344. 私達はあなた方のママじゃないんですから、甘えるのも大概にして下さい
ターニャの目に映るものが瞬時に切り替わり、通信大会議室とは全く別の場所を映し出していた。
そこは屋内、まるで法廷の様な場所であったが、丁度正面にいる相手に見覚えがありすぎた。先ほどの老いた声の主だ。
存在X「これより
トーガを纏って長い白髭を生やしたたくましいご老体が、議長席から朗々とした声で宣言した。
周囲を見れば、多数の異形が並んでいた。その中には以前エレニウム95式の起動試験の際に遭遇した釈迦のような存在の姿もあった。ご丁寧に机の上に『
ターニャと自称神達の間には段差があって、その所為で座っているにもかかわらず存在X側の視点が高くなっている。更に立たされたターニャの両手首には手枷が嵌められていた。
なるほど、ここは自称神の裁判所で、自分は咎人という訳か。弁護士もいなければ審議も無く、沙汰を下すだけとは相変わらず一方的なことだとターニャは鼻を鳴らした。
だがこれまでとは違い、ターニャの後ろから別の声が掛かった。
トピア「貴方がかの有名な存在X……ああ、自称創造主様でしたか? 沙汰と言われましても、我々は悪事を働いた覚えが無いのですが、これは一体何のつもりでしょうか?」
ターニャが後ろに視線をやれば、そこにはトピア以下七人の
トピアの質問に、存在Xの代わりに全身に炎を纏ったイフリートのような姿の
サティ「具体的には?」
今度は、翼までフルプレートアーマーを纏った
マイン「つまり、貴様らの信仰を維持する為だけに地上を地獄にせよとでも言うのか?」
翼の生えた蛇、マヤ文明の至高神ククルカンやアステカ文明のケツァルコアトルに似た存在が答えた。あれが最高位の天使
釈迦に良く似た面構えの
人間の目から見ると釈迦の口からキリスト教の概念が出てくることに違和感を感じるが、序列を見ると、どうもキリスト教、ユダヤ教、イスラム教共通の主神のごとき存在Xの下に他の神話の神仏によく似た連中が天使として従っているようだ。
存在X「汝らの頭でこれらの罪がどれだけ重いかが理解出来たかは怪しい所であるが、我は創造主の名において汝らをここに処分するものとする。その罰として――」
トピア「ああ、もういいです。十分
トピア「違いますよ。あなた方がどれだけ邪悪で救いようのない外道かということが改めて理解出来ただけです」
存在Xの言葉を遮ったトピアを
それに対するトピア達は、全く怯まずにむしろ呆れた馬鹿を見る目で言葉を継いだ。
トピア「貴方たち、口を開けば信仰信仰と蠅のように五月蠅いですけど、そもそも信仰というのは信頼や感謝の形でしょう? 何でそんなに人に仇なしてばかりなのに信仰されると思ってるんですか? その程度の単純な因果関係すら理解出来ないお馬鹿さんなんですか? ちゃんと人助けしてる
ラリー「なあなあ、お前ら創造主ってことは要するに親なんだろ? だったら何で
スコア「それに創造主だと言うが、別にあのBETAが溢れている世界はあなた方が作ったものではないだろう? 余所の世界の信仰を横取りしようとしているのはそちらの方ではないか。盗っ人猛々しいにも程があるぞ?」
トリオ「大体儂らはそれぞれの世界の管理神、
サティ「解脱というのも、辛いことばかりの現世の輪廻から
テクス「人を不幸にして絶望から祈りを引き出すマッチポンプがセーフで人を救って感謝されることがアウトとは、全く意味の分からん倫理観でござるなあ。やっぱり悪魔か邪神ではござらんか?」
マイン「しかしなるほどな、
七人の
存在X「……何と傲慢な者達か。なまじ力を持ったせいで神に意見出来るなどと勘違いしたのか?」
存在Xはいかにも嘆かわしいと言いたげに首を振ったが、そんなことで止まるトピア達ではない。
トピア「ハハッ、ナイスジョーク。相手の意見を聞かないのが当然だと言ってる時点で傲慢なのは明らかにあなた方の方でしょう。相手が逆らえないのを前提にやりたい放題しているから、相手を虐げておいて信仰せよなんてヤクザ並の恥ずかしい言葉が出てくるんですよ。何でも我儘が通り過ぎて必要の無くなった頭が幼児並に退化してるんですか? そうじゃないと仰るのでしたら、立場を笠に着た意見封殺じゃなくて、きちんと論理を伴った反論をなさって下さいよ。私達はあなた方のママじゃないんですから、
トピアの言う通り、周囲で騒いでいる天使達は大抵が「不敬」の一点張りであり、他にあったとしても精々「輪廻の末の解脱は摂理として当然」と主張するくらいだ。何がどう当然なのか、その理由は全く分からない。
つまりまともに道理を通す気が欠片も無く、ただ
ここまでの状況を黙って眺めていたターニャは、あまりの愉快さに我慢しきれずに爆笑し始めた。
ターニャ「ブッハハハハハ!! 散々に言われたな存在X! これで一方的に罰など与えたとしても、人間に口で勝てなくて暴力に訴えた馬鹿だと証明するだけだ! やれるものならやってみるがいい! それで恥ずかしくないのならなァ!!!」
ターニャは存在X一派に拉致されなくなるという好条件目当てで
何しろ今現在、
だがそれが最善手であるかと言えば全くそうではない。
ターニャ「そもそも貴様らな、この世界崩壊の危機においてだぞ? 神として崩壊を阻止するべく動くどころか、阻止すべく動いている我々を信仰の横取り目当てに攫ってきて刑罰を与えるだと? そんなことだから貴様に神たる資格など無いと言っているのだ! 誰が貴様の様な
ターニャは枷の嵌められた両手の人差し指で存在Xを指さし、満面の笑顔で言いたいことを言ってやった。そのポーズはちょっとハジケリストのようであった。