【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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309. あのちんまいのが随分立派に成長したもんじゃないの

 またある世界、2()0()4()9()()1()()1()()

 史跡となった横浜基地宇宙港の桜花作戦戦勝記念広場では式典が開催され、地球文明初の統一政府である人類統合体の初代総監となった社 霞が演説を行っていた。

 霞はこれまでの人類の分断の歴史からここ5年で漸く共存の道を歩み始めたことまでを振り返り、その道のりの困難さを知りながら共存の道を進むことを宣言した。

 そしてこれが何の式典かと言えば、人類が生命体であることを珪素生命体(シリコニアン)に認知させる使節団の出港を見送るためのものだ。

 

 エルピス級跳躍航宙母艦を旗艦として跳躍対応航宙艦で構成された使節艦隊。それに乗り込んだ外交官達と、使節団を守る衛士達、そして最新の第8世代戦術機F-47イシュクル。これらが軌道異相空間転移ゲート『フォーマルハウト』を通って遙か彼方へと旅立つ。

 しっかり武装しているのは、別に対話以外の目的があるわけではない。それがすんなりいかない可能性を考慮しているからだ。何より珪素生命体(シリコニアン)が送り出したBETAとはこれまで熾烈な生存闘争をしていたのだ。使節だからと非武装で行かせて使節団を犠牲にするつもりは無い。

 それどころかこの交渉により却って新たな恒星間戦争が起きる可能性もある。それを危惧するならば生存圏を確保して籠もっておく選択肢もある。だが人類は楽観や他者の気まぐれに運命を委ねず、自ら前に進むことを選んだのだ。これは決意の旅立ちだ。

 

 霞の演説に並行して出発のカウントダウンが進み、演説が終わると同時に艦隊はラザフォード/コウヅキフィールドを展開。転移を実行すると全艦の姿が消えた。時空観測から、転移は成功と判定された。

 

 横浜基地近くの丘でそれを見送っていた助手のイーニァ・シェスチナは香月 夕呼博士に笑顔を向け、夕呼も遂にやり遂げた感慨に浸っていた……ところで、事態が急変した。夕呼達の目の前に手裏剣を積み重ねたような歪な巨大構造物が突如出現したのだ。遙か昔にG弾で破壊された筈の横浜ハイヴの地表構造物(モニュメント)だ。

 復活したのは横浜ハイヴだけではない。日本とユーラシアに合計26のハイヴが同時に出現していた。その中から忘れもしないBETAどもが溢れ出したのだ。

 

 突然の事態に式典会場は混乱したが、元々式典でのテロを警戒していた人類統合体総軍の戦術機部隊が緊急出撃(スクランブル)して駆けつけた。第8世代戦術機にとっては、今更BETAなど物の数ではない……筈だったのだが。

 人類統合体総軍は思ったよりは苦戦した。BETAの性能が以前とは比べものにならない程上がっていたのだ。戦えば勝てはするのだが、ハイヴの攻略はなかなか進まなかった。

 何故ならこの時代、各地のハイヴ跡地は横浜ハイヴ跡のように既に居住地になっていたため、大量の住民がこれに巻き込まれた。つまり26箇所のハイヴを住民を救助しながら一斉攻略しなければいけないということで全く手が足りなかったのだ。

 ハイヴを攻略するだけなら戦略航空機動要塞タイプの荷電粒子砲でごり押しすれば簡単なのだが、避難が終わっていない住民を巻き込んでしまうのでそれもすぐには使えなかった。そして住民がハイヴに取り残されている可能性が高いため、そのためにハイヴの隅々まで探索するのは結局突入攻略と変わらないのだ。

 その突入作戦を実行するにも、BETAのレーザー出力が上がっているため、主縦坑(メインシャフト)からの最短攻略で済ませるのも難しかった。

 以上の複合的な理由により、ハイヴの攻略には時間が掛かっていた。

 

 

 

 武との約束を守ってこれまで人類の保護と発展に尽力してきた香月 夕呼博士は、霞やイーニァと共にどうにか安全地域まで退避すると取り急ぎ各地の情勢をとりまとめたが、各地の被害は軽くなかった。

 夕呼は満願成就まであと一歩というときに引き起こされた予想外の災害に意識が遠くなった。しかしそのお陰で()()が早まった。

 

夕呼「なんてタイミングよ……起きなさい、イーニァ。()()()()()わよ」

 

イーニァ「……はい?」

 

霞「……博士?」

 

 突如訳の分からないことを言い出した夕呼の様子に、イーニァと霞は戸惑った。イーニァは別に寝ていない。

 

夕呼「ちょっと、しっかりしてくれないと困るわよ? あたしは機動兵器の扱いなんて素人なんだから、このままだと使節艦隊が無駄死にするわよ?」

 

霞「無駄死に? どういう……あっ」

 

 霞にとっても聞き逃せない言葉が出てきたので先ほどから流入している記憶を辿っていくと、そこには出発した使節艦隊がほぼ壊滅する未来の記憶があった。これは不味い。すぐに対応しなければならない。

 霞がそれを思い出している内に夕呼は持ち込んだ機動兵器、迅雷四型を自分の後ろに出してみせた。そのインパクトでイーニァも覚醒した。

 

イーニァ「……あっ、先生おはようございます」

 

 2002年時点では幼女のような幼さが抜けないイーニァだが、こちらのイーニァの記憶が合わさったことで普段よりも精神年齢が上がっており、現状がはっきり理解出来ていた。

 匠衆(マイスターズ)がこの世界に送り込める人員は、時代の都合で香月 夕呼、イーニァ・シェスチナ、社 霞の三人しかいなかった。この中で霞は純夏の看病で手が離せず、イーニァには戦術機での戦闘経験はあるものの魔導衛士の訓練を序盤でドロップアウトしており、何より霞よりも判断能力が怪しい。

 そこで、最低限戦力になるイーニァと判断を担当する夕呼をペアにして送り込むことになったわけだ。

 

夕呼「はいおはよう。ハイヴの攻略は……ちょっと手間が掛かりそうだけど、出来そうではあるわね。それよりも社、珪素生命体(シリコニアン)との交渉は不可能よ。戦力的にも現段階では対抗が難しいから、追いかけて止めた方がいいわ。理由はあたしの()()から理解出来るわね?」

 

霞「ウルジマルク文明……それにGAMMA、ですか。共存は、不可能……」

 

 夕呼に促されてその思考を読んだことで、霞にも夕呼の考えとその根拠が概ね理解出来た。

 夕呼からもたらされた情報が確かなら、ウルジマルク人に交渉は通用しないし、それ以前に使節艦隊の個体性能はともかく数の問題で、大マゼランのウルジマルク勢力圏を守るGAMMAに返り討ちにされてしまうのは確実だ。それを止めるためにはこちらも艦隊を出して追いかけなければならない。だが使節艦隊より高速な艦など現在の地球には存在しない。

 霞としては珪素生命体(シリコニアン)ともきっと共存が叶うと信じて使節を送り出した矢先に早速踏みにじられた気分ではあるが、大量の死者が出てから知るよりは遙かにマシだ。

 

夕呼「()()()の艦隊を呼べば追いつけるから、それについては心配要らないわ。その準備として楔の塔を各地に建てる許可が欲しいのよ」

 

霞「…………緊急事態です、協力しましょう。ただし通行の自由に関しては取り決めが必要です」

 

 並行世界間の通行制限を解放する七つの楔の塔の設置。霞は人類統合体のトップなので、緊急時にそのくらいの無理は通せる。しかしそれをやるべきかどうかという判断には慎重さが必要だ。

 楔の塔を設置すれば匠衆(マイスターズ)本拠地世界から援軍を喚べる。しかし他の並行世界から強大な軍事力を引き込むのはリスクがある。霞は夕呼の考えを慎重に読み、匠衆(マイスターズ)に侵略の意図が全くないこと、約束を簡単に破るような組織ではないこと、そもそも生産力が絶大すぎて他から奪う意味が無いことを理解してから、協力するという判断を下した。

 

夕呼「ありがと。……それにしても、あのちんまいのが随分立派に成長したもんじゃないの」

 

霞「……それほど大きくはなっていないと思いますが」

 

夕呼「外見の話をしてるんじゃないわよ」

 

 夕呼は優しく霞の頭を撫でた。霞は顔を赤くして困惑しながらも、夕呼に頭を撫でさせていた。霞やイーニァは第6世代ESP発現体の特性で老化しないので容姿は47年前と殆ど変わっていないが、中身は成長しているので少々恥ずかしい。しかし名付け親の夕呼に褒められるのは今でも嬉しいのだ。

 ちなみに夕呼も自力で不老化技術を開発したので、こちらの見た目もあまり変わってない。なのでこの三人だけだとあのときのままのようだった。

 

夕呼「そういえばあれね、白銀の奴が謝ってたわよ?」

 

霞「白銀さんが……?」

 

夕呼「まあ一応伝えたけど、大したことじゃないから気にしなくていいわ」

 

 謝っていたのはうっかり巻き戻してしまったことなのだが、こちらの世界は別に巻き戻されていないので関係の無いことだ。

 

 ハイヴの攻略に関しては、残念ながら夕呼やイーニァが手出しして状況が良くなることはほぼ無い。グレートブラスター一発での攻略は逃げ遅れた住民がいる以上不可能であるし、イーニァが迅雷四型で強化型BETAがはびこるハイヴを攻略出来るかと言えばかなり怪しい。イーニァはアウシアント由来強化術式を学ぶ以前に訓練をリタイアしているからだ。

 そのため、ハイヴ攻略は強化型BETAの情報を提供した上で人類統合体総軍を大量の無人型TOM(トム)でバックアップする方が良いという結論になった。

 では折角持ってきた迅雷や轟雷を何に使うかと言えば、楔の塔を建てるために世界中を巡る高速移動手段だ。

 

 

 

 GAMMA相手には分が悪いとはいえ、人類統合体総軍の戦力はなかなか大した物で、少々時間は掛かったものの、TOM(トム)と連携して見事に全てのハイヴを攻略してみせた。

 そして匠衆(マイスターズ)から送られてきた援軍であるインファクトリ級は、大半が地球上や太陽系内のBETAを駆逐するのに参加し、一部は使節艦隊を呼び戻すために出発した。

 

 インファクトリ級の艦隊が使節艦隊に追いついて霞から直々に使節派遣の延期を伝えると、それは予想以上に歓迎された。

 というのも、この使節艦隊の人員にも艦隊が壊滅する未来の記憶が流入しており、かと言って人類の命運を賭けたこの使節派遣を勝手に中止するわけにもいかないため、航行を一旦停止して本国の指示を仰ぐべきではないかと揉めていた所だったのだ。

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