【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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340. いつまでもオレ達に人質なんてものが通じると思うなよ?

  並行世界侵略を開始したBETA側の首魁であるあ号標的、理想郷の建設者(サマサ・ヴォ・エベクライデ)の上位存在は、実際大いに焦っていた。

 

 発端は数千年前、かつてこの星固有の人間という名前の災害がたった一度だけ本拠地中枢に侵入してきたことだ。それ自体は理想郷の建設者(サマサ・ヴォ・エベクライデ)と同じ炭素基質構造であるにも関わらず自らが生命体であることを主張するという、よくある壊れた労働力(マスニフ)、不良品の一種に過ぎなかったが、これを撃退した際に鹵獲した00ユニットというものが非常に興味深かった。この00ユニット、遮蔽液体(ODL)が無いと動かない仕様であることが判明したので注入して色々検証してみたところ、量子というものを介して並行世界と情報をやりとりするという驚くべき機能があることが判明したのだ。

 並行世界。理想郷の建設者(サマサ・ヴォ・エベクライデ)の現場監督でしかない上位存在には与えられていなかった概念だ。

 上位存在は00ユニットのこの特性を活かして様々な情報を取得した。それによると、僅かながらこの星の()()()()に失敗した世界があるようで、他にも何らかの原因で同じ時期を何万回も繰り返している世界すらあった。

 どうも不良品(にんげん)は壊れているだけあって非常に聞き分けが悪いようだと上位存在は認識したが、この時点では脅威としては考えていなかった。殆どの世界では資源開発が成功していたし、資源開発に失敗した世界の不良品(にんげん)の勢力はその発展込みでも全く大したことがなく、精強かつ無数の理想郷の守護者(ゾーレ・ヴォ・エベクライデ)が守護するウルジマルク文明圏を脅かせるようなものではなかったからだ。

 

 それから長い年月を掛けて00ユニットの研究も進み、経路は非常に限られるが並行世界の理想郷の建設者(サマサ・ヴォ・エベクライデ)上位存在同士で情報をやりとりしたり、物理的な干渉をしたり出来るようになっていた。特に近年ではイモータルズという組織のやり方が非常に参考になり、並行世界への進出が()()()()()()では実現しつつあった。

 

 しかし00ユニットの鹵獲から数千年が経過した今日になって突然情報の濁流が流れ込み、それを解析してみると看過出来ない情報があった。不良品(にんげん)を主体とした匠衆(マイスターズ)を名乗る勢力がウルジマルク本星を陥落させたというのだ。しかもこいつらは世界を超える技術まで持っていた。そこはどうやら何万回もループを繰り返していた諦めの悪い連中の世界のようだった。

 上位存在は急激に危機感を募らせた。不良品(にんげん)連中があらゆる並行世界にはびこる前に始末せねばならぬ。しかしこの段階で情報が入ったのは上位存在にとって好機だった。ウルジマルクに害を為した連中が存在する世界は並行世界分岐が抑制されており、たった一つしかない。つまり戦力が有限の数でしかないのだ。ここさえ潰してしまえば、あとはどうにでもなる。

 長年の経験を積んだ上位存在は幾らか慎重だった。まずは00ユニットの演算能力を利用して同時に多数の研究を進め、理想郷の守護者(ゾーレ・ヴォ・エベクライデ)の現行技術をフィードバックして理想郷の建設者(サマサ・ヴォ・エベクライデ)下位存在を戦闘用に大幅強化した。次に00ユニットを介した並行世界統合と分岐抑制を実現し、本拠地への侵入を防ぐべく並行世界間の相互多重ロックによる強固な防壁を築いた。更に並行世界統合を行って並行世界を有限にした上で不良品(にんげん)を絶滅させるプランも進めていた。それは丁度三千世界作戦(オペレーション・オーバー・ザ・ワールド)と同じ発想だった。

 それらの用意をした上で、上位存在は匠衆(マイスターズ)世界に統合圧力を掛け、先制で総攻撃をかけた。

 理想郷の守護者(ゾーレ・ヴォ・エベクライデ)の現行技術を導入してもまだ不良品(にんげん)の戦闘特化個体と戦うのは厳しいが、数だけならば無数の並行世界に存在する理想郷の建設者(サマサ・ヴォ・エベクライデ)が圧倒出来る。そのために未統合の分岐有り世界も大量に残していた。その数を活かして銀河全域同時飽和攻撃でまずは非戦闘個体を撃滅する。つまり不良品(にんげん)の生産力の根源を叩くのだ。その上で戦闘特化個体に無限の持久戦を強いる。不良品(にんげん)の継戦能力は意外と低いことが分かっているからだ。

 しかしこの総攻撃は最初の段階で躓いた。相互ロックもかけておらず一見無防備に見えた不良品(にんげん)本拠地世界の侵入防止防壁が思ったより強固だったのだ。そのせいで横浜ハイヴの中位存在経由でしか侵入が実現出来そうになかった。

 

 この時点で総攻撃の意志を気取られたと判断した上位存在は、その横浜ハイヴからの侵入で速攻で橋頭堡を築く方針に切り替えた。侵入点が一つだけとはいえ、戦力自体は無尽蔵に送り込めるし、相手の警戒態勢が整っていなかったのでまだ可能性があると判断したのだ。

 だが匠衆(マイスターズ)の対処は素早かった。レーザー固定砲台で強化型下位存在の進出を防ぎつつ、ワープで駆けつけた艦隊が多脚機動兵器を投下すると、強化型下位存在の数が増える前に侵入点となる中位存在を破壊してしまった。

 

 上位存在は総攻撃の失敗を認め、不良品(にんげん)本拠地世界に分岐抑制圧力を掛けながら時間を稼ぎ、研究を進めてより強大な戦力を用意するプランへと切り替えた。その一つが連中が轟雷と呼んでいる決戦兵器の模倣だ。これは新たな技術系統である魔法やエンチャントのテストを兼ねていた。縮退炉は科学系統ではあるものの炭素基質構造と相性が悪く、大分時間が掛かりそうだ。原子核パスタ構造材はウルジマルク由来の構造強化の発展形なので理論上はすぐにでも骨格や甲殻に採用出来そうだったが、こちらは物資の要求量が莫大すぎて量産出来そうになかった。

 

 しかしこの長期戦プランも早々に破綻した。およそ侵入不可能だと判断していた相互ロック防壁世界への侵入を、あろうことかその日のうちに許してしまったのだ。

 状況を解析してみると、どうやら並行世界の同一個体を媒介にしてその個体に融合する形で部外者出入り禁止法則をすり抜けていたようで、データベースを検索してみると過去に同様の並行世界介入事例があった。それを成したのはどの世界でもユーコセンセーなる個体だった。しかもこいつは00ユニットの開発者でもあった。ならば今回の侵入もそのユーコセンセーの仕業に違いない。上位存在は個体名ユーコセンセーを特級災害として認定し、情報のやりとりが可能となった他の世界の上位存在に最大限の警戒を促した。許さない……絶対に殺してやるぞ天の助!

 

 何やらノイズが入ったが、ともかく自らの本拠地に攻め入られるまで時間がないと判断した上位存在は、本拠地世界でワープが可能な個体を生産した。これにより他の惑星や衛星に危機を通達し、援軍を募ったのだ。これにより、その日のうちに戦艦(バトルシップ)級相当の戦力が12体集まった。まだ増援募集は継続しているが、更に数を増やすにはまだまだ時間が掛かりそうだった。

 エース級の魔導衛士が乗り込んだ轟雷という理不尽に真っ向から対抗するには最低でも複数の衛星(サテライト)級が必要だったが、どう考えても即日生産は不可能だったので、無い物ねだりをしても仕方がない。上位存在は手元にある戦力を使って戦術レベルでどうにかするプランを立てた。かくなる上は轟雷が出現する前にどうにかして叩くのだ。

 

 しかしその健闘も空しく、総攻撃頓挫から星が1回回るよりも短い時間で上位存在本体が鎮座する中枢に侵入を許してしまった。侵入した個体はどうやら数千年前に始末した『オレ』と同一個体のようだが、当時とは比べものにならない程の驚異的暴力をひっさげていた。不良品(にんげん)め、諦めが悪いだけだと放置していたらまさかこんなことになるとは。

 上位存在は諦めずにエネルギー吸収から直接攻撃、催眠、洗脳、乗っ取りを含むあらゆる抵抗を試みたが、全ては無駄に終わった。部屋の外からの増援も片っ端から始末されている。

 残った手札は人質戦術。上位存在を攻撃すると一緒にお目当ての00ユニットも壊れるぞという不確実な脅迫くらいだった。しかもこれは気付かれないと成立しないのに、脅迫の通達自体が阻害されていた。

 上位存在は既に詰んでいた。

 

 

 

 ステークはあ号標的の攻撃力を潰しながら周囲をぐるりと巡って「撃破する場合は最低限これだけのデータを取りなさい」と夕呼に言われていた項目の情報を揃えた。それと同時にあ号標的そのもののスキャンも完了した。それによると、()()()攻撃すると純夏ごと爆発するようになっていた。つまり脅迫の通達がなくてもその意図は伝わっていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ステーク「――いつまでもオレ達に人質なんてものが通じると思うなよ?」

 

 ステークのその言葉に、上位存在はむしろ安堵した。脅迫の意図が伝わっているし、言葉でどう言おうとあらゆる並行世界で『オレ』が00ユニットを見捨てたためしはないからだ。

 しかしステークは轟雷の両手の武器を兵装担架に収納してフリーハンドにすると、右の掌を左上に突き上げ、左右の腕を交差させ、最後に左右斜め下に腕を伸ばして()()を宣言した。

 

ステーク「()()! ()()()()()()()ッ!!」

 

 それはまさにガオガイガーの必殺技、ヘル・アンド・ヘブンの構えだった。

 

 このヘル・アンド・ヘブンはただの見様見真似ではない。というのも、ステークが今乗っている機体は普通の轟雷ではない。

 ガオファイガーの技術情報を得た匠衆(マイスターズ)技術本部は、喜び勇んで検証を開始した。すると、どうも人の意志に反応するだけあってGストーンとGSライドは魔法と親和性が高いと判明した。そもそもGパワーの大元となった緑の星のラティオの力はどう見ても魔法や超能力の類いだ。そしてそのGパワーを物理的に再現した機構である無限情報サーキットGストーンは超AIの意志をも反映出来るので、これを媒介にすることで機械知性体心の友(イバーク・ルイエ)が魔法を使えるようになる可能性まで出てきた。

 そこでものは試しと轟雷にGストーンとGSライドを組み込んでみた所、完全とは言えないがヘル・アンド・ヘブンが再現出来てしまったのだ。

 ある程度再現出来ても摘出対象の保護機能が不完全では意味が無いが、そもそも轟雷は攻撃力が有り余っているため、保護機能特化で急遽仕上げたヘル・アンド・ヘブンが実装されたのが今ステークが乗っている轟雷だ。その拳で純夏さえ掴んでしまえば、もはや純夏の周囲が爆発しようが全く関係ない。

 だがGSライドの出力は使い手に左右される。つまりステークにはGストーンを使いこなすだけの勇気が備わっているかという点を気にせざるを得ないのだが、それこそ無用な心配というものだ。何故ならマブラヴは()()()()()()()()()()()()()なのだから。

 

 今、ステーク(タケル)が愛しい純夏を喪う恐怖を執念で押さえつけて勇気を振り絞る。

 すると、純夏を想う護り(あい)の力が左手から溢れ、恐れず進む破壊(ゆうき)の力が右手から迸った。

 

ステーク「二つの力を一つに(ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ)……」

 

 反発する二つの力を合わせて止揚に至り、そこに生まれるのは、未来(すみか)を掴み取る(マブラヴ)だ。漲る(マブラヴ)で轟雷の全体が目映い緑色に輝いた。

 

ステーク「――ウィィィタァァァァッ!!」

 

 力の融合を終えた轟雷がEMT(エレクトロマグネティックトルネード)を展開し、万感の想いを込めて突進を開始した。

 一方あ号標的はステークがヘル・アンド・ヘブンの詠唱をしている間に防御を固め、轟雷の弱体化した防御を貫くべく残存火力と触手を殺到させた。しかしそんなものは全く通用せず、攻撃は最大の防御を体現するようにラザフォード(フィールド)とバリアごと全てをぶち抜かれ、全ての触手と両腕を失った。

 機体丸ごとあ号標的に突入した轟雷は、緑の星驚異のメカニズムで摘出対象の00純夏を優しく包むと護りの力で保護し、そしてそのままあ号標的の背中へと突き抜けた。

 あ号標的の胸の中央にはハート型の大穴が空き、人質作戦の備えが祟ったのか、突き抜けた轟雷の背後で派手に爆発した。

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