2001年12月6日。この日、この世界では12・5事件のまっただ中であった。
前日12月5日、沙霧 尚哉大尉率いる自称憂国の烈士こと戦略研究会がクーデターを決行。政府中枢を制圧して榊 是親内閣総理大臣をはじめとする内閣閣僚数名を国賊認定して誅殺した。
自称憂国の烈士達は政治家達が政威大将軍の意向を無視して勝手にやっているから
ついでに言うなら榊総理は烈士達が信奉している彩峰 萩閣から直々にバトンを渡されていた人物ですらあるのだが、それも全く気付いていなかった。
更に言って良ければ日本の生産能力が大きく目減りしているのは短絡的な善意で軍を壊滅させてBETAに日本の半分を明け渡した彩峰中将の責任がかなり大きい。
要するに彼らは崇高な使命に殉じる自分に酔いながら都合の悪い所をひたすら他人に責任転嫁して、目的とはまるで逆の方向に突っ走っていた。
その後、クーデター軍は厚かましくも政威大将軍の直命を賜ろうとした。厚かましいが、戦国武将が帝の勅許を大義名分にしようとするのと同様の行為であると考えれば政治的な意味は分かる。それはそれでお前らはいつの時代の人間だと言いたいが、この日本帝国は武家社会が現役なので完全に時代錯誤とも言いがたい。
クーデター軍は帝都城を囲んで帝国斯衛軍と暫く睨み合いになっていたが、少なくとも帝都を戦場にする意図は無いとの主張であった。しかし実際には戦端は開かれた。これはクーデター軍に紛れ込んでいた
元々
これを受けて国連軍横浜基地のA-01部隊は207B訓練小隊も含めて後方警備任務に出動し、白銀 武達が所属する207B訓練小隊は将軍家の離城である塔ヶ島城の警備に当たった。
政威大将軍である煌武院 悠陽は、帝都での戦闘をやめさせるため自らを囮として敢えて脱出の情報を
お分かりだろうか。政威大将軍を含む全てが鎧衣課長の掌の上であることが。
これには香月 夕呼も関わっており、オルタネイティヴ4に対する
その頃、自らを囮にした悠陽の行動に感銘を受けた沙霧は、将軍殿下さえ無事であれば日本の未来は明るいなどという暢気なことを宣っていた。その将軍殿下の忠臣を100%思い込みで誅殺しておいて言っているのだからなかなか優秀な
将軍を国連軍横浜基地へと送り届けようとする207B訓練小隊とその身柄を狙うクーデター軍の鬼ごっこにおいて、まずは地勢的に207Bが冷川料金所を突破出来るかどうかが焦点となった。
この争いにおいてよりによって富士教導隊までがクーデター軍に加勢し、冷川料金所付近は混戦の模様を見せていたが、207B訓練小隊側にはアルフレッド・ウォーケン少佐が率いる米軍の第66戦術機甲部隊が加勢した。この部隊は全機F-22ラプターで構成されており、BETAに対しては全く意味の無いステルス性能を発揮して、対人戦において無類の強さを見せつけた。
まだBETAに押されっぱなしの状況でわざわざ対人特化戦術機を作るなんて米国さん余裕ッスねと皮肉を言われかねない代物であるが、まあこの状況において大きく武達に味方したことは間違いない。
一方こちらは小田原西インターチェンジ跡。オルタネイティヴ4直属A-01部隊である
この結果に対し、通常の部隊では小田原西を突破し南進することは叶わぬと見たクーデター軍は、沙霧の腹心である駒木中尉が率いる帝都守備連隊の精鋭を差し向けた。
既に並行世界の記憶の流入が始まっており、
まあそれは彼らが未来においても将軍殿下と榊総理の真意を知らないままだった故の勘違いなのだが。
特にこの戦いで戦死する記憶がある高原少尉は油断なく立ち回り、常に背後を警戒していたのだが、不味いことに記憶にあるよりも敵が多く、自分を狙う駒木の動きに単独で対応するのも難しかった。
高原「くっ、狙われている……!?」
クーデター軍全員に流入した並行世界の記憶により、「こいつは派手な動きをするが真っ先に撃墜出来る」と高原少尉は認識されていた。
結果として、高原少尉は記憶同様に不知火を一刀両断される結果になった。それでも僅かに身をよじり、正中線で真っ二つにされることを避けた高原少尉は戦術機用長刀で生身の左腕を切り飛ばされ、その勢いで空中へと投げ出された。直後、不知火が爆散した。
クーデター軍衛士≪駒木中尉――!≫
駒木≪現状を見てもなお殿下を連れ去ろうとする売国奴どもめ! ここで成敗してくれるッ!≫
脱落者を出さないまま先制で高原機を撃墜した駒木は目の前の精鋭部隊が日本人部隊であることを未来記憶から知っていたので、色々省いて罵った。これにより自称烈士達の士気が益々上がる。
みちる≪……
この言葉には、軍人が命令通りに動かなくてどうする、という大前提以外にも意味がある。
みちるは人類を救うために邁進する夕呼の指示で動いている。人類を救うために必要なのは自己判断で感情のままに暴れることではなく、夕呼の手助けをすることだという前提で動いているのだ。沙霧や駒木の行動はその点において全く話にならない。
しかし残念ながら後半の意図は駒木に全く伝わっていない。
駒木≪
上がった士気を元手に駒木が更なる攻勢を掛けようとする。だがそれに冷や水を浴びせる者がいた。
高原「――いやいや、それはちょっとこじつけが酷くないですか?」
管制ユニットから空中へ投げ出された高原少尉は、
あまりに不可解な事態に、一時的ではあるが戦闘が停止し、場を静寂が支配した。
高原「BETAってただの生体重機だから、自分の利益とか立場とか他者を貶めるとか、そんなの全然考えてないですよ。それに意味の分からない理由で離反して人類に仇なしてる貴女たちの方がよっぽど
駒木≪何だと……?≫
みちる≪高原……?≫
死んでいなかったのは喜ばしいのだが、突然空中にとどまって自分でも知らないようなことを言い出した高原の様子に、みちるは眉をひそめた。
高原「しかしまあ、よくもやってくれましたね。……ああ、腕のことじゃないですよ? こんなのはホラ、
言うなり、高原の胸元の懐中時計のようなものが発光して失った左腕のシルエットに緑色の光が収束、その直後には切り飛ばされた腕が復活していた。高原は復活した腕に異常が無いか手を握ったり開いたりしている。
無論魔導演算宝珠Mk.4であり、使ったのはハイリザレクションだ。
高原
クーデター軍衛士≪なんだあれは……!?≫
クーデター軍衛士≪面妖な……!≫
高原「一つ訊きたいんですけど、あなたたち実は将軍殿下と彩峰中将のことが嫌いなんですか?」
高原は空中にとどまったまま、首を傾げて問うた。それは本当に分からなくて困っているような表情だった。
駒木≪そんなわけが無いだろう。貴様は一体何を言っているんだ≫
高原「何を言っているんだと聞きたいのはこっちの方ですよ。だったら何で将軍殿下の忠臣で彩峰中将に直々に後を頼まれた榊総理をぶっ殺して憂国の士を気取ってるんですか? もしかして目的のために何をすればいいかも確かめずに殺して回ってるただのアホなんですか?」
駒木≪……は? で、出鱈目をッ!! 将軍殿下があんなやり方をお認めになる
自称烈士達に明らかに動揺が走ったが、駒木中尉は反射的に高原の言い分を否定した。
高原「ほら
高原が右腕を振り上げると、その背後に不知火によく似た戦術機が突然出現し、それに驚愕している間に高原は乗り込んでしまった。
高原「迅雷起動。……
高原機が人間同様の自然な動作で長刀を抜き、戦闘態勢を取った。
その挙動だけで、クーデター軍だけでなく
駒木≪ステルスに惑わされるな! 各機――≫
急に現れたのはF-22と同様のステルスの一種に違いないと一旦結論づけて駒木は戦闘を再開しようとしたが、その判断は既に遅かった。
高原「遅いッ!」
既に高原機は背後へと駆け抜けており、クーデター軍側の全機が四肢と跳躍ユニットを切り落とされていた。クーデター軍精鋭の不知火は瞬時に棺桶と化した。
駒木≪なッ……!?≫
高原「そこで暫く頭を冷やしていて下さい。……じゃ、隊長。あとを宜しくお願いしますね?」
みちる≪高原、お前は……≫
高原「あとで香月博士に説明しますので、その時にでも――」
その時、上空を何かが通過する音が聞こえてきた。それは帝国軍671航空輸送隊。厚木基地から飛び立った航空機群だ。
度し難いことに彼らもクーデター軍に同心していた。そしてギリギリの高度で山間部を縫うことで佐渡島からのレーザー射撃を防ぐという、まるでエースコンバットの電撃イライラ棒ミッションのような飛び方で将軍殿下の元まで沙霧達の戦術機を空輸するという作戦を遂行していたのだ。いわゆる
その技量と度胸をもっと他のところで活かしてほしかった。
作戦の成功を確信して微笑み、北から来る輸送機群を見上げた駒木は――それを目にした途端に笑顔が凍った。
待望の輸送機群は全てのエンジンから火を噴いて、片っ端から墜落させられていた。
見れば地表から照射された多数の橙色のレーザーに焼かれていた。更に視線を巡らせれば、その光線が高原機の肩や脛から出ていることが分かる。
高原「行かせると思いました? この乱痴気騒ぎはここで終わりですよ?」
とっととハイヴを片付けに行きたいが、まずは馬鹿共を全員殴り倒さないと益々余計な犠牲が出てしまう。本当に、本当に面倒なことだと高原はため息をついた。