誤訳騒ぎでトピアがスコアにうっかり惚れ直されて困惑したりしつつ、一行はスコアが作った拠点の中に入った。
この門は北門らしく、右手西側に2つの建物、左手東側には畑が11面、左手奥の南東側には他の建物より豪華な家屋、正面南側には遺物のような物が見えた。街灯のような物は無いが、代わりに床のタイルが光っており、壁の外に比べると格段に明るくなっていた。
スコア「ようこそ我が拠点へ。ここは正面に見えるあの遺跡を中心に私が整備したものだ」
トピア「おお、色んな作物が実ってますね」
見れば11面の畑にはそれぞれ別の作物が植えられており、スプリンクラーも4つずつ設置してある。ただ自動刈り取り機と回収設備が見当たらない。恐らく半自動農業と見える。
スコア「うむ、私も地底世界に来るまで見たこともなかったものばかりだが、食料になるだけでなく一時的な能力向上効果もあってな。陽光無しで育つことも併せてなかなか役に立っている。ああ、そこのはカビキノコだから近寄らない方がいいぞ。体の動きが鈍る毒性がある」
トピア「わお」
畑にふらふらと近寄りつつあったトピアは慌てて距離を取った。
サティ≪劇物も育ててるのね?≫
スコア「あれでも料理するとプラスの効果に転じたりするのだよ」
スコアの視線の先、畑のそばのスペースには複数の鍋と宝箱状のボックスが並んでいた。あれが調理スペースなのだろう。調理器具が鍋ばかりというところにサティは魔法文明の気配を感じた。
ラリー「んでこっち側に並んでる建物は北側が金庫、南側が商人の宿泊施設だ。と言っても外で通じるような通貨は無いぜ」
スコア「それをわざわざ金庫に入って実際に確認したからな君は。久々に会った人間がまさかの強盗かと思ったぞ」
ラリー「ただの好奇心だよ。あと鍵はかけておいた方がいいと思うぞ」
スコア「善処する。それで左手奥が我が家なのだが、その前に正面の遺跡だ。中央の卵状の石像に向かって北側、東側の石像から光が伸びて繋がっているのが分かるな? 北側は先ほど話に出した『奇怪生命体グラーチ』、東側は『ハイヴマザー』。こいつらは昨日討伐済みだ。そして西側の石像に見覚えは無いかね?」
確かに石像の間のタイルが光って繋がっているように見える。周囲の石像自体も光っている。
ハイヴマザーと言われるとどうしてもBETAのイメージがあるが、見る限り別のもののようだ。トピアは西側の像を注視した。
トピア「これは……さっき見た巨大な蟲ですか?」
スコア「うむ、これが先ほど討伐した『大喰らいのゴーム』の像だ。そして奴が落とした角を石像の窪みにセットすると……」
スコアが宣言通りに西側の像の窪みにゴームの角を設置すると、ゴーム像から床のタイル伝いに光が伸びて中央の卵形石像に繋がった。これで卵形の石像から三方に光が繋がった形になり、他の二つも同様に繋がったのだろうと察せられた。
トピア「なるほどこういう仕組みですか」
スコア「ちなみに脅威生物の名前はこの像に書いてあったものだ」
サティ≪ああ、それで名前が分かってたのね≫
卵の石像に向かって周囲の脅威生物の像全てから光が繋がると、卵の石像も同じように光り出した。
スコア「次にこの中央の像にアクセスする。Wake up, Mr. Core!」
スコアが石像に手をかざし声をかけると、何と卵の石像が喋り始めた。ただしまたしても言語が英語だったのに加え、スコアが適当に早送りしたので、内容は右から左に通り抜けた。
やりとりの途中でコアから青い波紋が広がったり、スコアに光が注ぎ込まれたりしていたが、それらの意味は分からなかった。
トピア「サティ姐さん、今のは?」
トピアの問いに対し、トピアが全く理解出来ていないことを前提として全文を記憶していたサティがその日本語訳を諳んじる。
サティ≪『そなたは我々を目覚めさせた。我々は三のような生き物を見たことが無い。ここにはかつて繁栄した文明があったが、その全ては失われたようだ。我々は長い休眠状態にあったに違いない。我々は不思議に思う。我々は三に幾ばくかを依頼しなければならない。大いなる壁の向こうに住まう古の巨獣を探せ。奴らを討滅し魂を集めよ。奴らのエネルギーがあれば、我々はかつてあったものを取り戻すことが出来る。それと引き換えに、そなたは三が元いた場所に戻ることが出来るであろう。我々が今三に吹き込む力を以て、大いなる壁はそなたが手を置くことで開くであろう。そなたは大いなる壁まで旅に出て、それに手を置いて開かなければならぬ』ですって≫
トピア「折角訳していただきましたが、訳してもらっても割と意味が分かりませんよ?」
サティ≪言い回し自体が古風かつ独特だけれど、それ以外で難解なのは原文でthreeとなっている『三』、これは恐らくは人間或いはスコアのことね。第三者、第三勢力、或いは不明個体仮称ナンバー三的な意味じゃないかしら?≫
ラリー「つまりどういうことなんだスコア?」
サティが遺跡の謎について推論を述べているところだが、ラリーはもっと直接的に、元々ここの住民であるスコアに尋ねることにした。
スコア「うむ、端的に言うと古の巨獣を狩って魂を持ってくればそのエネルギーで復旧出来るから、お前を元の世界に返してやることが出来るぞ。そのためには巨獣の生息域とここを隔てる壁が邪魔だから、壁の封印を解除する力をお前に与えるぞ。ということだな」
トピア「勝手に攫ってきておいて、帰りたければ仕事をしろってところに上司テイストを感じますね」
ラリー「お前の上司そんなんなのか」
トピア「概ね。まあこっちは命じられた仕事をしても帰るところが既に無いらしいんですが」
ラリー「もっと酷くね?」
トピア「元々私の居場所なんてものは在って無きがごとしだったので、今が楽しければ問題ないです」
ラリー「……おう」
トピアもラリーと同じ帰れなくても大して気にしない勢ではあったが、理由については闇が見え隠れしていた。そんな話を笑顔で語られても反応に困るラリーは、察して話題を打ち切った。
スコア「……苦労したのだな。今後は私も頼ってくれてもいいのだぞ?」
トピア「あっ、じゃあ聞きたいんですけど、あれ何ですかあれ。いかにもゲートですっていう形の」
敢えて踏み込んでくるスコアの同情の影には露骨な下心が見えていたが、トピアは気にせず利用することにした。何、最終的には
トピアはあからさまに武力をひけらかした威圧的交渉は基本的にしないが、自身の
そのトピアが指さしたのは、卵の石像の前に設置してあるアーチ型の施設だ。地面から逆U字型に生えており、中央では時空の歪みのようなものが渦巻いている。ただのモニュメントであろうはずがなく、さっきから卵よりも余程気になっていたのだ。
スコア「あれはこの遺跡と帰還の偶像の技術を応用したポータルだな。他に設置したポータルを選んで瞬間移動出来るのだが、設置してから起動に20分もかかるのが難点でな」
サティ≪えっ、待って待って? 転移ゲートを量産できてるの?≫
既に転移ゲートの生産に成功していると聞いたサティが覿面に食いついた。これは今後の戦略に関わる物だ。
スコア「うむ。だが使い勝手は良くないぞ?」
ラリー「いやそうでもねえぞ? 確かに設置してから待たされるのは面倒だが、うちの
サティ≪歩いて帰ってこられるような近距離だと20分は気になるけど、遠方になるほど大した問題じゃなくなるわね≫
スコア「希少素材の量産にも大分苦労したんだが?」
ラリー「つまりもう量産できてるってことだろうがよ。その量産施設もここにあるだろ?」
スコア「……まあな」
トピア「スコアさん!」
スコア「な、何かなトピアさん?」
目を輝かせたトピアがスコアににじり寄る。一体何事かとスコアは身構えた。
トピア「これうちの拠点にも置きましょう!」
スコア「すぐに設置しよう!」
サティ≪貴女そういうところよ?≫
トピアおねだりすると、二つ返事で許可が下りた。
そのやり方はどうかと思うものの、サティから見ても確実に必要な設備と人材なので呆れるだけに止めたのであった。