【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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338. いや、本当に頼りになるなうちの参謀部は

ステーク「――ッ!」

 

 ステークの意識が息苦しさと共に覚醒し、全身が浮遊感を捉えた。

 瞼を上げると見えるのは星空。時間は夜間らしい。見上げていないのに空が見えるということはつまりいつものように体は仰向けで、いつもと違って屋根が無いということだ。

 ステークは地面に向けて落下を始めていた。白銀家の建物が撤去されており、ベッドも存在しないせいだ。

 そして息苦しさの原因はといえば、()()()()ではあるが、この数千年で動植物が完全に壊滅しているため、既に人間が呼吸出来るような大気組成ではなくなっていたことだ。恐らく人体に有害な成分もかなり混ざっている。

 早速酸素生成術式その他を起動しようとすると、夜の闇を切り裂くようにステークの背面に光が集中した。サーチライトかな、などと振り返って確認するまでもない。レーザーの予備照射だ。

 

 ステークは術式で瞬時に周辺の地形をスキャンした。地表はほぼ真っ平らで、その上にBETAがすし詰めになっている。待ち伏せだろうか。

 ステークはユニークスキル『雷迅震撃』を起動して地面へ急降下、まずは直下の強化型光線(レーザー)級を踏み潰し、そこから地表伝いにルート上のBETAを貫通して手近な(ゲート)へと飛び込んだ。光線(レーザー)級から一旦遮蔽を取るためだ。この近辺なら横浜ハイヴになるだろう。

 雷迅震撃とは、雷速機動では折角魔法で稲妻と化しているのにこれを攻撃に使わないのは勿体ないのではないかという発想で作られた発展スキルだ。しかしそもそも稲妻と化しているのにその電力をそのまま放出すると自分の体が消費されて欠けてしまう。なので結局追加で攻撃のためのマナを消費することになる。

 その原理上、あまり燃費が良くないのだが、今回は雷速機動で抜けるべき隙間が無かったので雷迅震撃で無理矢理貫通したのだ。恐らくこの密集ぶりが雷速機動封じだったのだろうが、倒すことではなく通ることが目的ならば燃費の悪い雷迅震撃でも貫通時に散る電力を補充するだけなのでそこまで大量のマナは必要ない。

 

 しかしこれも読まれていたのか、ハイヴ内でも即座に四方八方天井からBETAが押し寄せて対処を強いられた。

 仕方なくステークはまず魔導演算宝珠Mk.4を取り出すと、酸素生成術式と解毒術式、抗睡眠術式、各種強化術式を並列起動して呼吸を確保。同時に両腕をまっすぐ開いて独楽のように軸回転、そのまま両方の掌から光学術式の魔導ビームを発射した。つまりは柏木 晴子も使っていた『北斗有情ローリングバスターライフル』だ。この術式は視線が通る範囲かつそこに味方がいない場合という条件下では、ターニャが使うような光の輪っかから無数のロックオン魔導ビームを発射する方式よりも遙かに簡単で使い勝手が良かった。

 押し寄せるBETAの中から突出してくるものがあった。強化型の一輪車(アインラッド)級や連結輪翼(ドッゴーラ)級だ。魔導ビームならば反射されることはないが、やはり高速回転で損傷部位を散らしている分だけ他の種より撃破に時間が掛かっていた。そしてその時間差を利用して少しずつ戦線を前へと進めに掛かっているのだ。これに対応する為、ステークは魔導ビームを左右の掌から発射するのをやめ、指それぞれから発射する方式に切り替えた。DPSは単純に5倍だ。術式制御が面倒で燃費も悪いが、この時にはこれが最適だった。

 ステークは床から天井まで一通り周囲のBETAを殲滅して手早く最低限のスペースを確保すると、更に押し寄せるBETA群を見据えながら左拳を腰に、右掌を上に向けてキーワードを唱えた。

 

ステーク「蒸着ッ!!」

 

 直後、ステークは衛士強化装備を纏って迅雷四型のシートに座っていた。

 蒸着装置では乗り換え以外にも何も乗ってない状態から機体に乗ることも可能だ。ただし周囲に十分なスペースがあることが最低条件だ。また、レーザーなどの攻撃を受けている最中に実行すると機体内部にダメージを受ける場合があるので推奨されない。

 阿頼耶識改を接続して迅雷との人機一体を済ませたステークは、最寄りの広場(ホール)へ進撃し、多数の攻性デコイを展開して制圧。制圧を終えると半数を直衛にして轟雷を召喚した。

 

ステーク「千却万雷(コール・グレーター・サンダー)ッ!!」

 

 千却万雷(コール・グレーター・サンダー)プログラムが実行され、ステークの視界の端にある拡張装備(オプション)一覧で『(とどろき)』のステータスが『承認』から『接続実行中』に切り替わった。

 これに伴い兵装担架のインベントリが起動して足元に空間接続ゲートが開き、腕組みした大魔導鎧・轟がせり上がってきた。

 幸いというか、この再建されたらしい横浜ハイヴは大幅に成長しており、広場(ホール)の天井までの高さが轟雷の全高を軽く超えていた。

 案の定偽装横坑(スリーパー・ドリフト)偽装縦坑(スリーパー・シャフト)から新たに強化型BETAが湧いて合体を阻止しようとするが、既にそのあたりの空洞はスキャンして出口に攻性デコイを配置してあるため、魔導ビームで問題無く片付けていった。

 轟雷への合体中が無防備というのは迅雷の本体を操作出来ないという話であって、予め攻性デコイを出して護衛に付けておけば問題無く対処出来るのだ。

 

 などと思った矢先に頭上の岩盤が赤熱し、次いで横浜ハイヴが()()した。

 

 

 

 横浜ハイヴの上空、衛星軌道上には12体の大型BETAが集結していた。その全長は20km。GAMMAの主力をほぼそのまま再現した戦艦(バトルシップ)級だ。

 この世界のBETAは匠衆(マイスターズ)の戦力情報を得ていたため、迎撃の為に多数の対策を立てていた。

 魔導衛士の脅威を考慮すると、まず生身の状態で仕留めるのが最善だ。意図したものではないが、現在のこの世界の地球は呼吸が出来るような環境ではないので、呼吸封じでまず一手先んじることが出来る。更にステークの出現を観測する前から惑星表面全域に恒常的に睡眠デバフをかけ、覚醒を阻害していた。そして雷速機動でも地表を通れないように肉の壁で逃げ道を塞ぎ、行動阻害で稼いだ僅かな時間で多数の強化型光線(レーザー)級で蒸発させようとしたが、雷迅震撃という新スキルによりこれに失敗した。

 更に退避先の(ゲート)内部では連結輪翼(ドッゴーラ)級を含む全方位からの攻撃で迅雷への乗り込みを阻害しながら圧殺しようとしたが、思ったより瞬間火力が高かったのでこれにも失敗した。

 そうなれば次善は速度と防御力に若干の難がある迅雷の状態で仕留めることだ。だが轟雷に比べればまだマシとは言っても、熟練の魔導衛士が駆る迅雷四型を普通の強化型BETAで仕留められるかは甚だ怪しい。なので大量の資源をつぎ込んで複数の戦艦(バトルシップ)級を用意した。これを以て、轟雷への合体のために軌道上に上昇するならばそこを地上と上空からの集中砲火で挟み撃ちにし、ハイヴ内で合体を試みるならば合体中の動けないタイミングでハイヴごと焼き払うというプランだ。当然戦略上必要なフレンドリーファイアは解禁済みだ。

 上空から横浜ハイヴを蒸発させた戦艦(バトルシップ)級の集団は、横浜ハイヴ跡の様子を慎重に窺ったが、どうやらそこから迅雷や轟雷が飛び出してくる様子は無かった。しかしその集団は上からの不意討ちで瞬時に爆散することになった。

 

ステーク「いや、本当に頼りになるなうちの参謀部は」

 

 上空からの攻撃に対応するため、ステークは轟雷への合体が完了すると同時にワープを敢行していた。

 普段地上からワープしないのは超空間への空気の流失と超空間からの想定外の物質の逆流を懸念しているためで、既に呼吸出来るような空気が無いこの世界の地球で配慮すべき事ではない。また、戦艦(バトルシップ)級BETAはAWF(アンチワープフィールド)を展開していたため、ステークは一旦軌道上のBETA集結ポイントから大きく通り過ぎた所にワープアウトしてそこから時空勾配推進で引き返してきたので、撃破までに少しタイムラグがあった。

 

 ステークが感心した通り、ここまでの計略は全て参謀部が読んだ通りであった。正確に言えば、そこにマイン総軍大元帥と外部顧問のルルーシュとシュウを加えて討議した、「自分がBETA側ならどうやってステークを撃退するか」という多数のプランに含まれるものだった。そして、「これらの対策プランを予め頭に叩き込んだ()()()ステークが単独突入したならば、喀什(カシュガル)中枢への侵入を防ぐ手立てはおよそ無い」というのが彼らの結論であった。まあ出撃直前に過去のやらかしを思い出して少々取り乱していた為、万全の部分に疑問符がついて、本当に大丈夫かと疑問視されてしまったわけだが。

 

 喀什(カシュガル)にもAWF(アンチワープフィールド)を張ってあるようだが、別にワープで直接突入出来なくても轟雷にとって攻略は難しくはない。むしろハイヴの規模が大きい分だけ轟雷の図体でも通りやすくて便利なくらいだ。フェイズ6段階でも全高180mの凄乃皇(すさのお)四型が普通に通行出来たのだから、あれから数千年地下茎構造が拡大を続けたならば更に余裕だろう。

 ただ、突入後にハイヴごと攻撃されると00純夏の身が危ないので、予め軌道上の敵を掃討しておく必要があった。二重空間超越レーダーで観測出来る範囲内には軌道戦力はもういないようだ。

 それを確認した上で、ステークは轟雷を喀什(カシュガル)ハイヴ直上のAWF(アンチワープフィールド)範囲外へとワープさせた。

 

 BETA側の本拠地である喀什(カシュガル)ハイヴに今、決戦兵器轟雷という絶望的な暴力が迫る。

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