【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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313. 総員出撃!! この巫山戯た現実に黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)を下してやれッ!!

管理官「ベルンハルト隊長、いい考えとは……?」

 

 ともかくアイリスディーナの提案を聞いてみよう、と代表して管理官が続きを促した。

 しかしその回答はといえば。

 

アイリスディーナ≪全員で逃げることが出来ないのなら、逃げなければいいのだ。今からBETAを滅ぼしてしまおう≫

 

 期待に反して急におかしなことを言い出したアイリスディーナに対し、一時の沈黙が降りた。

 それは一同の困惑と落胆を如実に表していた。

 

真白≪……ッはアァァ!? それが出来りゃあ苦労はしねえよ! この深刻な事態にくだらねえ冗談垂れ流しやがって! 管理官の病気(ボケ)でも感染(うつ)ったか!?≫

 

管理官「ウッ!?」

 

 イモータルズの衛士の中でも特に言いたいことをはっきり言う朱土岐 真白(あかとき ましろ)、TACネーム:スノウホワイトは言葉を荒げ、未だ記憶喪失が治っていない管理官に流れ弾を飛ばした。

 朱土岐 真白はその名前の通りに髪が紅白のツートンカラーになっており、表側が白、裏側が赤になっている。その女性らしからぬ言葉遣いのせいで結構ガラが悪く見えるが、他の衛士が人類を守るという目的のために理不尽を我慢しすぎるので、むしろ言うべき文句を言う真白の方が一般的な感性に近い。その証拠に、この世界に来てからはイモータルズに理不尽を押しつけようとする人間がいないので、真白の口から出る文句はかなり減っていた。

 BETAを殲滅するプランを冗談と切って捨てる真白も、別に負けるつもりで戦っているわけではない。しかしこの世界は状況があまりに悪すぎる。もはや人類の生き残りが殆どいないのだ。勝敗は既に決していると言ってよく、だからこそ少しでも脱出させるべく真白達は奔走している。その問題を大真面目に何とかしようとしているからこそ、茶化されて怒りが湧いてきたのだ。

 

 まあアイリスディーナに茶化すつもりは全く無いのだが。

 

まりも≪ベルンハルト隊長……≫

 

 デウカリオンに詰めてコマンドポストを務める神宮司 まりも(ヘパティカ)も、真白に続いて頭痛を堪えるような面持ちで、あまりにも実現性のない提案をしたアイリスディーナを窘める言葉を発しようとした。

 だがアイリスディーナは急に真面目な顔になると、それを遮って続きを語り始めた。

 

アイリスディーナ≪いや、冗談ではないよ。()()()()()()()()()()。折角人々が手を取り合ってここまで頑張ってきたというのに、それを引き裂こうとする冗談のような現実など、断固として認めるわけにはいかない≫

 

 その表情や声色から、どうやら先の提案は冗談ではなく本気であることが窺える。だが、実現する見込みも無くそんなことを言っているのであればなお悪い。まりもは場合によってはアイリスディーナの()調()()が必要かもしれないと考え始めた。まりももそんなことは極力したくはないのだが。

 そんなまりもの心配を余所に、アイリスディーナは大きく息継ぎをすると声を張り上げた。

 

アイリスディーナ≪――聞いていたな、地球連合(ユナイテッドアース)戦闘団各員! まだ寝ている間抜けはいないだろうな!? 総員出撃!! ()()()()()()()()黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)を下してやれッ!!≫

 

黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)抽出中隊≪了解ッ!!≫

 

 アイリスディーナに出撃命令を受けた地球連合(ユナイテッドアース)戦闘団黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)抽出中隊員達は一糸乱れぬ返事を返した。

 黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)。それはトリアージ・タグの黒を示しており、意味は「回復の見込みが無い手遅れの患者」だ。故に、黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)とは端的に言うと死亡通告のことである。それが今、BETAに対してではなく巫山戯た現実に対して下されようとしていた。

 

 様子がおかしいのがアイリスディーナだけではないとはっきり分かったことで、一体どういうことだ、という困惑がアルファ・ユニットや司令部に漂った。

 

 東ドイツ陸軍第666戦術機中隊黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)は東ドイツ最強の戦術機部隊であり、第1世代戦術機MiG-21バラライカで碌に援護も無い中で光線級吶喊(レーザーヤークト)を敢行して成功させた上に、機体はともかく人員にはほぼ損害無しで帰ってくるというちょっと頭がおかしい部隊である。勿論イモータルズの中でもその技量の評価は高いが、それでもたかが一個中隊でBETAを駆逐出来るかと言えばそんなわけがない。イモータルズと横浜基地の総力を結集したとしてもそれは同じ事だ。そもそもこの世界は人類側の勢力があまりにも小さすぎ、補給の目処も立たないのだ。

 

 だが、鎧衣 美琴大尉の胸中には()()()という期待があった。

 鎧衣 美琴大尉も先の無いこの世界に絶望し、誰でもいいから助けてくれと祈ったことがある。勿論部下にそのような姿は見せられないから一人でこっそりとだ。それがつい先日の話で、その結果並行世界の存在であるイモータルズがこの世界に到来した。切実に願った結果、本当に助けが来たのだ。

 それで全員は無理でも横浜基地の半分は逃がせる目処が立った。最後に命の選択をしなければならないのは身を切られる思いだが、これ以上は贅沢な願いだと自分の心を殺していた。これはそれほどの奇跡だったのだ。

 しかし、()()()()()()()()アイリスディーナ達が言葉通りにBETAを打倒できるほどの力を得ていたのだとしたら、もしかすると彼女の提案は本当に実現出来るのではないか。イモータルズの反応からしても、何か想定外のことが起きていることは間違いないのだ。

 そういった期待はあるものの、その奇跡を信じられるかと言えば話は別だ。奇跡に奇跡を重ねるなど、その想定はもはや都合のいい願望ではないか。これまで地球人類は願望同然の都合のいい想定をしては失敗を積み重ねてきた。生き残るためには常に最悪を想定して備えなければならない。

 

 この期に及んで馬鹿みたいな希望を抱くんじゃない、と鎧衣大尉は自分を戒めようとしたが、しかしそのまさかの願望を肯定するが如く、アイリスディーナの号令に応じて9()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それらは別々の方向へ向かっていった。一つは横浜へ、一つは佐渡島へ、一つは小倉へ、一つは鴨川へと。他の稲妻は更に遠くへ向かっていったように見える。

 

まりも≪これは……移動速度マッハ440!? 本当に戦術機が稲妻になったとでも……は!? そのまま主縦坑(メインシャフト)に飛び込んだァ!?≫

 

 衛星観測情報をチェックしたコマンドポストのまりも(ヘパティカ)が素っ頓狂な声を上げた。マッハ440。文字通りの雷速だ。そして佐渡島と小倉に向かった稲妻はハイヴ直上からそのまま鉛直に飛び込んだのだ。

 鎧衣大尉はその有効性にすぐに気付いた。主縦坑(メインシャフト)の深さはフェイズ6ハイヴでも4km程度。マッハ440は秒速150km程度なので、主縦坑(メインシャフト)の底まで到達するのに0.027秒しか掛からない。つまり主縦坑(メインシャフト)直下の大広間(メインホール)で待ち構える光線(レーザー)属種の迎撃を無効化出来ることになる。ハイヴ攻略最短経路における最大の脅威を無視出来るのだ。

 理論上はそうなるが、実現性には大いに疑問がある。主縦坑(メインシャフト)にマッハ440で飛び込むなど、加速G、空気抵抗、断熱圧縮、そしてどうやって停止するのかといった様々な物理的問題をどうやって解決しているというのか。

 

 物理的には殆どあり得ない筈の最短ハイヴ攻略法が実際に実施されていることに関して皆が困惑しているが、しかし実際のところこれは物理現象ではないのだから仕方が無い。文字通りの魔法なのだ。

 

鎧衣大尉≪まさか……まさか、本当にハイヴを攻略しているのか!? この絶望的な状況から地球を人類の手に取り戻せるっていうのか!?≫

 

 鉄原(チョルウォン)ハイヴ攻略失敗以来一度として成功しなかったハイヴ攻略が今まさに実現しようとしている。BETAに勝てるかもしれないのは望外の朗報だが、一体何故このようなことが起きているのかを誰一人理解出来ていないのは問題だ。

 イモータルズは確かに並行世界から様々な情報を引き出して戦力化しているが、従来の対BETA戦術を完全に無視出来るような技術情報は持っていない。仮にあるとしても戦略航空機動要塞凄乃皇(すさのお)だが、見た目や性能からして今回のものが凄乃皇(すさのお)ではないことは分かる。

 

 ここまでのイモータルズの反応から、鎧衣大尉や珠瀬中尉はこれがイモータルズにとっても全く想定外の事態であることを確信していた。ならばやはり奇跡が起きたのか。

 しかしイモータルズに頼った時点で既に奇跡頼みだったので、鎧衣大尉達にとってはもう一つ想定外が加わろうと今更のことだ。もはや人々が助かるかどうか以外の全てのことは些事なのだ。それが叶うというのならば、叶えてくれるのが悪魔であっても構わない。

 とはいえ、実際にBETAの打倒が可能であろうことが分かったあとでは、折角手を取り合っているこの世界の人々を引き裂く現実などぶち壊してやる、というアイリスディーナの言葉からは心の温かみと理不尽に対する怒りが感じられる。悪魔やその手先にしては優しすぎるだろう。そう思い直した鎧衣大尉は、無意識に口角が上がっていた。こんなに愉快な気持ちはいつ以来だろうか。

 

 と、そこへ鴨川方面へ向かった稲妻が戻ってきて大した衝撃も無く着陸した。見たところそれは、鎧衣ヴァルキリーズでも使っている不知火をややサイズアップしたような機体に見えた。

 

アイリスディーナ≪すまない諸君、名乗るのが遅れたな。私は世界間協力BETA撲滅機関匠衆(マイスターズ)総軍本部実戦部隊地球連合(ユナイテッドアース)戦闘団魔術機連隊長、アイリスディーナ・()()()()()()()()()だ。あとは我々に任せておけ。何しろ我々匠衆(マイスターズ)()()()()()珪素生命体(シリコニアン)文明……ああ、BETAの創造主のことだが、大マゼランに広がっていた奴らの本拠地を滅ぼした実績があるからな。惑星一つ分のBETAなど、本日中に絶滅させてくれよう≫

 

鎧衣大尉≪ほ、滅ぼした……?≫

 

アイリスディーナ≪ん? ……ああ、交渉の通じる相手ではなかったからな。問答無用で滅ぼして回っているわけではないぞ?≫

 

 少々すれ違いが生じているが、鎧衣大尉の言葉は交渉もせずに滅ぼしたのかという道義上の疑義ではない。地球人類を絶滅寸前まで追いやった連中とこの期に及んで仲良くしようなどという考えは持っていない。そこではなくて、隣の銀河にある敵対文明の本拠地に十分な戦力を送り込んで滅ぼせるほどの勢力があるのかという驚きだ。

 どうもアイリスディーナの言う匠衆(マイスターズ)というのは予想していたよりも遙かに強大な軍勢のようで、一体何処でどういう分岐をすればそうなるのかと、鎧衣大尉はスケールの認識にエラーを起こして笑顔が引きつった。

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