【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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315. 実験サンプルにされる方はたまったものじゃないけど

 楔の塔を七つ建てても世界間移動の経路が開通しない問題に関して、アイリスディーナ達は念のため楔の塔の故障を疑ってみたが、どの塔を入れ替えても結果は同じであった。

 無論その運用の原則からして楔の塔を設置したのは全てのハイヴの反応炉を停止させてからの話であるが、こうなることを予見して予めあらかたの時空観測を済ませ、反応炉自体も万が一再計測が必要になった場合に備えて破壊はせずに代謝低下酵素で停止させてある。

 なおこの時空観測に用いる観測機材は、空間超越レーダーを発展させたものだ。防壁のロックがかかっていなければ他の世界からでも天体観測程度には色々と観測出来るのだが、防壁世界である以上は中から観測する必要があり、更に世界を断絶・接続する原因となっているハイヴの中からの観測はより高精度になる。

 実はアイリスディーナやグレーテルが横浜基地で色々と世話を焼いていたのは他の隊員にこの検証と観測をやらせて報告を待っていた間のことで、別に作戦遂行をほったらかしていたわけではない。

 

グレーテル「やはりこの世界固有の問題が出てきたか」

 

アイリスディーナ「我々がこぞって押しかけるだけのことはあったようだな」

 

 この3つないし4つの密接に関わった並行世界群には他には見られない特殊性がある。

 匠衆(マイスターズ)がこの世界に精鋭中の精鋭を九人も送り込んだのは、その確かな力と判断力であらゆる不測の事態に対処してもらうためだ。

 

 この並行世界群の特殊性として最も端的なのが、第2の世界のBETAによる第1の世界に対する()()()()()()()2()2()()()()()()()()()()()ことだ。つまり本日匠衆(マイスターズ)本拠地世界で鑑 純夏が知性の眼鏡を装着したことはBETAによる並行世界侵略の最初のきっかけではなかったことになる。まあその直後に匠衆(マイスターズ)本拠地世界へ横浜ハイヴを介した侵攻が発生し、同時に強化型BETAも出現し始めたため、並行世界侵略が加速する原因くらいにはなったと推定出来るが。

 

 次に、防壁世界は基本的に周辺の並行世界を統合すると共に分岐が抑制されているが、ここの一連の世界は分岐を抑制されただけで他の世界とは統合されていなかった。そのため、統合による死者の復活や記憶の流入は発生していない。

 第1の世界同様に暫定第4の世界にも小倉と世界各地にハイヴが存在すること、暫定第4の世界はBETAが飽和していること、そして行き先を特に指定せずにG弾投下でイモータルズが移動した先がこの暫定第4の世界であることから、暫定第4の世界は第1の世界へと侵略中の第2の世界と同一ではないかと推定出来る。

 第4の世界では00ユニットの鹵獲は発生していないのにどうして並行世界侵略が出来ているのかという問題については、ここは防壁世界の一つであってBETAの本拠地世界はまた別にあるので、そう考えると矛盾はしていない。また、第1や第2、第4はともかく、第3の世界では00ユニットが鹵獲されている可能性がある。

 

 他には、この暫定第4の世界では()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。しかもこの武はまりもショックでエクストラ世界に逃げた際に因果導体としての特性、因果流入により犠牲者を出していたことが確認されている。

 これについては、

 

1.純夏と結ばれて因果導体から解放されたあとに戦死した

2.実は脳シリンダー状態で生きている

3.BETAが因果導体のループを防ぐ方法を発見した

 

 などの可能性があるが、甲21号作戦(オペレーション・サドガシマ)の途中で00純夏が嫉妬で停止せずに反応炉制圧に至っていることから、恐らく1だろう。

 ……などと見当を付けて実際にこの世界の夕呼司令に問い質してみたところ、やはり1であった。

 これに関連して、甲21号作戦(オペレーション・サドガシマ)の最後に反応炉と接触した時に00純夏が停止したことと、今もって対レーザー弾頭弾(ALM)が無効化されていないことから、この暫定第4の世界では00ユニットからBETAへの情報流出は少なくとも致命的なレベルでは発生していないことが分かる。

 

 続いて、第1の世界のハイヴは他とは大分様子が異なる。

 

・落着ユニットからハイヴを建設したのではなく、恐らく並行世界からハイヴが直接送り込まれた

・出現から活動開始まで9年もかかっている

地表構造物(モニュメント)が大きくなくても地下茎の半径がかなり広がっているものがある

・ハイヴ周辺の地均しが進んでおらず、建造物が普通に残っている

・稀に通常の何倍も巨大なBETAが出現する

・小倉ハイヴのように反応炉が存在しない場合がある

 

 地表構造物(モニュメント)の大きさに比して地下茎構造が大きく発達しているというのはオルタネイティヴ世界の横浜ハイヴもそうだったのでまだ分かるが、他は前代未聞の特徴ばかりだ。

 特に反応炉が無いハイヴはそもそもハイヴの構成要件を満たしておらず、普通に考えれば活動が不可能な筈だ。それでも活動していたということは、恐らく並行世界をまたいでエネルギーやBETAを送る技術が確立されていることになる。

 

 このように他とは随分異なるこの世界の環境で楔の塔が正常に動作しない問題に対処するため、アイリスディーナ達は自前の通信機で匠衆(マイスターズ)本部の夕呼に連絡を取ろうとしたが、案の定まだ通信を確立出来なかった。そこで、同じ因果律量子論のプロフェッショナルであるこちらの夕呼達に相談してみることにした。

 

夕呼専務≪いきなり従業員を乗っ取るのはやめてほしかったけれど、まあ援軍は助かったわ。でも状況は一層ややこしいことになってるわね……。余所では今日になって並行世界進出を始めたという状況から見るに、こちらの一連の並行世界におけるBETAの並行世界進出は()()()()()()()()()()()()()()()()()と言えるわね≫

 

夕呼司令「実験サンプルにされる方はたまったものじゃないけど、概ね同意する所だわ」

 

 BETAの実験などという聞き捨てならない言葉がさらっと出てきたが、まだ転送やエネルギー供給の技術が安定していなかったからハイヴの設置から9年も活動を開始出来なかったと仮定すると、なるほど一応の辻褄が合う。

 

アイリスディーナ「それで、解放出来ない原因については分かりそうですか?」

 

夕呼専務≪楔の塔はよく分からないけど、ここだけで他との断絶を解決出来ない原因はまあ分かるわよ。並行世界群()()()()()()でその外側に防壁を構成している所為でしょうね。対象とするこの並行世界群の中では相互のやりとりが必要、その一方で無関係の世界からの影響は排除したい、ということね。実験の基本よ≫

 

夕呼司令「つまりここと()()()()()()()()イモータルズの世界でもハイヴを制圧して楔の塔を建ててみればいいわ。それで駄目なら残りの並行世界でも同様のことをやってみなさいな」

 

 因果が絡まっているというのはどういうことかというと、エクストラ世界とオルタネイティヴ世界の例がわかりやすい。この例では、因果導体の武がオルタネイティヴ世界でループを起こすたびにエクストラ世界の方も一緒にループに巻き込まれることで、双方の世界で常に日時が一致するようになっていた。それを因果の絡まりと表現している。

 つまり第1の世界がエクストラ世界、暫定第4の世界がオルタネイティヴ世界のポジションに相当する。

 仮に第2と第4が同じだとすると、オルタネイティヴ世界を概ね征服し終わったBETAがエクストラ世界への侵攻を始めたような状態ということになる。

 イモータルズがG弾で飛ばされた先が暫定第4の世界だったのも、因果が絡まっていて相互干渉が発生しやすい世界だったからということで説明がつく。

 

アイリスディーナ「なるほど、ご教示いただきありがとうございます」

 

 まあ関連並行世界を全部制圧すればヨシというのはアイリスディーナ達も何となく考えていた解決法ではあるが、専門家二人のお墨付きがもらえたことは幸いだ。

 交換を試す余地があったことからも分かるが、アイリスディーナ達は念のため楔の塔を割と大量に持ち込んでいるため、複数の世界に設置することに問題は無い。

 留意すべきはやはりハイヴをグレートブラスターで焼き尽くしてしまわずに一旦確保して時空観測し、何処と繋がっているかを確認する必要があるということだ。




 武が戦死しているのに世界が巻き戻っていないのは何故か、についてはディメンションズの作中で触れられていないのですが、本作において推測するだけで事情を知っている本人に聞かないのは不自然なので勝手に独自の回答を出しました。
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