【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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[2024/09/10]修正:TACネーム一覧に間違ってアネットを並べていたのでウルスラ(=カティア)に入れ替えました。


311. 流石、13年物の初心者は格が違う

 シルヴィアの言葉に頷いたグレーテルが言葉を引き継ぐ。

 

グレーテル「それで邪魔な香月教授とイモータルズを()()した途端にBETAにボコボコにされているのだから、弁護の余地も無いな。流石、1()3()()()()()()()は格が違う」

 

 グレーテル・イェッケルン准将の視線もやはり冷たかった。

 まあBETAを甘く見てわざわざ味方同士で足を引っ張り合ってその後BETAに痛い目に遭わされるのはマブラヴ地球人のお家芸のようなものなのだが、ここの世界はそれが特に酷い。

 目の上のたんこぶのイモータルズにG弾を投下して始末したあと、国防隊はものの見事にBETAに連戦連敗した。そしてイモータルズのお陰で一度占拠出来た小倉ハイヴですら維持出来ずに手放した。

 今までイモータルズを好き勝手使っていただけで国防隊自体は何一つ成長していないのだから、ちょっと考える頭があれば分かりそうな結果なのだが、どうやらその程度の頭も無かったらしい。しかもこれは強化型のBETAが出現するより前の話なのだ。流石は13年ものうのうと初心者を続けていた連中だと評価せざるを得ない。まるで典型的な追放モノのざまぁ担当のような無様さだ。なお悪いことに、こちらの場合()()()()()()()()()()()()で、実際には明らかにイモータルズをまとめて抹殺しようとしていたのだ。

 

ウルスラ「お二人とも、その……()()()()()()()()では?」

 

 お分かりだろうか。黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)でも一、二を争う程温厚なウルスラ・シュトラハヴィッツ准将でさえも、言い方が宜しくないと言っているだけで内容自体は全く否定していないことが。

 もっと正確に言うなら、そのウルスラもこれが日本政府や国防隊の上位責任者に対峙しての発言であったならば苦言も呈さなかっただろう。ではグレーテル達は一体誰に向かって話しているのかと言えば。

 

祉乃「いえ、全く面目ない次第です……」

 

 その発言の正しさを理解している国防隊所属の東雲 祉乃(しののめ しの)二尉が、身を縮こまらせていた。

 ここは先の定義における第1の世界の日本であるが、何故彼女がグレーテル達と一緒にいるのかと言えば、イモータルズなどの部外者との交流に慣れているからと連絡役を命じられたのだ。しかも交渉権を持たないただのメッセンジャーとしてだ。

 

 

 

 現状として、この世界の地球上のハイヴはグレーテル達によって既に全て攻略済みで、占拠した幾つかのハイヴには時空観測用の計測機器を設置してある。そして楔の塔の建設も終わってその効果が星に満ちるのを待っている所だ。

 その楔の塔の建設予定地となる光の柱の一つが日本に出現しており、しかもそこは現役の居住地なので事前に一応断っておこうかとグレーテル達は連絡を試みたのだが、反応は芳しくなく、散々待たされた上で祉乃が送りつけられてきた。そしてメッセンジャーとして来た祉乃が、極めて申し訳なさそうな態度で、「塔を建てる権利」と「小倉ハイヴ、横浜ハイヴ、佐渡島ハイヴ並びに埋蔵G元素の占有権」との引き換えを提案してきたのだ。

 これに対する反応は、当然ながら

 

グレーテル「寝ぼけたことを抜かすな」

 

祉乃「ですよねぇ。うちの政府が無理言ってすみません」

 

 というものであった。

 要するに世界中のハイヴを瞬く間に制圧した軍事組織に対して一切の礼の言葉も無く「そのハイヴとG元素を全部寄越せ」と言ってのけているのだから、イモータルズに対するG弾投下も含めて恩を仇で返すことだけ一人前とシルヴィアが評するのも無理は無いだろう。

 

 そもそもグレーテルも塔を建てるべき土地をただで寄越せと言っているわけではない。土地・建物価格の10倍を金塊で支払うことを既に告げていた。だが、それによってあの光の柱が立った土地には余程の価値があるらしいと踏んだ日本政府は露骨に足元を見たわけだ。

 黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)の面々の中でも元々政治将校だったグレーテルにとって、政治交渉は得意分野だ。そのためグレーテルがこの世界を担当する三人の班のリーダーとなっており、その責任においてなるべく穏便に最低限の筋を通そうとしたのが裏目に出た形だ。

 

 そこで、グレーテルはまあそれならそれで構わないということで、半ば強引に居住者に金塊を押しつけて塔を建てた。()()()()()()()()()()()()という判断だ。既に筋は通したので、邪魔するなら相応の報いを受けさせるだけだ。

 そういうわけで塔やハイヴの周囲に配置されたTOM(トム)がここまで国防隊の妨害を完封で無力化しており、そこで漸く慌てた様子の政府から()()という形の連絡が来たのだが、今更抗議なんかしている時点で平和ボケしている。どうも武力を以て襲撃しても抵抗されるとすら思っていなかったらしい。

 勿論攻撃の初手はばっちり国防隊側に譲った上で映像で記録も取っているし、手加減する余裕はありすぎる程なので死人も出していない。そのためグレーテルに恥じる所は何一つ無いし、祉乃もひとまず納得している。

 

 そもそもやけに勿体ぶった日本国防隊と日本政府側の態度からして、イモータルズ同様に好きに使い潰してやろうと考えているのが最初から見え見えだったのだ。

 はっきり言ってこの世界の連中は匠衆(マイスターズ)を舐め腐っていた。日本政府は単純に平和ボケしていたし、国防隊は薄々軍事力の絶望的な差に気付いてはいたものの、自身の立場を維持するために所詮はイモータルズと同じ民間軍事会社(PMC)に過ぎないと虚勢を張っていた。それに世界を敵に回してまで反抗はしないだろうと高をくくっていた。

 どうもイモータルズにどれだけ理不尽を強いても碌に反抗しなかったので匠衆(マイスターズ)にも同じ対処が通じると思われていたようなのだが、イモータルズと匠衆(マイスターズ)には決定的な違いがある。

 イモータルズ所属衛士はその殆どが自分の世界を救えなかった後悔を抱えており、「今度こそ人類を救ってみせる」という気概に溢れているために、政府や国防隊にどれだけ軽んじられても我慢していただけなのだ。その()()()()のお陰もあり、この世界の日本は民間軍事会社(PMC)が相手ならば相手の善意に付け込んで何をやっても許されるのだと増長してしまった。その最たるものが、G弾投下による一方的抹殺処分だ。

 一方、自力で珪素生命体(シリコニアン)文明の本拠地まで打ち倒した匠衆(マイスターズ)にそのような遠慮は欠片も無い。おまけに勢力は超銀河規模なのでむきになって怒る必要すら無い。「何これ恥ずかしい」と共感性羞恥を感じるのが精々の反応であった。

 

 

 

 それはともかく、確かに板挟みになっている祉乃に言うことではないなとグレーテルは思い直した。

 

グレーテル「……そうだな、東雲二尉はまともな部類のようだから、二尉に言うのは少々ずれているな。すまない。連中はその辺りを計算して防波堤として選んだのか?」

 

祉乃「いえ、お気になさらず。そこの意図は私自身にも分かりません」

 

 ぶっちゃけ大したことは考えていないというのが一番ありそうな可能性だ。

 あと目の前の相手が三人とも将官なので、祉乃は無駄に緊張していた。こんなに若い人達が准将ってどういう組織なんだろうとは思うが、グレーテル達は魔法で若返っただけで実年齢はアラフォーである。

 そしてこの若さで将官になれる程度の組織なら余程人材不足に違いない、もしくは実力不相応な階級をはったりで名乗っているに違いないと勘違いされているのも実はこの世界の日本に舐められている原因の一つだ。今し方ハイヴ攻略RTAを見せられたばかりなのにそう考えるとは、その節穴ぶりは大した物であり、全く楽観的で都合のいい解釈しかしていないと言える。

 

 なおこの世界にいるかもしれない同一人物に迷惑を掛けないためにクローン衛士は本名ではなくTACネームで呼び合わなければいけないし組織外に顔を知られてもいけない、というルールがイモータルズには存在する。イモータルズにおけるTACネームは、グレーテルならば『アドラー』、シルヴィアは『ルサウカ』、ウルスラ(=カティア)は『フェイブルホワイト』だ。参考までに、イモータルズ所属ではないが東雲 祉乃二尉のTACネームは『イーストクラウド』と苗字そのままだ。

 しかしグレーテル達の体はともかく中身は匠衆(マイスターズ)に在籍している本人そのものであるし、そもそもこの世界を知る程にこの世界にそんな面倒な配慮をする必要性が感じられなくなったので、グレーテル達は完全にそのルールを無視していた。

 グレーテル達はここが元々BETAのいない平和な世界だったと聞いて、ならばその貴重な世界を守ってやらねばと少しは思っていたのだが、実際のこの世界、特に日本の甘えきった対応を目の当たりにして、あまりの酷さに辟易していた。日本帝国も割と独自のよく分からない価値観を持っていたが、幾ら何でもここまで酷くはなかった。

 

シルヴィア「祉乃はあれね、不憫な所が少し昔のウルスラに似てるわね」

 

ウルスラ「わ、私、そんなに不憫でしたか!?」

 

グレーテル「フフッ、空回り気味な所がな」

 

 ちょっと珍しいくらいにいい所がない国防隊の中でも、まともな倫理感があって上司相手にもおかしいことはおかしいと言える祉乃は一服の清涼剤のごとき存在だ。自分達がクローン運用を拒否しながらイモータルズに死ぬ役目を押しつけるのはおかしいと中根大隊長に食ってかかったのも祉乃だった。しかしそのせいで却って国防隊では浮いているらしい。

 その様子は出会った当初の、社会体制の違いで全く常識が合わないながらも相互理解に努め、それでもおかしいことにはおかしいと主張していたウルスラを思い出すので、グレーテル達も祉乃個人のことは嫌いではない。いや、正直に言うならば既に結構気に入ってすらいる。昔のウルスラに似ているというのはそのくらいの評価だ。

 実は国防隊はどうでもいいが祉乃はぞんざいに扱わないでやってくれとイモータルズの朱土岐 真白(あかとき ましろ)から頼まれていたのだが、予想を遙かに下回る国防隊の酷さを実感したことで、その中でも曲がらない祉乃はグレーテル達からしても輝いて見えたのだ。

 腐った国防隊にこのまま置いておくのは惜しいので、どうにか匠衆(マイスターズ)に勧誘出来ないものかなどとグレーテルは考え始めていた。いや、イモータルズも勧誘を狙っているかもしれないので、まずそちらに話を通す必要があるだろう。

 

 派遣された匠衆(マイスターズ)の面子で現在この第1の世界にいるのはグレーテル、シルヴィア、ウルスラの三名だけだが、彼女達は直接この第1の世界に憑依(ポゼッション)したわけではない。最初にヴァルター・クリューガー少将を除く黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)抽出中隊総勢九名が訪れたのは、イモータルズ関連の世界の中でも暫定で第4とナンバリングされる世界だった。

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