受けた沙霧は、将軍殿下さえ無事であれば日本の未来は明るいなどという暢気なことを宣っていた。その将軍殿下の忠臣を100%思い込みで誅殺しておいて言っているのだからなかなか優秀な道化師(ピエロ)である。

 

 将軍を国連軍横浜基地へと送り届けようとする207B訓練小隊とその身柄を狙うクーデター軍の鬼ごっこにおいて、まずは地勢的に207Bが冷川料金所を突破出来るかどうかが焦点となった。

 この争いにおいてよりによって富士教導隊までがクーデター軍に加勢し、冷川料金所付近は混戦の模様を見せていたが、207B訓練小隊側にはアルフレッド・ウォーケン少佐が率いる米軍の第66戦術機甲部隊が加勢した。この部隊は全機F-22ラプターで構成されており、BETAに対しては全く意味の無いステルス性能を発揮して、対人戦において無類の強さを見せつけた。

 まだBETAに押されっぱなしの状況でわざわざ対人特化戦術機を作るなんて米国さん余裕ッスねと皮肉を言われかねない代物であるが、まあこの状況において大きく武達に味方したことは間違いない。

 

 

 

 一方こちらは小田原西インターチェンジ跡。オルタネイティヴ4直属A-01部隊である伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)は、脱落者無しでまずクーデター軍の将軍奪取部隊第一陣を壊滅させ、冷川へ差し向けられる戦力を大きく削っていた。神宮司 まりも軍曹に精鋭として鍛えられた伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)の実力に第3世代戦術機不知火、更に戦術機の挙動を大幅に改善するXM3(エクセムスリー)が合わさった結果であった。

 この結果に対し、通常の部隊では小田原西を突破し南進することは叶わぬと見たクーデター軍は、沙霧の腹心である駒木中尉が率いる帝都守備連隊の精鋭を差し向けた。

 

 既に並行世界の記憶の流入が始まっており、XM3(エクセムスリー)による初見殺しが出来ない分だけ伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)のアドバンテージが薄くなるが、総合力ではまだ伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)が優越していた。ただしクーデター軍は未来知識によりこのクーデターが日本を目覚めさせるという結論を得ており、益々意気軒昂になっていた。

 まあそれは彼らが未来においても将軍殿下と榊総理の真意を知らないままだった故の勘違いなのだが。

 

 伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)は地力にXM3(エクセムスリー)のアドバンテージを上乗せし、駒木率いる精鋭達と互角以上に渡り合った。

 特にこの戦いで戦死する記憶がある高原少尉は油断なく立ち回り、常に背後を警戒していたのだが、不味いことに記憶にあるよりも敵が多く、自分を狙う駒木の動きに単独で対応するのも難しかった。

 

高原「くっ、狙われている……!?」

 

 クーデター軍全員に流入した並行世界の記憶により、「こいつは派手な動きをするが真っ先に撃墜出来る」と高原少尉は認識されていた。伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)各員も可能な限り高原のフォローをしていたが、そのフォローに気を割かせて連携を崩すのも駒木の作戦だった。

 結果として、高原少尉は記憶同様に不知火を一刀両断される結果になった。それでも僅かに身をよじり、正中線で真っ二つにされることを避けた高原少尉は戦術機用長刀で生身の左腕を切り飛ばされ、その勢いで空中へと投げ出された。直後、不知火が爆散した。

 

伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)≪……た……高原ァーーーーッ!!≫

 

クーデター軍衛士≪駒木中尉――!≫

 

駒木≪現状を見てもなお殿下を連れ去ろうとする売国奴どもめ! ここで成敗してくれるッ!≫

 

 脱落者を出さないまま先制で高原機を撃墜した駒木は目の前の精鋭部隊が日本人部隊であることを未来記憶から知っていたので、色々省いて罵った。これにより自称烈士達の士気が益々上がる。

 

みちる≪……()()()()言おう。我々は国連軍人としての責務を果たす。軍人(われわれ)に必要なのはそれだけだ≫

 

 この言葉には、軍人が命令通りに動かなくてどうする、という大前提以外にも意味がある。

 みちるは人類を救うために邁進する夕呼の指示で動いている。人類を救うために必要なのは自己判断で感情のままに暴れることではなく、夕呼の手助けをすることだという前提で動いているのだ。沙霧や駒木の行動はその点において全く話にならない。

 しかし残念ながら後半の意図は駒木に全く伝わっていない。

 

駒木≪()()()()()()()()囀るか! そういう言葉を言い訳にして皆が現実から目をそむけ続けた結果がこれだ! 己の利益や立場を守ることしか考えず――そのために他者を貶めるなら、BETAと何が違うというのだッ!!

 

 上がった士気を元手に駒木が更なる攻勢を掛けようとする。だがそれに冷や水を浴びせる者がいた。

 

 

 

高原「――いやいや、それはちょっとこじつけが酷くないですか?」

 

 管制ユニットから空中へ投げ出された高原少尉は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あまりに不可解な事態に、一時的ではあるが戦闘が停止し、場を静寂が支配した。

 

高原「BETAってただの生体重機だから、自分の利益とか立場とか他者を貶めるとか、そんなの全然考えてないですよ。それに意味の分からない理由で離反して人類に仇なしてる貴女たちの方がよっぽど人類敵対種(BETA)の称号がお似合いだと思いますよ?」

 

駒木≪何だと……?≫

 

みちる≪高原……?≫

 

 死んでいなかったのは喜ばしいのだが、突然空中にとどまって自分でも知らないようなことを言い出した高原の様子に、みちるは眉をひそめた。

 

高原「しかしまあ、よくもやってくれましたね。……ああ、腕のことじゃないですよ? こんなのはホラ、()()()()()()()

 

 言うなり、高原の胸元の懐中時計のようなものが発光して失った左腕のシルエットに緑色の光が収束、その直後には切り飛ばされた腕が復活していた。高原は復活した腕に異常が無いか手を握ったり開いたりしている。

 無論魔導演算宝珠Mk.4であり、使ったのはハイリザレクションだ。

 高原()()憑依(ポゼッション)したのは駒木に斬られた瞬間であり、死の恐怖と激痛に意識が乱れた瞬間に覚醒した。かなり危ういタイミングだった。

 

クーデター軍衛士≪なんだあれは……!?≫

 

クーデター軍衛士≪面妖な……!≫

 

高原「一つ訊きたいんですけど、あなたたち実は将軍殿下と彩峰中将のことが嫌いなんですか?」

 

 高原は空中にとどまったまま、首を傾げて問うた。それは本当に分からなくて困っているような表情だった。

 

駒木≪そんなわけが無いだろう。貴様は一体何を言っているんだ≫

 

高原「何を言っているんだと聞きたいのはこっちの方ですよ。だったら何で将軍殿下の忠臣で彩峰中将に直々に後を頼まれた榊総理をぶっ殺して憂国の士を気取ってるんですか? もしかして目的のために何をすればいいかも確かめずに殺して回ってるただのアホなんですか?」

 

駒木≪……は? で、出鱈目をッ!! 将軍殿下があんなやり方をお認めになる()()()ッ!!≫

 

 自称烈士達に明らかに動揺が走ったが、駒木中尉は反射的に高原の言い分を否定した。

 

高原「ほら()()()()()()()()()()じゃないですか。あなたたちの勝手な理想像を押しつけられる将軍殿下もお労しいことだわ。……ま、信じなくても別に構いません。第2ラウンドと行きましょう?」

 

 高原が右腕を振り上げると、その背後に不知火によく似た戦術機が突然出現し、それに驚愕している間に高原は乗り込んでしまった。

 

高原「迅雷起動。……()()()()()()()()は立派な人だったのに、思い込みと勘違いでここまでの馬鹿をやらかすなんて本当に残念ですよ」

 

 高原機が人間同様の自然な動作で長刀を抜き、戦闘態勢を取った。

 その挙動だけで、クーデター軍だけでなく伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)の面々まで、背筋に冷たいものを感じた。

 

駒木≪ステルスに惑わされるな! 各機――≫

 

 急に現れたのはF-22と同様のステルスの一種に違いないと一旦結論づけて駒木は戦闘を再開しようとしたが、その判断は既に遅かった。

 

高原「遅いッ!」

 

 既に高原機は背後へと駆け抜けており、クーデター軍側の全機が四肢と跳躍ユニットを切り落とされていた。クーデター軍精鋭の不知火は瞬時に棺桶と化した。

 

駒木≪なッ……!?≫

 

高原「そこで暫く頭を冷やしていて下さい。……じゃ、隊長。あとを宜しくお願いしますね?」

 

みちる≪高原、お前は……≫

 

高原「あとで香月博士に説明しますので、その時にでも――」

 

 その時、上空を何かが通過する音が聞こえてきた。それは帝国軍671航空輸送隊。厚木基地から飛び立った航空機群だ。

 度し難いことに彼らもクーデター軍に同心していた。そしてギリギリの高度で山間部を縫うことで佐渡島からのレーザー射撃を防ぐという、まるでエースコンバットの電撃イライラ棒ミッションのような飛び方で将軍殿下の元まで沙霧達の戦術機を空輸するという作戦を遂行していたのだ。いわゆる空挺降下戦術(エアボーン)である。

 その技量と度胸をもっと他のところで活かしてほしかった。

 

 作戦の成功を確信して微笑み、北から来る輸送機群を見上げた駒木は――それを目にした途端に笑顔が凍った。

 

 待望の輸送機群は全てのエンジンから火を噴いて、片っ端から墜落させられていた。

 見れば地表から照射された多数の橙色のレーザーに焼かれていた。更に視線を巡らせれば、その光線が高原機の肩や脛から出ていることが分かる。

 

高原「行かせると思いました? この乱痴気騒ぎはここで終わりですよ?」

 

 とっととハイヴを片付けに行きたいが、まずは馬鹿共を全員殴り倒さないと益々余計な犠牲が出てしまう。本当に、本当に面倒なことだと高原はため息をついた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。