おねだり戦術であっさりと自らの拠点へのポータル設置を決定したトピアは、苦労して作ったという希少素材の量産施設を見学させてもらうことになった。スコアとしても意中の相手に自分の努力が認められたようで悪い気分はしない。
住居区画の南内門を出てまっすぐ南に続く道の左右にサンゴの壁で囲った施設がある。スコアはその西側の施設の壁につるはしで豪快に穴を開けて中を見せながら説明を始めた。
スコア「まずこちらの西側の施設がスライム牧場だ。構造としてはスライムがポップする『スライムの地面』を敷き詰めて、その上に北向きのベルトコンベアを設置している。これで地面から生まれたスライムやレッドスライムが北側に流される。流されたスライムを北端のスパイクトラップが刺し貫くことでスライムが死ぬ。その際に出るアイテムをロボットアームが回収して外側のコンベアに乗せ、それがこの北側の出口から出てコンベア終端のロボットアームで宝箱に収納されるわけだ」
トピア「なるほど、こちらでは交配所と水没もしくは大鍋ではなく、MOBが発生する床とスパイクトラップを活用しているわけですね」
ラリー「モンスターが発生する地面を使うって意味じゃあ俺の所のドロップ回収施設に近いな」
サティ≪魔法文明側ってみんな似たようなことしてるのねえ≫
モンスターの発生からドロップ回収までの自動化ノウハウで盛り上がる三人の様子に、サティがしみじみと呟く。
ファンタジーと言えばもう少し属人的で自動化が普及していないイメージがあるのだが、この三人の文明圏に関してはそうでもないようだ。
スコア「いや私の遭難前の世界は普通の科学文明だぞ?」
サティ≪その割には吃驚するくらい馴染んでるわね≫
トピア「人間は順応するものですよ」
そういう意味でもトピアとスコアは似ているところがあった。つまり元々科学文明圏出身なので自動化に理解があるとも言えるのだが、ラリーはそれとは無関係に自動化をやっているので、全ての魔法文明圏と自動化に共通した因果関係があるわけでもなかった。
スライム牧場に関する感想が出揃ったところで西側の壁を塞いで東側の解説だが、スコアはこちらに関しては壁を破壊せずに説明を始めた。
スコア「東側はケイヴリング牧場なのだが、すまないがこちらの壁は開けられない。何故なら人間の姿を見た途端に暴れ出して中の施設を壊されるのでな」
トピア「ああ、そこまでして貰わなくて大丈夫ですよ」
興味はあるものの流石に見学で施設を壊してしまうのは不味いとトピアは遠慮した。しかしここでサティが代替案を出した。
サティ≪トピア、あなた撮影ドローン持ってなかった?≫
トピア「あ、そういえばありました! ドローンを飛ばして中に入れてもいいですか?」
スコア「なるほどその手があったか。ふむ、ドローンならば問題ないだろう。なるべく音を立てないように頼む」
トピアがドローンコントローラーを操作してドローンを飛ばすと、ドローンのカメラが捉えた映像がトピアの目の前に空中投影された。ドローンとコントローラーは普通の工業製品っぽいのだが、あと一歩科学になりきれない代物であった。
スコア「こちらは普通のケイヴリング、ケイヴリングシャーマン、ケイヴリングブルートが湧く石ゴケというものを敷き詰めているのだが、その上にはコンベアではなく直接スパイクトラップを敷き詰めている。どういうことかというと、スパイクトラップをコンベアの端だけに敷き詰めてもモンスター自身もコンベアに抵抗して移動するため連続でダメージが入らず、スライムほど弱くない連中相手ではDPSが回復量に追いつかないのだ。だからトラップを敷き詰めてどちらに移動してもダメージが入るようにしているわけだな」
確かにスライム牧場と違ってポップエリアにコンベアが設置されておらず、全てがトラップ床になっている。しかしそれ以上に目立っているのが、それぞれのトラップ床に専属で設置された大量のロボットアーム群だ。
スコア「そして仕留めたモンスターのドロップを同じように堀越しにロボットアームでコンベアへと回収するわけだが、スパイクトラップ1つにつき1つのロボットアームを配置し、それを西側・東側に対称に並べると、赤い色からしても丁度鳥居のようになる。そのロボットアームのペアを北から南に向けて68対並べたものが8並列あるから、アームの総数は出口を含めて68×2×8+1で1,089本になる。故に私はこれを千本鳥居型と呼んでいる。」
トピア「なるほど、これは確かに千本鳥居です」
赤い鳥居のようなロボットアームのペアが立ち並ぶ光景を見たトピアはそのネーミングに同意して深く頷いた。鳥居は日本の神道由来の物なので、実はトピア以外には伝わっていない。スコアは日本語を自力でほぼマスターしているだけあって日本文化にも理解があるのだとトピアは察した。
ラリー「色々考えてんだなあ」
サティ≪確かに合理的ではあるわよね≫
スコア「うむ、これを作るのは苦労したぞ。作っている途中でブルートが暴れて壊されたこともあったからな」
確かに合理的によく練られた作りの施設ではあったが、そこで繰り広げられている光景はと言うと床から飛び出す棘に貫かれてモンスターが死に絶えていくところなので、折角の千本鳥居の雰囲気が台無しであった。
スコア「さて、残る施設は2つだが、北東側のキノコ人間牧場はスライムと大して変わらないので飛ばそう。となると残るのは南東側、ここからすると東隣だね。ここで一番大規模な施設だ。面積で言えばこの8並列千本鳥居の倍ほどあるぞ。こっちだ……ああ、少し注意してくれ」
ドローンを回収して千本鳥居の北側の通路を通り、行く手にある壁にさしかかると急に多数のモンスターが湧いてきた。
スコアは肩にかけていた弓を構え、手慣れた様子でそれらを始末した。
スコア「中のモンスターがある程度以上密集状態になるとな、ポップ地点が外にはみ出すことがあるんだ。まあいつものことさ」
トピア「その弓矢カッコイイですね! 何て言うんですか?」
スコア「かッ……!? んん、分かるかね? これはファントムスパーク。1秒に1.4回のペースで光の矢を無限に撃ち出せる魔法の弓さ。耐久値に限界が無いので重宝している。敵を倒したときに2割の確率でゴーストケイヴリングを召喚する効果もある」
唐突に自慢の武器を褒められたスコアは、やや顔を赤らめて説明しながらつるはしに持ち替え、また豪快に壁に穴を開けた。
スコア「こちらは蠱毒型と呼んでいる牧場だ。施設を壊すような奴はいないが、攻撃が飛んでくることがあるから気をつけてくれ」
サティ≪物騒な名前ね?≫
トピア「ああ、でもこれは確かに蠱毒ですね」
ラリー「なるほどなあ」
トピア達が目撃したのは、中で生まれたモンスター達がコンベアで北側に流されながら骨肉の争いをしているところであった。
スコア「実はモンスター達にも派閥があってね。大まかにスライム派閥、ケイヴリング派閥、幼虫派閥、カビ派閥がある。それで、こいつら同士が遭遇すると、こうして殺し合うわけだ」
ラリー「それで死体から得られるものはコンベアとアームで宝箱に回収するって訳か。えげつねえな」
スコア「生きるための知恵と言ってくれ。何しろこっちは一人しかいなかったんだぞ」
ラリー「うん、そうだな?」
生きるためにたった一人で作り上げたのがこの一大拠点である。軌道に乗せるまでの苦労が偲ばれる。
なおラリーの「えげつねえ」は同じくドロップ回収施設を運用する
サティ≪まあ畜産の方法に文句を言っても仕方ないわ。殺し合いを強制しているわけでも無駄に痛めつけてるわけでもないようだし≫
トピア「そうですね」
畜産の恩恵にあずかろうというのにやり方が残酷だと文句をつけるのは筋が通らないということくらいはサティも分かっている。ただビジュアルが予想外だから面食らっているだけで。
スコア「ご理解を戴けて何よりだ。あとこの蠱毒型はコンベアの終端付近に一つの勢力が固まるとランチェスターの法則でそいつらだけずっと生き残ってしまう難点があってね。そうなるとそいつらのドロップアイテムが得られないから、たまに手作業で戦力バランスを調整する必要がある。こんな感じでね」
やはり手慣れた感じで光の矢をつがえ、末端付近に固まっているモンスター勢力を適度に減らしていく。
哀れモンスター達はドロップアイテムに変化し、ロボットアームで回収されていった。
ただこのロボットアームのところが少々おかしい。
サティ≪あの壁の所、なんかおかしくない?≫
スコア「気付いたか。どういうわけだかドロップアイテムはコンベアで壁の中まで運べるし、壁の中にめり込んだアイテムを反対側のアームで回収することも出来るんだ。私も初めて見たときは驚いたが、有用なので活用している」
サティ≪たくましいわね……それはさておき、これでポータルの材料は問題ないのね?≫
スコア「そうだね。手に入りにくい機械の部品と古代の宝石はこの牧場で量産できるし、サンゴは理論上無限に量産する施設が出来ている。……在庫がありすぎて今は止めているが。あとは銅のインゴット、鉄のインゴット、オクタリンのインゴットが100ずつ必要だが、大鉱石塊一つあたり通常の鉱石1,800個相当が手に入るから、適宜探せば問題は無い」
トピア「ん、ここの採掘法は有限方式なんですね?」
スコア「有限? 何だ、まさか無限に採掘する方法があるとでも言うのかい?」
トピア「そのまさかです。サティ姐さんのところの採鉱機が半永久的に採掘出来るそうで」
スコア「科学文明じゃなかったのか!?」
半ば冗談のつもりだったのだが、常識人のような立ち位置でツッコミを担当していたサティの出身文明も大概おかしな技術水準であることにスコアは仰天した。
トピア「ただの科学ではありません、超科学なのです!」
スコア「つまりはクラークの第三法則か……やはり高度に発展した科学も凄まじいものだな」
例の高度に発展した科学は魔法と見分けが付かないというやつである。そしてこの言葉から、どうやらスコアの出身世界も自身の出身世界と似たような歴史を辿っているとトピアやサティは察した。
サティ≪何でトピアが胸を張ってるのかしら? それはともかくとして、資源採掘効率改善のためにも、電力を引き込んでFICSIT製の採鉱機をこちらに設置しましょうか?≫
スコア「それはあったらありがたいが……うん? ちょっと待て、ポータルを幾つ設置する気なんだ?」
スコアにはサティ達がポータルの量産を急かしているように聞こえた。ならば一体幾つ必要だというのか。スコアはとても嫌な予感がした。
実際のCore Keeperのゲーム上における鳥居型ケイヴリング牧場を撮影した物がこちらになります。
https://x.com/hibiki2s/status/1585234117981241344