管理官「ベルンハルト隊長、いい考えとは……?」
ともかくアイリスディーナの提案を聞いてみよう、と代表して管理官が続きを促した。
しかしその回答はといえば。
アイリスディーナ≪全員で逃げることが出来ないのなら、逃げなければいいのだ。今からBETAを滅ぼしてしまおう≫
期待に反して急におかしなことを言い出したアイリスディーナに対し、一時の沈黙が降りた。
それは一同の困惑と落胆を如実に表していた。
真白≪……ッはアァァ!? それが出来りゃあ苦労はしねえよ! この深刻な事態にくだらねえ冗談垂れ流しやがって! 管理官の
管理官「ウッ!?」
イモータルズの衛士の中でも特に言いたいことをはっきり言う
朱土岐 真白はその名前の通りに髪が紅白のツートンカラーになっており、表側が白、裏側が赤になっている。その女性らしからぬ言葉遣いのせいで結構ガラが悪く見えるが、他の衛士が人類を守るという目的のために理不尽を我慢しすぎるので、むしろ言うべき文句を言う真白の方が一般的な感性に近い。その証拠に、この世界に来てからはイモータルズに理不尽を押しつけようとする人間がいないので、真白の口から出る文句はかなり減っていた。
BETAを殲滅するプランを冗談と切って捨てる真白も、別に負けるつもりで戦っているわけではない。しかしこの世界は状況があまりに悪すぎる。もはや人類の生き残りが殆どいないのだ。勝敗は既に決していると言ってよく、だからこそ少しでも脱出させるべく真白達は奔走している。その問題を大真面目に何とかしようとしているからこそ、茶化されて怒りが湧いてきたのだ。
まあアイリスディーナに茶化すつもりは全く無いのだが。
まりも≪ベルンハルト隊長……≫
デウカリオンに詰めてコマンドポストを務める
だがアイリスディーナは急に真面目な顔になると、それを遮って続きを語り始めた。
アイリスディーナ≪いや、冗談ではないよ。
その表情や声色から、どうやら先の提案は冗談ではなく本気であることが窺える。だが、実現する見込みも無くそんなことを言っているのであればなお悪い。まりもは場合によってはアイリスディーナの
そんなまりもの心配を余所に、アイリスディーナは大きく息継ぎをすると声を張り上げた。
アイリスディーナ≪――聞いていたな、
アイリスディーナに出撃命令を受けた
様子がおかしいのがアイリスディーナだけではないとはっきり分かったことで、一体どういうことだ、という困惑がアルファ・ユニットや司令部に漂った。
東ドイツ陸軍第666戦術機中隊
だが、鎧衣 美琴大尉の胸中には
鎧衣 美琴大尉も先の無いこの世界に絶望し、誰でもいいから助けてくれと祈ったことがある。勿論部下にそのような姿は見せられないから一人でこっそりとだ。それがつい先日の話で、その結果並行世界の存在であるイモータルズがこの世界に到来した。切実に願った結果、本当に助けが来たのだ。
それで全員は無理でも横浜基地の半分は逃がせる目処が立った。最後に命の選択をしなければならないのは身を切られる思いだが、これ以上は贅沢な願いだと自分の心を殺していた。これはそれほどの奇跡だったのだ。
しかし、
そういった期待はあるものの、その奇跡を信じられるかと言えば話は別だ。奇跡に奇跡を重ねるなど、その想定はもはや都合のいい願望ではないか。これまで地球人類は願望同然の都合のいい想定をしては失敗を積み重ねてきた。生き残るためには常に最悪を想定して備えなければならない。
この期に及んで馬鹿みたいな希望を抱くんじゃない、と鎧衣大尉は自分を戒めようとしたが、しかしそのまさかの願望を肯定するが如く、アイリスディーナの号令に応じて
まりも≪これは……移動速度マッハ440!? 本当に戦術機が稲妻になったとでも……は!? そのまま
衛星観測情報をチェックしたコマンドポストの
鎧衣大尉はその有効性にすぐに気付いた。
理論上はそうなるが、実現性には大いに疑問がある。
物理的には殆どあり得ない筈の最短ハイヴ攻略法が実際に実施されていることに関して皆が困惑しているが、しかし実際のところこれは物理現象ではないのだから仕方が無い。文字通りの魔法なのだ。
鎧衣大尉≪まさか……まさか、本当にハイヴを攻略しているのか!? この絶望的な状況から地球を人類の手に取り戻せるっていうのか!?≫
イモータルズは確かに並行世界から様々な情報を引き出して戦力化しているが、従来の対BETA戦術を完全に無視出来るような技術情報は持っていない。仮にあるとしても戦略航空機動要塞
ここまでのイモータルズの反応から、鎧衣大尉や珠瀬中尉はこれがイモータルズにとっても全く想定外の事態であることを確信していた。ならばやはり奇跡が起きたのか。
しかしイモータルズに頼った時点で既に奇跡頼みだったので、鎧衣大尉達にとってはもう一つ想定外が加わろうと今更のことだ。もはや人々が助かるかどうか以外の全てのことは些事なのだ。それが叶うというのならば、叶えてくれるのが悪魔であっても構わない。
とはいえ、実際にBETAの打倒が可能であろうことが分かったあとでは、折角手を取り合っているこの世界の人々を引き裂く現実などぶち壊してやる、というアイリスディーナの言葉からは心の温かみと理不尽に対する怒りが感じられる。悪魔やその手先にしては優しすぎるだろう。そう思い直した鎧衣大尉は、無意識に口角が上がっていた。こんなに愉快な気持ちはいつ以来だろうか。
と、そこへ鴨川方面へ向かった稲妻が戻ってきて大した衝撃も無く着陸した。見たところそれは、鎧衣ヴァルキリーズでも使っている不知火をややサイズアップしたような機体に見えた。
アイリスディーナ≪すまない諸君、名乗るのが遅れたな。私は世界間協力BETA撲滅機関
鎧衣大尉≪ほ、滅ぼした……?≫
アイリスディーナ≪ん? ……ああ、交渉の通じる相手ではなかったからな。問答無用で滅ぼして回っているわけではないぞ?≫
少々すれ違いが生じているが、鎧衣大尉の言葉は交渉もせずに滅ぼしたのかという道義上の疑義ではない。地球人類を絶滅寸前まで追いやった連中とこの期に及んで仲良くしようなどという考えは持っていない。そこではなくて、隣の銀河にある敵対文明の本拠地に十分な戦力を送り込んで滅ぼせるほどの勢力があるのかという驚きだ。
どうもアイリスディーナの言う