【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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 4日連続でプラス評価をいただくという前代未聞の状態になっております。評価詳細も含めてありがとうございます!
 今回も第3の世界の夕呼先生が苦労して人類を引っ張っていくお話です。


319. 香月 夕呼と不死の英雄達(イモータルズ)の在る限り、我らが地球(ほし)に負けは無し

 この第3の世界の現在は2023年。桜花作戦(オペレーション・チェリーブロッサム)から21年が経過しており、地球人類はまだ持ちこたえていた。それどころか残った各国へのハイヴ建設を完璧に防いでいた。

 バビロン災害により地球の人類文明が半ば壊滅したにもかかわらずこれを達成出来たのは、急速な技術の発展により人類の生産力と軍事力が回復したからだ。

 

 まずBETAの落着ユニットを寄せ付けないSHADOWが何とか維持出来ていたのは幸いだった。これが出来ていないと次から次へとおかわりがやってくるので話にならない。更に第4世代戦術機の完成と数の不足を補うための自律稼働戦術機、そしてクローン衛士の導入により、防衛線の安定化が可能になった。無論クローン衛士は第1の世界の夕呼からもたらされた技術によるものだ。

 クローン運用について、この世界の人間には忌避感が薄かった。一度滅びかけた世界で今更生命倫理がどうのこうのと贅沢を言っていられないし、人々の盾となることを志す衛士当人にとっても望む限り戦い続けられるのは好都合でしかなかったからだ。ならば当人のやる気さえあれば言うべきことは無い。そこに地球の救いの女神である夕呼の発案という信用が後押ししたことで、各国のクローン衛士導入は速やかに進められた。

 

 クローン衛士は出撃前にバックアップした記憶を引き継いだ形の復活が可能なので、死なない上に経験を持ち越せるということで、導入以前よりも遙かに状況が好転した。また、当然負傷した衛士も同様に復帰させることが出来ていた。リタイアが無くなったことで、この世界の衛士達の技量は日増しに向上していた。

 ただしこの世界のクローン衛士はこの世界で生きている衛士を元に作っているので、イモータルズのように昔に戦死した衛士をわざわざ起用したりはしていない。匠衆(マイスターズ)の魔導衛士がこの世界に直接憑依(ポゼッション)出来なかったのはそのためだ。

 第1の世界の夕呼と同様のアカシックレコードを辿るがごとき手法を採用すれば実はバックアップ体制の構築前に死んでしまった衛士を復活させることも可能なのだが、その衛士達を自分の命令で死なせてしまったこちらの夕呼は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のが嫌なのでそれを採用しなかった。死んでいった彼女達もそれを命じた夕呼も、皆相応の覚悟を以てそうしたのだから今更それを曲げることは出来ない。

 戦力的には生き残っている衛士のバックアップを取って次からクローンで復活させても問題は無いので、夕呼は結局既に戦死している衛士の復活を避けた。

 夕呼の自罰的な所は、様々なものを喪ったことで益々悪化していた。しかし夕呼の本質を理解していない周囲の人々は、次々に実績を出しているのに吃驚する程謙虚だと益々尊敬の念を強めていた。

 

 夕呼のメンタルは常人よりは遙かに強い。強いが、傷つかないわけではない。実際アンリミテッドルートの夕呼はオルタネイティヴ4が凍結されたあと飲んだくれて姿を消している。

 そのアンリミテッドルートの夕呼と第3、暫定第4の世界の夕呼の様子は大分違うが、これは前者が何の成果も出せないままの研究打ち切りだったのに対し、後者は多大な犠牲と引き換えに成果を出してしまったことに起因する。

 特にこの第3の世界の夕呼は親友と理解者を立て続けに喪った引き換えに桜花作戦(オペレーション・チェリーブロッサム)を辛うじて成功させ、そこをオルタネイティヴ5のトライデント作戦(オペレーション・トライデント)に滅茶苦茶にされたことで、別方向に壊れていた。具体的にはブレーキが壊れていた。絶対に他人任せにするわけにはいかない、死なせてしまった者達に報いるためにも、残った自分が何をしてでも、悪魔に魂を売ってでも絶対に地球人類を勝たせなければならない、大丈夫、此処まで来た以上は走り続ければ勝てる筈だ、という確信、或いは妄執で動いていた。地球丸ごと何もかもを背負い込んでしまったのだ。出来る自分がやらなければならないという責任感が暴走しているとも言えた。

 それでいて天才の名にふさわしい成果をどんどん出すので、夕呼が壊れていることに誰も気付いていなかった。しかも夕呼の所業を全面的に肯定してしまうイエスマンが増えていた。

 

 この頃、伊隅戦乙女隊(いすみヴァルキリーズ)の生き残りである宗像 美冴、風間 祷子、涼宮 茜、臼杵 咲良、加えて横浜基地防衛戦以前から重傷で入院していた面々は突然高度に発展した再生医療によって万全の体調で戦線復帰が叶っていた。

 彼女達は夕呼の性格を熟知していたわけではないが、その鬼気迫る様子を同じ『遺志を受け継ぐ者』としてのものだと理解した。散っていった伊隅戦乙女隊(いすみヴァルキリーズ)の皆の遺志を受け継いでどこまででも戦う覚悟があるという意味では彼女達も夕呼と大差無かったのだ。つまり彼女達は夕呼をある程度理解してはいたが、ブレーキ役には根本的に向いていなかった。むしろ一緒にアクセルを踏んで地獄の底までついていくくらいの勢いであった。

 地球の女神と戦乙女(ヴァルキリー)達は、その華やかな見た目や成果と裏腹に、自ら地獄へと全力疾走していたのだ。まあ恭順派や彩峰一派のように他人を巻き込まないので、当人達以外に実害は無いのだが。

 

 さて、Type-05『黒潮』から始まる第4世代戦術機の最大の特徴は、ムアコック・レヒテ機関の搭載だ。つまりXG-70凄乃皇(すさのお)を戦術機サイズまで小型化したものであり、新開発の携行型荷電粒子砲による絶大な攻撃力とラザフォード(フィールド)による強固な防御力が売りとなっていた。

 夕呼とHI-MAERF(ハイマーフ)計画関係者は、共同で作り出した凄乃皇(すさのお)が叩き出した決定的な戦果とそれを台無しにしてくれたオルタネイティヴ5への敵愾心から同じ目的意識を持って良好な関係が続いており、研究開発において強力なパートナーとなっていた。

 

 ただし第4世代戦術機には運用上の問題が3つほどあった。

 

 1つ目の問題はサイズで、小型化したとは言えムアコック・レヒテ機関はまだまだかさばるので、搭載のためにかなり大型のバックパックが必要になった。そのため重量バランスが悪く、格闘戦には向いていなかった。

 バックパックは一応着脱可能だが、バックパックの無い状態では荷電粒子砲もラザフォード(フィールド)も使えないので、第3世代戦術機と大差の無い性能だった。

 この問題を解決するにはムアコック・レヒテ機関の改善にまだ年単位の時間が掛かるので、夕呼達は多少不便ではあるが使い物にはなるという段階で一旦成果として出すことにしたわけだ。

 

 2つ目の問題はラザフォード(フィールド)の安定性で、この世代の戦術機ではまだ00ユニットを乗せないと安定させられないので、有人機は必ず複座型になっていた。そのため調達コストが高かった。また、凄乃皇(すさのお)ほど大型の機関と大量のG11を搭載する余裕がないので、出力が低く稼働時間も短かった。

 コストの問題は1機の有人機に複数の無人機をつけることでどうにか現実的な水準に収まった。また、いざというときに無人機を盾に出来るので衛士と00ユニットの損耗も抑えられた。そうなると次は00ユニットをどうやって量産するかだ。

 00ユニットの素体にはやはりより良い運命を引き寄せる力が強い伊隅戦乙女隊(いすみヴァルキリーズ)の生き残りが選ばれた。彼女達には衛士だけでなく00ユニットとしての役割が課されることとなり、量産の都合上同一人格が同時に複数存在することになったが、彼女達は覚悟を以てそれを受け入れた。人間から00ユニットに生まれ変わるしかなかった純夏に比べれば恵まれているとすら思っていた。

 そして00ユニットに不可欠なODLをどうするかという問題が実は最も解決に時間が掛かった。2002年初めの桜花作戦(オペレーション・チェリーブロッサム)実施時点では頭脳(ブレイン)級から採取するしか調達手段が無く、横浜基地の頭脳(ブレイン)級は防衛戦の際に破壊してしまったからだ。

 これについては、幸いにしてこの世界の夕呼の研究内容と新たに仕入れた高度医療技術を合わせることでODLの代替素材が製造可能になった。むしろ研究が進む程にBETA由来のODLよりも劣化しにくいものが製造出来るようになっていた。

 

 3つ目の問題は稼働のために必要になるG元素をどこから調達するかだ。これは最終的には、人類の生存地域から離れた所のハイヴを敢えて残して物資打ち上げ直前の時期を見計らってG元素を強奪し、反応炉を制圧せずに帰ってくることで何とかした。つまりは養蜂のようなものだ。

 しかしこれは最初の1回が問題だった。横浜基地が蓄えていたG11は全て桜花作戦(オペレーション・チェリーブロッサム)につぎ込んでしまった。失敗すればあとが無い状況での地球の総戦力をつぎ込んだ作戦だったので節約の余地は無かったし、実際惜しまずつぎ込んでやっとあ号標的と相討ちだったのだからその判断は正しかったと言える。

 そしてG元素無しの黒潮や第3世代までの戦術機でアトリエ攻略をさせるのは()()()()()()

 そう、不可能に近いが全くの不可能ではなかった。

 

 エース級の衛士1個大隊に武御雷(たけみかづち)クラスの戦術機を与え、更に無人機を加えて1個戦術機連隊を編成すれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()G元素の回収が可能と夕呼は判断した。

 

 武御雷(たけみかづち)クラスとは言っても武御雷(たけみかづち)そのものはバビロン災害前でも年産たった30機という致命的な生産性の問題がある上に斯衛がなかなか手放そうとしないので、実際にはバックパック無しの黒潮を使う事になった。こちらも普通の第3世代戦術機、例えば不知火あたりよりはコストが嵩んだが、それでも武御雷(たけみかづち)よりは大分マシだった。

 斯衛としては喀什(カシュガル)攻略に大きく寄与したという実績から武御雷(たけみかづち)を高く売りつけようとして勿体ぶっていたようだが、そんなことは夕呼も最初から分かっていたので、物別れに終わらせることで逆にこの期に及んで非協力的な斯衛と城内省というイメージを塗り重ねてやった。まあ殆ど連中の自爆であった。

 そしてバックパック無しの黒潮は第3世代戦術機と()()()()性能、つまりその状態でも第3世代機の武御雷(たけみかづち)よりは総合力で若干上なのだ。

 

 G元素の初回回収作戦に挑むエース級の衛士には伊隅戦乙女隊(いすみヴァルキリーズ)も当然含まれていた。

 伊隅戦乙女隊(いすみヴァルキリーズ)は元はオルタネイティヴ4直属の秘密部隊だったが、実力があって覚悟も決まっている戦力をこの重要な作戦に投入しない選択肢は無く、直属部隊として当然のように駆り出された。夕呼の立場も秘密計画の総責任者に過ぎなかった以前のものとはがらりと変わっているので、もはや隠すよりも表に出した方が運用しやすいという判断で、伊隅戦乙女隊(いすみヴァルキリーズ)はこれを機に表に出ることになった。そして夕呼の直属戦力は全てこの伊隅戦乙女隊(いすみヴァルキリーズ)に組み込まれた。

 夕呼は以前より更に他人を信用しなくなっていたが、まりもの教え子であり自分と同じ覚悟を持っている伊隅戦乙女隊(いすみヴァルキリーズ)の生き残りは信用していたために、彼女達に統率させる形の編成になったわけだ。

 この再編成時の隊長は宗像 美冴大尉であるが、伊隅隊長時代からの生き残りの総意により初代隊長である伊隅 みちるの名前をそのまま継いでいくことが決まった。

 伊隅 みちるの妹であり帝国陸軍で衛士をやっていた伊隅 あきらは、この伊隅戦乙女隊(いすみヴァルキリーズ)の名前が表に出た時に初めて姉の本当の死因、そして佐渡島という同じ戦場にいたことを知った。それまでは秘密部隊の活動内容秘匿のために事故死とされていたのだ。

 

 このG元素回収作戦は、エース部隊の半数以上の犠牲を前提としているのだから、普通に考えるとかなり無茶な作戦だ。犠牲を抑えることを重視するならば、先行量産型黒潮を元々G元素を持っている米国に供与して突入攻略を任せるという選択肢もあり得るが、その米国もトライデント作戦(オペレーション・トライデント)で無駄に大量のG11を使ってしまったので在庫は心許なかった。

 つまり夕呼がクローン技術による衛士の復活体制構築を推し進めたのは、この犠牲を前提とした最初のG元素回収作戦の遂行を見込んだものだった。

 

 結果として、夕呼が送り出した選抜大隊は見事に任務を達成した。生き残ったのは2割に過ぎなかった。

 しかしこの作戦に参加させた衛士達を夕呼がしっかり全員復活させた上で最も困難な作戦を成功させた英雄として公表したことで衛士達の社会的地位は大きく向上し、わだかまりは殆ど残らなかった。むしろ命懸けの作戦の功績が大々的に評価されたことで衛士達は気を良くしたくらいだ。そこまで含めて夕呼の想定通りだ。

 

 そして次回以降は簡単だ。獲得したG元素で第4世代戦術機を稼働させ、アトリエ攻略任務を与えれば、ラザフォード(フィールド)で身を守りながら荷電粒子砲でBETAをなぎ払えるのでまず確実に任務を果たして帰ってきた。何だかG弾の運用ドクトリンに近いものがあるが、実際このサイクルが一番効率が良いし、G弾と違ってこちらは重力汚染をしないので問題は無い。

 

 まるでダンジョンに冒険者が突入して素材を持ち帰るかのごとく当たり前にG元素が手に入るようになったことで、余剰のG元素は民間向けの発電にも利用されるようになり、人類社会は大きく潤った。ほぼ壊滅状態だった娯楽にすらリソースを割く余裕が出てきたくらいだ。取り残された棄民のごとき存在だった地球人達が、僅か数年で繁栄の時代を迎えたのだ。

 夕呼に対する信頼は益々盤石となり、「香月 夕呼と不死の英雄達(イモータルズ)の在る限り、我らが地球(ほし)に負けは無し」と街角でも謳われる程であった。

 そう、ここでもクローン衛士達はイモータルズと呼ばれていたのだ。しかし人々が危機を正しく認識しているかどうかでその扱いは雲泥の差であった。第1の世界のイモータルズのクローン衛士も殆どが善良なので、自分達が讃えられるために世界を苦境に追い込みたいとは思っていないのが何とも難しい所だ。

 なおイモータルズ所属衛士で善良かどうか疑わしい例としてはサンダークやベアトリクス、リィズがいる。




 正史で判明している第4世代戦術機はXF-2000aテュフォーンやMe101Pフェンリルですが、夕呼先生は凄乃皇のように案外日本名を付けたがるので、こちらでは陽炎型駆逐艦の3番艦から黒潮になりました。
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