それから1時間も経たないうちに、アイリスディーナによって地球上全てのハイヴの制圧が宣言され、大量の蜘蛛型機械軍団によるBETA残党狩りが始まった。
鴨川の方は周辺のBETAを一通り駆逐してポータルという転移ゲートを設置してきたらしく、それが横浜基地に設置した別のポータルに繋がったので、鴨川避難民との合流はあっさり果たされた。
この世界の横浜基地司令である夕呼は白銀 武を別の世界の白銀 武に憑依させる形で送り込んだことがあるため、アイリスディーナ達が同様の存在であることにはすぐに理解を示した。イモータルズのクローン衛士を乗っ取る形になっているわけだが、イモータルズはこちらの夕呼の管轄ではない。
アイリスディーナ達はついでとばかりに、食糧不足を解消するための伝説の 特級の 高級な 上質な 小麦畑を横浜基地に提供した。水を撒くだけでわずか数分で無尽蔵に小麦を収穫出来るその出鱈目ぶりはまさに魔法であった。
小麦畑から自動で収穫して貯蔵する自動化システムもその場で組み上げられた。水を無限に撒き続けるスプリンクラー、自動で作物の生育状態を見極めて収穫する刈り取り機、電力無しで動き続ける高速ベルトコンベア、見た目よりも大量の物資を収納出来る大容量コンテナ、それらにマナというエネルギー源を供給する青のハーブも大概だったが、極めつけは畑からコンベアへ小麦を移動させる壁力という何の説明もつかない訳の分からない力だ。
これには夕呼ですら鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。しかも収穫した小麦から作った料理は異常に美味かった。どうも伝説の云々というエンチャントというものが美味しさに寄与しているらしい。
料理したのはいつもの食堂のおばちゃんこと京塚 志津江だ。合成食材でさえ美味しい料理を作ってしまう京塚が上等な食材を使ったのだから、それはもう大変なことになった。試食会に集った者達は生きる喜びを涙を流して実感した。
しかし、理由のよく分からない施しというのは怖いものだ。
鎧衣大尉「中将閣下、色々とありがとうございます。……しかし、どうしてここまでしていただけるのですか?」
鎧衣大尉が恐る恐る訪ねてみた所、アイリスディーナの回答は以下のようなものだった。
アイリスディーナ「鴨川の避難民を合流させたのは私達が勝手にしたことだ。その分の食糧くらいは補填するさ。しかしそれ以上にだな……折角人々が協力し合えているのにそれを引き裂いて命を選ばなければならないなど、そんな理不尽は断じて見過ごせるものではない。ここまで頑張ってきた君達はそろそろ幸せになるべきだ。そうでないと私が腹が立って仕方ない。まあつまりは私の我儘だよ」
それは当初の言葉とほぼ同じであり、鎧衣大尉が期待した通りの返答であったが、それが本心なのかを確認する意味があった。幸いにして、アイリスディーナの表情には本当に言葉通りの感情が表れていた。理不尽に腹を立ててぶっ潰したくなったという、ただそれだけなのだ。階級が中将だからか、そのくらいの現場判断をする裁量権はあるようだ。
グレーテル「まあ受け取っておけ。技術的には気軽にばらまいて良いものではないのだが、私達はそのくらい君達を評価しているのだ……これまでよく頑張ったな」
グレーテル准将の暖かい労いの言葉に、鎧衣大尉は緊張の糸が切れて涙が出そうになるのをぐっと堪えた。
実際のところこれは政治的問題を全部無視して良いという作戦上の指示を拡大解釈したようなものなのだが、グレーテルもアイリスディーナの判断を咎めるつもりは全く無かった。アイリスディーナは一応実施前にグレーテルに可否を相談しており、グレーテルは総務本部長として事後処理は真っ当な方法でどうにかすると太鼓判を押していた。
グレーテルはこの暫定第4の世界の避難民や衛士達の生き様を大いに気に入っていた。この苦境において皆で支え合えるとは、地球人類もまだまだ捨てたものではないではないかと感動すらしていた。……しかしそのせいもあって、この後赴く第1の世界には心の底から落胆することになった。
真白「まじかよ、大したお人好しどももいたもんだな」
管理官「まッ!?」
その様子を見ていた真白が
アイリスディーナ「ふむ、気に食わないか?」
真白「いいや、嫌いじゃねーぜ。……さっきは突っかかってすまなかったな」
真白はばつが悪そうに視線を逸らしながらも、アイリスディーナに謝罪した。なるほど、わざわざこのために来てくれたのだなとアイリスディーナは気付いた。
アイリスディーナ「何だ、まだ気にしていたのか? 思った以上に律儀だな」
真白「うるせえ。あたしだってあんな理不尽をどうにも出来ないのが悔しかったんだよ。だから助かったぜ。それだけだ」
アイリスディーナ「そうか」
やはり真白も思ったことが口に出るだけで、心根は理不尽を許せないまっすぐな子だとアイリスディーナは理解し、おもむろに真白の頭を撫でた。
真白「なっ!? 撫でんな! 撫でんなバカァ!」
結果として真白は覿面に顔を赤らめて走り去った。それを見送るアイリスディーナ達の目は優しかった。
アイリスディーナ達は見た目はともかく精神年齢的には一世代上なので、すっかり素直じゃない姪っ子を愛でる気分になっていた。
どういうわけか真白と同年代の筈の
管理官「ええその、うちの子が失礼を……」
アイリスディーナ「ははっ、可愛いものじゃないか。私は好きだぞ。ああいうまっすぐな子はな」
管理官「そう仰っていただけますと幸いです」
責任問題はともかくイモータルズと
管理官としても真白が人一倍理不尽を許せない性格で、それゆえに何にでもすぐに噛みついてしまうというのは理解しているのだ。それが災いして不幸な結果を招くようなことは我が身を挺してでも避けなければならない。
どういう意図なのか同じイモータルズのベアトリクス・ブレーメには真白を大事にしろと言われているが、言われるまでもない。
アイリスディーナ・ベルンハルトはその経験と手腕からイモータルズでも部隊長を任されており、イモータルズが直面した命の選択という問題を解決するための手段が何かないかと必死に頭を働かせ、急に浮上してきたある筈のない記憶を辿った結果、すぐに目覚めることが出来た。アイリスディーナ中将はこちらのアイリスディーナが思い悩んでいた問題の解決と
そして宣言通りに地球上の全てのハイヴを制圧したアイリスディーナ達であったが、ここで一つの問題に直面した。七つの楔の塔を建てて星に光が満ちても、人類側本拠地世界との通常通行経路が開通しなかったのだ。