ステーク「――何だ? 世界が揺れている?」
ステークは周囲の異常振動に疑問を抱いて頭上を見上げた。場所は轟雷の掌の上で、その腕には救出した00純夏を抱えている。
何が異常かと言えば、轟雷は今空中に浮いているのにその轟雷も振動の影響を受けているのだ。
00純夏「あれ、タケル……ちゃん……?」
ステーク「おはよう、純夏。もう大丈夫だぞ」
腕の中で瞼を開いた00純夏にステークが笑いかけた。
ステークに抱えられている00純夏は数千年BETAに囚われていただけあって手足は千切れているし顔もボロボロだ。00ユニットは完全な状態ならば人間と見分けがつかないが、破損した部分からその身体が機械で出来ていることが分かる。目を背けたくなる程に痛々しいが、ステークはその姿を愛おしそうに見つめていた。
00純夏「タケルちゃんが起こしに来てくれるなんて珍しいね……なんか夢の中のタケルちゃんより優しい」
ステーク「ああ、うん……昔は純夏に甘えてばっかりで迷惑を掛けたな。すまなかった」
ステークは出撃前にも思い出したことを反芻して素直に頭を下げた。アレは本当に酷かった。
00純夏「うふふ、タケルちゃんったらおかしいの。……でも、
ステーク「……おい、何を言ってるんだ純夏? お前はこれからオレと一緒に帰るんだぞ? 怖い冗談を言うなよ」
急に不穏なことを言い出した純夏に、ステークは動揺を押し隠して努めて明るく振る舞った。
00純夏の頭には00ユニット保護用アタッチメントを装着済みだ。ODLの劣化については問題無いはずだ。そうなると問題はODL以外の破損の方だろう。00純夏は生物ではないのでオーバーリザレクションは効かない。だから可能な限り急いでこの地球の攻略を終わらせなくてはならない。ステークは攻略を最短で終わらせる算段を立て始めた。
ステーク「よし、最短で終わらせるぞ。それまで待っててくれ」
ステークは純夏を抱きしめたまま術式で浮かび、コックピットに入って後部座席に00純夏を座らせようとした。しかしそこに純夏が待ったを掛けた。
00純夏「そうじゃないよ、タケルちゃんも気付いてるでしょ? これは
世界が終わる音。それは先ほどから続いている異常振動に違いない。どう考えても音波振動の類いではないので重力波かと疑ってはいたが、そういう規模のものですらないようだ。
ステーク「――純夏」
00純夏「何……あいたぁっ!? 突然何するかー!?」
ステークは純夏の名前を呼ぶと、その頭に有無を言わせずチョップを叩き込んだ。純夏は昔のように悲鳴からの抗議の声を上げた。
ステーク「純夏、お前が何をしようとしているのかは知らん。知らんが、それはきっと大切なことなんだろう。お前にしか出来ないことなのかもしれん。だが
00純夏「タケルちゃん……どうしても?」
ステーク「どうしてもだ。オレはもう二度とお前を一人にはしない」
00純夏「……じゃあタケルちゃん、ボロボロの顔で恥ずかしいけど――勇気を頂戴」
少し逡巡した後、純夏は顔を赤らめて再び瞼を閉じた。見れば純夏の周りには既にパラポジトロニウム光が生じ始めている。放っておけば一人で行ってしまうだろう。
異常振動は益々激しくなり、ハイヴの崩落が始まっている。普通の人間ではもう立っているのも難しいだろう。だがステークは幸い普通の人間ではない。
ステーク「ああ、純夏。オレ達はいつでも、いつまでも一緒だ」
純夏の求めに応じてステークが唇を重ねると、ステークの身体からも同じパラポジトロニウム光が生じ――そのまま二人の姿は立ち消えた。
それから少し遅れて、二人がいた世界は
トピア「――どうやら他の並行世界も状況は同じのようですね」
デイリーライトの通信大会議室。報告を受けた
元々集まった目的はこの
全ての並行世界から白銀 武と鑑 純夏が姿を消したというのだ。最初に消えたのが
霞≪この世界の純夏さんも消えたまま戻ってきていません≫
となれば純夏の看病という霞の業務は終了なのだが、予期せず戻ってきた時に備えて待機している状態だ。
スコア「やはり二人が消えたのはこの
スコアが言うように、はじまりの星の空中に浮かんでいるインファクトリ級2番艦デイリーライトも不自然に振動しているし、画面の向こうの通信相手ですら振動の影響を受けていた。つまり銀河の端でも並行世界でも関係なく揺れているということだ。
この異常振動は規模からして明らかに音波・電磁波・重力波の類いではなく、時空連続体そのものが振動しているのだと夕呼やシュウは結論づけていた。故に時空震と称している。つまり
ただしインファクトリ級には時空勾配推進システムがあるため、それを使って周期振動を相殺しており、天然環境よりは大分マシな揺れであった。コップがカタカタと揺れる程度に収まっている。
また、今は幾らか振動が落ち着いてはいるが、地上はもっと酷いことになっていた為、インファクトリ級艦隊を地上に降ろして避難民を乗せている。これは元々並行世界統合に備えて住民をコロニーに避難させるべく用意していたものを流用したので、少なくとも
他の世界の救助活動が何故スムーズに進まないかと言えば、まだ信用を築けていないとかそういうこと以前に、物理的に艦数が足りないのが原因だ。1隻に定員の300人を乗せるとして4個基幹艦隊2000万隻でやっと60億人が避難出来るのだ。
そこで、並行世界へ送るインファクトリ級の方舟仕様への改装が現在急速に進められている。同規模のSDF-1マクロスは南アタリア島の避難民約5万8千人を収容しているので、インファクトリ級も内部の工場施設や艦載機整備施設を最低限必要な分以外撤去すれば通常の200倍の6万人が収容出来る。市民を乗せるなら最低限マクロス級くらいの規模は必要だろう、とインファクトリ級の構想段階でトピアが意見したことによる冗長性がここに来て功を奏した形だ。
1隻あたりに乗せる人数が200倍に増えることで一人あたりの生活レベルは幾らか低下してしまうが、贅沢を言っている場合ではないだろう。衣食住に不安が無いだけ幸運だと思っていただきたい。……などというのはあくまで現代人の感覚で、天の川銀河や近隣銀河に存在する文明の殆どは地球基準現代未満の生活水準なので、避難民達は避難したことで逆に生活水準が上がってしまい困惑していた。
ともあれ、インファクトリ級がTechブロックに対応していることが幸いして、居住区ブロックの在庫さえあれば僅か数秒で方舟仕様への換装が可能となっていた。ならば救助可能人数基準で計算すれば
しかし現在その居住区ブロックの生産に支障が出ていた。これも時空震のせいだ。
工場小惑星にも時空勾配推進機能があるので可能な限り相殺はしているのだが、それでも精密機器を中心として歩留まりに甚大な影響が出ていた。世界を丸ごと揺るがすような形で
そのため、生産部長のサティが生産力拡張の予備プラン実行を訴え、トピアは即座に許可を出した。想定外と述べた通り、本来この予備プランはこのような事態に備えたものではないのだが、有効な手段ではあった。予備プランの具体的な内容は、このマブラヴ確率時空以外の世界に生産工場を作ることだ。
クラフトピアのレガシー・セパレート世界やテラリア世界は1つ1つの規模が小さいが、それ以外のサティ、トリオ、スコア、テクス、マインの故郷世界は宇宙丸ごとの規模であり、しかもスコアの所だけでも並行世界が12もある。無人の恒星系だけ使ったとしても工場小惑星を置くスペースはよりどりみどりだ。
従来の想定ならば
そうして確保した生産力を加味したリソース配分は現在
また、
話を戻して、武と純夏の消失がこの時空震に関係しているかどうかについてだが。
シュウ≪因果関係があるとすれば、抑える側に回っているでしょう。二人が消え始めてからの方が時空震が落ち着いていますからね≫
テクス「つまりこの時空震を何とかする為に二人が消えていっている、ということでござるな?」
夕呼「でしょうね。それに白銀が攻略に向かったBETA本拠地世界は丸ごと消えたわ、楔の塔を建ててない世界も被害が甚大よ」
ラリー「世界丸ごと、ってのは穏やかじゃねえな。ステーク達は無事なのか?」
これは出向いていた世界が消えて大丈夫なのか、という他に、まさか自ら人柱にでもなっているんじゃないだろうな、という疑問もある。
アヌビス神「X. XX(無事だ。ひとまず現状ではな)」
トピア「アヌビス様、何か分かったんですか?」
会議では名指しで問われない限りは滅多に口を開かないアヌビス神が自ら語り始めたので、必然的にその発言に注目が集まった。