【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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第14章:匠 VS 神
344. 私達はあなた方のママじゃないんですから、甘えるのも大概にして下さい


 ターニャの目に映るものが瞬時に切り替わり、通信大会議室とは全く別の場所を映し出していた。

 そこは屋内、まるで法廷の様な場所であったが、丁度正面にいる相手に見覚えがありすぎた。先ほどの老いた声の主だ。

 

存在X「これより()()に沙汰を申し渡す」

 

 トーガを纏って長い白髭を生やしたたくましいご老体が、議長席から朗々とした声で宣言した。

 ()()()存在X(こいつ)か。ターニャは()()()()()()()()見たくもなかった面にうんざりした。

 周囲を見れば、多数の異形が並んでいた。その中には以前エレニウム95式の起動試験の際に遭遇した釈迦のような存在の姿もあった。ご丁寧に机の上に『座天使(ソロネ)』と書いた札が立ててある。確か天使の位階では上から3番目だ。

 ターニャと自称神達の間には段差があって、その所為で座っているにもかかわらず存在X側の視点が高くなっている。更に立たされたターニャの両手首には手枷が嵌められていた。

 なるほど、ここは自称神の裁判所で、自分は咎人という訳か。弁護士もいなければ審議も無く、沙汰を下すだけとは相変わらず一方的なことだとターニャは鼻を鳴らした。

 だがこれまでとは違い、ターニャの後ろから別の声が掛かった。

 

トピア「貴方がかの有名な存在X……ああ、自称創造主様でしたか? 沙汰と言われましても、我々は悪事を働いた覚えが無いのですが、これは一体何のつもりでしょうか?」

 

 ターニャが後ろに視線をやれば、そこにはトピア以下七人の(マイスター)の姿があった。ただし全員手枷を嵌められている。やはり咎人扱いだ。

 

智天使(ケルビム)「傲慢なる者よ。信仰無き者よ。そなたらの行いの悉くが信仰を妨げるものに他ならぬ。輪廻の末の解脱を遠ざけるものぞ」

 

 トピアの質問に、存在Xの代わりに全身に炎を纏ったイフリートのような姿の智天使(ケルビム)が答えた。智天使(ケルビム)は天使の位階では上から2番目だ。周囲の存在も然り、然りと頷いているが、それよりも何故か座席が燃えないのが気になって仕方が無い。

 

サティ「具体的には?」

 

大天使(アークエンジェル)「やはり分からぬか。高度文明の普及、飽食と平和は信仰を腐らせる毒である。人は悲しみに明け暮れ、苦しみに苛まれることで、救われようと主を信じ、わずかな光を主に感謝する。人は豊かになり自由を手にする程に傲慢になる愚かな動物だ。やがて主ではなく自らの好む対象を、同じ人間や偶像を信仰する様になる。それでは困るのだ。よって人類は限られたパイ生地を奪い合わねばならない」

 

 今度は、翼までフルプレートアーマーを纏った大天使(アークエンジェル)が回答した。大天使(アークエンジェル)は同じ鎧を着た者が100体前後列席しており、裁判官や検察官には見えないのだが、どうも自称神側の発言に制限はないらしい。

 

マイン「つまり、貴様らの信仰を維持する為だけに地上を地獄にせよとでも言うのか?」

 

熾天使(セラフィム)「否、汝らの愚かさ故に、そうしなければ信仰を維持出来ぬという話だ。信仰無き魂の徘徊を放置することは神意にそぐわぬ。故に我らは()()()()()()()()()()()()愚かなる無神論者達をも()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 翼の生えた蛇、マヤ文明の至高神ククルカンやアステカ文明のケツァルコアトルに似た存在が答えた。あれが最高位の天使熾天使(セラフィム)らしい。

 

座天使(ソロネ)「特に最後の、世界の崩壊からあらゆる世界の衆生を救って神の威光を貶め、()()()()()()()()()()()()罪は重いですね。マタイ福音書にも書いてあるでしょう。人に見せるために人前で善行をすべからず、と」

 

 釈迦に良く似た面構えの座天使(ソロネ)がそう指摘すると、周囲の天使達はまた然り然りと同意の声を上げた。

 人間の目から見ると釈迦の口からキリスト教の概念が出てくることに違和感を感じるが、序列を見ると、どうもキリスト教、ユダヤ教、イスラム教共通の主神のごとき存在Xの下に他の神話の神仏によく似た連中が天使として従っているようだ。

 

存在X「汝らの頭でこれらの罪がどれだけ重いかが理解出来たかは怪しい所であるが、我は創造主の名において汝らをここに処分するものとする。その罰として――」

 

トピア「ああ、もういいです。十分()()出来ましたので」

 

熾天使(セラフィム)「……主の言葉を遮るとは不敬な。今更理解した所で汝らが赦されることは――」

 

トピア「違いますよ。あなた方がどれだけ邪悪で救いようのない外道かということが改めて理解出来ただけです」

 

 存在Xの言葉を遮ったトピアを熾天使(セラフィム)が咎めるが、多少は反省しているかと思いきや全く別のことを言い出したので天使達がざわついた。

 

大天使(アークエンジェル)「不敬な! 創造主を何と心得るか!」

 

大天使(アークエンジェル)「何と愚かな!」

 

大天使(アークエンジェル)「万死に値する!」

 

 それに対するトピア達は、全く怯まずにむしろ呆れた馬鹿を見る目で言葉を継いだ。

 

トピア「貴方たち、口を開けば信仰信仰と蠅のように五月蠅いですけど、そもそも信仰というのは信頼や感謝の形でしょう? 何でそんなに人に仇なしてばかりなのに信仰されると思ってるんですか? その程度の単純な因果関係すら理解出来ないお馬鹿さんなんですか? ちゃんと人助けしてる七圏守護神(ハーロ・イーン)は普通に信仰されてますよ?」

 

ラリー「なあなあ、お前ら創造主ってことは要するに親なんだろ? だったら何で()()()を許さねえんだ? 折角人間が自立しようとしてるのに、信仰心が無くなったとか言って罰を与えて依存させようなんて、人の親の風上にも置けねえぞ?」

 

スコア「それに創造主だと言うが、別にあのBETAが溢れている世界はあなた方が作ったものではないだろう? 余所の世界の信仰を横取りしようとしているのはそちらの方ではないか。盗っ人猛々しいにも程があるぞ?」

 

トリオ「大体儂らはそれぞれの世界の管理神、七圏守護神(ハーロ・イーン)をしっかり信仰しておるし信仰を勧めてすらおるぞ。よくわからん余所の神様を信仰しないから罰を与えるなんて言われても知らんわ。そういうのは余所でやってくれんかの?」

 

サティ「解脱というのも、辛いことばかりの現世の輪廻から涅槃(ニルヴァーナ)へリタイアしようっていう大昔の発想でしょう? 世の中の不幸が減ったから解脱する必要が無くなったのに、涅槃(ニルヴァーナ)への流れを維持する為に現世を不幸で満たそうだなんて、本末転倒もいいところよ?」

 

テクス「人を不幸にして絶望から祈りを引き出すマッチポンプがセーフで人を救って感謝されることがアウトとは、全く意味の分からん倫理観でござるなあ。やっぱり悪魔か邪神ではござらんか?」

 

マイン「しかしなるほどな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()か。全くセコいことを考えるものだ。そんな邪悪な教えなど、とっととかなぐり捨てるに限る」

 

 七人の(マイスター)が次々に存在X一派をこき下ろすが、天使達はそのような反論を全く考えていなかったのか、一旦唖然として沈黙した後、また怒号の様に罵倒し始めた。

 

存在X「……何と傲慢な者達か。なまじ力を持ったせいで神に意見出来るなどと勘違いしたのか?」

 

 存在Xはいかにも嘆かわしいと言いたげに首を振ったが、そんなことで止まるトピア達ではない。

 

トピア「ハハッ、ナイスジョーク。相手の意見を聞かないのが当然だと言ってる時点で傲慢なのは明らかにあなた方の方でしょう。相手が逆らえないのを前提にやりたい放題しているから、相手を虐げておいて信仰せよなんてヤクザ並の恥ずかしい言葉が出てくるんですよ。何でも我儘が通り過ぎて必要の無くなった頭が幼児並に退化してるんですか? そうじゃないと仰るのでしたら、立場を笠に着た意見封殺じゃなくて、きちんと論理を伴った反論をなさって下さいよ。私達はあなた方のママじゃないんですから、()()()のも大概にして下さい」

 

 トピアの言う通り、周囲で騒いでいる天使達は大抵が「不敬」の一点張りであり、他にあったとしても精々「輪廻の末の解脱は摂理として当然」と主張するくらいだ。何がどう当然なのか、その理由は全く分からない。

 つまりまともに道理を通す気が欠片も無く、ただ自分達の都合(ワガママ)を通したいだけであることが分かる。故に、やっていることが幼児と変わらんという結論になるのだ。

 ここまでの状況を黙って眺めていたターニャは、あまりの愉快さに我慢しきれずに爆笑し始めた。

 

ターニャ「ブッハハハハハ!! 散々に言われたな存在X! これで一方的に罰など与えたとしても、人間に口で勝てなくて暴力に訴えた馬鹿だと証明するだけだ! やれるものならやってみるがいい! それで恥ずかしくないのならなァ!!!」

 

 ターニャは存在X一派に拉致されなくなるという好条件目当てで七圏守護神(ハーロ・イーン)の加護を受けることにしたが、現状を見るとどうも状況によってはその効力も万全とは行かないらしい。とはいえ、どうしてこうなったのかという原因は分かる。

 何しろ今現在、七圏守護神(ハーロ・イーン)はマブラヴ確率時空の時空震をどうにかするべく集中している上に、純夏達に力の多くを譲渡してしまっているのだ。更に世界の境界を固める楔の塔も時空震の抑えに回っているし、それでも抑え切れていない時空震によって世界が揺らいでいる。連中がこれを好機と捉えて()()に及ぶ可能性は十分考えられた。

 だがそれが最善手であるかと言えば全くそうではない。

 

ターニャ「そもそも貴様らな、この世界崩壊の危機においてだぞ? 神として崩壊を阻止するべく動くどころか、阻止すべく動いている我々を信仰の横取り目当てに攫ってきて刑罰を与えるだと? そんなことだから貴様に神たる資格など無いと言っているのだ! 誰が貴様の様な()()()()()を崇めるか、馬鹿め!!!」

 

 ターニャは枷の嵌められた両手の人差し指で存在Xを指さし、満面の笑顔で言いたいことを言ってやった。そのポーズはちょっとハジケリストのようであった。




熾天使(セラフィム)智天使(ケルビム)大天使(アークエンジェル)は原作漫画で容姿と位階が明らかになっていますが、釈迦似の存在=座天使(ソロネ)というのは本作の独自解釈です。それなりに高いポジションがそこしか空いてなかったので。
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