今回からBETA本拠地世界攻略に入ります。
魔導衛士達が様々な並行世界を攻略した結果、スーパーロボット軍団の到来に限らず、このマブラヴ確率時空は思ったよりも他の世界からの干渉を受けていることが判明した。しかし幸いなことに、現地世界で活動している者達の大半は善良であった。
この世界に送り込まれた者達に善良な者が多いのは、
救済の人員を送り込んだ神に関しては、全ての信仰力を
また、地球の外に目を向けると、BETAが来ていない世界とBETAに滅ぼされた世界の融合により突如BETAに襲撃される羽目になった文明の救助も順調に進んでおり、
全体としては、魔導衛士達はそれぞれの担当世界を攻略して順調に防壁世界のロックを解除していた。
そういったところで、イモータルズ関連の並行世界群での詳細時空観測から得られた情報の解析が完了し、以下のような事実が判明した。
・第1の世界(イモータルズの世界):それぞれのハイヴが第3、第4の世界のどちらか或いは両方に接続
・第3の世界(香月研究所の世界):大半のハイヴが第1の世界に接続、マシュハドハイヴにBETA本拠地世界に接続していた痕跡あり
・第4の世界(横浜基地の世界):大半のハイヴが第1の世界に接続
つまり従来の定義における第2の世界というのは単独で存在せず、実際に第1の世界にハイヴとBETAを送りつけていたのは第3、第4の両方ということになる。
何故こうなったのかを調査してみると、第1の世界は元々第4の世界のエクストラポジションだったのだが、この世界の夕呼が悪い因果ばかりでなく良い因果も呼び込めないかとあれこれ試行錯誤した結果、第3の世界に対応するエクストラポジションの世界、仮にこれを第5とすると、この第5の世界を意図せず巻き込んで融合してしまったからというのが結論だった。これで第1の世界は第3、第4の世界両方のエクストラポジションに収まってしまった。
こうなると第3、第4の武はどちらも第1に影響を及ぼす立場である上に因果導体ループを抜けたあとに戦死しているので、因果の絡まりからの解放と再構成が二重かつ半端に作用して3つの並行世界が絡まったおかしな状態で固定されていた。
イモータルズ関連世界は世界が統合された形跡が無いというのが当初の見解であったが、詳しく調べてみると今回より遙か以前に第1と第5の世界が通常の論理和統合とはまた違った半ば再構成のような融合の仕方をしており、記憶が流入した自覚も殆ど無いようだった。
そして平和な世界から良い因果を呼び込んで相殺する試みはどうなったかと言えば、夕呼は単に失敗したと思っていたのだが、実は
どういうことかと言えば、巻き込んで融合した第5の世界も第3の世界から来た因果導体によって同様に死の因果が流入していたので却って死の因果が増量した上に、平和の因果も増量したがその所為で平和ボケが一層酷くなって逆に危機に対応しづらくなるという、踏んだり蹴ったりの結果を招いていたのだ。
つまり国防隊の怠慢や大空寺財閥によるイモータルズ買収騒ぎもある程度は自分の所為だったと知った夕呼専務は、自らのやらかしに頭を抱えた。そして夕呼司令はそれを嘲笑していた。
ところで
第4の世界の横浜基地地下の
どうしてそうなったのかと言えば、まずこの世界では
そして第3の世界のハイヴを全数調査した結果、H02マシュハドがBETA本拠地世界らしきところに繋がっていた痕跡があった。これにより、
そうして一旦第3の世界に
通信越しにその様子を
夕呼≪間もなく時間よ。準備はいいわね?≫
ステーク「……はい」
今回はステーク単独での突入だ。推定BETA本拠地世界には地球に人間が存在していないために他の人間では
厳密に言えば他の並行世界の武にも突入自体は可能だが、
夕呼≪イメージは大丈夫かしら? ぶれると露骨に成功率が下がるわよ≫
ステーク「大丈夫です。オレの頭の中は純夏で一杯です!」
少し前のステークは冥夜達の娘の認知問題で少々混乱していたが、出撃前にもう一度集中治療室の純夏の顔を見て手を握ってきたことで、覚悟とイメージは固まっていた。ステークの頭の中は、純夏との思い出、楽しい思い出も愛しい思い出も哀しい思い出も全てを詰め込んで一杯になっていた。
思い返せばあの頃は純夏が隣に居るのが当たり前だと思って相当な
一緒に買い物に出かければ純夏に荷物を全部持たせてみたり。
純夏をさりげなく誘導して飯を奢らせてみたり。
毎朝純夏に起こしてもらっておいて、遅刻ぎりぎりになるのは純夏が起こしに来るのが遅いからだと責任転嫁してみたり。
折角純夏が作ってきてくれた弁当の内容に子供っぽいとケチを付けてみたり。
些細な言い争いで純夏の頭をはたいては反撃で
………………。
ステーク「オアアアアアアアア!!」
具体的内容を思い出したステークは、あまりの酷さに思わず自分で自分を殴りつけた。
あの頃の武の行動を改めて列挙してみると、男女平等を通り越して屑男の所業以外の何物でもない。或いは好きな子をいじめるクソガキか、限度を知らない甘ったれか。
自分では身内限定の冗談のつもりだった筈だが、思い返してみるとあれでよく嫌われなかったものだ。というより、あれでも離れていかない純夏の好意にどうして気付かなかったのか。成績を盾に散々純夏を馬鹿呼ばわりしていたが、どう考えても馬鹿なのは自分の方だ。
そんなステークの奇行に夕呼が眉をひそめて再度問い質した。
夕呼≪……白銀? 本当に大丈夫なのよね?≫
ステーク「大丈夫です。純夏の優しさに甘えきっていた馬鹿な自分を戒めただけです」
夕呼≪……そう≫
夕呼は一応納得の言葉を吐いたが、表情は明らかに不安そうだ。他の面子の多くもどう見ても勝利を確信した顔ではない。
マイン≪普段通りの実力を発揮出来ればおよそ作戦を失敗する可能性は無いのだがな≫
ターニャ≪ですな≫
テクス≪それが発揮出来るかどうかの問題でござるなあ≫
トピア≪……どのみち他に任せられる人が居ません≫
トピアはマブラヴオルタネイティヴについては頭に入っているが、その前の日常編であるエクストラ、特に序盤については詳しくないので若干の困惑を見せていた。知っていれば初対面の時の好感度がもう少し下がっていただろう。
九十九≪まあなるようになるヨ。今は集中してもらおうじゃないか≫
一方九十九やタバサはエクストラ編も知っているので、白銀 武は元々こんなもんだろうという顔をしている。
そもそも本来のエクストラ世界というのは
・一文字 鷹觜が運転する全長60mのリムジンが明らかに曲がれない曲がり角を物理法則を無視して曲がる
・純夏が怒ってデンプシーロールの構えに入ると、どこからともなく
・純夏が怒りの拳をぶつければ武は空の星になるし、勿論次のシーンでは武は普通に帰ってきている
・夕呼が車で純夏をはねて星にしてしまっても、死ぬかと思ったの一言で純夏は特に怪我も無く帰ってくる。なので次からはよけなさいという夕呼の横暴がまかり通る
等々。これらを踏まえると、オルタネイティヴ世界から
つまり既にシリアス世界に居る期間の方が長い現在のステークとは価値観がかなり違うのだが、それはそれとしてステークは申し訳なさを感じていた。
ステーク(大切なものは失ってから分かるって言うが、本当にあの頃のオレは馬鹿だった。――いや、今でもきっと馬鹿は治ってない。それでも、それでもオレはお前を諦めない。絶対にだ……!)
ステークは改めて自身の覚悟を反芻した。何があっても純夏を助け出す。何万周も繰り返して漸くここに来た。何万周も繰り返して一度として救えなかった純夏を今度こそ救うのだ。今更、こんなところで諦めてたまるものか。分からず屋だと笑わば笑え。
純夏が毎日日記を読み返して因果導体の記憶流出に抗っていたのも、意図せず因果導体の原因となったことに気付いて苦悩し自ら決着を付けることを決意していたのも、武は手遅れになってからしか気付いてやれなかった。そんな自分の馬鹿さ加減をこれまでどれだけ罵ってきたことか。だがもうそんなことは沢山だ。今度こそ手遅れになどさせない。
その意思は救うべき人を救えなかった後悔の塊であるステークの特性とも一致して執着や執念とも言える形になっていた。
だが、それが執着や執念だったとしても、
ステーク(純夏。今、オレが行く。あと少しだけ待っていてくれ)
その強い想いに応じてか、ステークが搭乗した轟雷の周囲には並行世界転移の前兆であるパラポジトロニウム光がうっすらと出始めており、徐々に眩しさを増していた。
不安そうな顔をしていた夕呼も客観的観測結果から準備が整ったと判断し、オペレーターのイリーナ・ピアティフに出発のカウントダウンを始めさせた。
ピアティフ≪時空間、突入最適状態まであと10、9、8――≫
夕呼≪――しっかりやんなさいよ、白銀 武!≫
ステーク「――はいッ!!」
返事と共に強烈な閃光がステーク機を包み、皆の前からその姿を消した。
それは、語られなかった他なる結末。とてもちいさな、とてもおおきな、とてもたいせつな、あいとゆうきのおとぎばなし。
それは悔やみきれない後悔から時間を超えて、銀河を超えて、あらゆる世界を巻き込んでまで、取りこぼしてきた大切なものを追い求めてきた分からず屋の物語。
おとぎばなしの結末は、近い。