これに伴い兵装担架のインベントリが起動して足元に直径240mの空間接続ゲートが開いた。そのゲートの中から、決戦用大魔導鎧・轟がせり上がってきた。
沙霧≪これが轟……まるで日本の精神が形となったようだ……!≫
沙霧も迅雷のUIから何やら決戦兵器があるらしいと知って芋づる式に合体プログラムの起動キーワードを思い出しただけで、轟や轟雷の詳細まではまだ思い出していなかったので、その巨大な武者鎧のような堂々たる偉容に息を呑んだ。
轟の頭頂部が開いてガイドビーコンが伸び、迅雷四型の跳躍ユニットに繋がると、迅雷四型が引き寄せられるように降りていく。
そこに雷速で追いかけてきたウォーケン機が狙い澄ましたドロップキックをぶちかました。沙霧機の顎を斜め下から上に突き上げる、いい角度の蹴りであった。
ウォーケン「人間同士の争いに決戦兵器を持ち出すな馬鹿者ッ!」
沙霧≪何ッ!? う、動かん!?≫
沙霧の腕前ならば自由に動けたならあっさり躱しただろうが、
沙霧のこの判断自体は間違いとは言いがたい。高原やウォーケン、真那の様子を見るに、深く思い出すことによって
つまり沙霧は、完全に思い出せば抵抗の意思を失い、全く思い出さなければ抵抗のための力を得られないというライン上でギリギリの綱渡りをしていたのだ。それがどこかで破綻するのは必然だった。
ウォーケンはその辺りに察しがついていたので一人で十分だと宣言したのだ。
ウォーケンは沙霧の迅雷を蹴り飛ばしたあとすぐに、沙霧の轟をインベントリに仕舞って没収した。
続いて合体プロセスの強制中断によりエラーで動作不良を起こしている沙霧機に追いつき、両膝の裏を掴んだ。
ウォーケン「メテオ!」
次に沙霧機の上下をひっくり返し、肩の上に首を載せた。
ウォーケン「スパイラル!!」
ウォーケンの迅雷は自らの跳躍ユニットを上に向け、魔導推進機を全開ブースト。この際、左右の跳躍ユニットの向きを前後に互い違いにずらすことできりもみ回転状態で落下を開始した。
その状態で遠心力と腕力を以て沙霧機の両脚を大きく開かせると――恐らく見覚えがある形になっただろう。そう、これは有名な48の殺人技の一つ、
ウォーケン「キン肉ッ!!! バスタアァァァァーーーーーーーーッ!!!!」
沙霧≪お、おお、おおおおおォォッ!!?≫
沙霧の目の前で赤く染まった世界がぐるぐると回り、加速を続けていた。――いや、これは錯覚だ。
ウォーケンは重力と跳躍ユニットの他に飛行術式も併用して加速に加速を重ねた。音速を軽く超える猛烈な大気圏突入速度による断熱圧縮で風景が赤くなると共に、まるで世界の方が加速しているのではと錯覚を起こすほどの勢いでめまぐるしく回転し、状態異常解除術式という発想が無い沙霧の三半規管を盛大に狂わせていたのだ。
更に凄まじい高速回転により強力なジャイロ効果がかかっているため、前後不覚に陥っていなかったとしても体勢をひっくり返すキン肉バスター破りは容易には出来ない。
ウォーケン「砕け散れェッ!!」
落着。両機は加速し続けて地表に衝突し、回転の勢いもあいまって地面にクレーターを作った。衝突直前の最終速度はマッハ10ほどになっていた。それなら雷速の方が大分速いのではとも思えるが、雷速機動は魔法で早送りしているようなものなので、運動エネルギーが増しているわけではない。
落着後、クレーターの中心部で遠心力で部品をばらまきながら徐々にスピンが収まっていき、ついに完全に止まったときには、沙霧機の状態は無残なものだった。首と腰のジョイントが折れ、両足が根元からもげていた。一緒に跳躍ユニットもへし折れて脱落しているため、もう碌に動くことも出来ないだろう。
これが『メテオスパイラルキン肉バスター』。軌道上から加速距離を取り、螺旋回転しながら全力で加速して地面に叩き付ける荒技だ。通常のキン肉バスターに大真面目にウォーズマン理論を盛って大幅に威力を上げた技とも言える。
普通に考えると直接落着の衝撃を受けたウォーケン機の方が大ダメージを受けそうに見えるが、これにはからくりがある。
240tの迅雷×2機がマッハ10で地面に衝突する場合、この減速で瞬間的に加わる運動エネルギーは2.77TJに相当する。2770億ライフ相当だ。これに対し迅雷四型の耐久力は75万、
一方の沙霧は記憶を碌に参照せず感覚だけで術式を起動しているため、アウシアント伝来の別枠並列強化倍率制御など出来ていない。
更に落着直前にウォーケン機は沙霧機の膝裏を引っ張る力を一旦緩め、落着と同時にまた全力で引っ張ったため、落着の衝撃力と腕力の緩急が同時に股関節へと負荷を掛け、大幅に破壊力を増している。そう考えると技自体の意味が無いわけではない。
ウォーケン「……よし、勝負あったな」
ウォーケン機はバラバラになった沙霧機を放り出しながら、立ち上がってバックダブルバイセップスのポーズを取った。魔術機なので残念ながら筋肉は見えないが、どちらが勝者であるかは一目瞭然だ。
沙霧≪こ、これしきの……ことで……ッ!≫
沙霧は機体に残された腕だけで起き上がろうと試みた。これで死んでいないのは、衛士にもエンチャントやパッシブスキルの効果がかかっていたためだ。
自動修復装置は多少の損傷はみるみるうちに修復してしまうが、ブロックごと本体から脱落した部品までは保証してくれない。修復を専用の装置ではなくナノマシンに頼っている迅雷では尚更だ。沙霧の迅雷の脱落部分が修復される様子は無い。
ウォーケン「まだ負けを認めんか。やはり何も見えておらんようだな。貴様、今自分がどこにいるのかすら気付いていないだろう?」
沙霧≪どこに……だと?≫
沙霧は周囲を見渡した。周囲を海に囲まれた島で、南東側にもっと広い陸地が見えている。
沙霧≪まさか佐渡島……? ……いや、ならば何故BETAの姿が無い!? 聳え立っていた
ウォーケン「我々が争っている間に佐渡島ハイヴの攻略はもう終わったということだ。今頃は他のハイヴの攻略も進んでいるだろう」
なお、メテオスパイラルキン肉バスターの落下エネルギーである2.77TJというのはマグニチュードで5.09に相当する。このエネルギー規模だと、直近では震度5程度になるが、30kmも離れれば震度3以下になる。そして佐渡島は現在無人であり、佐渡海峡は最も狭い所でも30km以上。更に本州側沿岸部に基本的に住民はいないので、目立った地震被害は起きないだろう。実際には一部が破壊エネルギーに変換されているため単純計算よりも更に影響は少ない。
ウォーケンはそのくらいのことを考慮した上でここを落着点に選んでいた。
沙霧≪何だと……? そんな簡単にハイヴを攻略出来るはずが……≫
ウォーケン「まだ気付かんのか? 貴様がさっきから弄んでいる力は、この地球上からBETAを一掃するに足る力だ。更に先ほど貴様が使おうとしていた轟雷に至ってはBETAの創造主である
沙霧≪な……私は殿下を守ろうと……!?≫
ウォーケン「だから話を聞けと言っているだろうが。我々は並行世界からこの世界を救いに来たのであって、将軍殿下の命など狙っておらん。本来は貴様もそうだったのだぞ? 私の言葉が嘘かどうか、貴様自身の記憶に訊いてみるがいい」
沙霧≪む…………。…………なッ!? ば、馬鹿なッ!? 何ということだ!≫
沙霧は真偽を確認するために今一度自らの記憶を掘り起こした。そうすると、自分が誅殺した榊首相が彩峰中将直々に使命を引き継いでいたことや、その榊首相が将軍殿下の忠実な臣下であったこと、国民の困窮が政治家の私欲や怠慢によるものではなかったことなどが、出てくる出てくる。
あまりのショックで沙霧の思考に空白が出来たその時、彼は漸く目覚めた。そしてウォーケンの言葉が何一つ間違っていないことを理解出来た。
ウォーケン「うむ、目が覚めたか、大佐」
沙霧≪准将閣下、かたじけない。まさかこちらの自分がここまでこじらせているとは……正直、腹を切って詫びたい気分です≫
ウォーケン「冗談でもやめたまえ。あれはこちらの世界の君の責任だ。並行世界の罪を問うても切りが無いので不問にするというのが基本方針であるし、何よりそんなことで君を失ってしまっては、我々を鍛えてくれたデグレチャフ閣下や神宮司教官に申し訳が立たん」
沙霧大佐は自分のやらかしに深々と頭を下げ、そのまま腹を切りそうな勢いであったが、ウォーケンはそれを引き留めた。
クーデターを計画していた頃の沙霧大尉とその問題点を認識している現在の沙霧大佐ではほぼ別人と言える程に差があり、その責任を問うのは不毛だ。それに沙霧大佐は
沙霧≪しかし、勘違いで固めた覚悟すら打ち破れないとは情けない限りです≫
ウォーケン「そのような現象も今回が初めてだったからな。それに目覚める前は寝ているも同然なのだから、我々側の精神力の強さが影響するかどうかも怪しい所だ」
ウォーケン「ところで、だ。……これ、直ると思うかね?」
ウォーケンは手にしたままの迅雷の脚部を見て、困った顔をした。機体がここまで壊れた場合は乗り換えるのが普通だ。しかしここには予備機など持ってきていない。
特に跳躍ユニットが壊れているのが問題で、これがないと轟と合体して轟雷を起動出来ないので、元の世界に帰ることが出来ないのだ。
沙霧≪こちらの香月博士に頼んでみますか?≫
ウォーケン「流石の香月博士も魔術機整備用の設備がなくては修理も出来んだろう。一応聞くだけ聞いてみるが、一旦戻って予備機を持ってくる方が早いだろうな」
沙霧≪お手数を掛けます≫
この後修理の相談を受けた夕呼は、各方面から問い合わせが殺到している迅雷の現物をいじることが出来て一度は気を良くしたのだが、やはり機材の不足は如何ともしがたかった。しかしとりあえず部品を揃えてくっつけてみると、あとはナノマシンが勝手に修復してしまった。これで流石は香月博士などと褒められても、夕呼としては到底納得出来るものではなかった。
また、ウォーケン准将がこの顛末を
更に、万が一に備えて迅雷の予備機を持っていくことが推奨されることになった。