前提として、魔導衛士が操縦する迅雷四型同士の戦闘においては、魔導機関砲やレーザー迎撃システム程度の火力では意味を成さない。
問答無用で斬りかかる沙霧機に対し、高原機は長刀を構えて迎撃を試みた。もはや魔導銃剣で撃てるほどの距離はないし、わざわざ持ち替える暇も無い。
高原「っとに人の話を聞かないんですからぁ!!」
だが高原は沙霧ほど剣術が達者ではない。そのため時間感覚調整術式で体感時間をスローにすることで対処した。時空勾配加速により亜光速に達する轟雷の太刀筋ならともかく、迅雷の速さには限界があるので十分認識可能だ。
同じ機体、同じ武器でもって高原が一合、二合、三合と沙霧の攻撃を堅実にしのいでいくが、反撃する暇が無く、十や二十も続くと徐々に対処が遅れていく。
スローにして太刀筋を認識出来るようになっても、動ける速度は精々相手と同等でしかないので、技量に差があると無駄の省き方で対処速度の差が出て徐々に詰みに向かってしまうのだ。高原はまだ沙霧に本気で攻撃する踏ん切りがついていなかったのも大きい。
高原が一旦雷速機動で仕切り直そうと考えた所で、その移動先を潰すように沙霧の長刀が突き出され、逃げ道を塞がれた。
まずい、と高原が焦りを感じた所で、意外にも沙霧機は一旦後ろに下がった。その直後に横合いから魔導ビームが飛んできた。
高原には沙霧から目を離す余裕がないが、同じ迅雷の攻撃であることは分かる。
更に高原機と沙霧機の間、高原機に背を向けて庇う位置に別の迅雷が立ちはだかった。長刀の構え方からして斯衛であろう。
ウォーケン≪そこまでにしてもらおうか≫
真那≪いい加減に
高原「ウォーケン准将! 月詠中佐! 助かります!」
沙霧という力だけが覚醒したイレギュラーが目の前にいるため高原は少しだけ警戒していたが、二人は無事想定通りの覚醒をしているようなので高原は安堵した。
特に真那は精鋭揃いの
沙霧≪ちいっ、貴様らも
将軍の身柄を付け狙うクーデター軍と将軍を守ることを目的とする斯衛が敵対するのは当たり前のことだ。沙霧が言っているのはそこではなくて、沙霧が考える所の将軍の命を狙う逆賊と同じ謎の陣営であるということだ。
まあ
真那≪こちらとしてはむしろ貴殿が未だに
真那がそう答えている間に、敵味方の判別が出来た高原は三人で沙霧を囲む位置へと移動した。しかしウォーケンが下した指示は高原が予想していたのとは少し違った。
ウォーケン≪ここは私に任せて、高原少佐とテスレフ少佐は
イルマ≪了解しました≫
アルフレッド・ウォーケン准将だけでなくイルマ・テスレフ少佐や神代 巽少佐、巴 雪乃少佐、戎 美凪少佐も既に覚醒しているらしく、イルマは高原に聞こえてくる音からするとまずは聖水で無自覚洗脳の状態異常を解除している所のようだった。
これで7対1が成立したのだが、ウォーケンは沙霧に関しては自分だけに任せて任務に集中しろと言う。
真那≪……宜しいのですか?≫
高原「その……お一人で?」
一人で大丈夫かと真那や高原があからさまに心配の声を掛けるのも無理はない。ウォーケン准将は沙霧大佐よりも階級は高いが、
折角七人もいるのだから複数で対抗してもいいのではないかと考えるのが普通だ。
ウォーケン≪ふむ、相手が沙霧
ウォーケンは実力を低く評価されたことに気を悪くする様子も無くそう答えた。
その力を持っただけの馬鹿に苦戦していた高原としては何とも言えない所ではあるが、ウォーケン准将は出来ない事を出来ると言い張るような人物ではない。少なくともハイヴを潰し終わるまではもたせてくれるだろう。そう考えて高原達もウォーケンの命令を受諾した。
高原「承知しました、ご武運を!」
イルマ≪行って参ります≫
高原とイルマは、ウォーケンや沙霧を置いて雷速で大気圏外まで上昇していった。
真那≪了解しました。207小隊、殿下には一旦ここでお休みいただく。神代少佐、巴少佐、戎少佐、警護に就け。……白銀少尉、トリアゾラムより格段に安全な薬の持ち合わせがあるのだが≫
武≪本当ですか!?≫
一方、真那達は引き続き将軍殿下の護衛としてその場に残ったが、状態異常治療のために聖水を取り出した。聖水は加速度病治療にも恐らく効く。あとは術式で何とかする方法もある。
まあ加速度病などと仰々しく言ってはいるが、要は重度の乗り物酔いのことだ。罹っている当事者が他ならぬ将軍殿下なので対処が大袈裟になっているだけなのだ。
ウォーケン「……追わないとは意外だな?」
沙霧に魔導銃剣弐型2000を向けたままのウォーケンが問うた。
沙霧≪流石に一度に相手にするのは手に余る以上、各個撃破が妥当だ。それに貴様ら一味の中で貴様が最も階級が高いようだからな。将軍殿下のお命を狙う意図は貴様に聞くのが良いだろう≫
ウォーケン「狙ってなどおらん。貴様が聞く耳を持たないだけで、我々は別に何も隠してなどいない」
実際、高原もウォーケンも真那も本当のこと以外何も言っていないのだが、沙霧が自分に都合の悪い部分を信じようとしないだけなのだ。
沙霧≪ぬかせッ!≫
沙霧が標的を変えてウォーケンに斬りかかると、ウォーケンは間合いに入る前に雷速で遙か上空に移動した。佐渡島方面から散発的にレーザーが飛んできているが、全く意に介していない。
沙霧≪この期に及んで逃げるかッ!?≫
ウォーケン「ついてこいと言っている。
沙霧≪……いいだろう!≫
ウォーケンを追いかけるように
ウォーケンは涼しい顔でそれを回避した。既に時間感覚調整術式は起動している。
ウォーケン「ふむ、やはりこの程度のことは出来るか」
雷速機動を解除しないままの攻撃は一年近く前の沙霧にでも出来ていた芸当だ。目の前の沙霧が出来てもおかしくはない。
ならばと沙霧は僅かなインターバルで再び雷速機動を開始し、軌道を途中で折り返すことで1回の機動で複数の攻撃をウォーケンに浴びせた。
対するウォーケンは魔導銃剣の魔導刃を起動し、可能なら回避、避けられない攻撃は魔導刃で受け流して対処した。
更にウォーケンは携帯レーザー防御モジュールMk.4を左右1対2基だけ起動し、ディストーションレーザーで沙霧機を自動攻撃させた。
沙霧≪今更こんなものが効くかッ!≫
ウォーケン「それはどうかな?」
実際今更携帯レーザー防御モジュール程度の攻撃は全く効いていないが、機械故の照準の正確さがある。そう簡単に標的を見失うことはない。
ウォーケンは左右の自動照準レーザーの交点の行方を追うように魔導銃剣で正確に沙霧をポイントして魔導光線を照射した。クリーンヒットはしていないが、細かく有効打が入り続け、沙霧の迅雷四式が損傷していく。バリアを貫通し、自動回復が追いつかない程度のダメージは入っているのだ。
沙霧≪チッ、機械に頼った攻撃などッ!!≫
ウォーケン「それの何が悪い? 貴様が乗っているそれは機械ではないのか?」
沙霧≪減らず口をッ!≫
機動戦は分が悪いとみるや、沙霧は雷速によるヒットアンドアウェイをやめてウォーケンの懐に入り、銃を活かせない接近戦へともつれこませた。
ウォーケンはこれに銃剣の魔導刃で応じ、的確に処理していった。近接防御に関しては高原よりも手際がよく、なかなか破綻しない。それに加えて、魔導刃の効果で沙霧の長刀の方が徐々に傷ついていっている。
ウォーケン「そもそもだな。何か気に入らないことが起きるたびに他人のせいにして流血を強いるとは、それが貴様が求める正しい日本人とやらの姿なのか?」
国民が困窮していれば政治家の所為(ただし将軍殿下は例外)、自分が将軍に衝突しようとしたら高原の所為(ただし自分は例外)、などと責任転嫁してひたすら他人に殴りかかるのは、文句を言うことだけ一人前のクレーマーよりもタチが悪い。
沙霧≪そうではない! 所詮我らは外道だ!
ウォーケン「フン、
沙霧≪何……!?≫
記憶にあるのと同じ主張をぶつけてもウォーケンの反応が全く違うことに、沙霧は眉をひそめた。記憶が正しければ、ウォーケンは沙霧達の覚悟に対してもう少しこう、理解のある反応を示す筈なのだ。
ウォーケン「ちょっとした道徳を促す程度のことに死を強いる貴様らは、外道ですらない。害虫だ。貴様らの言葉で言えば国賊だったか?」
沙霧≪何とでも言うがいい! そのちょっとした道徳、高潔や徳義が今の日本人には必要なのだ! 生き残ってもそれを忘れた人間ばかりであればこの国に未来など無い!≫
沙霧のこの主張は、マブラヴ世界の地球では良識と覚悟のある人間ばかりが先に死んでしまうので結果的に人間の屑ばかりが残っているのではないかというトピア達の見解ともある程度は一致している。しかしこれは
問題はそのモラルを喚起するのに犯罪者でもない人間をわざわざ殺す必要があるのかという所であって、ウォーケンも別にモラルが必要無いと言っているわけではないのだ。
ウォーケン「そうか、
沙霧≪き……貴様ァッ!? 日本人を愚弄するかッ!? 傲慢なる米国人がッ!!≫
沙霧は覿面に激高した。しかしすぐさまウォーケンが冷や水を浴びせた。
ウォーケン「何だ、やはり自覚が無いのか。呆れたものだな。
沙霧≪クッ、それでも……それでもやらねばならんのだッ! ここまでやって犠牲を無駄にしてはならんッ! オオオオオオオオオオッ、
ウォーケン「何だとッ!?」
軌道上まで雷速で上昇して一旦距離を離した沙霧がよりによって