小田原西インターチェンジ跡にさしかかろうとした帝国軍671航空輸送隊は、突如全てのエンジンを破壊され、否応なく不時着体制に入った。
その異常振動に気付いた沙霧 尚哉大尉は、すぐさま機長に問い質した。
沙霧「何事だ!?」
輸送機機長≪大尉、地上からのレーザー攻撃です! エンジンを全部やられました! 全機です!≫
沙霧「何だと、BETAがいたのか!?」
輸送機機長≪いえ、推定戦術機からレーザー攻撃されています!! 兎に角この輸送機は墜落します! コンテナを解放しますから、降下態勢に入って下さい!≫
レーザー攻撃をする戦術機、と言われても沙霧には全く心当たりが無いが、確かに相手がBETAなら、エンジンだけと言わず機体丸ごと攻撃されているだろう。
それはともかくこのまま黙って墜落を待つわけにはいかない。それに少しでも荷物が軽い方が不時着もしやすいだろう。
沙霧「……承知した! 各機、降下態勢に入れ!」
輸送コンテナの後方ハッチが開くと同時に戦術機固定具が解放され、沙霧達の不知火が順次空中に飛び出していった。
しかしそれらの機体は飛び出す順に片っ端からバラバラにされていった。はぐれたという意味ではない。文字通り四肢をバラバラにされていったのだ。
沙霧「一体何が……? そこッ!!」
最後に降下を始めた沙霧は、見えないながらも何者かの気配を感じ、勘を頼りに攻撃を受け流した。
高原≪雷速斬りを受け流された!? まさか沙霧大佐!?≫
沙霧「大尉だッ!」
受け流されて体勢を崩した相手に沙霧の不知火が跳躍ユニットを噴かして斬りかかるが、距離を取って躱された。幾ら沙霧の剣技が研ぎ澄まされていても、届かないのでは当てようがない。
一応マップには映っており、IFF表示ではMeistersと出ている。
沙霧「マイスターズ……だと? 貴様、名を名乗れ!」
高原≪
沙霧「私は帝国本土防衛軍帝都守備第1戦術機甲連隊所属、沙霧 尚哉大尉だ!
高原の名乗りは何故か聞き覚えのあるフレーズであり、沙霧は相手の機体が迅雷四型というところまでは思い出した。
それに対し、この大事なときに、これもどこからか流入してきた記憶か、と沙霧は受け流した。
高原「いや、起きろってそういう抽象的な意味じゃなくてですね!? こんなことしてる場合じゃないでしょう大佐! とっととハイヴを掃除しに行きましょうよ!」
沙霧≪こんなこととは何だ、この売国奴め!≫
高原「話が全然通じない!?」
高原は困惑した。意識を失うなり死の危険を感じるなり元の自分に関する確信を得るなりすれば覚醒が早まるとは聞いているが、目の前の沙霧はどうも全てを意思の力で押さえ込んでいるように見える。駒木中尉もそうだったが、間違った方向に頑固だというのがこれほど厄介だとは。
しかも剣術が人外レベルに達者なので、下手に手加減すると雷速でも受け流されるし、手加減無しで攻撃すると殺してしまうかもしれない。
ならばと高原は一旦距離を取って、自動迎撃のディストーションレーザーで不知火の跳躍ユニットを破壊することにした。
高原「いけッ!」
沙霧≪輸送機を落とした攻撃かッ! これしき!≫
橙色のディストーションレーザーが正確無比に不知火の跳躍ユニットを指向するが、これはMk.4とはいえレーザータレットではなく携帯レーザー防御モジュールを元にしたものなので攻撃力はそれほど高くない。そのため不知火のレーザー蒸散塗膜が少しの間は防いでいた。
レーザーの照準を安定させるため、高原は一定距離を保ったまま照射を続けた。沙霧はランダム回避で照準を攪乱しながら突撃砲を浴びせた。
その命中精度は大したもので、回避より命中精度を優先した高原機に大半の36mm砲弾が命中したが、当たったからと言って効果があるものではなかった。ただでさえ構造強化が掛かっている上に術式で
そのやりとりを粘り強く続けていると、遂に沙霧の不知火の両側の跳躍ユニットが爆発した。
ともあれ、これでやっと落ち着いて話が出来る、と一息ついた高原だが、引き撃ちに徹していたために大分移動していたのが不味かった。沙霧機の落下地点は――政威大将軍、煌武院 悠陽を乗せた武の吹雪が将軍を休ませる為に立ち止まっているまさにその場所だった。この方向と距離と墜落のタイミングは、双方にとって最悪のものであった。
沙霧「不覚!」
跳躍ユニットを破壊された沙霧は、まず自身の落着予想ポイントをマップに出した。
沙霧「――あれはまさか!?」
沙霧は並行世界の記憶から、自分の墜落先にある戦術機に将軍殿下が乗せられていることに気付いた。だが不知火の跳躍ユニットは両方が機能停止しており、推力になるものが何も無い。精々重量物を投げて反作用で多少落着地点をずらせるくらいだ。流石にもっと接近すれば周囲を含めて気付くだろうが、どうにも動きが鈍いので間に合うかは微妙だ。――いや、周囲の護衛は気付いて沙霧機に銃口を向け始めた。
何故動きが鈍かったのかというと、折悪く武は加速度病を発症した悠陽にトリアゾラムを投与するかどうかで選択を迫られており、突如流入し始めた未来の記憶と併せてこの判断が正しいのかと考えがぐるぐる回っていて自分の真上から戦術機が墜落してきている事に直前まで気付いていなかったのだ。レーダーなど見てはいないし、沙霧機は跳躍ユニットを失っているのでエンジン音が聞こえるわけでもない。
他の面子も、全く警戒していなかったわけではないが、どうやってトリアゾラムを使わずに将軍殿下を休ませる時間を稼ぐか、或いはどうやってすぐに進軍再開させるかという言い争いの方に気を取られていた。こちらは未来記憶のせいで言い争いの最初からアルフレッド・ウォーケン少佐が時間稼ぎの茶番だと気付いていたが、同じく記憶のせいでなまじ日本帝国人の精神性を理解してしまったので面倒なことになっていた。
また、放っておけば部下のイルマ・テスレフ少尉が将軍襲撃に使われてしまうことに気付いたので、その下手人を隊長権限のFCSロックではなく物理的に拘束するのに時間を取られて益々進軍の足が鈍っていたというのもある。
クーデターに失敗するとしても、その結果敬愛する将軍殿下を傷つけるなどもってのほかだ。――実際はとっくに多大な迷惑を掛けているのだが、沙霧はそれに気付いていないのでまだセーフだと思っている。
沙霧としては逆賊として始末されるのは構わないが、このクーデターが元々
沙霧は限られた時間で対策を記憶から検索し、遂に
一息ついていた高原がこの辺りで失策に気付いて沙霧機を追いかけ始めたが、結果としてその必要は無かった。
沙霧「――
沙霧の宣言に応じて胸元に魔導演算宝珠が現れ、機体が不知火から迅雷四型に切り替わった。無論跳躍ユニットも復活したため、沙霧は目の前に飛来する砲弾と自分を捕まえようとする高原機を空中で回避して、将軍が乗った吹雪の目の前に膝を突く形で着地した。
武≪な、何だ!?≫
武は突然目の前に落ちてきた不知火によく似た機体に困惑していた。だがそれは武器を持たない上に明らかに将軍に対する礼儀をわきまえた臣下の礼を取っており、敵意は無さそうに感じられた。
そこに続いて高原機が降下してきた。
高原「あ、207Bと米軍の皆さんですね、お疲れ様です。撃墜機をこんな所に落としてしまってすみません。それで沙霧大佐、やっと目が覚めましたか?」
沙霧≪……殿下、
高原「……うん?」
沙霧が迅雷を出したので、それを以てやっと面倒な事態が終わったと思っていた高原は、この辺りで
沙霧は高原を無視して将軍殿下に語りかけ始めた。まあ敬意を示す順番としては間違っていないのだが、名乗りがおかしい。
沙霧≪――殿下に多大なる御心労をおかけしましたこと、塗炭の苦しみでございます。我が力の至らなさに恥じ入るばかりです。しかし――≫
沙霧は兵装担架に収められた長刀の柄を握り、高原機に向けて抜き放った。
沙霧≪
高原は目の前の吹雪に将軍殿下が乗っていることに関しては沙霧が挨拶を始めるまで認知していなかった。知っていれば真っ先にそちらに謝罪しただろうが、その謝罪が無かったことで沙霧は自機の落下点に関して、将軍殿下を害するために故意にそうしたと見なしたのだ。
高原「ウッソでしょ!? 何で目覚めないまま力だけ使えるようになってるのォ!?」
沙霧≪問答無用! 覚悟ッ!!≫
つまりは
滅茶苦茶やってるのに無駄に強いせいで余計厄介な沙霧=サン、無駄に滅茶苦茶パワーアップして復活の巻。