【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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308. 戻ってきた……黄泉の国(ヴァルハラ)から勇者達が帰ってきたッ!!

ターニャ「……久々に見たが、末期も末期だな。いや、強化型がいるだけ更に悪いか」

 

 ターニャは今まさに強化型の戦車(タンク)級に脚をかじられており、かじられながらも最大数のBETAが集まるのを待ってG弾起爆のスイッチを押すべく指を掛けていた所だった。まあ我ながらなかなか集まった方だろう。

 この状況にターニャは覚えがある。前回の周回の最後だ。何故その世界が未だに存在しているのかは定かではないが、そもそも2周目でステークが修行に入ったあとのループに入り込んだことの方が余程イレギュラーなので、本来はこちらの世界でループを繰り返していたのだろう。この世界の自分の記憶を探ってみると、どうやら2周目以降という自覚が無いようなので、このループではやり直しで記憶を引き継ぐのに失敗して前回と同じような行動を繰り返していたようだ。

 

 ひとまずターニャは魔導演算宝珠Mk.4を取り出すと術式で強化した腕力で強化型戦車(タンク)級の顎を引きちぎり、基地内のBETAを探査術式でサーチして無手の曲射光学術式で一掃してから、自らと基地全体に術式で広範囲化したハイリザレクションをかけた。

 

ターニャ「諸君、すまないが最終手段の起爆は変更(キャンセル)だ。私は()()()()BETAどもを滅ぼすことにした」

 

兵士「閣下、それはどういう……?」

 

 兵士達はターニャの突然の方針変更に加え突然怪我が治ったことに困惑していたが、ターニャは言いたいことだけを言うと屋外に飛び出し、目につく限りのBETAをまた光学術式で殲滅すると、迅雷四型を出して乗り込んだ。その指先から出ているビームは何なのですかと問う暇も無い。

 

 突然出現した戦術機らしきものに兵士達はざわめいた。人類の生産能力は壊滅し、既に第1世代戦術機すら生産出来なくなって久しい。先ほどどこからか出現した戦術機も全て討ち取られてしまったところだ。しかもターニャが出したそれは、細身のスタイルからしてどう見ても第1世代のそれではない。

 ターニャが乗り込んだその機体は、起動するなり基地の上に陣取った。兵士達は困惑し、数秒後にはそれが蒸発している光景を幻視した。光線(レーザー)属種を含むBETAに対し高所を取るのは自殺行為だ。だがよりによって月面戦線から戦い続けている歴戦のデグレチャフ少将がそんな戦術の初歩を理解していない筈がない。

 しかし数秒後に現出した結果は、全くの無傷というものだった。ターニャが乗り込んだそれは、青い球状の膜を張ってBETAのレーザーを弾きながら悠々と兵装担架から銃を2つ取り出して左右に構えた。そして回転しながら閃光で全周囲を薙ぎ払った。これだけで周囲のBETAが全て消し飛んだ。それどころか、人間にも当たっている筈なのに人間は無傷だった。

 兵士達は困惑を超えて唖然としていたが、驚くのはまだ早い。本番はこれからだ。

 周囲のBETAを掃討して一時的に安全を確保すると、戦術機らしきものの足元に穴が空いた。そしてそこから10倍ほどのサイズの鎧武者のような巨大戦術機が出てきた。先ほどの戦術機はその巨大戦術機の頭に合体し、巨大戦術機が起動した。

 兵士達が一体何が起きるのかと見守る中、巨大戦術機らしきものはおもむろにその右腕を上げて天を指した。すると、立てられた人差し指の先には僅かな電磁ノイズの後に巨大な光の輪が浮かび上がった。そしてその光の輪が、膨大な数の光線を生み出した。百や千ではない。万でもない。もはや数え切れない、恐らくは億にも達する光線がひたすら連射されており、しかもそれぞれが曲線を描いて地平線の向こうへと消えていった。その一つ一つがBETAを殺す攻撃であることはもはや疑うべくもない。

 

 これは先ほど基地内のBETAを一掃した光学術式に探知術式と追尾術式を合わせて大規模に展開したものだ。恐ろしい勢いで連射された曲射光学術式は惑星全体に広がっていき、この基地を中心としてBETAに滅びを与えていた。

 轟雷の縮退炉がある以上、マナの供給は無尽蔵だ。そうなれば術式の扱いに熟達したターニャからすると、惑星上のBETAを悉く撃滅するのは欠伸をしながら片手間でも出来る簡単なお仕事だ。この場から動く必要すら無い。ついでとばかりに人間の反応を探知してハイリザレクションも発射する余裕があるくらいだ。

 

ターニャ「だが、やはりハイヴ内まで攻撃するには効率が良くないな」

 

 水中での威力減衰に関しては術式でどうにでもなるが、複雑な地下茎構造を辿っていくとなればその曲率を一度決定して終わりにはならず、地上への攻撃に比べると制御が非常に複雑になる。

 時間をかければ出来なくもないが、ターニャは別の手段で効率化することにした。手分けしてハイヴを突入攻略させるべく大量の攻性デコイを生み出したのだ。そのそれぞれが戦術機を象っていく。その数は10、20……100……まだまだ増えていく。

 

ターニャ「久しぶりだな諸君。また力を貸してもらうぞ」

 

――ははっ、閣下は相変わらず人使いが荒くていらっしゃる!

 

――死してなお閣下の元で戦える。これに勝る喜びはありませんぞ!

 

――おお、お前ダニーだな? なかなかこっちに来ねえと思ったら最後まで生き残るなんて大したもんだぜ!

 

 かつて散っていった戦友達のその声が、最後の生き残り達の心にも響いた。

 彼らは確信した。自分達は今、奇跡の中にいると。

 その鮮烈な光景が、兵士達にとうに枯れた筈の涙を流させた。

 

ターニャ「歓談はあとにしろ。総員出撃ッ!!」

 

 ターニャの号令で英霊達が各地へ散っていった。その中にはターニャ自身も含まれる。ある程度攻性デコイに任せるにしても、流石にハイヴ攻略で自分が全く働いていないように見えるのは体面が良くないと思ったためだ。まあ水中のハイヴ以外ならグレートブラスター一発で片付くので簡単なものだ。精々楽をさせてもらおう。

 ただしターニャが働いてないなどと思っている兵士は一人もいなかった。謎の光で地表のBETAを薙ぎ払っただけでも十分すぎる程だ。

 

 基地に残された兵士達は暫く唖然としたままだったが、一人が言葉を発したのを皮切りに、堰を切ったように騒ぎ始めた。

 

兵士「戻ってきた……黄泉の国(ヴァルハラ)から勇者達が帰ってきたッ!!」

 

兵士「まさか、夢じゃあないのか……!?」

 

兵士「裁きの光だ! BETAどもに遂に裁きが下ったぞ!!」

 

兵士「いや、BETAどもを滅ぼすだけじゃない、オレ達の傷も治してくれてるぞ!! これは救いの光だ!!」

 

兵士「生きている! 俺達は生きているぞッ!!」

 

兵士「天は我らに、デグレチャフ閣下に救いの力を与えたもうた!!」

 

兵士「人類は滅びない! 神話が生まれるぞ! 今が新しい時代の夜明けだ!!」

 

兵士「地球万歳! 人類万歳! 月面帰り(ルナリアン)万歳! デグレチャフ閣下万歳!!」

 

 生き残った兵士達も、市民達も、その奇跡の光景に喝采した。そして信仰が芽生えた。

 もう完全に詰んでいて最後に残った意地だけで戦っているという状況で一人で戦況をひっくり返した上に、死せる勇者達を呼び戻し、更に人々の傷を瞬時に癒やしてみせたのだ。しかも当人は明らかに若返っている。これが奇跡でなくて何だというのか。

 

 基地に残された兵士達は、防衛体制の復旧を進めながら、この奇跡は一体何なのかという議論に熱中した。

 まず気になるのが、どうしてもう少し早くあの奇跡を使って助けてくれなかったのかというところだ。

 しかし長らくターニャと共に戦ってきた者達からすると、ターニャが常に最善を尽くしていたことは火を見るより明らかだ。元から今回のようなことが出来ていたらとうにやっている筈だ。つまりついさっき出来るようになったと見るのが妥当だ。

 では何故急に出来るようになったのかと考えると、誰しもが思い当たることがある。ターニャが起こした奇跡以外にも少し前から記憶の流入、死者の復活、失われた戦術機の出現などの超常現象が発生していたのだ。特に後者の2つがターニャが起こした奇跡とかなり似ている現象だ。であれば、この謎の現象の影響で今回のようなことが出来るようになったのではないか、と推定することが出来る。

 まあ詳細は本人に伺うのがいいだろう、今日中には戻ってこられないかもしれないが、明日でもいい。その時が楽しみだ――といったところで一人の兵士が呟いた。

 

兵士「そうか……俺達には明日が、あるんだな……」

 

 兵士達はその言葉に衝撃を受けた。気付けば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。明日を楽しみにするというただそれだけのことの、何と素晴らしいことか。

 

 人類は諦観の夜を越え、遂に今、火の朝を迎えたのだ。

 折しも東の地平線から登り始めた朝日が、彼らを照らしていた。

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