【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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305. ヒャッハー! 汚物は消毒だァーー!!

 2001年11月11日。この日、この世界ではH21佐渡島から本州にBETAが上陸しており、帝国本土防衛軍第12師団並びに第14師団、そしてオルタネイティヴ4直属の伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)が本州側で上陸するBETAの迎撃に当たっていた。

 上陸するBETAの物量に対して、迎撃戦力は必要十分なものであった。これはオルタネイティヴ4の頓挫という歴史を回避するための方策として、まず世界に多大な影響を与える事件の記憶は何かないかと夕呼に問われた白銀 武がこのBETA上陸事件を思い出して夕呼に伝えていたためだ。武の未来知識が正しいかどうかの試金石として使われたのだ。

 ただし迎撃戦力が必要十分だというのはBETAが()()()であった場合の話だ。

 この戦場には、色が多少違うだけで性能が段違いのBETA、いわゆる()()()が初めて出現していた。特に元々全体的な防御力が高い要塞(フォート)級の撃破は困難を極めていた。

 

茜≪くッ、何よこいつら!? 素早い上に防御性能が高すぎる!≫

 

みちる「狼狽えるな! 未知のBETAならば益々捕獲の必要性があるということだ! 気を引き締めろ!」

 

水月≪ははっ、むしろ気合が入るってものですね!≫

 

 オルタネイティヴ4直属の伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)には、BETAの迎撃とは別に捕獲命令が下されていた。夕呼はいつもの"need to know"を振りかざしてみちるにその意図を伝えていなかったが、実際のところ「抜き打ちでBETAと戦わせて横浜基地の衛士のたるみをただすため」という割と無茶な用途であった。みちるは突如流入してきた謎の記憶によりそれを知っている。

 まあ人類全員に未来の情報が渡ったのであれば、抜き打ちでBETAと戦わせるのはおよそ不可能になっただろうが、それとは別に目の前の強化型は新種の研究サンプルとして重要だ。初めて強化型を観測したこの場で、予め捕獲の準備をしていたのはむしろ都合がいいというものだ。

 

 BETAの捕獲作戦における実際の手順は、BETAに代謝低下酵素を撃ち込んで休眠させた隙に捕獲用コンテナに入れるというもので、猛獣に麻酔弾を撃ち込んだとき同様に撃ち込んでから止まるまでタイムラグがあるため、単純な撃破よりも当然難しい。このため、従来型のBETAの捕獲ですら死人が出かねないのだ。隔絶した性能を誇る強化型が相手ともなれば、まず普通の36mm弾より構造的に脆弱な麻酔弾を撃ち込むことからして困難である。最も危険に晒される突撃前衛長(ストームバンガード・ワン)を務める速瀬 水月中尉の言葉も、半分は自分や仲間を鼓舞するための空元気だ。

 

 流石に戦線のど真ん中で捕獲作戦を実行するのは邪魔になるだけなので、伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)は帝国本土防衛軍が取りこぼしたBETAを拾っていく形で作戦を実行した。それでどうにか強化型の突撃(デストロイヤー)級、要撃(グラップラー)級、戦車(タンク)級、闘士(ウォーリアー)級、兵士(ソルジャー)級、光線(レーザー)級を最低1体ずつ捕獲出来たのは確かな技量の成せる業であったが、その頃には主線戦を担当している帝国本土防衛軍が既に崩壊しつつあった上に伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)各機も大なり小なり損傷を負っていたため、それ以上の作戦継続は無謀であった。

 

みちる「捕獲作戦を終了する! 撤退のための時間を稼ぐぞ!」

 

伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)≪了解!≫

 

 号令を受けた伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)全員が通常砲弾が装填された突撃砲に持ち替える。

 実際のところ、伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)だけならば撤退するのは難しい話ではない。すぐに撤退しないのは、このまま戦線を突破されると本土が危険、という問題もあるが、それ以上に折角捕獲したサンプルのコンテナを乗せたトレーラー群を逃がさないと作戦目標が達成出来ず元の木阿弥だからだ。

 

 BETAの攻撃を受けると危険なのはいつも通りだが、それに加えて相手が素早く頑丈なので攻撃が通りにくく、殲滅が捗らずに伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)も押し込まれていく。だがトレーラー群を逃がすにはまだ時間を稼ぐ必要がある。そして時間をかけるほど帝国軍の方も戦線を支えられなくなるため伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)が負担する敵の数が増えていく。

 いよいよ迎撃能力が飽和するとなった所に、狙ったように強化型突撃(デストロイヤー)級が10列以上も押し寄せてきた。その勢いは雪崩のようで、左右に回避可能なほどの隙間も無かった。上に飛べばそれ自体は回避可能だが、戦域データリンクの情報からするとその列の向こうには多数の強化型光線(レーザー)級が上陸しており、飛び上がれば撃墜されるのは明らかだ。

 そのBETAの攻勢に、まずは最前面に出ている三人の隊員がBETAの毒牙にかかろうとしていた。それは奇しくも未来の記憶でも今回死亡もしくは重症を負っていた面子であった。しかしその記憶に反してむしろここまでは他の隊員より動きがいいくらいだったので応急的に重要なポジションを任せていた程なのだが、そのせいで真っ先に危機の矢面に立たされた形だ。他の隊員にも余力が無い以上、三人同時のカバーは不可能だ。それどころか、最前衛の三人が撃墜されたあとには自分達も同じ運命を辿るだろう。だが今下がればトレーラー群を見捨てることになる。

 

みちる「足を狙えッ!! 最前列を転ばせろ!!」

 

 強化型突撃(デストロイヤー)級の前面の甲殻は従来型より更に強固になっており、120mm弾でも長刀でもおよそ破壊不可能だ。だがその甲殻の下に僅かに見えている足はそこまで頑丈ではない。

 とはいえ伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)が布陣しているあたりは砂浜なので、ただでさえ短い突撃(デストロイヤー)級の足が砂に沈んでしまい益々狙いにくい。そのため各機はどうせ避けられないならと機動性を捨てて膝射で足を狙った。

 この対応は功を奏し、次々に最前列を転ばせたことで、突撃(デストロイヤー)級の群れは少なくとも伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)各機とトレーラーを避けて全体の流れが左右に分かれた。

 しかし、それに安心したのが不味かった。僅かながら、転んだ個体の列を飛び越えてくる個体がいたのだ。それらは最前列で対応していた三人にダイレクトに跳びかかった。

 

みちる「迎撃ッ!!」

 

 中隊の火力が跳躍した個体に集中する。丁度下側が露出していたため、それらは瞬時に蜂の巣にされた。しかし大重量の運動エネルギーを相殺するには届かず、機動性を捨てて膝射していた最前列の3機がその下敷きにされるのは確実であった。

 

 みちるは運命の重さに唇を噛んだ――が、その時不思議なことが起こった。

 

伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)隊員1≪甘いッ!!≫

 

 その3機はそれぞれ突撃(デストロイヤー)級の死骸を片膝立ちのままで見事に受け止めた。それどころかリフトアップしてエアプレーンスピンで回転を加え、それを水平投射した。

 

伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)隊員1≪トリプル!≫≫

 

伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)隊員2≪弁慶ッ!≫

 

伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)隊員3≪風車ァーーッ!!≫

 

 弁慶風車で同類を投げ込まれた3方向の突撃(デストロイヤー)級の隊列は、ボーリングのピンのように四方八方にはじけ飛んだ。

 

伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)隊員2≪ストライッッ!!≫

 

みちる「なッ……!? いや、無事なのか!?」

 

 僅かな間驚愕で固まっていたみちるだが、それよりも隊員を死なせずに済んだ喜びの方が大きい。

 

伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)隊員1≪お陰様でッ!≫

 

伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)隊員2≪いつになくッ!≫

 

伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)隊員3≪POWER(パゥワー)に満ちておりますッ!≫

 

 突然超常的なパワーを発揮した三機はどこからどう見ても無事であり、三人一組の妙な決めポーズをとる余裕すらあった。その頼もしさからか、機体自体が大きくなっているような気がする。

 

みちる「それならばいいのだが……?」

 

水月≪あれェ? あの子達ってこんな感じだったかしら?≫

 

 そもそもこの三人はこんな性格だったか、という疑問がみちるだけでなく中隊員の頭の中をも埋め尽くすが、それに構わず三人は行動を開始した。

 

伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)隊員1≪では私は上陸したBETAを掃除してきます≫

 

伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)隊員2≪じゃあ私はハイヴを≫

 

伊隅戦乙女中隊(いすみヴァルキリーズ)隊員3≪ヒャッハー! 汚物は消毒だァーー!!≫

 

みちる「えっ」

 

 

 

 飛び出した3機が肩や脛から大量の橙色の光線を放てば周囲の小型BETAを殲滅し、銃から白い光を放てば地平線までのBETAを薙ぎ払い、銃身に纏った光の刃で斬りつければ周囲のBETAが一緒になます斬りになるという超常現象を見る羽目になったみちるは、どう報告しようか悩んだ挙げ句に結局ありのままを報告したのだが、それを記録映像ごと受け取った夕呼の方も何が何だか分からず、眉間に皺を寄せる羽目になった。

 そしてそれを解析している内に全てのハイヴが消滅して、地球を何かの光が覆い、空から100隻の巨大戦艦が降下してきたので、地球人類はパニックになりかけた。

 

 政治的事情を無視して良いと言われた三人が現地との意思疎通をまるっと無視した結果であった。

 純夏に関しては横浜基地にステルス潜入してオーバーリザレクションでこっそり治療し、武にぶん投げていた。

 この世界に送り込まれた三人は、割とズボラな方向に息がぴったりであった。




 この三人は原作では2001年11月11日のBETA捕獲作戦でリタイアした報告書がちらっと出てくるだけで、名前も性格も分からんのです。
 気がつけば三馬鹿的な何かになってました。
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